9日(土)から15日まで渋谷のユーロスペースで開催される「ブラジル映画祭2010」

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音楽ファン必見の作品がコレ。

★魔法じかけの言葉 "Palavra (En)cantada"(2008年 ブラジル)

上映日時
 10月9日(土)14:00
 10月10日(日) 11:00
 10月11日(月・祝)17:35
 10月13日(水)15:00
 10月15日(金)19:35

ブラジル音楽の歴史を「詩(言葉)と音楽」の関係をもとに掘り下げたドキュメンタリー映画。大勢のアーティストが登場して "詩" をテーマにコメントし、アカペラや弾き語りの生演奏も披露する。

<出演(登場順)>
アドリアーナ・カルカニョット、レニーニ、ゼー・ミゲル・ヴィズニッキ、シコ・ブアルキ、マリア・ベターニア、リリーニャ、アルナルド・アントゥニス、フェヘーズ、トン・ゼー、ルイス・タチ、マルチーニョ・ダ・ヴィラ、アントニオ・シセロ、ゼカ・バレイロ、イルダ・イルスト、ゼリア・ドゥンカン、パウロ・セーザル・ピニェイロ、ゼー・セルソ、ジョルジ・マウチネル、ブラック・エイリアン、ベネガォン

<アーカイヴ映像に登場するアーティスト>
イズマエル・シルヴァ、カルトーラ、ドリヴァル・カイミ、アントニオ・カルロス・ジョビン、カエターノ・ヴェローゾ、ムタンチス、シコ・サイエンス&ナサォン・ズンビ with ジルベルト・ジル、ゼカ・バレイロ他

<挿入曲として歌が流れるアーティスト>
マリオ・ヘイス、ジョアン・ジルベルト、ナラ・レオン、ヴィニシウス・ヂ・モライス、マリーナ・リマ、ジルベルト・ジル他

とにかくクラクラするぐらいに濃密、濃厚な作品。今回の映画祭の上映に至るプロセスには僕も関わっており、思い入れも強い。

では映画の内容を、時間軸に添って箇条書きでみっちりガイドしていこう。事前のネタバレが嫌な人もいると思うので、以下は別ベージに。かなり長文です。
 
   ↓
「魔法じかけの言葉」

*オープニング
中世の南仏の吟遊詩人の歌をアドリアーナ・カルカニョットがアカペラで歌い、自分が音楽に惹かれたきっかけが曲よりも詩だったと語る。

*レニーニが吟遊詩人について語る。

*ゼー・ミゲル・ヴィズニッキ(グルーポ・コルポの演目「オンコトー」の音楽をカエターノ・ヴェローゾと共同で手がけたことでも知られる才人)が、ギリシャ歌劇や叙情詩について語る。

ーーアウグスト・ヂ・カンポスの詩
    「歌詞とはなんと神秘的・・」

*シコ・ブアルキが登場。「Choro Bandido」(エドゥ・ロボ作曲、シコ作詞)をアカペラで歌いながら詩のバックグラウンドを説明したのに続き、この曲がタイトルバックに流れる(出典はシコの1993年のアルバム『Paratodos』)。

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*タイトルバックに続いて、マリア・ベターニアが登場。ポルトガルの文豪フェルナンド・ペソアの詩「Eros e Psique」を朗読。

*アドリアーナが「12歳の頃、マリア・ベターニアを通じてペソアを知った」と回顧。

*再びベターニア。自分のポジションを「歌手と女優の中間」とコメントしたのに続き、ベターニアのステージ映像から「Cartas de Amor」(フェルナンド・ペソアの詩の朗読)。

*シコ・ブアルキが、若き日に学生劇団から依頼を受け、ジョアン・カブラル・ヂ・メロ・ネトの作品に曲をつけた「Morte e Vida Severina(セヴェリーノの死と生)」について語る。劇団の当時の映像も。

*リリーニャ(北東部新世代バンド、コルデル・ド・フォゴ・エンカンタードの歌手)が、子供の頃から詩の朗唱をしていたことを語り、即興詩を披露。北東部のヘペンチスタ(即興詩人)のモノクロ映像も挿入される。

*北東部のフェイラ(露天市)のモノクロ映像。コルデルと呼ばれる小冊子を売りながら、その内容を "語り歌う" シーンに乗って、アルナルド・アントゥニスが登場。北東部の吟遊詩人に惹かれた思い出を語る。

*ラッパーのフェヘーズが登場、「ラップは即興詩(コルデル)の延長だ」と語る。続いてサンパウロ郊外の巨大なファヴェーラの空撮〜フェヘーズのライヴ映像。

*トン・ゼーが登場。文豪エウクリデス・ダ・クーニャの言葉を引用しながら "読み書き" と "耳で聞いて語る(歌う)言葉" の違いについてコメントし、自作の「A Moreninha」を弾き語り。

*再びリリーニャ。ジョアン・カブラル・ヂ・メロ・ネトやカルロス・ドゥルモンド・ヂ・アンドラーヂらブラジルの偉大な詩人の作品をステージで朗読するに至ったきっかけを語り、リリーニャのステージ映像に。「Os Tres Mal-Amados」(ジョアン・カブラル作)の朗読。

