faab75c9.JPG28日(水)、モレーノ、ドメニコ、カシン+2の東京公演2日目。当日券が予想以上に売れたそうで、フロアーはギッシリ満員。いやー、盛り上がりました。

バンドのパフォーマンスも曲目構成も、1日で一気に熟成された。とくにカシン+2の『フューチャリズモ』のレパートリーは、メンバー全員がレコーディングに参加していたとは言えライヴでの演奏経験がほとんどなかったので、初日は手探りっぽいところがあったのだが、たった一晩で太い芯が通うようになるとは、さすがに皆さん腕も立つしカンもいい。

さて、この日のゲストは初日に続いて高野寛さん(ギター)、そして噂が噂を呼んでいた "Special Secret Guest" の正体は、コーネリアスこと小山田圭吾さん(ギター)と嶺川貴子さん(キーボード)。ステージ上でカシンとモレーノは次のようにコメントしていた。

「6年前、僕たち3人(カシン、モレーノ、ドメニコ)はリオの郊外に家を借りて合宿しながら、モレーノのアルバム(『タイプライター・ミュージック』)をレコーディングした。そのとき僕たちは数枚だけCDを持っていったんだが、その1枚がタカコ・ミネカワのCDだった。
 翌年、カシンとひろ美さんの結婚式に出席するため、モレーノがカシンの後見人として一緒に日本に来た。そのとき、日本で購入したのがコーネリアスのCDだった」

このコメント、彼らがポルトガル語で話し、フロアー前列にいたポルトガル語が分かる日本人のお客さんにマイクを渡して通訳してもらう、という斬新な思いつきで、もちろん事前の打ち合わせも仕込みもいっさいない。今思えば、これも新手の「パフォーマンス」?

それはさておき、以前から彼らはコーネリアスとタカコさんの大ファンであると言い続けてきた。タカコさんはモレーノ+2のリミックスCDで「セルタォン」のリミックスを担当。そして昨年末、カシンが一家で来日したときに初めて小山田家を訪問。こうして、彼らの強い要望で初の共演が実現したのだ。

話が飛ぶが、昨年のカエターノ・ヴェローゾ来日公演の最終日。バックステージでレコード会社の方がカエターノに小山田さんを紹介していた(ちなみに日本のミュージシャン12組が選曲した来日記念コンピ盤『カエターノ・ラヴァーズ』で、小山田さんは「ジルベルト・ミステリオーゾ」を選曲)。そのとき、僕の隣りにいたペドロ・サーが「あの人、誰?」。僕「コーネリアスのケイゴ・オヤマダだよ」。ペドロ「えーっ! 僕、彼の大ファンなんだよ!」

こういう、意外なようだけど「ありだよね〜」と思えるつながりを含め、モレーノ、ドメニコ、カシン+2の音楽は従来の「ブラジル音楽」というくくりから解き放たれた、国籍を越えた「都市型ポップ・ミュージック」だ。しかしその背景には彼らの「カリオカ・スピリット」に根ざした好奇心、遊び心が脈打っている。

カシンのスタジオがあるリオのバイショ・ガヴェア地区には、他にも大勢のミュージシャンやアーティストが暮らし、ホームスタジオを構えている。アンテナの鋭いトンガった若者たちが集まるバーも多く、トンガった品揃えのレコード/CDショップもある。そんなところからブラジルのメディアが「バイショ・ガヴェア系」なるキャッチコピーをつけたことがあるが、これってひところ日本で騒がれた「渋谷系」とシンクロする。キャッチはさておき今回のライヴの客層も、現在進行形のブラジリアン・ポップスを追いかけている人たちも多かったが、むしろふだんブラジル物を聴いていなくても、そういった「匂い」を嗅ぎ分けるアンテナを備えた人たちが大多数だったんじゃないだろうか。

そんなお客さんたちの音楽に対するポジティヴな姿勢は、ライヴ中はもちろん、その前から感じることが出来た。2日間、開場から開演までのBGM係に任命され、「リオ発の音」にこだわりながら思いつくまま、いろんな曲をかけていたのだが、現場で「今の曲、何ですか?」と尋ねられる回数は、ふだんDJやってるときよりも遥かに多かった。このBLOGに問合せのコメントを書いてくれた人もいるし、ラティーナ経由での問合せも来た。面白い音楽、刺激的な音楽への好奇心を備えた人たちは大勢いる。

メンバーは全員「日本のお客さんは素晴らしい!」と感激の面持ち。そんな彼らに僕は言った。「ブラジルと日本とは遠いけれど、カリオカのアンテナと東京人のアンテナとの距離は、ブラジルと日本よりも遥かに近いんだよ」。

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