「終わった〜!」 大きく、伸びをする。 全科目のテストが終わり、ようやく解放されたという喜びを噛みしめる真里。 早速、期間中休止されていた部活動をするために部室へと向かおうとするが、急に背後から肩を叩かれて、振り返る。 「お疲れまりりん! ねえねえ、終わった、ってどっちの意味で?」 青いポニーテールを揺らす少女を目にして、真里は苦笑いを浮かべた。 「 雪奈 ……びっくりするから後ろから話しかけないでよ〜。今回はちゃんと自信あるんだよ! なんたって解答欄全部埋めたんだから!」 自信満々に胸を張る真里に対して、今度は雪奈の方が苦笑いを浮かべる。 「それ、合ってなきゃ意味なくない……? まあでもそっか、まりりん今回は家庭教師がいたんだっけ?」 その問いかけに反応したのは、横から顔を出した黄色の髪が印象的な少女だった。 「そうですそうです〜! それもただの家庭教師じゃない……『姫』から直々の手ほどきを受けてるんですから。それはもう濃密に、イロイロなコトを……」 色っぽく喋る少女に、真里は怪訝な目を向ける。 「ねえそれもしかして仁美のこと言ってる? なんで勉強教わったこと知って……というかどっから姫とかそういうワード出てきたのさ、ひなの」 「ふふふ……私たちの情報網を甘くみない方がいい。今の私たちにはミス・ブックマークがついてるんだから……」 抑揚を抑えた声で喋る、ふんわりとした緑色の髪の少女。三人に囲まれて、いよいよ真里は変な冷や汗をかき始める。 「 楓 まで。普通に勉強教わっただけなんだけどなんで変な風に伝わってるのさー。ってかミス……なに?」 「またまたぁ〜。そんな言い方したら姫に――おっと、噂をすれば何とやら、姫のお出ましだよ」 雪奈が手を向けた方向には、真里を迎えに来たらしい仁美の姿があった。 「ねえ真里、部活に――ってあれ? げっ……」 仁美と真里、雪奈、ひなの、楓は同じ神室女子の二年生で、仁美と真里は音楽部、雪奈たち三人は吹奏楽部という、顧問も一緒な同じ音楽系の部活動に所属していることから、一年生の頃からよく話す機会があり仲も良い……はずなのだが、仁美は内向的な自身と比べグイグイくる方である三人に対して、若干の苦手意識を持っていた。 「人を見るなり『げっ……』とは失礼。……まあもう慣れたけど」 「ひとみんさん……いいえ姫! 待ってましたさあさあこちらに!」 ひなのに腕を引っ張られる仁美。しかし仁美は抵抗し、それを払いのける。 「姫ってなに……。こちらに、って私そこの真里を連れてこれから部活なんだけど……」 「ああもうつれない……! でもそこがいい……! でしょ? まりりん!」 「なんで私に振るのさ……。っていうか仁美来たしもう行っていい?」 流石の真里も雪奈たちの絡みに辟易としてきたのか、立ち上がり、仁美の方へと向かう。 雪奈たちはそれを止める……かと思いきや、何故かむしろ満面の笑みを浮かべていた。 「よっ、行ってらっしゃい御両人!」 「次のステップも、楽しみにしてる」 「しおちゃんにもよろしくお願いしま……あっ」 ひなのが口を滑らせた所で、仁美と真里は、事の成り行きを理解した。 同時に、振り回された仕返しとばかりに、教室のドアに向かいながら雪奈たちに告げる。 「そういえば今日、伊藤先生機嫌悪いみたいだよ。なんでも今朝の朝練サボった生徒がいるとかで」 「部活まで遅刻したら本当に雷落ちるかもね〜」 その言葉に、慌てて荷物をまとめ始める三人。 だが仁美と真里が教室を後にした所で、雪奈がそれに気付いて叫ぶ。 「いや今朝は部活無いやろがい!」 その声を耳にして、仁美と真里は互いに顔を見合わせて笑い合う。 こういうふうに、部活が違ってもじゃれ合えるクラスメイトがいることは喜ばしいことだと、心からそう思う。 ……同時に、汐莉にはあることないことを広めないように釘を刺さねばと、心からそう思う。 ちなみに真里のテスト結果は、ギリギリ赤点を回避した。解答欄をとにかく埋める作戦が功を奏したのだが、仁美からはもちろん、雪奈たちからも呆れられた。しかし翔子からは(主に仁美がだが)褒められて、何はともあれ、神室女子高校音楽部の活動は無事再開することが出来たのだった。* * *
