今週の私はがんばった。自分で自分を褒めたい!
と同時に、次回の更新が遠くなりそうで怖い。。。
今回は、朝倉視点αとキョン視点βに分けてみました。長くなりすぎたので、分けたんですが、逆に総合的には長くなってしまいました。
βと被っている箇所もありますが、ある程度変えていたりしますので、そういうところを楽しんでいただければ幸いです。


●拍手レス

>10:45 (10)β1回目読了です。ストーリの理解がむずくなったので、1話ごとに噛み締めております。
>10:47 お体は早めのお自重をお願いします。私ごとですが来月から休職に入ります。これで自由意志での復職が
>10:49 できなくなります。幸い産業医が美人女医であることがすくいでしょうか(笑)
>10:51 あ、17日に退院して、体力回復運動に入るところです。私事ばかりですみません。感想へ回帰
>10:53 読後感想 10βルート=>これから修羅場?  酋長


文章というのは、曖昧になりすぎたり、書きすぎてしまったり、なかなか難しいのを日々実感します。最近は芥川龍之介の短編集を読んだりしていましたが、勉強とか以前に、うーんすごいなぁという感想しか出ませんでした。
そうですか、美人女医、とんと見かけませんね。歯科技師で以前、美人に該当する人がいましたが、とにかく下手で……。それ以来、歯科の女医さんは恐ろしくて。
消失世界ですが、修羅場はあるような気もしますが、のほほんと人生を生きてきた私に修羅場なんて書けるかしらという一抹の不安はあります。たぶん、佐々木さんはそんなにガリガリこないとは思いますが、ちょっと平穏な展開を崩したい次回です。




では、本編すたーと。


第十話「放課後の分れ道」α
 いつもどおりの朝。部屋を出て、鍵をかけて、気持ちを朝の空気のように切り替えて、エレベーターに乗る。下ではなく上に向かい、708号室のインターフォンを押すと、朝の静まり返った空間にその音がはっきりと響いた。
「おはよう」
 顔を出した小柄なショートヘアの少女に対して、雀のさえずりのように元気な声を掛ける。
「おはよう」
 眼鏡を朝日に反射させた少女が、うっすらと笑顔を浮かべて応えた。
 マンションを出て、通学路を歩いて学校へと向かう。四月に高校に入学して、二人が奇跡のような朝の中で出会い、その後同じマンションで再会して以来ずっと続いている習慣だった。
 あの時の二人の間には、長門の部室に運ぶ本と朝倉の世話焼きな性格が、二人を繋ぐ心細い一本の糸のような縁だったのだが、今は何がなくともこうして自然と一緒に学校へ向かうのだった。
 坂道に差し掛かって、暑さが抜けてきた朝の少し涼しげな空気を一層深く吸う。
 朝倉はいつものように、長門に借りた本の話をする、それに対して長門は所々で観察眼に富んだ意見を挟むと、朝倉は感心して熱心に聞き入る。そんな風にしているうちにあっという間に学校に到着した。
「じゃあ、放課後は一緒に買い物に行こうっか。ああ、でも文化祭の打ち合わせでもしかしたら少しおそくなるかもしれないから、明日にしよっか」
 昇降口に上がり、教室と文芸部にそれぞれ向かう分れ道で、朝倉が足を止めてそれまでの会話をまとめる。
「いい。部屋で待っている」
「そう?」
 それでもなんとなく申し訳のない気持ちがして聞き返す。
「そう」
「うん、それじゃあ放課後に有希のところで」
 朝倉は明るい笑顔で小さく手を振り、長門は小さく頷いて文芸部室の方へ去った。
 そうして一日は始まった。

