オリーブ収穫の仕事をしたことがあります。

本職の描画装飾の仕事は、内装に付加価値をもたらすことですから、
大きなお屋敷をお持ちのお金持ちの方からの注文などがあったりすると、
こっちもあっちもと仕事が長引き、長引くほどに、こちらは楽しく絵を
描いているだけで預金通帳の数字がタッタッタと上がって行く素敵な
仕組みになっていました。
一度に支払われる額は大きい(私達にとったら)ですから、
仕事をしている時はすっかり気も大きくなって、友人に奢ったり、
物乞いがいたら小銭をあげたり、自分達もBARでスプレムータという
生オレンジジュースやバナナジュース、各種カクテルなどのワンランク上の
飲み物を何の気兼ねもせず頼んだりして、お財布が重くなるごとに、
身も心も軽い蝶のようになって家と仕事場を行き来しました。
夢のような仕事です。

ただ、仕事と仕事の合間が1年とか、2年も開くなんていうことがありました。
今思うと、その間に全然営業というものをやらなかったHもHなんですが、
2年も収入がないと当然貧乏に逆戻りします。
半年めい一杯仕事して1年休業とかの特別就労形態で、平均すると
貧乏よりの生活を余儀なくされているというのに、単発で大金を稼ぐと
税金を50%も持っていかれてしまうのでした。
この税金制度は全く腑に落ちませんでした。
イタリアで脱税があれだけトレンディーなのもよーく解るのでした。

さて、前置き長くなりましたが、そんな仕事の休業期間中、
ああこれはまずいこのままでは冬を越すことが出来ないと思ったとき、
階下に住むルイジおじさんのオリーブ畑で働かせてもらったことがあります。

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ベランダの下の
この畑ね。

Hと一緒に3ヶ月
雇ってもらいました。









日当で、1人オリーブオイル5ℓです。お金に直すと大体3千5百円くらいです。
肉体労働でずいぶん低賃金だとお思いになられるかと思いますが、
ルイジ夫妻と私達夫婦で1日に収穫できるオリーブを絞って出来るオイルが、
たった20ℓほど。
そのうちの半分も私達に支払ってくれるのですが、ルイジ夫妻の
稼ぎというのは、残りの10ℓぶんから工場でのオリーブ搾り賃など
もろもろの経費を引いた額ということになるので、私達よりも稼ぎが
断然少ない計算になります。
しかも、昼食のお弁当と豪華夕飯つき!
もう何の為に私達を雇っているんだか解らない状態です。

画像2 411だけどとても楽しい仕事でした。
朝9時から夕方4時半くらいまで。
その後はルイジの家の台所で
皆でワイワイしながら
マルゲリータがちゃちゃっと
料理をこしらえてくれます。
私はサラダ作り専門。

この夕飯がかなりどっさりで、
前菜、パスタ、肉料理、サラダ、
デザートを毎日食べていたら、
肉体労働しているにも拘らず
子豚のようになってしまいました。


ルイジは代々続くオリーブ農家を受け継ぎ、その木々は200年、
300年経っています。日本だったら畑全部が神木の林です。
そしてルイジが全て手作業の自分のオリーブオイルを誇りにし
絶対の自信を持っているだけあり、味と香り、見た目の美しさ、
全てにおいて幻の一品です。
おそらく日本ではこんな一級品は絶対お目にかかることは出来ない
程の代物です。オリーブオイルの一級品というのは熱を加えず、
石臼で果実を生のまま挽いて搾った昔ながらの製法で、それなりの
手間賃や経費や時間がかかります。なのでルイジはまるっきり
赤字なのですが、オリーブの木への愛と、最高のオイルを作ると
いうポリシーのみで定年を過ぎてもずっと木によじ登っています。
雇い主よりも儲けてしまうのが心苦しかったので聴いてみると、
こういう職人的農家には市からちょっとだけ助成金が
出るんだそうです。よかった。

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だけどこのオリーブオイル、焼いたパンにたっぷり塗っただけで相当美味しい。
あと、ルガニカという種類のオリーブの実をストーブの上とかで乾燥させた物が、
美味しすぎてバクバク食べていたら、これは銀杏のように食べすぎというのは
いけないらしく、顔に赤い吹き出物が出来てしまいました。

オリーブ収穫、一連してとっても楽しかったけど、なにかと美容面に問題ありでした。