「今日は、新たなカップリングの可能性に挑戦してみませんか!?」 唐突に、汐莉がそんなことを言い出した。
「えーっと……一応聞くけど、なにをするの?」 汐莉が特定の二者間による関係性――所謂カップリングというものを……それも女性同士での関わり合いを好んでいるということは既に部員全員にとって周知の事実だったが、この前はそれが原因でクラスメイトにあらぬ誤解を招いたのだ。 今のご時世的にもマイノリティを否定することをしたくは無いが、かといって好きに暴走させていたら部の規律を乱しかねない。 部長はこういう所で正直あまり役に立たないので、自分がうまく対応しなくてはならない。 そんなある種使命感のようなものを持ちながら聞き返した仁美だったが、汐莉から返ってきた言葉は予想外の方向のものだった。 「えっと……この部って、仲良い人同士が多いじゃないですか」 「まあ……そうね。私と悠音とか」 「はいはい未来、出しゃばらない」 「それ自体はしおもとても良いことだと思うんですけど……逆にそれが成長の妨げになっている一面もあると思うんですよね」 他の全員が首を傾げる中、汐莉は更に言葉を続ける。 「つまりですね……『特定の誰かと』じゃないと力が発揮出来ない可能性があると思うんですよ」 「あ……」 仁美には、いくつか心辺りがあった。 仁美はいつも早千代とパート練習をしていて、一緒に部活動をしている時間が他の部員よりも長いためある程度は息も合うようになってきたかとは思う。 また、パートは違うがそれよりも更に長い間一緒にいた真里と歌うことによっても、自分の力を十二分に発揮出来る。 だがそれは裏を返せば、真里や早千代以外と一緒に歌った際に、力を発揮しきれないとも言えるのだ。 他の部員たちも心当たりはあるようで、皆、浮かない表情を浮かべていた。 「だからこそ、新たなカップリング……新たな組み合わせで練習してみたらどうかと思うんですよ!」 最初と同じ台詞が、一転、今は部の成長のための言葉であると受け取ることが出来た。 「でも、具体的にはどういうふうにするの?」 仁美の問いかけに、汐莉が答える。 「しお以外の六人が三人ずつに分かれて、合唱対決をするんです。未来さんたちが入部した時と似たようなやり方ですね。伴奏は両チーム共しおが担当するので」 「なるほどね……。いやその……あの時は大変申し訳なく……」 未来が仁美と真里に対して頭を下げる。その際早千代に絞られたことが余程トラウマに残っているようである。 「アハハ……。あれ? でもその話しおちゃんにしたことあったっけ?」 ――静寂。 少し間を置いてから、汐莉は話の続きを始めた。 「組み合わせは……そうですね。パートもカップリングも被らないように……。仁美先輩、未来さん、乃々さんのチームと、真里先輩、早千代さん、悠音さんのチームでどうでしょうか? それで一週間後に対決です!」 「ちょっと! なんで私が悠音と別チームなのよ! それにさっきの間は何! 間は!」 チーム分けを聞いて真っ先に汐莉に食ってかかる未来。だがその首根っこを早千代が掴んで食い止める。 「話聞いてた? 未来の場合悠音と一緒だと張り切っちゃうから練習の意味無いでしょ。なんかあった間の方は……ほら、汐莉だから」 「汐莉だから」で頷く部員たち。それで大体納得出来てしまう辺りが、ある意味汐莉らしさとも言える所だった。 「そうですよね……。わたしも悠音さんとのパート練習の時くらい、いつも声出せるようにならなくちゃ……。よろしくお願いしますね、仁美先輩。未来さんも」 「……ん」 乃々から差し出されたその手を、未来は少し仏頂面ながらもしっかりと握り返した。 「アハハ……すぐ拗ねちゃうとこあるけど未来をよろしくね、乃々ちゃん。私も頑張るから。……真里先輩、よろしくお願いします」 「私も、よろしくお願いします」 悠音と早千代に頭を下げられた真里は、少しためらいながらもそれに反応する。 「う、うん。よろしくね! 私に任せてよ!」 「なんか声上擦ってるけど大丈夫? ……まあ、私も真里のこと言えないか。頑張らなきゃ」 絡み合うそれぞれの想い。楽しそうな表情でそれを見守る汐莉。 