大男がくれたエコウを吸って落ち着きを取り戻した亜莉巣であった。


プルルル

スマホではない、昔の携帯電話を大男は左ポケットから取り出した。

「大統領!? どうして俺の電話番号を?」

「陛下、気持ちはありがたいんだが……俺は軍に戻る気はないぜ!
今のレイヤーカフェ経営も気に入ってるんでね」


どうやらどこかの国の大統領と会話しているらしい。
大男は、その強さといい、どっからどうみても日本人には見えない
怪しい風貌といい、謎に満ちていた。

瞬間!
亜莉巣目掛けて苦無(くない)が飛んできたのだ。

あわててドスの柄で受け止めようとする彼女であったが、
それより早くメイド風の少女が防護障壁のようなものを張る。

苦無は見えない壁に弾かれて地面に転がった。

「大丈夫ですかお客さん。私、一応超能力の類を使える
エスパーなんです!」

「お、おう(なんだそれ、漫画かよ……)。助かったぜ」

「どうやら……奴は生きているみたいですね。
まさか、店長の超必殺技をまともに喰らったのに」

「なんだって!?」

壁に空いた穴のところに、青白い男が立っていた。
血だらけだが、目立った致命傷はなく、大男の超必殺技を完全に
防いだのだ。

顔をうつむかせながら、こちらに近づいてくる。

「お前らのような……DQNが……」

次の瞬間!
青白い男はメイド風の少女の目の前に来ていた。
そして、目にもとまらぬ速さで連続突きを放つ。

「てりゃぁぁぁーーー!! 爆裂拳ッ!!!」

メイド風の少女は、その凄まじい攻撃に圧倒されつつも、
手に光輝くオーラを纏い、辛うじて防御はしていた。

「なんて重い攻撃……こ、これでは私のサイコパワーのほうが
先に尽きてしまうわ……」

「鳳凰回転超能脚(ふぇにっくすあろー)!」

男の一瞬の溜めを突き、少女は前転しながら地面スレスレを
低空飛行して蹴りを放った。

青白い男のみぞおちにヒットしたはずなのだが、まったく
効いていない様子だった。
男は直立不動で少女の鳳凰回転超能脚を受け止めた。

「軽いな……」

青白い男はメイド風少女の足首を掴み、片手で地面に
放り投げた。
一瞬少女の背中が光るのが亜莉巣には見えた。

「店員さん、し、死んでしまったのか?」


亜莉巣が困惑する中、青白い男は彼女に近づく。


「次は貴様だ。加賀美亜莉巣……。貴様のようなDQNには
死んでもらうぞ」

「なぜ俺の名前を!?」

「全裸男を倒したくらいでいい気になるなよ……。
太刀川姫子がいない貴様らなど虫けらも同然よ……」

「お前、外道ロリコンLNの幹部か!!」

「ご名答……。亜莉巣とやら、貴様はタダでは殺さん。
太刀川姫子をおびき出す餌として利用してくれるわ」


青白い男は、外道ロリコンネットワークの幹部、死天皇の一人であった。
ソシャゲを使い、キモオタを装うことによって亜莉巣たちに近づいた。

そして、全裸男の仇を取るため……もとい、太刀川姫子と強引に
ニャンニャンするため(実はこっちのほうがメインの目的)。
仲間である亜莉巣たちを利用して人質に取ろうと思ったのである。

「けぇぇぇぇーーい!!」

黒い髪の少女は、長ドスを持って青白い男に乱闘をしかけた。

悲しくは我流。剣術の心得など亜莉巣にあるはずもなく、
ストリートで鍛えた程度の喧嘩剣術が拳法家に通用するはずもなかった。
すべてギリギリで回避されてしまう。

「フッ、闇雲にドスを振り回すだけで、この俺に勝てるとでも
思っているのか」

「て、てめえ……チッ、まったく当たらねえ……」


後ろのほうで、大男とリサは戦いを見守っていた。

「店長! 助けにいかないんですか?」

「この程度でやられるようなら、これから先の戦いで命を
落とすことになるだけだぜ」

「……」

「リサ、それに亜莉巣とやら、メイド店員の朝宮。三人で
奴を倒してみろ!」