. 「自転車先進都市」と紹介される、金沢市内における自転車走行空間整備事業。
 全5回の検証シリーズ、今回は総まとめの前に、金沢で行われた事業の位置づけ・意味合いについて整理します。

【記事シリーズ:金沢市内の自転車走行空間整備】
(1)自転車走行指導帯とバス専用レーン
(2)東金沢駅前の自転車レーン
(3)50m道路の自転車歩行者道
(4)自転車政策の目的は「事故減少」なのか
(5)主導者「三国成子」と「自転車の車道走行原理主義」


4-1. 自転車の事故減少は自転車の車道走行のおかげなのか

 日本の自転車通行空間整備の象徴、先行整備として、成功事例や好事例と称されあらゆる機会に持ち出される金沢の事業。

 では「成功事例」とは、一体何をもって成功とするのか。
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石川)自転車走行指導帯、範囲拡大へ 事故防止に効果
朝日新聞デジタル 2017年3月10日(html)
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東金沢駅自転車レーン:整備後
石川県の道路管理の取組み~のと里山海道・道路施設の長寿命化・自転車通行環境整備~
石川県土木部道路整備課 道路行政セミナー 2013.10(pdf)

 金沢の事例で言われるのは、歩道上の歩行者の事故減少、そして車道上での自転車の事故減少。
 事故が減少したので成功事例である、基本的にほぼこう説明される。

 金沢市内という狭い範囲での詳細な事故統計は、公表されておらず分からないため、公表資料の限りで考える。
 自転車の事故はどうか。以下のデータが全国版ガイドラインの検討会の場で示されており、
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第1回安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会
参考資料 P24(htmlpdf)

 平成15年から平成25年にかけて、自転車事故での死傷者数が44.7%に減少。逆に言えば減少幅は55.3%(※上図では55%を約6割と称し誇示)。
 これを以って金沢市は「奇跡」と称されるレベルでの成功を生んだとされているが、

 では全国ではどうなのか。

 自転車乗用中の死傷者数は、H15は980+183,408=184,388人、H25は601+119,928=120,529人、つまりH15からH25にかけて34%減少した。

 全国と比べても金沢の確かに減少幅は大きいが、これは従前の自転車環境があまりに手つかずで、これだけ低減してようやく日本平均程度になったぐらいかもしれない。
 本来は「自転車の事故リスク」=事故数/自転車の総走行距離or通行台数のデータ比較なしには分からないが、日本ではそのような重要な統計を殆ど取っていない。

 ちなみに警察庁が良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策の推進について、いわゆる「自転車の車道走行推進通達」を出したのは2011年(平成23年)10月25日だが、実は金沢・全国ともにその前から自転車死傷者数は減少傾向。この通達やそれに起因する対策が効果的であるのかは分からない。

 加えて金沢においては、自転車走行指導帯が事故減少に大きく寄与していると主張されるものの、
 その整備延長を見ると・・・
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(金沢市内の)自転車ネットワーク路線の整備状況(html)

 平成28年度でも、未だ27.8km程度。

 これに対し金沢市内における道路延長は、金沢市道で2,179km(出典)。
 市内の国道・県道のデータは、石川県内で国道1:県道3:市町村道16(出典)の割合から推測し(割合は都市部も地方部も大差なし)、市内の道路法道路の延長は国道・県道・市道合わせて2,700kmほど。

 つまり整備延長は、平成28年段階でもわずか1%。この1%の区間で、従前自転車事故の大部分が発生していたのだろうか?


 日本の交通事故については、自転車事故に限らず総件数、歩行者事故ともに減少し続けており、自動車を含めたトータルの交通教育、道路の安全施設整備など、様々な取り組みの複合的な結果であると考えられる。

【参考】
日本の自転車関連事故:件数・死傷者数・対歩行者事故の推移(H28更新版)

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自転車通行空間整備について(html)
owaricyou[1]
自転車通行空間整備について(html)

 出会い頭の低減に効果絶大とされる、これら細街路における自転車走行指導帯の整備効果は、
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第2回安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会
資料1 第1回委員会の主な指摘事項と今後の進め方(案) P9(htmlpdf)

 左二つの金沢市、大幅な事故減少を生んでいるほどの効果は感じられない。

 一方で、これらの準幹線道路での自転車走行指導帯の効果はどうか。
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再掲(html)

 車道走行による安全効果、そう主張されうる事例ですが、金沢市内では重交通下の幹線道路における一般条件下での路面ペイントは行っていない。これまで説明したようにバスの運行も利用した「特殊条件下」によるものであり、自転車を車道に出しただけの効果であるものではない。

 一方でその他の幹線道路においては
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50m道路:自転車の通行位置表示整備後
石川県の道路管理の取組み~のと里山海道・道路施設の長寿命化・自転車通行環境整備~
石川県土木部道路整備課 道路行政セミナー 2013.10(pdf)

 現在の日本の自転車政策において、危険で不快で徹底的に排除すべき扱いとされている「自転車歩行者道」が、金沢では事故減少と通行環境向上に寄与している。

 ここまでをまとめると、金沢市内での事故減少は「自転車を含むトータルの交通安全対策の複合的な成果」であると言えるものの、
 一方で「自転車を車道に出した成果」であると言える根拠はない。そもそも「特殊条件」ではない一般条件下の幹線道路では、金沢は自転車を車道に出してさえいない。唯一の整備形態は真逆の自歩道。

 この金沢市内での金沢連合体の事業は、かなり慎重に路線を選定し実施しており、ある程度の成果は見込まれると想定される。車道走行の効果を証明するものはないが、金沢の事業自体は事故減少に効果的だったと言えないものではない。