こうして、汐莉プロデュースの一週間が幕を開けたのだった。 * * * 「へぇ〜。あのみらちゃんにそんな一面がね〜」 「はい。可愛かったですよあの頃の未来ったら……。何をするにも私の後ろを指を咥えながらずっと付いてきて。『ゆね』『ゆーね』って」 「まぁ……今とあんまり変わらない気もするけどね……」 真里・早千代・悠音チームは、休憩中、和やかな雰囲気でそんなことを話していた。 「じゃあえっと……休憩終わったらどうしよっか」 真里が言う。しかしその言葉に対して早千代と悠音は、困った表情で顔を見合わせる。そして、意を決した表情で悠音が言った。 「真里先輩……なんだかちょっと、よそよそしく無いですか……?」 いつもの良くも悪くも部員たちを引っ張っていくような姿を、今の真里からは感じられない。 それは良く言えば落ち着いているとも言えるのだが、悪く言えば真里が自身を曝け出していないとも言えるのだ。 悠音と早千代には、その原因が何となく分かっていた。 ――仁美と未来が、いないから。 真里は普段、どちらかというとイジられキャラの二人をイジりがちである。それは一見不真面目に見えるかも知れないが、逆に言うとコミュニケーションをその二人と多く取っているとも言える。 悠音と早千代は幼馴染同士のためお互いをよく理解しているが、真里への認識は「仁美と未来を可愛がっている先輩であり部長」といった感じであり、真に理解しているとは言えないのが現状である。 だから今せっかくこの組み合わせになったのだから、自分たちがやるべきことは「真里のことを知る」ことだと悠音と早千代は思っていた。 「あの……!」 悠音が真里へと詰め寄る。 「三人でカラオケ、しませんか!?」 その提案に対して真里は困惑の表情を浮かべる。 「カラオケって……今部活中……」 「カラオケルームに行くわけじゃないです、アカペラカラオケです!」 アカペラカラオケとは、アカペラ……つまり伴奏無しで歌うカラオケという言葉通りのことであり、それ自体は普段の合唱練習でもやっていることと本質的には変わらない。 だが悠音の目的はもちろんそういうことでは無く――。 「真里先輩がどんな歌好きなのか興味があるんですよ。これなら楽しみながらついでに練習も出来て一石二鳥じゃないですか?」 (サチ、ナイスアシスト……!) 早千代の援護に、悠音は心の中で礼を述べる。 「うーん……じゃあ……やってみようか……?」 あまり気乗りしない様子ながらもそれを承諾する真里。 ――しかし、三十分後。 「分かってるねさっちー! やっぱロックだよね! ロック!」 「はい! 真里先輩もここまで知ってるとは思いませんでした! 今度は伴奏ありで歌いに行きましょう!」 「いいね! 悠音ちゃんも一緒にどう!?」 「わ、私はロックとかは歌うのはあんまり……。でも聴いてるだけなら……」 「ホント!? 良かった〜。仁美ロック苦手みたいですぐうるさいって言われるからあんまり歌えないんだよねカッコいいのに!」 ……と、大いに盛り上がっていた。 思っていた方向の斜め上だったけれども、早千代と真里に共通の趣味があることも発覚してかなり仲良くなれたのでは無いかと、悠音は感じていた。 でも、あんまりヘヴィな方向には行かないで欲しいとも、強く……とても強く、感じていた。 * * * 「えっとそれじゃあ……十分間休憩で」 「はい」 「……はい」 ――やりづらい。 仁美が未来・乃々とのチーム練習で最初に感じたことはそれだった。 未来も乃々も真面目なため、練習自体は別に問題無くスムーズに進んでいるのだが、むしろスムーズ過ぎる……もっと言えば活気が無い。 仁美を茶化す真里も未来にツッコむ早千代も乃々をノセる悠音もいないためか、誰一人として無駄口を一切叩かない。 別に二人がただ大人しい性格と言うのならばそれでもいいのだが、仁美には一つ懸念点があった。 ――それは、未来と乃々の出会い方が最悪だったということである。 忘れもしない、未来にいきなり決闘を申し込まれたあの日。乃々は、その場にいたというだけで未来によって決闘に強引に巻き込まれてしまったのだ。 それが原因で乃々は未来に対して苦手意識を持っている……というのが仁美の認識だった。