戦略コンサルタントasktakaのブログ

ビジネス、マネジメント、時事、世相などに関する話題を気の向くままに書き下ろしたいと思います。お気に召すままにご覧ください!

1月の提言:『2019年のビジネス・キーワーは“GATE”!』


2018年の世界経済は年央から減速傾向で年末には世界で株が急落するなど先行き不透明化のある一年だった。日米ともに景気拡大が続いていて、2019年7月には史上最長の10年、120か月を超えるかどうかが注目される(注)。

一方、日本経済は2012年12月から続く景気拡大局面が高度成長期の「いざなぎ景気」(1965年11月~70年7月、57カ月)を超えて、17年9月まで58カ月と戦後2番目の長さになったと認定された。19年1月で戦後最長の「いざなみ景気」(2002年2月~08年2月、73カ月)に並ぶ見通しだ。

だが、昨年12月に発表された7~9月期のGDP改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.6%減、年率換算では2.5%減と下方修正。より生活実感に近い名目GDPは前期比0.7%減、年率は2.7%減と同じく下方修正された。10月の家計調査によると消費支出は2カ月連続減となっており、10~12月期の動向が気になるところだ。

2019年については、後半には世界経済が減速から後退局面に入り、景気を下支えしてきた輸出が減少するとの見方が多い。10月には消費税増税も予定されており、日本経済は正念場を迎える。

2019年は亥年、証券業界には「亥固まる」という格言があり、亥年は成長に向けて「足下を固める一年になる」という。世界経済、日本経済は減速あるいは景気後退の可能性があるだけに、今年は先を見据えて経営基盤を強化するとともに「未来の扉(GATE)」を開く年になることを祈願したい。

こうした観点から、今年のビジネス・キーワードは、

“GATE”

とした。GATEは下記の頭文字をとったものである。

Global Business Portfolio(グローバル・ビジネス・ポートフォリオ)
Acquisition Age(買収時代)
Tackle the Recession(景気後退への対処)
Evolving Corporate Governance(企業統治の進化)

今年は近い将来起こりうる景気後退に備えて未来に向けて一層飛躍するための固めの年にしたい。そのためには、すでに海外展開が活発な企業も超ドメスティックといわれる企業もグローバル・ビジネス・ポートフォリオを再考すべきである。つまり、世界経済、日本経済が景気後退局面になっても相対的に成長ポテンシャルが高い先進諸国での展開や新興国、開発途上国への進出を模索してはどうか。

世界経済は、先進国と新興国が揃って景気拡大する「プラスサム」から、米国が牽引する先進国の景気拡大とドル金利の上昇が新興国の足かせとなる「ゼロサム」に移行している。そして米国が景気後退局面に入れば、世界経済は勝ち組不在の「マイナスサム」に入る可能性もありうる。

しかしながら、ゼロサムからマイナスサムの次の局面に向けてグローバルなビジネス・ポートフォリオを構築すべきだと思う。先ずは先進諸国のエリア・カバレッジを拡充し、そして新興国や途上国での展開が望まれる。例えば、BRICsを除くとバングラデシュ、ミャンマー、パキスタン、フィリピン、ベトナムそしてアフリカの一部の国などが今後10年での成長が期待される。

このようなグローバル・ビジネス・ポートフォリオの構築にあたって、IN-OUT(日本企業による海外企業の買収)あるいはIN-IN(日本企業による日本企業の買収)と呼ばれるM&Aを活用すべきだろう。今年に入って武田薬品工業はアイルランドの製薬大手シャイアー社の買収が完了し、7兆円で完全子会社化した。過去最高の買収額だが、武田薬品は世界のメガ製薬会社の一角に入ったことになる。今後は海外売上高比率が高い多国籍企業も超ドメスティック企業も成功の鍵(KSF)は買収、M&Aの巧拙にある。まさにM&A時代、買収時代の到来である。

昨年は年末近くになって日産のゴーン元会長の逮捕の報道に驚いた方は多いことだろう。ゴーン氏の日産再建への貢献は称賛に値する。そして、長期政権を必ずしも否定するものではない。筆者は神戸大学の三品和広教授が主張しているように、リーダーシップのある優れた経営者は少なくても10年スパンで経営に携わるべきだと思う。また、グローバル企業のトップの報酬も、真のプロの経営者であれば世界標準にすべきだ。