*再びゼー・ミゲル・ヴィズニッキ。「ブラジル文化は口承的(オーラル)でリズムや音楽に満ちている」「ブラジルのポピュラー音楽は人と文学の架け橋」など鋭いコメント。

ーーオズヴァルド・ヂ・アンドラーヂの詩
   「トゥピであるべきかないべきか、それが問題だ」

*昔のストリート・カルナヴァルの映像。曲は「Historia do Brasil」(ラマルチーニ・バボ作)。詩人ルイス・タチが登場し、文学と歌詞の関係についてコメント。続いてシコが、ラマルチーニ・バボの歌詞を引用しながら「30〜40年代のブラジル音楽にはオペラの影響があった」とコメント。

*ここからサンバのパートになる。まずルイス・タチがシニョーの作品「Jura」の歌詞を紹介しながら30年代のサンバ発展の歴史を解説。BGMに当時のスター、マリオ・ヘイスが歌う「Jura」も流れる。

*シコ・ブアルキがカルトーラとノエル・ホーザを解説。

*最古のエスコーラ・ヂ・サンバ「デイシャ・ファラール」の創設者でもあったサンビスタ、イズマエル・シルヴァの貴重な映像。曲は「Se Voce Jurar」。シコ・ブアルキが当時の人気歌手とコンポーザーの関係についてコメントする。

*昔のリオのファヴェーラの映像に乗って「Alvorada」(歌:カルトーラ)が少し流れ、ここでマルチーニョ・ダ・ヴィラが登場。昔と今のファヴェーラの違いについて語る。

*ドリヴァル・カイミのパート。まずは名盤『Vinicius e Caymmi no Zum-Zum』からヴィニシウスがカイミを紹介する歌が流れ、マリア・ベターニアが「カイミについて語るなら立ち上がらないと」との名言に続いてカイミの魅力を語る。さらにカイミ自身が歌う映像「O Mar」が流れ、トン・ゼーがカイミを初めて聴いた時の衝撃についてコメントしながら「Vento」(カイミ作)を歌う。

ーーカルロス・ドゥルモンド・ヂ・アンドラーヂの詩
  「モダンは退屈になった。これからは永遠になろう」

*ボサノヴァのパート。昔のリオの写真に乗って、ジョアン・ジルベルトが歌う「Pra Que Discutir com Madame?」が流れる。ルイス・タチがジョアンの功績を解説。映画では触れられていないが「Pra Que Discutir・・」が選ばれたことによって、ジョアンと前章(サンバ)との関連性も浮き彫りになる。

*アントニオ・カルロス・ジョビンの昔の映像に続いてジョビンが歌う「Desafinado」(出典は『Em Minas Ao Vivo - Piano e Voz 』)が流れ、シコ・ブアルキがコメント。

*ナラ・レオンが歌う「Minha Namorada」(ヴィニシウス作詞。出典は『10 Anos Depois』)が流れ、マリア・ベターニアがヴィニシウス・ヂ・モライスとボサノヴァについてコメント。

*ここからMPB時代の「詩と音楽」に関するパート。まずはゼー・ミゲル・ヴィズニッキが、ヴィニシウス以降、詩人が作詞家に転向する傾向が出てきたことについてコメント。

*アドリアーナが、ヴァリー・サロマォンの詩に曲をつけた「A Fabrica do Poema」を弾き語りし、ヴァリーの思い出を語る。

*マリーナ・リマの歌「Eu Vi O Rei」(アントニオ・シセロ作詞)をBGMに、マリーナの兄アントニオ・シセロが登場、自作の詩を朗読しながらコメントする。

*北東部出身のゼカ・バレイロが女性詩人イルダ・イルスト(故人)を訪ねるという企画のテレビ番組の映像。「文学では食えない」とのイルダのコメントが印象的だ。ここでゼリア・ドゥンカンが登場、その番組を見た時の印象を語り、イルダの詩にゼカが曲をつけた「Poema Cancao 2 da Obra Odo Discontinua O Remota para Flauta e Oboe de Ariana para Dioniso」をアカペラで歌う。

*アドリアーナが "詩人の作品に音楽家がメロディーをつけた曲" について、"詩と歌詞" についてコメント。

*詩人パウロ・セーザル・ピニェイロが登場。「So Danco Samba」(ヴィニシウス作詞)の一節を引用しながら、音楽と歌詞の響きの相性についてコメント。

*小説家でもあるシコ・ブアルキが「文章を書くことと歌詞を書くことは別」と語り、自作の「Uma palavra」を歌まじりに朗読。

*アルナルド・アントゥニスがマリーザ・モンチとデュエットした「Cultura」(出典はアルナルドの『Nome』)のヴィデオ・クリップ(アニメ仕立て)が流れ、アルナルドのコメント。