 本当に長い一日だった、と朝倉は夕暮れの昇降口で靴を履きながら思った。六時間目のホームルームは文化祭の出し物について、揉めてしまって……。でも、何をやるかが決まり、その後の段取りが大よそ道筋がついたから満足ではあった。
 ところで、彼女の鞄には「環境問題に関する展示について」という20枚以上にも渡る綿密な作業スケジュールとか、仕事分担とかが書かれた一部の資料があった。
 けれども、出し物が演劇に決まった、今となってはそれは、一生陽の目をみることのない、失われた未来になることは明白だった。
「日誌は置いてきたのか?」
「うん」
 先に昇降口の外で待っていたキョンに、笑顔で頷いた。涼しい微風と残暑を帯びた夕陽の熱が、なんとも言えず清清しい気持ちを与える。
 校庭を歩きながら片付けをしている野球部員たちを遠くにみる。
「脚本、引き受けて大丈夫だったのか?」
「うん、私は書けないと思うけど、誰かに頼んでみるつもり」
 朝倉の心の中には一人の人物が思い当たっていた。広く無機質なマンションの一室に、本の山とともに生活する少女。
 無口で無表情だけれども、時々思い出したように見せる照れた表情や心配そうな表情、はにかんだ笑顔。長門有希、彼女に頼んでみようと思っていた。
 朝倉が思案していると、キョンはそれを今日の一件に落ち込んでいるのかと勘違いをしたのか。不意に声の調子を上げて、
「しかし、まぁ気を落とすことじゃないさ。未来への貢献は出来ないかもしれないが、お前の環境なんたらも『反展示』という共通の目的を作り出して結果的にまとまっただろ?」
 軽薄なはずの言葉だが、胸のうちがくすぐったいような、むずむずするような、変な感覚に襲われた。
「全然フォローになってないよね。それ」
 朝倉が目を逆三角形のように尖らせて睨む。
「フォローしているつもりはないからな」
「ひどーい。じゃあ、なんでキョン君は私の展示に賛同したの?」
 ふくれっ面で抗議をして、一度そっぽを向いて、思い出したように言う。
 聞きたいような、聞きたくないような答え。聞きたいと思うほどに耳を塞ぎたくなる。それでもやっぱり聞きたい。
「あんまりにも不憫だったからな」
 あっさりとしてその言葉。はぐらかされたのか、本当なのか分からない。やっぱりどちらでもいいような気がした。
 そう、たとえ一生誰の目に触れられることがなかったとしても、それでも……、その場凌ぎで言ったのだとしても……嬉しかった、救われた。それだけで、もう、鞄の中にある20枚もの紙が、古き文豪のまだ見ぬ草稿と交換しても差し支えのないような宝ものになっていた。
 朝倉は、鞄を持つ手に思わず力が入っているのに気がついて、急に恥ずかしくなった。と同時に、夢から覚めたように朝の約束を思い出した。電気をつけない部屋で、陽の灯りだけで本を読んでいる長門有希の姿を思い浮かべる。
「いっけない、今日は買い物して帰るつもりだったんだ!」
「いきなりだな。……でも買い物ならまだ大丈夫じゃないか?」
「ほんとうはね、友達と約束してて、一度帰ってから一緒に行くつもりだったんだけど……」
「それはもはや仕方のないことだな。一人で買って帰るしかないんじゃないか?」
「キョン君、お願いがあるんだけど」
「時間を戻してくれとかいう願いじゃなければかなえられるかもな」
「私にもできないことがキョンくんにできるとは思ってないから」
「そうかい。ならできないかもな」
「もう、何笑ってるの……」
「で、どうすればいいんだ」
「買い物に付き合ってくれない?」
 キョンはやれやれと手の平を持ち上げた。そのポーズはいつの時でも肯定の婉曲だった。 
 