ただ、長期政権により独裁者になって公私混同を含め企業価値の減損に影響が及ぶのは防ぐべきである。そのためには、日産のケースを他山の石として、コーポレート・ガバナンスの強化をすることが肝要だ。周知の通り、コーポレート・ガバナンスの目的は、企業不祥事を防ぐこと、及び企業の収益力を強化し企業価値を高めることである。企業統治は株主のエージェントであるトップをいかに管理・監督するかという内部統制と企業のシステムが健全に機能しているかを審査する監査とに分かれる。

この機会に企業統治のあり方を見直し、独立取締役の増加や指名委員会、報酬委員会、監査委員会等の委員会の設置等の検討を行うべきではないか。もっとも欧米企業でも独立した外部取締役といってもトップの仲間うち、友人が就任するケースもあるので、要注意ではある。

以上、今年のビジネス・キーワードに関して概説した。世界銀行が1月8日に発表した世界経済見通しによると、世界経済には「暗雲が立ち込めている」という。今年は、未来への扉えお開く礎を築く年になることを願うものである。拙稿が少しでも参考となれば幸いである。


注:
本稿では個々に出所を明記しなかったが,アナログ及びデジタルの公開された情報並びに公私にわたる知見に基づく.

12月の提言:『2018年経済・ビジネス10大ニュースと来年の課題』


今年もあと10日、今年の国内経済を振り返ると、「いざなぎ」超えはしたものの実感なき景気回復が続いている。一方、世界経済をみると、トランプ大統領を発端とする貿易戦争が予断を許さず来年以降の不透明感が増している。

こうした内外環境だが、例年通り今年の提言の締めは、10大経済・ビジネスニュースを大胆に選択して、来年の課題を述べてみたい(注1)。

  • 米が輸入制限発動、米中摩擦が激化(3月)
  • 史上初の米朝首脳会談、緊張緩和進む(6月)
  • 働き方改革関連法が成立(6月)
  • EUが巨大IT企業の規制強化(7月)
  • 経団連、2021年春から就活ルール撤廃(10月)
  • TPPが年内発効へ(10月)
  • 日産元会長ゴーン氏逮捕(11月)
  • EU、英離脱協定を正式決定(11月)
  • 武田薬品、シャイアー買収を承認(12月)
  • 景気回復「いざなぎ」超え、正式認定(12月)

まず、国内の経済・ビジネスニュースをみると、景気回復の「いざなぎ」超え、働き方や雇用のあり方の変革そして日本のグローバル企業の明暗、この3点に集約される。

内閣府は12月13日、2012年12月を起点とする景気回復が17年9月時点で高度経済成長期の「いざなぎ景気」の57カ月を超えたと正式に認定。景気回復の長さは戦後2番目で19年1月まで景気回復が続けば、戦後最長の74カ月となる。これは日銀が異次元緩和を実施し、マイナス金利を含めた超低金利政策を強力に推進し、景気の浮揚を図った成果だ。

日銀の低金利政策により、13年初頭には1ドル80円台だった円の対ドル相場は一時125円台まで円安・ドル高が進行。輸出企業の業績改善により国内経済の回復をもたらした。円安と相まって世界でも中央銀行による大量のマネー供給と低金利政策により景気が回復したこともプラスに働いた。

ところが、7-9月期のGDPは2四半期ぶりにマイナスに転じた。相次いだ自然災害が生産や消費を冷やしたと説明されているが、いまだに実質消費額は14年の消費税増税前のレベルを上回っていない。これで来年10月に増税すれば、いくら小手先の手を打っても消費の低迷は不可避だろう。米中貿易戦争やスマートフォン需要の頭打ち感など世界景気の先行きに不透明感が強まっているが、日本の消費税増税は先行き不安を増幅する。

次に、日本の人手不足は深刻である。少子高齢化の進行により生産年齢人口は1995年をピークに減少している。働き方を多様にして女性や高齢者、外国人労働者に働きやすい職場にすることが不可欠だ。改正出入国管理法が12月8日未明の参院本会議で可決、成立し2019年4月に施行される。これまで認められなかった単純労働分野への外国人労働者の受け入れを可能にする、外国人労働者政策の転換を迫られたのは深刻な人手不足によるものだ。

