大阪高裁地位確認訴訟・控訴人 浅野健一

 

4年半前、浅野研究室から消えた矢内氏が専任教員に

 同志社大学(同大)の定年延長は博論の指導ができる大学院教員の確保のために導入された制度だ。私が2013年度に指導していた博士後期課程の院生は、同志社側が高裁の和解協議で言及したナジ・イムティハニさん(当時3年生)の他に、当時後期2年生だった矢内真理子氏がいた。矢内氏は6年間も後期課程に在籍していたが、今年3月末に満期退学した。矢内氏はまだ博士論文を完成しておらず、3年以内に博論を専攻に提出し、研究科委員会などでの博論審査に合格すれば課程博士学位(メディア学、同志社)を取得できる。

 

同大から毎月送られてくる大学広報誌で、矢内氏が41日に同大専任教員の助教(昔の専任講師に近い、任期二年)に採用されたことを知った。矢内氏は同志社の社員となり、高額の所得(賞与含む)を得ることになる。私は地位裁判の陳述書で、矢内氏が満期退学と同時に同大の教壇に立つと予言してきた。しかし、まさか専任教員に採用されるとは思わなかった。同大メディア学科は何でもありになった。

 

同大のHPで矢内真理子氏を「サイト内検索」すると、矢内氏が寄稿している『憲法から考える実名犯罪報道』の論稿が紹介されている。矢内氏は同書で佃治彦さんの冤罪事件を取り上げているが、佃氏の了解なしに佃さんの通称名を記述したため、佃さんが損害賠償請求訴訟を起こしており、東京高裁で審理中だ。矢内氏はこの論稿で、同書の13頁の「1 記者クラブ通報メモ」の第3段落から,同14頁の「3 自白を引き出すために使われた新聞報道」の前まで、私が執筆した「週刊金曜日」2010514日号を複写している。このサイト検索では、矢内氏が浅野ゼミ関係で活躍した記録のURLも見ることができる。

 

渡辺グループによる反浅野活動を評価しての任用

同大を運営している学校法人同志社(八田英二理事長)は420日の大阪高裁での和解協議で、私に関しては「非常勤講師も含め教員での任用はしない」と断言し、和解協議をぶち壊した。20年も大学院教授を務めた私を講師での任用もせず、教職経験ゼロの30歳の元学生を専任教員に抜擢したのだ。矢内氏は、私が解雇される4カ月も前に、「浅野は不要」と宣言して、渡辺武達教授グループに投降した。

 

私の復職を拒否する同大は、渡辺グループ(「週刊文春」確定判決で2004年に発足と認定)の飴と鞭の工作で、私から早々と離反し、同大側についた矢内氏を社員として雇用したのだ。博士論文が提出もされず、博士号のない30歳前後の元学生をいきなり専任で採用するのは極めて異例だ。矢内氏の所属は学習支援・教育開発センター。学内で学生に助言するアカデミック・インストラクターを務めている。

 

偶然だが、学習支援・教育開発センターの事務長は村田学長時代に学長室庶務課長をしていた中村伸也氏だ。広報課長を経て現職。中村氏は、私の支援学生らが2014717日と88日、私の教壇復帰を求める学長への要望書を出した際、学生を狭い部屋に入れて“聴取”を行い、「これを受け取ったからといって、何も変わらんよ」と言い放っている。また、同年95日にこの学生が電子メールで中村氏に「内部で何か動きはありましたか」と問い合わせをしたが、返信がなかった。171123日付で善本博司・文部科学省高等教育局長へ提出した私の休講問題を訴えた要望書の中で、彼らは「署名者の学生を侮辱、愚弄した一連の言動に対して、私たちは中村課長に厳重に抗議し、発言の撤回と謝罪を要求しまたが、中村課長は無視したままです」と指摘している。

 

大阪高裁で審理中の地位訴訟で、同志社が今年319日に提出した書面によると、矢内氏は「博論提出予備審査」には合格しているが、博士論文を完成していないことが明らかになっている。矢内氏と同期に博士課程に入学した中国からの留学生、丁偉偉さんは179月、博士論文を完成させ、今年3月に博士学位を取得している。

 

矢内氏はメディア学科で2年ゼミも担当

同志社大学社会学部の2018年度の「履修要項」(甲第35号証)によると、矢内氏は社会学部メディア学科の「メディア学基礎演習I⑥」(今、春2)と「メディア学基礎演習II⑥」(今、秋2)を担当している。科目名にある「今」は今出川キャンパス、「春」「秋」はそれぞれ春期、秋期の意味で、「2」は単位数だ。

