1年間で365点の絵画を紹介するという【今日の名画】も、いよいよ今日で終わりになります。
自分自身で決めた制約とはいえ、毎日欠かさず作品の記事を書くのは本当にキツイことでした。
西洋絵画には素晴らしい作品が山のようにありますから作品の選定に困ることはなかったのですが、適切な画像や作品データを揃えるのに時間がかかり、本当に苦労しました。
でも、記事を読んで下さった方々がこれを機に西洋絵画に少しでも興味を持って下さったなら、続けた甲斐があったというものでしょう。
今日ご紹介する最後の作品は、絵画ではありません。
この企画をやろうと思った時から、365点目はこの作品にしようと考えていました。
1年間の集大成に、「美術を見る」ということがどのような力を育むのかをお話しましょう。

こちらの携帯電話を見たことがある方はかなりいるでしょう。
中には、使っていたという方もいるでしょうね。
2003年にauから発売された《INFOBAR》です。
INFOBARau design projectの第1弾の携帯電話で、2002年に開催された「ビジネスショウ 2002 TOKYO」に参考出品されたプロトモデル「info.bar」をベースとして、プロダクトデザイナー深澤直人がデザインしたものです。

カラーバリエーションはNISHIKIGOI(赤・ベージュ・水色)、ICHIMATSU(黒・白)、BUILDING(藍・銀)の3色。
3種それぞれに名前がついた珍しいものですが、この名前は開発時に技術者が呼んでいた名称をそのまま利用したものといわれています。
携帯電話が全国的に普及し、「写メ」や「着うた」などの機能が概ね出揃った頃にシンプルなストレートボディと独特の配色で登場したINFOBARは、当時の携帯電話のボディがシルバーか黒がほとんどの中で多くの人に強いインパクトを与え、発売日以降売り切れの店舗が続出しました。
流行り廃りの激しい現代においてなお、15年前に作られたものとは思えないそのスタイリッシュなデザインに感心してしまいます。

私はこの《INFOBAR》(NISHIKIGOI)を発売初日に入手しました。
はじめからNISHIKIGOI狙いで、仕事帰りに店に駆け込み最後の1点を手に入れたのです。
プロトタイプが発表された時から注目していたのですが、完成品が発表された時に、「これは間違いなく後世に語り継がれる!」と直感し、絶対に手に入れると決めたのです。
数年後、INFOBARは美術館の収蔵品になりました。
2007年にニューヨーク近代美術館、2013年にインディアナポリス美術館が収蔵作品として選定したのです。
INFOBARは発売時から海外でも注目されていて、イタリア人の友人は「《INFOBARは日本でしか使えない仕様だから、欲しいけれど買えない!」と心底悔しがっていました。

これは自慢話でもなんでもなく、美術作品を本格的に見るようになってから、しばしばこのようなことに出くわすようになりました。
「これは残る」というものが、直感的に分かるのです。
素材の価値ではなく、あくまでも表現の価値ということですが、人々に珍重され、後に強い影響を与えることになるものの価値を正しく判断することができるようになるのです。
 「長きに渡って人間が良いと判断するものの基準」が分かるようになるといった感じでしょうか。
「美術を見る」ということは、観察力や洞察力をもって、高く評価され後世に残るものを判別する目を育てるということでもあるのです。
1枚の絵を多角的に隅々まで見る。
これを多くの絵で何回も繰り返せば、誰でも身につけられる力です。
今度、美術館訪れる時は、ぜひそんな風に絵画を見てみて下さい。

【今日の名画】が皆様の鑑賞のお役に手つことができたなら、これほど嬉しいことはありません。
1年間拙稿にお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
深澤直人(デザイン)《NISHIKIGOI》(INFOBAR)
深澤直人(デザイン)、《INFOBAR(NISHIKIGOI)2003年、13.8×4.2×1.1cm、マグネシウム製(筐体)、筆者私物



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