「太刀川姫子ぉぉぉぁぁぁぁぁあああああ!!!」

ドンッ

太刀川家の玄関(横に空けるタイプ)を勢いよく空ける若い男の姿。
髪は赤く逆立った奇抜ヘアーで、顔こそ美形だが眉毛が無く、背も低かった。

奥のほうから着ぐるみパジャマ姿の可愛らしい少女が出てくる。

「なんですか、騒がしい……」

「ヘェッヘッヘ、てめえが太刀川姫子か! うわさ通りの超美少女!
いい女だぜぇ~」

「いきなり人の家に入ってきて下品なこと言わないでいただけます?」

「ハッ、減らず口を叩いてられるのも今のうちだぜぇ~!
なんたって俺様の目的はお前の体を無理や」

グゥォ~

大きな音が奇抜な赤毛少年の腹から鳴った。
彼は赤面してしまい、可愛らしい少女は思わず笑ってしまった。

「あはは」

「てめえ! 笑ってる場合じゃねえだろがッ!!」

辺りの空気はすっかり和んでしまい、少女は赤毛少年の近くへと
歩いていった。

「お腹すいてるんですか?」

「う……うるせえ! 朝飯食ってくるの忘れたんだよ!」

「いまじいやが朝ごはん作ってますから、よろしければ
食べません?」

「なっ」


しばらく沈黙が続いた後、奥から老紳士が出迎えた。

「これはこれは……朝早くから姫子お嬢様にお客様ですね。
ささ、奥へどうぞ……」

あまりに完璧過ぎる紳士対応に、少年も噛み付く気力を
無くしてしまっていた。

「お、おう」

少年の目に大きなコタツの上にならぶ豪華な和食の数々が
飛び込んできた。

彼は目を丸くしながら横に居る姫子に語りかけた。

「すっげえ!! これ、本当に俺も食っていいのか!?」


「いただきます」

姫子、じいや、少年の三人は、お行儀よく食事を始めた……。

「あら、あなた見かけのわりにずいぶんお作法が上手ですのね」

可愛らしい少女がそう尋ねると、少年は姫子の方向に顔を向けた。
そして、誇らしげな、得意げなうざったい笑顔で答えた。

「ヘッ、こう見えても俺様んちは名主なんでな。
作法から帝王学まで厳しく躾られててよ~」

「まあ、そうだったんですね! ええと……」

「俺様の名は夢太郎!」

自分の名を少年が勢いよく言い放つと、
姫子はにっこり笑い、両手を顔の前で合わせて言った。

「ゆめたろーさん。ですか。とっても素敵なお名前!」

食事も忘れて見詰め合う少女と少年。
それをコタツ越しの距離で見守る老紳士には、これが大変
微笑ましい瞬間に写ったのであった。