*マルチーニョ・ダ・ヴィラが、カルロス・ドゥルモンド・ヂ・アンドラーヂの詩を再解釈したエスコーラ・ヂ・サンバ「ヴィラ・イザベル」のサンバ・エンヘード「Sonho de Um Sonho」についてコメントし、その曲に乗ってパレードするヴィラ・イザベルのカルナヴァルの映像(1980年)も流れる。

*レニーニが、ブラジルのポルトガル語の言葉の響きの素晴らしさ、とくに母音の響きについてコメントし、「Meu Amanha(Intuindootil)」を弾き語り。

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*ここからトロピカリア(トロピカリズモ)時代の章。カエターノ・ヴェローゾが1967年のソング・フェスティヴァルで「Alegria, Alegria」を歌っている映像〜当時のテレビ局のレポーターがカエターノにインタビュー〜ルイス・タチがトロピカリア時代の詩についてコメント。

*トン・ゼーが自作の「Jimi Renda Se」を弾き語り。本人は「1960年に作った」と話しているが、歌詞の内容からして1970年が正しいはず。続いてトン・ゼーの最近のライヴ映像(場所はイタリアのトリノ)、曲は「Moeda Falsa」。

*ルイス・タチがトロピカリズモ時代を解説し、ムタンチスの「2001」(ヒタ・リー、トン・ゼー共作)の当時の映像が流れる。

*再び1967年、テレビ局のレポーターがカエターノに質問。「ポップ・ミュージックとは?」

ーーオズヴァルド・ヂ・アンドラーヂの詩
    「私が作る高級なビスケットに大衆が食いつく日が今に来るだろう」

*ゼー・セルソ率いる前衛劇団、チアトロ・オフィシーナの舞台『O Rei da Vela』(オズヴァルド・ヂ・アンドラーヂ原作)の映像(1967年)。舞台後方の巨大な絵は後にカエターノの『Estrangeiro』のジャケットに使われた。ゼー・ミゲル・ヴィズニッキが "食人主義" についてコメントしたところで、御大ゼー・セルソが登場。食人主義をキーワードにブラジリダーヂの本質について語る。

*ジョルジ・マウチネルが登場、トロピカリズモについてコメントし、バイオリンを弾きながら「Maracatu Atomico」を歌う。ギターは共作者のネルソン・ジャコビーナ。さらにこの曲の、シコ・サイエンス&ナサォン・ズンビとジルベルト・ジルが共演したライヴ映像(1996年、レシーフェのAbril Pro Rock)。

*ラッパーのブラック・エイリアンが登場。ヒップホップ、ラップについて語り、「Estilo do Gueto」のライヴ映像。

*アルナルドがエレキ・ギターについてコメント。"Incrassificavel(分類不可能)" の一言をキーワードに、シコ・サイエンスとデュエットした曲「Incrassificaveis」(出典はアルナルドのアルバム『O Silencio』)のヴィデオ・クリップが流れる。歌詞の発想にはトン・ゼーからの影響がうかがえる。

*レニーニが「僕らは皆、混血だ」と語りブラジルとフランスを対比。「Jack Soul Brasileiro」を弾き語りする。

*ラッパー、ベネガォンの案内でラパの広場で行なわれるフリースタイル・ラップ合戦の映像。ベネガォンが「子供の頃にテレビ番組で見た、ヘペンチスタ(即興詩人)の掛け合いに夢中になった。フリースタイル・ラップはヂザフィーオ(ヘペンチスタの即興歌合戦)の現代版だ」と語り、スタジオでのリハーサル映像に続いてラップ、ヒップホップの精神についてコメントする。

*フェヘーズが、ヒップホップを軸にブラジル社会の現状を鋭く突くコメント。都市とファヴェーラの映像に乗って「O Amor Venceu A Guerra(愛は戦争に勝つ)」が流れる。

*ゼー・ミゲルがラップについてコメント。

*そろそろまとめのパート。シコ・ブアルキ、トン・ゼー、フェヘーズがそれぞれ、音楽(歌)の現状についてコメントする。

*マリア・ベターニアが「Palavra de Poeta」(フレッヂ・ゴイス、モライス・モレイラ作)をアカペラで歌い、ブラック・エイリアンとアルナルドがそれぞれ「言葉(Palavra)」をキーワードにコメント。

*アドリアーナの興味深いコメント。「海外でショーをやって感激するのは、歌(注:ブラジルの歌)の影響でポルトガル語を学ぶようになった人に出会えること」。「海外(ブラジル以外)」と言ってはいるが、これはおそらく、いやきっと、2007年に初めて日本を訪れた時の体験、印象に基づくコメントだろう。続いてアドリアーナが、この映画のために作った新曲「Minha Musica(私の音楽)」を弾き語りする。歌詞が素晴らしい。

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*エンドロール
エンド・テーマ曲はジルベルト・ジルの "声とギターと口笛" で「Metafora」(出典は『Gil Luminoso Voz e Violao/声とギター ジル・ルミノーゾ』)。歌詞の字幕は流れないので、内容を知りたい人はNRTから出ている日本盤をチェック!