 

同大では科目の担当者は学科会議、学部教授会、学部長会議、大学評議会、理事会で審議され決定する。矢内氏の場合、20177月ごろから審議されたと思われる。矢内氏は専任の助教に採用される人事案件で、採用予定者本人が履歴書、業績書を提出する。矢内氏の業績書の中にどういう著作が入っているか知りたいところだ。

 

矢内氏の担当科目はメディア学科の設置科目で、メディア学科の2年生の必修科目。私が在籍した1994年から2014年までは、14年ゼミは専任教員しか持てない基幹科目だった。まともな大学では、専門ゼミは学科の専任教員が担当する。

 

今年3月まで学生で、教職経験が一度もなく、博士論文を書き上げてもいない元院生が専任教員のポストを得て、学部メディア学科の重要な科目である「基礎演習」ゼミを担当するのは大抜擢だ。近畿だけでなく全国各地に、メディア学関係の博士学位を取得していながら、専任教員のポストを得ていない教育研究者は多数いるのに、矢内氏を満期退学後すぐに教員スタッフにするのはアンフェアだと強く思う。また、学生たちの教育を受ける権利のことを考えるとあり得ない人事だと思う。

 

学振特別研究員採用で虚偽文書を提出

矢内氏は、私が同志社大学から定年延長拒否=解雇される2カ月も前の131218日に「(浅野の雇用継続の闘いを)支援しない」と宣言し、ゼミのティーチング・アシスタント業務などを「体調不良」を理由に休んだ。

 

矢内氏は、私に何の相談もなく144月から竹内長武教授(漫画論)を指導教授に変更している。矢内氏の博論のテーマは「東電福島原発事件と報道」だった。

 

矢内氏は、1442日、日本学術振興会(学振)「DC2」特別研究員の件で、「受入研究者変更届け出」で、「旧受入研究者」欄を空白にし、村田晃嗣学長が書くべき部分を矢内氏が記入した。「浅野教授が変更の話し合いを拒否している」との冨田安信研究科長の文書を虚偽記述と知りながら、「受入研究者変更理由」として添付して提出した。私は学振、文科省、同大社会学研究科事務長らと、受入研究者の変更について142月から417日まで奔走した。学振と文科省の課長たちは1447日、私の地位確認裁判が決着するまで、受入研究者を便宜的に村田学長が冨田研究科長にして、実際は私が指導するという折衷案を同大と私に提示した。受入研究者が重篤な病気になった場合にそうしているということだった。しかし、冨田氏とメディア学専攻の小黒純教授たちはこの提案を拒否した。私は妥当な仲裁案だと考え同意した。学振の課長と大学のやりとりは、松隈佳之事務長(現在も同職)がよく知っている。

 

学校法人同志社は、私が起こした地位保全の仮処分申立の審尋の段階から、「矢内氏を含め浅野がいなくなっても、学生たちは誰一人困っていない。学生たちは全員、新しい教員の下で勉学にいそしんでいる」と主張している。

 

同志社大学メディア学科は学内でも最難関の学科で、学生は非常に優秀だ。学生たちが縁故主義、依怙贔屓人事を見抜いてほしいと思う。

 

同大側は地位裁判で「帰国している留学生を除き、すべての学生が新しい指導教授のところに移り、(解雇に)抗議しているメディア学専攻・学科の学生は一人もいない」と主張してきた。渡辺教授グループへ転向した矢内氏に専任ポストまで用意し、ナジさんの指導は放棄しているのが同大だ。

 

ハラスメント捏造の三井愛子氏は6科目を担当

同大メディア学科の2年ゼミの担当者は矢内氏の他に、私からアカデミック・ハラスメントを受けたと2003年に大学のハラスメント委員会に虚偽申告し、「週刊文春」などに垂れ込んだ渡辺グループの三井愛子、中谷聡両氏(渡辺氏が指導教授、博士号なし)も担当している。

 

私は三井愛子氏が文春裁判の後に私が渡辺氏を相手取って起こした損害賠償裁判の東京高裁での結審の直前、渡辺氏に頼まれ、私からセクハラ被害を受けたという陳述書を高裁へ提出し、同大での授業の中でも、私をセクハラ加害者として非難していることから、大阪地裁へ損害賠償を提訴した。対三井氏裁判は420日、大阪高裁で結審し、622日に判決が言い渡される。高裁は和解を双方に勧告した。受命裁判官は「今後、お互いに非難しない」という文書を交わすなどの勧告案を示したが、三井氏側が拒否して、和解は成立しなかった。