普段は真里、早千代、悠音によって穏便に過ごせてはいるが今この瞬間二人は気まずいのでは無いか……そしてそれを今どうにか出来るのは自分だけなのでは無いかという思いが仁美の中にあった。 あまりの静かさに痺れを切らした仁美は、意を決して口を開いた。 「ふ、二人には休憩を求刑します!」 「……はい? ですからこれから休憩ですよね?」 未来に可哀想なものを見る目で言葉を返され挫けそうになるが、まだ諦めるわけにはいかない。 「じゅ、十分で充分だったかな? それとももっと――」 「いつも通り十分で大丈夫かと……。あれ? 仁美先輩、顔色悪いですけど大丈夫ですか? もし体調悪いならもう少し伸ばしても――」 「あ、うん体調は大丈夫。大丈夫……なんだけど……だいじょばない」 ガクリと項垂れる仁美。普通に乃々に体調を気遣われてしまった。 こういう時真里ならば笑いを提供してくれる……そうでなくても未来からのツッコミを引き出して場を和ませてくれるのだが、慣れないことをするものでは無い。むしろ逆に胃が痛くなってきた。 「――あ、未来さん。この間話していたお店なんですけど、お母さんにクーポン券貰ったので、もしよければ今日行ってみませんか?」 「本当っ!? でも……私とでいいの?」 「はいっ。未来さんが一番行きたがってましたし……私も未来さんと行きたいんです」 「乃々……ありがと。じゃあ今日――ってどうしたんですか仁美先輩? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこっちを見て」 「誰が鳩……ってそれは例えだからそうじゃなくて……って違くて!」 あまりの動揺に、仁美は自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。 「ねえ二人とも……いつの間にそんなに仲良くなったの……?」 仁美の言葉に、乃々と未来は不思議そうに顔を見合わせる。 「いつの間にって……どうだったかしら……?」 「うーん……でもお泊り会した辺りから二人で出かけることも増えてきましたよね」 未だにうまく状況を飲み込めていない仁美。少ししてから未来が、得心がいったようにひとつ頷いて言った。 「あ……仁美先輩……もしかして、私たちが不仲だから話さないと思って……それで寒いダジャレを……?」 「……寒くて悪かったわね。だって……和ませなきゃって思って……」 仁美のその言葉に、乃々と未来はもう一度顔を見合わせ――耐えきれなくなって、同時に吹き出した。 「くくっ……だからってあんな……くくっ……」 「ふふっ……でも良かったです。仁美先輩……ちょっと堅い人かなって思ってたんですけど……こんな可愛らしい一面見れて……ふふっ……」 「ちょっと二人とも笑いすぎ! でも……なーんだ。私、気にしすぎてたのかもね」 先輩として、後輩の様子を気にする。 それは確かに大事なことだが、見えてるつもりでも見えていないものはある。その見えないものを無理に見ようとして、互いに変に遠慮し合っていてはそれは逆に相互理解を生まないのだ。 「あ、そうだ。楽しませて頂いたお礼に……仁美先輩も一緒に行きませんか?」 「楽しませたくて楽しませたわけじゃないけど……でもそうね、せっかくだし。あ、ちなみに何のお店に行くの?」 仁美の問いかけに、乃々と未来は再び顔を見合わせる。そして乃々が手の指を顔の前でグーのように丸める……所謂猫ポーズをしながら、言った。 「猫カフェ、ですっ」 その甘美な言葉の響きに、仁美の瞳が大きく揺らいだ。 * * * ニチームに分かれての練習開始から一週間後。いよいよ合唱対決の日を迎えた。 「負けないよ、仁美。なんて言ったってこっちにはハードでロックな絆があるんだからね!」 「未来の泣き顔……楽しみです! ほら悠音も!」 「えっと私は別に……。でも、負けたくは無いです」 真里、早千代、悠音からの宣戦布告。対する仁美たちも負けじと意気込みを露わにする。 「こっちだって負けないわよ! 猫友パワーは無限大……にゃん!」 「そんなこと言っていられるのも今のうちよ、サチ。飼い犬……ならぬ飼い猫に手を噛まれる気分を味わせてあげる……にゃん!」 