経団連は10月9日に就職や採用活動の日程などの指針を2021年春入社組の採用から廃止することを決めた。経団連に加盟していない外資は指針とは無縁で、優秀な学生を青田刈りされて地団駄を踏んだ企業も多い。新たなルールづくりは政府主導で大学側や経済界とともに策定する予定だ。経団連主導のルールがなくなることで、横並びの新卒一括採用が見直されることになりそうだ。筆者は企業側からみても教員の立場からみても、採用活動の日程を縛り一括採用するのはナンセンスだと考えている。それよりも、早い時期に就職が決まり4年時は卒論を含め勉強に集中させるべきではないか。そのためには、大学も経済界も環境整備や改革が必要だ。

それから、日産のゴーン元会長逮捕のニュースには驚いた。日産再生の礎を築いた功績は誰しも認めるところだが、グローバルな上場企業にも関わらず行き過ぎた公私混同があった点は否めない。リーダーシップのあるトップの長期政権には賛同し、グローバル企業のCEOの報酬ももっと上げるべきと思うが、ゴーン氏の件はガバナンスのあり方を改めて考えさせる。

また、武田薬品は12月5日の臨時株主総会においてアイルランド製薬大手シャイアーの買収を決議した。同日シャイアーも総会で承認され具体的な買収手続きに入ることになった。2019年1月にも7兆円弱のわが国過去最高の巨額買収が成立し、売上高世界トップ10に入る日本発メガファーマ(巨大製薬会社)が誕生する。買収額や効果に疑問をもつ向きもあるが、今後も増加するIn-Out(日本企業による海外企業のM&A)よき成功例となってほしい。

米国を除く11ヵ国によるTTPが年内に発効することが決定した。日本がリーダーシップをとって世界の自由貿易を守ったことは誇るべきだ。ここで改めて国際分業のメリットを述べることは割愛するが、将来日本国民はTPPによる利益を実感することになるだろう。

海外に関しては、米中の貿易摩擦、英国のEU離脱そしてGAFA等巨大IT企業への規制強化が主なトピックスだ。

米政権は3月に鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動した。そして、7月から9月にかけて計2,500億ドル相当の中国製品に関税を上乗せ。中国も報復関税で対抗し貿易摩擦が激化した。その結果、11月に米GMは2019年に北米5工場の生産停止すると発表。グローバルな資本主義の世界に「アメリカ・ファースト」というトランプ流経済ナショナリズムが通用しないことを示した形だ。

欧州連合(EU)は11月に来年3月の英国の離脱条件などを定めた「離脱協定案」と英国とEUの将来の関係に関する「政治宣言案」を正式決定した。協定案には20年末まで現在の貿易関係などを維持する「移行期間」が盛り込まれた。だが、英国ではEU離脱について2度目の国民投票を行う可能性もあり、離脱しないこともありうる。また、離脱しても英経済の見通しはEUとの関係次第の面もあり将来の不透明感は強い。来年の英国の動向から目が話せない。

EU欧州委員会は7月にEU競争法(独占禁止法)違反で米グーグルに43億4,000万ユーロの制裁金を科した。そして、10月には英国は大量の個人情報を英データ分析会社に不正流出させた米フェイスブックに罰金を科すなど、巨大IT企業に対する規制が強化されている。一方、日本でも11月に政府の有識者会議が巨大IT企業に対して専門家の監視チームを新設するなど規制強化を求める報告書を発表した。監視の対象はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)を想定しているという。このように、世界で米巨大IT企業に対する規制が強化されそうだ。

最後に、経済ニュースではないが、6月のシンガポールでの史上初の米朝首脳会談を取り上げたい。共同声明には金正恩氏が「完全な非核化」に取り組み、トランプ氏が北朝鮮の体制の「安全の保証」を約束すると明記された。具体的な完全な非核化の実行に関しては不透明だが、米朝の緊張緩和が進んだ点は歓迎したい。

以上、内外の経済・ビジネスニュースを大胆に10のトピックスに絞って振り返ってみた。筆者はトランプ大統領が保護貿易主義を貫く限り、来年は米中の景気の先行きに不透明感が増してくるように思う。そして、日本も来年1月まで景気上昇期が続けば戦後最長の景気回復期になるが、消費支出の低迷は続き実感なき回復であることに変わりはない。

とすれば、来年の課題は攻めと守りのバランスをとったマネジメントを実践することだと考える。つまり、成長市場に注目してグローバルな事業ポートフォリオを構築するとともに、ガバナンスのあり方を再検討してはどうか。今年のトピックスを再チェックして、自社に適した攻めと守りの経営を見直し推進してほしい。


注:
ニュースの出所は個別に明記していないが,紙媒体やweb上の記事を参照した.