 

私が提訴した時、三井愛子氏は大阪経済法科大学国際学部准教授だったが、昨年の証人尋問の際、同大学を離れていることが分かった。どういう事情があったのか分からない。

 

三井氏は長く、学校法人同志社によって嘱託講師(他大学では非常勤講師と呼ばれる)に任用され、大阪経法大で専任教員だった時期も含め、同志社大学社会学部産業関係学科で英語の科目を担当しているが、今年41日から、同志社大学社会学部の教員スタッフの一員となり、計4科目を担当している。

 

「社会学部履修要項 2018年」によると、三井氏の担当講義は、メディア学科の「メディア学基礎演習I①」(今、春2)と「メディア学基礎演習II①」(今、秋2)、「外国書購読(英語)I[メ]①」(今、春2)、「外国書購読(英語)II[メ]①」(今、秋2)を今年度から初めて担当している。

 

三井氏は20043月末、大学院文学研究科新聞学専攻(現在のメディア学専攻)の博士後期課程を満期退学した後、博士論文を提出しておらず修士学位(新聞学)しか持っていない。満期退学の後、2年間メディア学科で「外国書購読(英語)」を担当したことがある。

 

三井氏は他に、今年も社会学部産業関係学科の講義の選択科目IIIで、「Industrial Relations in English I①」(今、春2)と、「Industrial Relations in English II①」(今、秋2)を担当している。

 

三井氏が、メディア学科と産業関係学科の両方で嘱託講師となり、両学科で併せて6科目も担当するのは初めてのことだ。

 

産業関係学科の中心的な教員は、渡辺氏と共謀して私を解雇に追い込んだ冨田安信社会学研究科長兼社会学部長(現在教授、労働経済学)だ。

 

三井氏と共に捏造情報を流した中谷聡氏もゼミを担当

また、三井氏と一緒に私からアカデミック・ハラスメントを受けたと大学の委員会へ虚偽申告し、渡辺氏の指図で報道機関を回った渡辺グループの中谷聡氏も嘱託講師として「メディア学基礎演習Ⅰ」「メディア学基礎演習Ⅱ」を担当している。中谷氏はメディア学科の「情報法制論」も担当している。同科目は私の研究領域の一つで、中谷氏の担当は適材適所とは言えない。

 

矢内氏と渡辺グループの三井・中谷両氏がメディア学科の2年ゼミを同時に担当することになったのは、渡辺グループによる大学の私物化の結果だ。

 

三井氏は15年前から、渡辺教授の言うとおりに行動し、現在も私が“セクハラ”加害者であると言いふらしている。その三井氏が伝統ある同志社大学メディア学科と冨田教授のいる産業関係学科で授業を担当している。

 

矢内、三井、中谷各氏の登用は、小黒教授らの渡辺グループ、冨田教授らのよる露骨な論功行賞であることは間違いない。西日本でトップの私立大学がcronyism(えこひいき、縁故主義)人事を強行したのだ。この人事が「適材適所」かどうか、歴史が証明するであろう。

 

三井、中谷両氏は、博士後期課程を満期退学後の20044月から2年間メディア学科で「外国書購読(英語)」を担当した。専攻・学科内で事実上審査なしでの嘱託講師任用だった。両氏は博士学位を取得していない。渡辺氏が「メディア学専攻博士後期課程を満期退学した学生全員を自動的に嘱託講師にする」という内規を作り、強行したのだ。三井氏らが私に対する“セクハラ”捏造に加担したことへのご褒美だった。

 

4年前に渡辺グループらによる排除で解雇された私の科目「新聞学原論Ⅰ」「新聞学原論Ⅱ」は今年も休講になっている。5年連続の休講だ。私が1998年から担当してきた大学院メディア学専攻博士後期課程(2018年度生、2017年度以前生)の「メディア学特殊研究IA」も5年間連続で「本年度休講」になっている。

 

私を教壇から排除し、三井・中谷両氏、矢内氏を2年ゼミの担当教員に“抜擢”するという恐ろしい人事が強行されたのは、渡辺グループの学科支配の結果である。

 

渡辺氏は153月に70歳定年退職し、同年4月から名誉教授になっているが、私を排除するために龍谷大学から引っ張った小黒純教授を操り、今もメディア学科を陰で支配している。

 

対米隷従の村田晃嗣教授をNHK経営委員にした安倍官邸

新聞ではベタ記事扱いだったので、気づかなかった人も多いと思うが、私を解雇した時の学長だった村田晃嗣教授・同大法学部教授2013年から16年まで学長)31日、NHK経営委員会委員に就任した。安倍官邸の縁故主義(cronyism)による国政私物化を象徴する政府人事の一つだ。