「お、お手柔らかにお願いします……にゃん」 三者三にゃん(?)にたじろぐ真里チーム。語尾のわけを尋ねると猫カフェでの動画を仁美に見せられて、画面に釘付けになってしまった。 「うわぁ可愛い……ねえ今度私たちも連れてきなさいよ!」 「う〜んどうしよっかな……真里たち騒がしいしなぁ……ロックなんてもってのほかだし……」 「くっ……」 珍しい攻守逆転。――とくればそれに反応するのは、もちろん。 「ここでまさかの攻守逆転ですか!? 新たな尊み……。ああ……しおは幸せですぅ……」 一人天に召されそうになっている汐莉に苦笑いを浮かべる一同。発作が落ち着くのを待ってから、本題に入るべく真里が話しかける。 「さ、じゃあしおちゃん、早速対決始めたいと思うんだけど順番とかしおちゃんの方で決まってる?」 「そうですね……しおは、同時でいいと思います」 予想外の発言に困惑する一同。皆の声を仁美が代弁する。 「え……? いやそれじゃ審査が出来ないんじゃ……というか声量対決みたいになっちゃうけど……」 「いえ……そうでは無くて……。勝負自体、する必要が無いと思うんですよ」 「どういうこと……?」 仁美の問いかけに、汐莉が答える。 「勝負はあくまで『そうさせるための手段』であって、しおの目的は最初から新たなカップリングへの挑戦だけですから」 「いやアンタなに言って――。仁美先輩もなんとか言ってやって下さい!」 反論を仁美に求める未来。だが仁美が何かを言うよりも早く、未来を指差しながら汐莉が言う。 「はい! まさにそれですよ未来さん! 未来さん、気付いてますか? 以前はこういう時真っ先に悠音さんに頼っていたのに、今は自然に仁美先輩に頼っていることに。ダジャレで空回りする姿を見て親近感のようなものが湧いた……そんな感じですよね!?」 「えっ……なんで分かるの……」 「というか待ってなんでしおちゃんがその話知ってるの!? 真里たちにも話してないのに!」 仁美の疑問に、汐莉は逆に不思議そうな表情で答える。 「なんでって……盗聴器に決まってるじゃないですか。二チームそれぞれの動向をちゃんと把握してこそ達せられるのがしおの目的だったんですから」 「うわっ……さらっと言ってるけど一歩間違えれば犯罪よアンタ……」 ドン引きする未来を気にも止めず、汐莉は更に話を続ける。 「とにかくですね、仁美先輩とみらののさんも、真里先輩とゆねさちさんも、それぞれお互い話しやすくなったと思いませんか?」 「え? 悠音が攻め……?」 「さっちゃんそこツッコむ!?」 「アハハ……でも確かに……そうですね。真里先輩、フランクに話しかけてくれるようになったというか……まあたまに自重して欲しい時はありますけれど」 大きく頷く未来と仁美。乃々は悠音と共に苦笑いを浮かべている。早千代は攻守の順番についてまだ何か言っていて、真里がそれを宥めている。 ――仲が良い人同士が多い。 汐莉が一週間前言っていたその言葉は、同じようで全く別の状況を表現していた。 「それじゃあ皆さんで……歌いましょう! これは……この『笑いのコーラス』は、こんな楽しい気分の時にこそ相応しい曲だと思うんです!」 汐莉の言葉に、一同は頷く。 そして笑顔のままで、歌い始めた。
『緑の森が 喜びにざわざわ笑い あわだつ小川は ざわざわ笑い 楽しい気分に 空気も笑い それにあわせて 緑の丘も笑う 緑あざやか 牧場も笑い 楽しい景色に バッタも笑い メアリーとスーザンとエミリーが 丸くかわいく口あけて ハハハと楽しく笑うとき 色とりどりの小鳥がうたう その木の蔭に テーブル広げ くるみとさくらんぼのせましょう いらっしゃい 楽しみましょう ごいっしょに すてきなハハハの合唱を』
軌跡は、描き出してからが本番である。 また一つ壁を乗り越えてより強い絆で結ばれた七色の光は、季節の移ろいと共に新たなステージへと進もうとしていた。 高々と聳え立つ神室山は、少女たちの歌声と笑い声を聴いてどこか楽しそうにしながら、初夏へと装いを新たにせんとしていた――。
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