【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より孝夫を「孝央」と改名しました)

11月の提言:『役職者を“さん付け”する会社は崩壊するか』


最近ホラクラシー(holacracy)組織が話題になることが多い。今年6月にホラクラシー組織として知られる人材紹介や求人サイトを運営するアトラエが東証一部に上場し注目されたことも一因かもしれない。実はホラクラシーは進化型組織「ティール組織」が具体化されたひとつの形態である。アトラエは従来の階層があるヒエラルキー型組織とは異なり、上司や部下も命令もないフラットな組織だ。社員は指示、命令をされることなく自分で考え自分で動く。こうした自律型スタイルをもつ組織をホラクラシーと呼んでいる(注1)。

ホラクラシーは2007年に米ソフトウエア開発会社ターナリー・ソフトウエアの創業者ブライアン・ロバートソンによって提唱され、米国やその他の国々で採用されるようになったという。現在、米国で300社以上の企業がホラクラシー型組織だといわれている。一例をあげれば、2014年に米国の靴のネット通販のザッポス(Zappos)社が導入したことで話題になった。ザッポス社は今では普通になったノーネクタイの会社としても知られているが、個性を大事にするカルチャーが根幹にあるのでホラクラシー組織は自然の流れといえる。その他、定番のメモアプリで知られるエバーノートや宿泊施設マッチングサイトのAirbnbなどもホラクラシー組織だ。

一方、日本では上述したアトラエのほか、不動産業界向けWEBソリューションを提供するダイヤモンドメディア、ソフトウエア開発のソニックガーデン、コンテンツ開発の面白法人カヤックなどがある。いずれもICT、ネット関連の小規模企業ではある。

なお、ホラクラシー組織の定義等に関してはネット等での解説に譲り詳述しないが組織全体に権限が分散され、組織を構成する個人は肩書きや役職ではなく、サークルのようなチームが意思決定を行い実行する自律的な組織といえよう。このようなホラクラシー組織においては階層がなく、したがってパワハラなどの問題も生じない。そして、部長、課長が存在しないのだから、日本では「さん付け」が当たり前になる。米国ではファーストネームの略称で呼ばれることだろう。

こうしたことを考えていると、江口克彦氏の「役職者を『さん付け』する会社が崩壊するワケ」という記事が目についた。見出しをみただけで何と時代錯誤な記事だと違和感を感じるのは筆者だけではないだろう。江口氏は旧松下電器出身の方で自分の経験から次のように述べている(注2)。

「34年におよぶ経営者としての経験から言えば、肩書で呼ぶのではなく、『さん付け』で呼び合う会社は、大抵その後、倒産するか、衰退するか、あるいはそれ以上の発展はしない」

「組織の風通しをよくするための『さん付け運動』は、百害あって一利なし」

そして、「さん付け運動」を実施して崩壊した例として台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に身売りしたシャープをあげている。シャープは経営不振になって社内の風通しが悪いのは肩書で呼び合うからだとして、2013年に「さん付け運動」始めた。江口氏は「さん付け」が会社の崩壊につながる理由は次の2点だという。

  1. 「役職の重さ」を感じなくなる。
  2. 取引先は「さん付け」をしてくる相手を軽く見る。

しかしながら、筆者には「さん付け」で役職者が自分の職責の重さを感じなくなるとは思わないし、責任感がなくなるとは考えられない。役職で呼ぶのはこれまでの慣習であって、役職者にふさわしい人材であればどうよばれようと責任感をもって職責を全うするのではないか。ましてパワハラが問題になっている昨今、ヒエラルキーを明示化している呼称よりも「さん付け」の方がかえって取引先も企業カルチャーを好意的にみてくれるのではないか。シャープの不振は単に「さん付け運動」が原因ではなく、意思決定のあり方、リーダーシップなど他の要因にあったと思う。

