現在芦生の森は、シカの食害、ナラ枯れ、ブナ枯れが重なり生物の多様性に対し重大な危機が訪れております。既に何度か指摘して参りましたが、この現状にさらに追い打ちをかけるように美山町観光協会が、「美山トレイル」を設置しようとしており、関係者の許可も承諾もなく既にテープ付けやルート開削もほとんど終わらせております。これが実現された場合には、国民の財産である芦生の森の多様性が失われる恐れがあり、計画段階で撤回させなければ取り返しのつかない事態になってしまいます。

美山トレイルと書いた派手で大きなテープ美山トレイルと書いた派手で大きなテープ





鳥獣保護区の看板への落書き鳥獣保護区の看板への落書き 刑法261条の器物損壊罪に該当します。




美山トレイル設置の為切られたアシウスギ美山トレイル設置の為切られたアシウスギ





美山トレイル設置の為切られたリョウブ美山トレイル設置の為切られたリョウブ






私はこの計画に強く反対するものであり、美山町観光協会に以下のような抗議文を送りました。


私は5年前から、芦生研究林内において希少植物の分布調査をしており、一昨年からは京都大学フィールド科学教育研究センターの許可を得て本格的に調査をして参りました。芦生研究林は周知の通り、その約半分に当たる2,000haがいわゆる原生林と称される天然林であり、且つ暖温帯から冷温帯への移行地であること、日本海側と太平洋側の両気候区に跨ること等により、生物多様性の極めて高い森林を形成しています。しかしながら十数年前からシカの食害が顕著となり、加えてナラ枯れの発生やササの一斉開花などが重なり、下層植生の喪失、着生植物の減少など大きなダメージを受けたまま回復することなく現在に至っています。このような現象は多くの人の知るところではありますが、私もその間およそ650日間研究林内に入り、森林の変わりゆく姿をつぶさに見てまいりました。

最近になり、「芦生地域有害鳥獣対策協議会」によるシカの捕獲の効果も表れきたのか、一部植生回復の兆しを感じさせる光景に出会うようになってきました。研究林の南東部、主として三国岳周辺においては、ササの一斉開花が起こらず残存したササを基に新しいササが延び始めています。また、常緑のスゲ類も、イワヒメワラビなどシカの不嗜好性シダに守られ地表を埋め尽くすまでに広がってきました。このような光景に出会うと、生命の逞しさ貴さに感動を覚えるとともに、この光景がやがて芦生の森全域に広がってくれるよう強く望まないわけにはいられません。

ところが先日「美山トレイル」と印刷されたオレンジのテープが、約10m間隔という高密度で木々に結び付けられているのを発見しました。そして後日、平成25年第4回南丹市議会12月定例会(平成25年12月5日開催)において、木戸 德吉議員が質問している中で、美山観光協会の取り組みとして行われていること、その目的は集客(当議員は「お金を落としてもらう」とあからさまな表現を使っています)であると述べられていることを知り、このテープの趣旨を理解したわけです。テープが付けられていることの他に、ノコギリやナタで木が切られている箇所も多数あり、また京都府の設置した鳥獣保護区の表示板に「美山トレイル」と落書きされているものが見られたため、私を含む複数名が関係者へ問合わせたところ、そのような行為について許可も承諾もしていないとのことであり、「美山トレイル」の話すら全く聞いていないと回答されたところもありました。これらは明らかに財産権への侵害であり、犯罪とさえ言える行為であって、公共的性格の強い観光協会のされることとはとても思われません。

下層植生の乏しい現在の森林は本来の姿ではなく、かつては人の進路を拒むほど濃密なチシマザサの薮に覆われていました。しかしササの一斉開花によるササ枯れとその後のシカの採食によりササはほぼ消滅し、回復することなく裸地化したままの姿で現在に至っています。言い換えれば森林は深い傷を負い悲鳴をあげている状態なのです、しかるにこれをチャンスと「美山トレイル」を設置するのは、まるで傷口に塩を塗りつけるに等しい行為ではないでしょうか。さらに、選択の余地もないほど高密度でテープを付けて人に歩かせれば簡単に歩道のようなものができてしまいます、「高島トレイル」もそうでしたが、わざわざ資金と労力を費やして設置したかの顔で、呻吟する森に手を差し伸べるのではなく、それに乗じてさらに森を苦しめるような行為をする、これを卑劣と言う以外になんと言えばよいのでしょう。

