. 「自転車先進都市」と称される、金沢市内における自転車走行空間整備事業。
 今回は石川県が整備した、金沢駅西側の50m道路における「自転車歩行者道」の検証です。


3-1. 金沢で成功した50m道路の「自転車歩行者道」

 (1)(2)で触れたように、「金沢の成功事例」として持て囃される「自転車走行指導帯」や「自転車レーン」、これらは自動車の重交通下で整備されたものではなく、先進と称される都市が現時点で幹線道路上の自転車走行空間を示せてはいない。

 しかし、実は1路線だけ、すでに整備済みの事例がある。
 そしてこれは歩行者と自転車の分離に成功した”成功事例”でありながら、金沢の現状として紹介される機会は非常に少ない。

 その整備形態は
H2903_01_01
①石川県道金沢田鶴浜線(htmlpdf)
(歩道上の視覚分離)
※自転車の安全な対面通行、自転車と歩行者の通行分離が実現
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進む!金沢の自転車環境整備
北の陸から-自然と街と建築と- 20120408(html)


 金沢駅から西に延びる、通称「50m道路」に整備された「自転車歩行者道」。

 「歩道上の視覚分離」、こう表現するだけで、後述する一部の自転車クラスタからアレルギー拒絶反応的な徹底批判を受けるものの、当箇所の様子を見てみると意外に練り込まれた部分が多い。


・自転車走路は幅員3.0mと潤沢、自転車同士の対面通行や追い抜きに何の問題もない。
・歩道との間に不要な柵や植樹もなく、走行幅員はさらに広く感じられ圧迫感は無い。
・対面通行が自転車マークと矢印できちんと明示され、上記の幅員と合わせ対面通行の問題は生じにくい。
・自転車側は車道と同色で「車両が走る」と分かりやすいアスファルト舗装の一方、歩行者側は灰色に着色。走行性の確保や歩行者への空間周知もまずまず。

 細街路との交差点でも、きちんと双方向からの自転車の通行を明示するマーキングを施しており、


 細街路の自動車から見ても、双方向の自転車についてある程度の認知はされている。(もっとマーキングを大きく+両方向の矢印を追加+着色などを行えば効果は更に上がるはず)


 これが交差点形態。上記自転車クラスタからは徹底的に批判される、交差点での自転車走路の蛇行ですが、


 自転車走路の屈曲線形のきつさには問題があるものの(走行可能速度はおそらくママチャリの15km/h程度)、
 車線と自転車走路の間には数m、中型トラック1台分ぐらいの離隔(=「左折ポケット」)を取り、自動車がスピードを落とした位置で自転車走路をまたぐため、自転車への殺傷リスクを低減できる。同時に自動車の溜まりスペースとなり渋滞発生も抑えられる。

【参考記事:改訂自転車道設計基準(案)】
(3)交差点の設計方法(3-1)交差点の設計例

 一方でこの整備には重大な問題もあり、
P1040748[1]
主要地方道金沢田鶴浜線 交通安全施設等整備工事(舗装工6工区)
高田産業グループ 2013年6月17日(html)

 自転車の通行位置でもお構いなく、点字ブロックを引いてしまう。交差点でも、このようにわざわざバス停留所を交通島方式で整備した箇所でも。

 全国には自転車走路ときちんと車両の通行位置と認識し、点字ブロックを処理した事例があるものの、金沢ではそこまで考えが至らなかった。尤もこれは点字を敷設しなおせば解消する問題。

 上記の問題はあるものの、少なくともこの整備形態としては、日本でまともな部類に入る。
 少なくとも東京都内で東京都庁が思考停止に作り続けた「道路構造令自転車道・自転車歩行者道」とは比にならない。もし金沢が東京だったなら、走路幅は間違いなく2.0mにされていた。

【参考記事】
改定自転車道設計基準(案)
「道路構造令自転車道」の欠陥構造と解決策

 結果として本区間は、

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50m道路:従前の幅広自転車歩行者道
石川県の道路管理の取組み~のと里山海道・道路施設の長寿命化・自転車通行環境整備~
石川県土木部道路整備課 道路行政セミナー 2013.10(pdf)