ところで、「さん付け運動」が行われるのはなぜだろう。次の2点が一般的な導入理由ではないだろうか。

  1. フラットな組織にしたい。
  2. 社内の風通しをよくしたい。

だが、フラットな組織にする目的は、権限を委譲して、組織の階層を少なくし、意思決定を迅速に行い経営環境の変化に機敏に対応することではないか。であれば、単に「さん付け運動」だけでは変わらない。企業カルチャーと意思決定の仕方を変革しなければ、真の目的は達成されないだろう。社内の風通しも同様で、「さん付け運動」だけでなく上司風を吹かせて上意下達しか能のない役職者の意識を変革しなければ変わらない。ただ後者の意識改革は一朝一夕には成果を得られないが。

最近、ホラクラシー組織が話題になっているせいか、「さん付け運動」の導入が増加しているとの声が聞こえる。実は「さん付け運動」は90年代から行われていて、味の素は90年代後半に「さん付け」を推進して、現在も続いている。また、サントリーも役員を除き「さん付け」だ。星野リゾートはフラットな組織文化を持つことで知られ、代表はもちろんホテルの総支配人も上下関係や偉い人をイメージする部屋がない。情報を共有し対等に発言しやすいように「さん付け」が当然になっている。こうした企業が崩壊することはないだろうし、発展しないとは思えない(注3)。

ホラクラシー組織もフラットな組織も、従来の階層をなくして管理職、役職者による情報の占有を廃し情報を共有化して、個人が対等に自律的に動く組織だ。したがって、情報の共有化を前提にして、各自が双方向を超えて多方向のコミュニケーションが求められ、個人の能力が求められることになる。従来型のヒエラルキー組織に馴染んだ人たちには慣れるには時間が要するだろう。

もしこれまでの階層のある組織に問題があると感じて、環境に迅速に対応できていないと考える向きがあれば、是非ホラクラシー組織を含むティール組織を検討してみてはどうか。導入するには企業カルチャーの変革が伴うことが多いが、「さん付け」が必然になっても決して崩壊しないし発展も止まることはない。



注1:
人材紹介や求人サイトを運営するアトラエに関しては下記を参照.

「上司も部下もなし『ホラクラシー』組織躍動~アトラエ 社員の熱意引き出す」(2018年9月1日付日本経済新聞朝刊)

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO35198720Q8A910C1TJ1000/

注2:
江口氏の記事は下記を参照.

江口克彦「役職者を『さん付け』する会社が崩壊するワケ」(2017年4月14日付東洋経済Online)

https://toyokeizai.net/articles/-/165541

注3:
星野リゾートに関する記事は多いが例えば下記を参照.

星野佳路「正しい議論ができない管理職は去ってもらって構わない」(東洋経済Online)

https://toyokeizai.net/articles/-/161023

10月の提言:『M&Aの通説よりエビデンス!』


武田薬品工業がアイルランド製薬大手、シャイアーを約7兆円で買収するとの情報が年初から聞こえてきた。先月末、2019年1月18日にシャイアーの買収を決議する臨時株主総会の開催が発表されいよいよ大型M&Aが現実味を帯びてきた。

2017年のM&A件数は3,050件で対前年比15.0%増で過去最高を記録した。特に、IN-OUT(日本企業による海外企業のM&A)は過去最高の672件で前年の37件増、全体の22%を占めた。金額ベースでは13兆3,437億円で、うちIN-OUTが7兆4,802億円、56%を占める。IN-OUTの堅調さが目に付くが、国内市場の縮小・成熟化に伴うエリアポートフォリオの見直し、既存事業の強化や多角化の一環として海外企業の資源を活用するなどグローバル展開への関心が高まった結果だ(注1)。

こうしたM&Aの動向に関して、いまだに識者やマスコミの中には確かなデータに基づかず、M&Aの成功確率は低いといった発言がある。例えば、「成功30%」、「IN-OUTでは5%の成功確率」、「M&Aはほとんど失敗」といった類だ。では、実際はどうなのか。この分野の実証研究で知られる井上光太郎氏(東京工業大学大学院教授)によると、日本企業の成功確率は50%だという。そして、実証研究の結果次の4点が明らかになった(注2)。

  1. M&Aは平均してみると株主価値を創出。
  2. 水平型M&Aの方が長期の株価パフォーマンスは良好。
  3. 社外取締役のいる企業のM&Aは長期の業績でもプラスの効果。
  4. 部分買収よりも、100%買収の方が事後のパフォーマンスが良好。