数年前に設置された「高島トレイル」のその後の変化を見ると、踏み付けや不正採取などにより希少植物は明らかに減少しています。「美山トレイル」が現実化された場合には、当然同様の現象が生じると考えられる他、前述の回復し始めた植生も再び後退するのではないかと危惧されます。殊に三国岳から小野村割岳に至る城丹国境稜線の芦生研究林側は、全て原生林となっているうえ、アプローチの長さや地形の複雑さなどにより人のほとんど入らない領域であるため、自然環境は芦生でも最も優れた場所となっています。ここに「美山トレイル」というルートが設置され、多数の人が通るようになれば、影響は高島トレイルの比ではないでしょう。

かつて芦生研究林内で確認された高等植物のうち、現在も確認できるものはどれだけあるかご存知でしょうか。無いということの証明は不可能ですが、5年間に亘り芦生研究林のすみずみまで調査しても確認できない高等植物は2割近く有り、さらに個体数が少なく存続の危機にあるものを含めると、4割近くが消失するのではないかと危惧されます。この前まで猛威をふるっていたナラ枯れも昨年には終息したと考えられますが、ブナ枯れは現在も進行しており、場所によると3割以上のブナが枯死してしまいました。これは下層植生の喪失による乾燥化が原因ではないかと言われていますが、浅根性のブナは下層植生の喪失により倒れやすくもなっており、立枯れと共に根返りしたブナも多数見るようになってきました。ブナ枯れは主として稜線部の乾燥しやすい場所で発生しており、多数の人が入ることにより下層植生の回復が困難となってさらにブナ枯れが拡大するのではないかと危惧されます。

このような現状を知っておられますか?そしてそれを知らされてもなお「美山トレイル」を実現しようとされるのでしょうか?今すべきことは自然への負荷を新たに加えることではなく、多様性の劣化した森を従前のように回復させることではないのですか?最初に書きましたように、芦生研究林は貴重な森であり、先人達が原生林の伐採や揚水発電所の建設を阻止し、必死に守り継いで来られた森林です。この森林を守り更に次代へ引き継いでいくことは、我々世代の責務ではないでしょうか。もしも芦生の森を観光資源と考えるのであれば、大きな顔で「植物や動物、昆虫などの生態が豊富(美山町観光協会のウエブサイトでの表現です)」と言えるように回復させ、次の世代に観光資源を引き継ぐのがあなた達旧美山町民の務めではないのですか。芦生の自然は美山町の財産であると共に、国民全体の財産でもあります、それ故に国定公園化が決定されるのではないのですか。

今まで申し上げてきました問題点の他に、「美山トレイル」について次のような疑問が湧き起ります。芦生研究林の周縁ルートは、その入下山口が他市にあるというものや、旧美山町内にあったとしても研究林内を通らなければ辿りつかないというのが大半です。前者の場合、「美山トレイル」の目的とする集客に全く寄与しないにもかかわらず、なぜ設置しなければならないのか。また後者の場合、現在においても無断入林者が後を絶たないのに、さらに無断入林者が増えることにならないのか、これに対する対策はあるのか。前述した「芦生地域有害鳥獣対策協議会」によるシカの捕獲の趣旨と矛盾しないのか、等々。

以上述べたとおり、「美山トレイル」と称されるものが芦生研究林の周縁部に設置されることにより、芦生の森に取り返しのつかないダメージが加わると考えられるため、私は本計画に反対すると共に本計画の白紙撤回を強く求めます。私は現在「芦生短信2」というブログを綴っており、芦生の現状や森林の生態を発信すると共に森林の回復を訴え続けておりますが、今後はこのブログを通して「美山トレイル」が撤回されるまで、その問題点を訴え続けていくつもりです。もしも私の指摘に対し異論があるのであればぜひとも反論してください。ただこれもブログ上に掲載させていただきますことを予めお断りしておきます。