1310_04_02
50m道路:自転車の通行位置表示整備後
石川県の道路管理の取組み~のと里山海道・道路施設の長寿命化・自転車通行環境整備~
石川県土木部道路整備課 道路行政セミナー 2013.10(pdf)

 自転車が歩行者を脅かしていた従前の状況から、両者の通行分離が図られるという一定の成功に至っているようです。


3-2. 整備に反映されたまともな社会実験

 この形態は、平成25年に南側、平成26年8月頃に北側が改修され誕生したもの。

【参考】
金沢駅西50m道路自転車通行帯での街頭指導実施について
石川県土木部道路整備課 平成26年9月2日(pdf)

 本事業の実現のために、入念な検討と社会実験が行われていた。

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金沢駅西50m道路 自転車通行環境社会実験 現状と課題(htmlpdf)

 これが従前の断面で、5.5mもある歩道を持て余していた。この状況に対し、

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広幅員の自転車歩行者道における歩行者・自転車分離方策の効果と課題
-県道金沢田鶴浜線の社会実験を事例に-
中野達也・前田輝也・高山純一・片岸将広・埒正浩
土木計画学研究・講演集(CD-ROM) Vol.43.P388 2011.05(pdf)

 自転車道、自転車レーン、自転車歩行者道(歩道内の柵の無し/有り)の4パターンで検討。
 現在の日本の自転車政策では記載・発言が禁忌とされる、不便さや事故危険という自転車レーンの欠陥に言及し、歩道内に無暗に柵を立てる問題にも言及し、結果自転車歩行者道に◎をつけるという意欲的な検討結果。

 これを踏まえ、石川県は社会実験を実施。

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金沢駅西50m道路 自転車通行環境社会実験 社会実験の概要(htmlpdf)

 歩道内に、自転車走路を2.0mと3.0mで設け社会実験を行うという手の凝りよう。
 そして自転車走路2.0mでは自転車の走行率87.4%、3.0mでは93.4%と非常に高い値が得られ、実験結果通りに石川県は自転車走路3.0mを最終採用しています。


3-3. 国土交通省本省に背を向けた、意欲的な金沢連合体

 このように、金沢市50m道路におけるこの「自転車歩行者道」は、ママチャリはもちろん、スポーツ自転車が町中散策する程度では問題のない、安全で快適な自転車空間になっていると思われるものの、

 しかし金沢市内でも増殖する一部の自転車クラスタは、そのような汲み取りをしない。以下は後述の金沢ガイドライン改定に対する市民意見。
pdf10_01_15
金沢自転車通行空間整備ガイドライン(案)平成29年3月
素案に対する意見募集(パブリックコメント)結果と対応について(htmlpdf)
意見66

 警察庁が「自転車は車道左側走行が原則、歩道は例外」と言う原則を打ち出したあとにも拡張が止まらなかった50m道路の歩道上の自転車レーン敷設は愚策です。
 「車道は怖い」「左側通行は後ろから車が来るから怖い」「左側に回るのが面倒くさい」などの、年寄・お子様衆の理屈をわきまえぬ要求を形にした50m道路の自転車レーン(※管理人注:自転車歩行者道)は、壮大な無駄遣いであり、理念の後退であり、金沢の恥である。もうこれで最後にするべきです
 自転車走行指導帯は非常に良いです。

意見67

 石川県では、駅西の50m道路歩道に時代に逆行し、歩道上に自転車道(※管理人注:自転車歩行者道)を設置している。
 事前調査では、車道左側走行がし易い路線だったにも関わらず、反対車線の事業は白紙撤回し、車道に自転車専用レーンを設置するべきです。
 これらの意見は、もっと金沢市民に知らしめられるべきではないのだろうか。これを掲載した金沢連合体の意思には敬意を表します。