最初の3つは仮説を提示し検証されたものだ。2番目の水平型M&Aつまり同業他社のM&Aのパフォーマンスがいいのはシナジー効果を得やすいからだ。3番目はガバナンスが長期的業績にプラスの効果を与えることを示唆している。最後の結果も示唆に富む結果だ。100%買収で経営権を確立することがよい結果をもたらすということである。

このように、実際の日本企業のM&Aの成功確率は5割で、M&Aの株主価値やパフォーマンスに及ぼす影響はプラスであるにもかかわらず、ネガティブな発言が目に付くのはどうしてか。恐らく、失敗の方が成功したケースに比べてメディアの露出が多いからだろう。そして、コメントする識者も失敗の方が課題を煽りやすいという背景があるかもしれない。

最近、M&Aの失敗もケースとして話題になったのはLIXILグループ(旧住生活グループ)である。近年、現社長藤森義明氏(元GE上級副社長兼日本GE会長)の下で海外の住設業界の同業企業を積極的に傘下に収めてきた。同グループは本年4月1日に水栓金具の中国メーカー、ジョウユウ(本社・独ハンブルク)を連結子会社化したが、巨額の簿外債務を抱えていることが判明したのだ。5月22日にハンブルク裁判所に破産手続きを申し立てているが、ことは優良企業のはずのジョウユウの実態は債務超過で深刻な不正が発覚しただけに、純資産が豊富な同グループといえどもガバナンスのあり方が問われる(注3)。



ところで、LIXILグループでどうしてこのような問題が起きたのか。私見では藤森氏以外のグローバル経営の手練が不足していたのだと思う。グローバル経営を積極的なM&Aで推進するにはトップ、CEOのリーダーシップとともに、トップを支えるグローバル人材層の質と量の充実が不可欠だ。この点は、LIXILだけでなく、他のグローバル展開中の日本企業も同様である。

しかしながら、M&Aには成功の秘訣があることはよく知られている。この点に関して、米国のシスコシステムズ(Cisco Systems)の元会長兼CEOであるジョン・チェンバース(John Chambers)氏の言葉を思い出す。シスコシステムズはネットワーク機器の最大手として知られるが、チェンバース氏はIBMを経て、ワング・ラボラトリーズの上級副社長を務めた後、91年にシスコシステムズの会長兼CEOに就任した。就任時には同社の年間売上高は12億ドルであったが、8年後には100億ドルを超え、2014年7月期は470億ドル超える成長を遂げ現在に至る礎を築いた。これは同氏があらゆるネットワーキング機器の分野でNo.1もしくはNo.2を目指し、組織拡大と企業買収を行った結果だといえる(注4)。

チェンバース氏は数多くのM&Aを踏まえて、成功の秘訣は次の5つだという。

  1. 二つの会社はビジョンを共有する。
  2. 短期的な勝利を獲得する(そうでなければ両社の社員がやる気を失う)。
  3. M&Aの背景に長期的な戦略をもつ。
  4. 両社の社員間の協力関係を築く。
  5. 両社が地理的に接近(そうすれば、有能な人材を失わずに済む)。

上記の5つは常識的な話だと思う向きもいることだろう。だが、この当たり前のことが日本企業で確実にできている企業がどのくらいいるだろうか。そして、大事なのは実証結果の4番目の経営権を掌握することで、買収した企業にトップを送り込んで自社のやり方でマネジメントを変えることができるかどうかだ。これはGEの元CEOウェルチ氏の持論だが、この点を踏まえて5つの秘訣を読むと実に含蓄があると思うのである。

M&Aは世間の通説とは異なり、成功確率は5割で株主価値の向上やパフォーマンスの改善に効果があることが実証研究より明らかになった。そして、M&Aで成功するには、買収した企業にトップ及び幹部を派遣して自社のやり方でマネジメントを徹底させることだ。それには、IN-OUTに注力すればグローバルなタレントをもつ人材、つまりチャンレンジと創造が出来る有能な人材は不可欠で、自社の卓越したマネジメント手法と人材の質と量が勝負を決める。

道は険しいがM&Aを積極的に活用すれば世界が見えてくる。その前にやるべき課題をいま一度チェックしてグローバル企業としての飛躍を目指してほしい。


注1:
M&Aに関する情報は株式会社レコフのデータによる.