 坂道を下る。オレンジ色の空の片隅はすでに夜の帳が降り始めて、東の空は群青色に染まってきた。夏に比べてやや薄らいだ夕暮れの風が頬をなでていくのを感じながら、朝倉は妙に足取りが軽かった。秋の風がフワフワと彼女の手足や胸、頭を包み込んで上空に誘っているのかと思われた。
 目的のスーパーに着いて、すぐに食材をカゴの中に入れていく。当面必要そうな野菜と足りなくなった調味料に、おいそうな果物。
 有希がおいしそうに、ツルっと音を立てて素麺を飲み込む光景が思い浮かんで、乾麺をカゴに入れる。
 夕方のタイムセールの時間帯にかぶってしまったためか、レジは長い列になっていた。値下がりした惣菜や弁当だけを持っている人たちも多い。こういうときは並んでいる人数だけではなく、会計に出す商品の総数を加味しなければ、と思いながら一番空いている列に向かった。
「キョン君は向こうで待ってて」
 そう言って、レジに並ぶ。バーコードを読み取る音と、時々レジを開く音の小気味良いリズムを聞きながら、朝倉は順番を待っていた。
 レジの手前にたどり着いて手前の人が会計中になったとき、丁度レジの向こう側が見えた。そこにいるキョンと見知らぬ少女。
 ふっと、黒い霧が立ち込めた。差し込まれるように感じたズキンという痛み。恐れと苛立ちが流れ込んできた。
「2600円になります」
 店員の声に、自分の醜さを見咎められたようで、突然取り澄まして財布から金を取り出して払った。そして、店員の繕った笑顔にほっとしたのだった。
「おまたせ」 
 自然を装って言いながら、朝倉は見知らぬ少女を観察した。どんなに思い出しても制服も、その顔も、見たことがないという答えだけが、1+1の解答と同じように変わらず返ってきた。
 それでも、先ほどからとぐろを巻いている自分の中の毒々しい感情が見透かされないように、すぐに笑顔を作って会釈した。
 少女は微笑を浮かべて会釈を返し、それからキョンの方に顔を向けた。
「ああ、すまないね。悪い癖だ。ついキョンの連れが気になって帰る機会を逸していたよ。ああ、でもせっかくだから自己紹介させてもらうよ」
 そういうと少女は、朝倉と向かい合った。栗色の淡く光を宿した瞳と、神秘的なヴェールを演出するような睫に、優しげにカーヴを描く眉、自信と余裕に満ちた不敵な表情。
「はじめまして、佐々木です、キョンとは中学が一緒でね、そうだね……個人の相対性の関係で言うと”親友”――」
 二つの言葉が、朝倉の心を揺らした。かつてどこかで耳にした「佐々木」という名。そして、迷いもなく紡がれた親友という言葉にとてつもない風圧を受けたようだった。
「少なくとも僕の中ではそういって差し支えない間柄だと思っているが……」
 佐々木はすっと一瞬だけ目を伏せ、
「まぁ、彼はどうだろうね。ともかくよろしく」
 全ての言葉に、間違いなく彼女の意思の全てが、手足の末端まで血液が行き届くのと同じように、いきわたっているのをまざまざと感じた。
 それでも、朝倉はその視線を逸らさずに、胸中に浮かぶ醜悪なものをひた隠しにするように、極めて自然過ぎる笑顔を取り繕った。
「よろしくね佐々木さん。私は北高一年の朝倉涼子、キョン君とは……」
 言いかけて、口をつぐむ。
 なんだろう……。今まで、そんなことを考えてみたこともなかった。
「く……」
 クラスメイト?違う。え、そうじゃないことは、ないけど、でも。
「えっと、……こ……」
 こ、恋人!?そ、そうじゃないでしょ!!
 なに混乱してるんだろ……。
「ごめん。”友達”っていいたかったんだよ」
 ようやく、出た答えに朝倉は照れるように笑う。つられたように佐々木も微笑する。

