可愛らしい少女は、寝巻き姿のままでコタツに腰から下を
居れていた。寒そうにしている……。
かじかんだ手を口元に近づけ、息を当てながら、隣に
座っている少年に横目で尋ねた。

「ゆめたろーさん」

「ん? なんだよ。俺様のことは夢太郎と呼び捨てでいいぜ!
なんせ、歳も同じくらいだろ」

「じゃあ、ゆめたろー。貴方もしかして、外道LNの……」

それまで笑顔になっていた少年の顔は、急に先ほどまでの
険しい表情に戻ってしまった。

姫子のほうから目をそむけ、うつむきながらコタツの上に
置いてあるみかん付近に視線をやり、少年は口を開いた。

「ああ。外道LN死天王の夢太郎だ……。姫子、お前を
生きたまま本部に連れ去るのが目的だった」

向かいに座っていた老紳士が、真剣な表情で目を瞑りながら
紳士的に訊いた。

「何故、姫子お嬢様を?」

「外道LNの美少女ネットワークには、全国の美少女が登録されている。
その北関東支部で、我々の理想的な美少女に姫子が選ばれたんだ」

「なんと!」

「いつもの総帥の手段としては、美少女を連れ去り、脳を改造して
他者の命令に完全服従する美少女木偶(デク)に改造することだ!」

少年は急にコタツから飛び出し、その勢いで姫子の方向を向いた。
正座の状態で、両手を彼女の方向に突き出した後、地面にこれを
つけた。そして、頭を地べたにつけた。

いわゆる、土下座……である。

「すいませんでしたぁぁああーーー!!!」

「ゆめたろー、どうしたんですか、いきなり?」

少年は地べたに伏した頭をゆっくりあげる。
その奇抜な赤髪ヘアーの下にある若々しい顔は、青ざめていた。

「俺様は……女は子供を産む道具だと思ってたんだ。
男の命令に従う道具にすればいいと……」

「実姉に性的暴力を振るわれていた……まだ小さい頃だ……。
女なんてみんな、姉みたいに薄汚れた、欲望の塊……カスだと思った……」

「ゆめたろー。あなたは……」

過去を語る少年に、姫子が一歩近づいた。うなだれる肩に
そっと右手を置いた。

夢太郎は顔を上げ、可愛らしい少女と真正面から向き合う。

「でも姫子とじいやさんに会って考えが変わったよ。こんなにも、
気持ちがあたたかい女の子がいるんだな」

姫子のほうから少年に抱きついた。
そして、大きな瞳から涙を流しながら、少年に囁く。

「辛い思いをいっぱいしたんですね……」

「もう、昔の話だぜ」

しばらくして、少年は可愛らしい少女を自分から突き放した。
そして後ろを向き、右手をポケットに突っ込みながら左手を
挙げて歩き出す。

「全く、姫子! お前のせいで組織を裏切ることに
なっちまったじゃねえか」

「ゆめたろー!」

「できねえよ……とても。お前みたいな良い奴をさらって
木偶にするなんてな……」

靴を履き、玄関を空けようとする少年の背中に向かって
遠くから姫子が叫んだ。

「あの、私やリサさんと一緒に、普通の学校生活を送ることは
出来ないんでしょうか!?」

「ゆめたろー、貴方ならまだやりなおせると思うんです!
一度は暗黒の道を歩んだとして……」

「無理だぜ。もう……」

太刀川家を去る少年の姿があった。男の背中であった。
姫子はそれを見送るしかなかった。

当然、組織を裏切れば抜け忍のごとく、追っ手との戦いに
なるであろう。

少年は、姫子やじいやとの触れ合いによって、本当の人の暖かさ、
そして姫子から愛を貰ったのだった。