注2:
M&Aの実証研究に関しては下記を参照.

「日本のM&Aの成功率は5割――実証研究の第一人者が検証し,課題を提示」(2014年5月号「マールインタビュー」, MARR Omline)

https://www.marr.jp/genre/talk/chief/entry/4225

M&Aの成功確率5%と発言する代表例は下記を参照.

「日本企業の海外企業M&A急増 成功率は「5%」(2015年3月22日「大前研一のニュース時評」, zakzak)」

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150322/dms1503220830004-n1.htm

注3:
LIXILグループの記事に関しては下記を参照のこと.

「LIXIL、優良子会社はなぜ破産したのか」(2015年6月7日付「東洋経済ONLINE」)

http://toyokeizai.net/articles/-/71470?display=b

注4:
チェンバース氏の言葉については,エグゼクティブ・サーチ会社のトップによる下記の書物を参考にした.

Thomas Neff and James Citrin,Lessons from the Top: The Search for America's Best Business Leaders(Doubleday Business, 1999).

注5:
本稿は下記の拙稿から一部を引用,加筆訂正した.

2015年6月の提言:『M&Aによる成長戦略の課題』

http://www.csconsult.co.jp/teigen/1506.html

9月の提言:『変わらない日本、日本企業はどう変わるか!』


2008年9月のリーマン・ショック後10年目を迎えた。世界経済は危機を乗り越えて、特に米国は2009年7月から景気拡大局面が持続している。日本も実感なき景気回復といわれながら2012年12月から回復期に入り来年2月まで持続すれば74ヶ月で戦後最長となる。

このようにリーマン・ショックという危機に直面後世界経済は堅調に推移してきた。双日総研の吉崎達彦氏によると「危機で変わった米国」、「変わらなかった日本」、「変わった部分と変わらない部分が同居する中国」だという。確かに世界の時価総額上位企業をみると、トップ5はいわゆるGAFAプラスマイクロソフトである。以前は米国の製造業、石油、金融が上位を占めていたが、リーマン後リアルエコノミーからヴァーチャルエコノミーへと変身したのである。一方、日本はといえば、輸出入品目をみると、リーマン前もリーマン後も変化は少なく、「変わらなかった日本」といえる(注1)(注2)。

リーマン後も変わらなかった日本だが、今後どのように変わるべきか。今月はマネジメントの時代流れを概観しながら、今何をすべきなのか、その方向を探ってみたい。筆者は世界のマネジメントの潮流の変遷を次のように考えている(括弧内は中心となる年代)(注3)。

  1. プロダクト・アウトの時代(~1950年代)
  2. マーケット・インの時代(1960年代~)
  3. 戦略の時代(1970年代~)
  4. 競争の時代(1980年代~)
  5. ネットワークの時代(1990年代~)
  6. M&Aの時代(2000年代~)
  7. 拡グローバル経営の時代(2010年代~)

先ず、経営学の黎明期には科学的管理論から大量生産方式、人間関係論、行動科学へと続く、供給サイドの管理、マネジメントが主流であった。作る側の生産性アップという時代の要請に応えたもので、プロダクト・アウトの時代であったといえる。次に、資本主義社会が発展し、消費行動も成熟化し始めると、大量生産システムを通じて安定的にモノを市場に流すには、市場、顧客の視点からの発想が不可欠であった。このため50年代から60年代以降、マーケティングやマーケティング・リサーチが発展し、マーケット・インの時代になった。

その後、企業が成長し規模が拡大するとともに、また多角化が進むに従って、生産やマーケティングなどの機能別でみた視点を超えて、より複雑な企業組織の行動指針が求められるようになった。60年代からチャンドラーやアンゾフなどの戦略研究が世に出て、事業部制組織や製品ポートフォリオ分析などが戦略づくりのツールとして用いられたのもこの頃だ。このように70年代以降は、多角化し複雑化する企業経営に対応した戦略論が普及した「戦略の時代」といえる。

80年代以降は「競争の時代」である。グローバルな競争環境が激化しはじめると、ポーターの「競争の理論」が一世を風靡した。企業の外部環境や業界でのポジショニングを分析した上で、競争戦略を「集中」「コスト・リーダーシップ」「差別化」の3つに分ける考え方は、シンプルであることとも相俟って世界の企業経営に取り入れられた。競争の戦略は、グローバルなメガ・コンペティションに勝つための戦略フレームを提供したものであった。