 足元が薄暗くなって、たよりない街頭に照らされた帰り道を三人で歩いた。朝倉は佐々木と互いの学校のことを話したり、他愛ない世間話をしていたが、何かの節にキョンに関する話題に移った。
「うん、そうだね、確かにキョンは相変わらず勉学のほうに気を向ける気はないみたいだね。やればできないことはない人間なんだけどね」
 佐々木は一足前を行く両手にレジ袋を持つキョンを楽しげに眺める。
「佐々木さんも中学のとき大変じゃなかった?毎回毎回、背水の陣というか、あきれちゃうよね」
 昨日も、数学小テスト対策のために休み時間をまるごと使って、彼にテスト範囲の問題を教授したのを思い出して苦笑いする。
「いいやそんなことは……ああ、なるほど」
 と佐々木は一人で頷く。朝倉がはてな顔でその横顔を見る。
「それはキョンも随分と幸せものだね」
「え?」
 朝倉はより一層困惑を広げる。
 幸せものと呼ばれた当の本人は気づく様子もなく、黙々と歩いている。
「僕が朝倉さんと同じ席だったとしても、そう世話をするとも限らないね。聞けば、キョンの成績もどうやら中学の頃のボーダーぎりぎりだったのも、今はだいぶ良くなったとか」
「そ、それは、あんな不真面目なのを見てると、落ち着かないから―」
 佐々木はクスリと笑った。
「キョンは確かにお世辞にも勉学向きの性質とも言えないし、一見不真面目だね。それは本人も自覚しているだろうけど、かといってそうだとしても、その世話を焼いてみようとはなかなか思えないものだと思うんだ。
 人によってはその劣等感によって、周囲の声を遮断するものも多いものだ。それを強いて耳元で声高に言うことができるのは、朝倉さんの真直ぐな意思ゆえなんだと思う。」
 佐々木は夕陽が差し込んで神秘的に煌いている瞳でちらりと朝倉の瞳を見る。そして悪戯っぽく微笑んで、
「あるいは特別な意思。たとえば――」
「私は、別に、ただ、委員長だし」
 なにを言っているんだろう。冷静になれと思いながらも紅潮する頬を隠しきれない。その様子に、菩薩のような包み込む優しさをたたえた瞳で眺める。
「……ともあれ、キョンをよろしくね」
「あ、うん」
 終始佐々木ペースとなって、不覚にもすっかり返す言葉を失ってしまった。
「しかし、キョンも朝倉さんをに習って相手を慮ることを考えたほうがいいと思うが、どうだい?」 
 佐々木はそういって、キョンを振り向かせた。
 その後、二人は朝倉にとっては認識が及ばない話をしていた。その間のふとした時間の隙間に、朝倉は夏の初めに聞いた佐々木という名前を思い出した。国木田がその人物の真似をして、キョンが蛇のような目で睨んでいた、あの光景。
 これが、その佐々木さん……。胸の中に立ち込めていた黒い霧がずっと濃くなった気がした。嫉妬?必ずしも妥当ではない。別に、仲の良い昔の知己の何人かいることは珍しくはないし、それに、佐々木さんと会話するのは楽しい。今までに会ったことのないタイプの人だけど、一挙手一投足に心を引き込まれる。
 でも、どうしてだろう……。
 考えたくもない、色々なことがふっと影が差したみたいに、ばら撒かれたカルタの何枚もの絵が目の裏に薄っすらと残っているように、おぼろげなものが浮かんでくる。
 ただ、ぼんやりとした予感だけ、それだけが吹き込む低気圧のように黒い霧に変わるのだった。
「それじゃあ、また明日ね」
 いつもと変わらない笑顔で言った。細めた目は二人の姿を見ない。ただ虚空に彷徨わせた。

 重い扉を開けると、ヒュウと音を立てて外の風が部屋に流れ込んでいった。
「おそい」
 玄関マットの上で、玄関とは直角の向きで正座をしていた長門が静かに言った。口調はそれほど怒気の篭ったものではなかったが、全身から立ち上るぴりぴりとした空気が明らかな怒りを顕していた。
「ごめんね!」
 朝倉は、手をパチンと合わせ、玄関の上がり段に膝をついて長門を拝むようにした。
 長門は彼女が汗だくになって運んできた一人では大変な量の買い物袋を横目で見て、すぐに眉をなだらかにした。
「いい、お陰で本が一冊多く読めた」
 と言って、朝倉が玄関に置いた袋の一つを持った。
「おかえり」
「うん」
「今日はそうめんが食べたい」
「そうだね」
 不思議に心に渦巻いては消える幻影のような予感は、急におとなしくなって、目の前には、優しく気遣うように微笑む少女の顔があった。

(つづく)