私達山歩きを楽しみとする者は、山に登るだけ、森を歩くだけ、自然から享受するだけ、それだけで本当によいのでしょうか? 人が森に入れば例え小さくても必ず自然に対しダメージを与えます。そんな負荷を森に与えながら何もしない、本当にそれだけでいいのでしょうか。
今、正に今、多くの人に感動を与えてきた芦生の森が、新たなる危機に直面しているのです。今こそ、山を愛し、森を愛する者が団結し、自然を破壊しようとする力に抗議していかなければならないのではないのでしょうか。どうぞご協力ください、多くの方の声が届けられることによりきっと計画は撤回されると思います。

美山町観光協会へは、「美山ナビ」http://www.miyamanavi.net/から入り、トップページ右上の「お問い合わせ」から抗議文が送れます。直接kayabuki-miyama@cans.zaq.ne.jpへ送ることもできそうです。
また芦生研究林や京都府立大学演習林へも反対表明の要請文を、南丹市には美山町観光協会へ補助金を出さないことと美山トレイルを撤回させるようにとの要請文を送っていただけるとありがたいです。またご自身でブログなどをされていましたら、このような行動への呼びかけをお願いします。その際上記の文章やブログ内の表現・写真などは自由にお使い下さい。


少し前のことを思い出しています、ナラ枯れが酷く森に入るたびに糠のようなフラスを出し、夏だというのに葉を真っ赤にして枯れ始めているミズナラに出会っていた頃のことを。
中には直径1mを超える大木もあり、そのような樹に出会った時には本当に涙が出るほど悲しくなりました。「人間のせいでこんなことになりごめんなさい、本当にごめんなさいね、きっと悔しいでしょうね」そのように話しかけながら、どうすることもできない自分の非力さを嘆くことしかできませんでした。

そんなナラ枯れが猛威をふるっている最中、「高島トレイル」が計画され着々と準備が進められていくのです。「どれだけこの森を痛めつけたら気が済むのだ!」強い怒りが突き上げ、一人小さな抵抗を続けたのですが、大勢に破れこれを阻止することができませんでした。

今回の「美山トレイル」に強く抵抗するのは、このような過去の悔しさが原動力になっているのでしょう「またしてもこの森を食い物にするのか!こんなに傷ついているのに、一体いつまでこの森を痛め続ければ気が済むのか!」。どうぞこの森のために力をお貸し下さい。



6月29日追記

「平成25年第4回南丹市議会12月定例会(平成25年12月5日開催)において、木戸 德吉議員が質問・・・」と記していますが、原文は次のようになっており、直接美山トレイルとお金を結びつけているのではありません。しかし迂遠で余計な部分を取り除くと、最終的にはそのような目的であると解釈されましたので、前記のとおり記載しました。

その国定公園指定に向けて美山の観光協会もいろんな取り組みをされておりまして、1つにはエコツーリズム、また美山の山歩きということで美山トレイルと言って尾根をずっと歩いていわゆる自然を楽しむという形の調査をされて、3つほどコースをつくって今取り組みをされております。そういう形で民間が行政ばかりに任すのではなしに率先してそういう取り組みをされておりますので、その取り組みに対してもやっぱり市として何らかの人的な応援なり、いろんな形でのいろんな助言をしていただいて、これからその国定公園が指定されるということは一つ観光についてはいい発展の材料でございますので、いいあれを観光振興に生かせるような取り組みを市としてもまた取り組んでいただきたいと思います。その後、いろんな形で観光客がふえますと、一番いいのは来ていただいて泊まっていただいて、いわゆる変な話お金を落としていただくことが一番ありがたいことなので、そういうことをしていただくとなるとやっぱり宿泊施設等が大変重要になってくると思います。

定例会会議録」の9ページに載っています。