 

政府は123日、をNHK経営委員会委員に選任し、214日までに衆参両院の国会の承認を得て、NHKが辞令を交付した。

 

NHK経営委員は3年前には同大出身の百田尚樹氏(最近南北首脳会談で朝鮮を代表した指導者は替え玉と主張している)が就任したポストだ。村田教授はNHKのネットのホームページ(HP)で「良質な報道を確保できる環境の整備に努めたい。また、地域の多様な視点や関心を経営に反映したい」と抱負を語っている。

 

村田氏は157月、衆院平和安全法制特別委員会が開いた侵略戦争法案(安全保障関連法案)の中央公聴会に公明党推薦で出席、「憲法学者は反対しているが、国際政治学者の多くは賛成している」などと賛成意見を述べた。村田氏は否定しているが、「同志社大学学長」としての国会公述としてマスメディアに大きく報道された。

 

これに対し、松岡敬理工学部教授(16年から学長)を含む同志社大教職員有志91人(私も含む)が村田氏を批判する声明を出すなど学内で反発が強まり、同年11月の学長選挙で大敗し、一期だけで学長を退任した。

 

157月の同大教職員の村田氏批判の動きは次のHPで読める。

https://blogs.yahoo.co.jp/doshisha_antiwar/13749753.html

http://doshishaantiwar.wixsite.com/anpan

 

学長選で惨敗したので、同大を去ったと思っている人も多いが、現在も法学部教授で、近畿のテレビで相変わらず対米隷従の発言を続けている。

 

 村田氏は国会での公述の半年後の16126日、安倍首相と公邸で2時間19分会食している。会食には、近畿大学前理事長の世耕弘成官房副長官(現在、経済産業相)も同席。会食直前に、「首相官邸のアイヒマン」と言われる北村滋・内閣情報官(元兵庫県警本部長・警察庁長官官房総括審議官)が首相と会っている。当時、同志社大学は産業廃棄物処理法違反容疑で大学関係者9人(うち6人が職員)が逮捕されて捜査中だった。京都市からの警告を無視して4年間も学内のごみを不法投棄していたのに、略式起訴、罰金刑(学校法人同志社に150万円、同大施設部長に100万円)で終わっている。

 

安倍首相は学長選に大敗した村田氏を慰労し、北村内閣情報官と杉田和博官房副長官(元神奈川県警本部長)ら警察官僚が京都の司法当局に手心を加えるよう指示したと思われる。

 

村田氏は前回総選挙での野党共闘つぶしの元凶、前原誠司氏の盟友でもあり、公共放送の経営委員に最もふさわしくない人物だ。

 

 村田氏は学長として、143月末の私の定年延長拒否=解雇を学内の渡辺武達教授(現名誉教授)グループと共謀して強行した。村田氏がフェアで正確な報道の在り方について理解しているとは到底思えない。

 

準キー局の朝日放送の社長は村田氏が自局の番組に出演していたのを見て、「これはだめだ。論理的でなく、あまりにひどすぎて、一線を超えている」として、「今後、村田氏を使わないように」という指示を出したという。

 

前川喜平・前文科省事務次官に昨年1115日に取材した際、村田学長の同大に解雇されたと伝えると、「村田さんですか、あの人はだめだ」「絶対だめです」と言っていた。

 

村田氏のNHK経営委員就任について、知り合いの市民運動活動家、政党関係者に知らせたが、ほとんど反応はなかった。

 

安倍政治はこういうお友だち人事を日々繰り返しているのだろう。同志社の創立者、新島襄夫妻を取り上げたNHK大河ドラマ「八重の桜」(13年)で、女優の綾瀬はるかが演じた新島八重は「ならぬことはならぬものです」(故郷・会津の教え)と同志社の同志や友人に語っていたという。村田氏のNHK経営委員は「ならぬこと」だと私は確信する。すべての同志社人、NHKを監視している市民団体、侵略戦争法に反対する市民・団体は、村田氏の辞任を求めるべきだ。

 

矢内氏の採用、矢内氏ら3人の基幹科目担当も、また「ならぬもの」だと確信する。

 

安倍官邸の縁故主義(cronyism)による国政私物化を象徴する政府人事と同大における「反浅野」元学生3人のえいこひいき人事は政治と教育の腐敗の象徴だと思う。日本と同大の民主化が求められている。

 

                                    (了)