4-2. 自転車走行指導帯は「安全で快適な」目指すべき自転車空間なのか

 最初に成功事例=事故減少という観点から、金沢の自転車政策の意味合いについて考えましたが、本来もっと重要な問題がある。それは、自転車政策の目的は事故減少であるのか?ということ。

 自転車政策に限らず、行政が行う事業の唯一無二の目的は「公共の福祉の増進」。
 ある事業を実施し、「メリット-デメリット」=「公共の福祉」を最大化させる、これが行政事業の目的。

 この「公共の福祉」は、単一の目的や対象だけで評価されるものではない。
 自転車問題であれば、デメリットの事故件数だけを対象にするのでなく、自転車利用者数増加、それによる都市の経済活動の進展、一方で自動車の台数減による渋滞の緩和や大気の改善、これらをトータルで考えた「公共の福祉」の大きさで評価されなければならないこと。

【参考】
自転車活用推進法の検証(1)自転車の真価を理解しない基本理念

 つまり、たとえ歩行者や自転車の事故が減少したとしても、その政策により自転車に著しい負担をかけ、安全性や利便性を損ねる通行を強要し、自転車利用台数が減少するのであれば、「自転車による都市への貢献-交通事故」という「公共の福祉」は増進しない。この政策はトータルで見て実施に値しないという判定をされることになる。


 この観点から、金沢の自転車通行空間整備事業はどうであろうか。
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浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)
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浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)
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浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)
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浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)
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浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)
東山指導帯1[1]
浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)
東山指導帯2[1]
浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)
東山指導帯4[1]
浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)

 これらは、”安全”で”快適”な自転車走行空間と呼べるものなのだろうか。
 もっと具体的に言えば、人がそこを積極的に走りたいと思う、自転車利用を促進できる空間なのだろうか。

 この問題は自転車だけではない。
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浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)
東山指導帯5[1]
浅野川大橋界隈にて自転車走行指導帯&歩道拡幅の整備完了♪
金沢レンタサイクルまちのりスタッフブログ 2016.05.08(html)

 金沢の観光に寄与する軽車両でも問題は同じ。ここは安全で快適な通行空間なのだろうか。

 もう少し定量的な観点からも同じ。市内の重要な観光エリアにも関わらず、自転車走行指導帯の幅は1m程度(もちろん車道と混在)、歩道の幅も2~2.5m程度。カップルや夫婦同士が行違うことさえできない。
 これらの空間は、今後の観光進展による歩行者数・自転車台数増に耐えられる幅員なのだろうか。観光促進の受け皿として根本的に空間が足りていない。

 金沢は「自転車先進都市」として持ち上げられ、国内外の観光客の存在も踏まえた自転車事政策の必要性を認識していると思われる。
 では金沢は、今のこの環境の延長線上に、自転車利用の拡大が実現できると考えているのだろうか。
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図2-2: 世界各都市における自転車交通分担率(トリップベース、単位%)
世界各都市における「自転車の交通分担率」の比較より

 自転車の交通分担率の世界比較。日本平均は東京23区と同等の15%程度で、真に自転車先進都市を名乗れるオランダやデンマーク都市は30%程度。

 これに対し金沢市は
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図2-3: 国内各都市(県庁所在地)の自転車分担率
出典: 第32回総合的交通基盤整備連絡会議 資料7
都市交通としての自転車の利用について 平成24年1月17日 (pdf)
国土交通省国土技術政策総合研究所 道路研究室主任研究官 小林寛
※金沢市はH19PT調査データを管理人が追記(pdf)

 H19調査で、たった9.1%。これで「自転車先進都市」を堂々と称されるという呆れる有様。

 金沢市を「自転車先進都市」として持て囃す機会の中で、この不都合なデータは決して触れられない。現在の日本の自転車政策においては、車道に色をどれだけ塗ったかでしか先進度を判定しない。

 金沢は、真に「自転車先進都市」を名乗るために必要な自転車利用の3倍増を、この自転車の車道走行で実現できると考えているのだろうか。
 路面ペイントでそれは不可能であると、ニューヨークやロンドンが世界で証明済み。彼らは本気で自転車利用を吸う倍増するため、これまでの自転車レーンと自転車走行指導帯(ペイント)を捨て、構造分離の自転車道整備に全面的な方針転換を果たしている。

【参考】
ブログ主要記事まとめ(ニューヨークやロンドンの現状を多数記事執筆)


 シリーズで繰り返し整理した通り、自転車走行指導帯は一定の効果があった事例ですら、既存の自動車交通秩序に「特定条件」下で自転車を恭順させる以上のものではない。
 ”安全”で”快適”な自転車利用環境などと呼べるものでなく、本来自転車政策の成功事例として目指すべき存在ではない。


 自転車政策の目的は、自転車をどれだけ車道に出せたかなどではなく、事故を減らせたかだけでもない。
 その政策と事業によって、どれだけ公共の福祉の増進に寄与したか。どれだけ金沢都市圏の都市力向上を引き出したか。残念ながら現在の金沢連合体の政策には、その視点が欠如している。

 そしてこの、目的を明確にできない金沢の政策は、ある”主導者”が持論に基づき先導しているものでもある。
 次回シリーズ最終回、市政策を誘導する自転車有識者について検証を行います。

【記事シリーズ:金沢市内の自転車走行空間整備】
(1)自転車走行指導帯とバス専用レーン
(2)東金沢駅前の自転車レーン
(3)50m道路の自転車歩行者道
(4)自転車政策の目的は「事故減少」なのか
(5)主導者「三国成子」と「自転車の車道走行原理主義」

【参考】
ブログ主要記事まとめ
(※国内外の自転車走行空間の整備事例、事故分析、自転車政策の検証などを行っています。)