 そして金沢連合体は、この50m道路における自転車歩行者道の設置を否定しているわけではなく、
回答

 ⇒金沢版ガイドラインP127 7-1.より、歩道上での自転車通行空間の整備方針として、自転車歩行者道の幅員が幅広であり、視覚的分離により自転車と歩行者の安全性が可能であると判断できる場合に、当面の整備形態として自転車歩行者道を活用することを検討するものとしています。
 なお、50m道路では、歩行者、自転車それぞれの安全を確保するため、学識経験者、地元関係者、学校関係者、警察からなる協議会による議論を経て、地域の実情を踏まえ、幅広の歩道幅員を活用した自転車通行環境の整備を行っています
 整備後の利用実態調査では8割以上の利用者が通行位置を遵守しており、歩行者、自転車双方の安全性が向上しております
 それどころか自転車と歩行者の通行分離という目標達成に成果を上げており、金沢連合体もこの「成功事例」を無視できなくなっている。

 金沢連合体は平成29年3月改定の「金沢版自転車ガイドライン」において、以下のような驚くべき記述を行っている。
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金沢自転車通行空間整備ガイドライン(案)平成29年3月改定版(htmlpdf)

 金沢連合体が平成25年に策定し、その後第2回改訂となった平成29年3月版のガイドライン。

 これは平成28年7月19日、国土交通省・警察庁による「全国版自転車ガイドライン」の改定を受け、金沢版も更新したもの。
 金沢版は内容的には、ほぼすべて国交省ガイドラインのカーボンコピーであり、わざわざ地方版として作る意味をあまり見出せない。

 しかし金沢版に盛り込まれた、以下の1点の独自要素は括目する必要がある。
pdf09_01_115
金沢自転車通行空間整備ガイドライン(案)平成29年3月改定版(htmlpdf)

 「歩道上での自転車通行空間の整備方針」と題した、「自転車歩行者道」についての説明。これは参考資料に格下げされ、また「当面の整備形態」としての位置づけながら、内容はかなり好意的な書かれ方をしている。

 実はこの「自転車歩行者道」、国交省ガイドラインから平成28年改定によってその存在を抹消され、参考資料にもならず、暫定形態としても絶対に認めないとされたもの。

【参考:国交省ガイドライン改訂版の検証】
(1)危険な「暫定形態」への自転車誘導
(※記事内で自歩道には未言及ながら、改訂版ガイドライン・検討会から内容の判読可能)

 国土交通省が全国ガイドラインH28改訂において最優先事項に位置付けていた、自転車歩行者道の根絶。しかしその出先機関、金沢河川国道事務所をはじめとした金沢連合体が”本省様の意向”に背き、自転車歩行者道の一定の有用性について記述を残した点は驚きとともに高く評価できる。

 更にこの記載は、全国版ガイドライン側の立場に立つ自転車クラスタの代表者から排除要求を受けたものの、50m道路の成功から金沢連合体はこれをはねつけ、記述が残存されるに至ったもの。これは(5)で後述します。


 なお、なぜこ石川県は自転車走路を「自転車道」に指定せず、あくまで自転車歩行者道のままとしたのか。
 自転車道「=車道」に指定さえすれば、「歩道を自転車通行空間にするな」という自転車クラスタの原理主義的批判を免れたはず。
 推測されるその理由は、自転車の車道走行に配慮したがため。

 本路線は3車線もの車道、5.5mもの歩道がありつつ、更に2.0mはある路肩まで存在している。
 青く塗るだけで「自転車レーン」の機能は発揮できるもので、おそらく車道走行の自転車も一定数存在している。

 ここで「自転車道」を指定してしまうと、この路肩における車道上の自転車通行が道路交通法第63条の3違反となり、同第121条第1項第5号に基づき「二万円以下の罰金又は科料に処する」こととなってしまう。

 これは日本の現行の道路交通法における、自転車道整備個所ではそれ以外の自転車通行を一切認めないという法的欠陥に由来するもの。現時点で車道を走る自転車に配慮するため、歩道上は自転車道ではなく自転車歩行者道のままにしたと考えられます。


 今回は以上、シリーズは次回に続きます。

【記事シリーズ:金沢市内の自転車走行空間整備】
(1)自転車走行指導帯とバス専用レーン
(2)東金沢駅前の自転車レーン
(3)50m道路の自転車歩行者道
(4)自転車政策の目的は「事故減少」なのか
(5)主導者「三国成子」と「自転車の車道走行原理主義」

【参考】
ブログ主要記事まとめ
(※国内外の自転車走行空間の整備事例、事故分析、自転車政策の検証などを行っています。)