90年初めにポーターの競争戦略とは対極にあるといわれた「リソース・ベースト・ビュー(RBV)」が注目されるようになった。これは企業内部の経営資源に競争優位の源泉を求めるものだが、提唱者のバーニーも認めるようにRBVだけでは自己完結的な戦略論とはいえない。RBVは戦略の重要な次元の一つである事業領域を決めることはできないからだ。筆者は、実務的にポーターの戦略論とRBVは補完的に活用すればよいと思っている。また、80年代から90年代初頭にかけては、カイゼンやコア・コンピタンスなどのように、日本企業研究が米国流の経営手法として再生された時期でもある。

90年代に入って、インターネットを始めとする情報通信技術の発達によって、ビジネス・システムやマネジメントが大きく変化した。ネットを通じた商取引や社内ネットの活用が進むとともに、戦略提携などのリアルな企業のネットワーク化も進展した。このような「ネットワークの時代」に対応して、Eビジネスあるいはウェブに関するマーケティングや戦略提携を含めた企業グループ経営の新たなパラダイムの構築が進んだ。90年代はバーチャル、リアル両面で「ネットワークの時代」だといえよう。

2000年代の最初の10年は「M&Aの時代」ということができる。欧米ではM&Aの歴史は古いが90年代から21世紀に入って、メガディールといわれる巨額買収が増加し、また特に欧州でクロスボーダー型の買収が増加した。日本では1997年に持株会社が解禁され、99年には株式交換・株式移転の導入、翌2000年には会社分割の導入などM&Aの環境整備が行われた。その結果、日本でも2000年以降M&Aが活発となり、戦略オプションの一つとして定着してきた。リーマンショック後、世界及び日本のM&Aは低迷したが現在は復活し、今後もM&Aが企業の重要な選択肢であることは変わらない。特に、日本企業のIn-Out、つまり海外企業のM&Aは一層活発化するだろう。

さて、2010年代はどのような時代か。筆者は「拡グローバル経営の時代」だと考える。先進諸国の成長力が低下する中で、日米欧の企業は国内から海外、特にBRICs諸国をはじめ新興国へと地域的な事業ポートフォリオ(エリアポートフォリオ)を拡大している。また、BRICs諸国その他の企業は、先進諸国への展開を模索する動きが更に強まるものと思われる。日本はといえば、少子高齢化の進展で国内市場の縮小が必至である。これまで超ドメスティックといわれた業界も企業も、海外への進出を視野に入れざるをえない。実際、「ユニクロ」や「無印良品(MUJI)」そして外食産業をみてもすでに海外出店を強化している。グローバル企業はもちろん、超ドメ業界も超ドメ企業にもグローバル経営が「拡大する」という意味で「拡グローバル経営の時代」になるのではないか。

かつて業界トップを争っていた企業は多い。しかしながら、80年代後半以降、業界トップ企業の海外展開によって二番手以下の企業は大きく差をつけられたケースは多い。当時の日本はまだ国内市場のポテンシャルが残っていたため、海外展開に躊躇してもそれなりに業績を維持することができた。だが、環境は大きく変わった。今こそグローバルな事業ポートフォリオ、つまりエリアポートフォリオの構築をさらに推進すべきではないか。

日本が米国のGAFAのような企業群を輩出するには幾多の壁があるだろう。日本企業がヴァーチャルエコノミーで生き残りをかけるのは無謀というしかない。そこで、筆者は日本企業はグローバルなエリアポートフォリオの拡充にさらに注力すべきだと思う。それには、これまでの日本的経営を見直し、多国籍なグローバル企業に適したマネジメントの変革が不可欠である。


注1:
詳しくは下記を参照.

双日総合研究所・吉崎達彦「リーマン・ショックから10年目の世界経済」(2018年9月7日付『溜池通信』Vol.468)

注2:
GAFAはGoogle(親会社は持株会社Alphabet),Apple,FacebookそしてAmazonの頭文字をとったもの.

注3:
マネジメントの潮流に関しては2010年5月の提言『拡グローバル経営の時代』に基づき加筆訂正した.

http://www.csconsult.co.jp/teigen/1306.html
記事検索
最新コメント
月別アーカイブ
プロフィール

asktaka

Twitter
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