August 29, 2020

債務保証と利益供与と取消事由

今日は京大の商法研究会臨時例会(オンライン)。1件目に、京大の前田先生から、東京高判平成29年1月31日金判1515号16頁についてご報告。議論が盛り上がったのは、次のような問題だった。

非公開会社の経営支配権をめぐって争いがある中で、株主Aが、経営陣にとってより友好的なBに、株式を譲渡した。会社は、Bの負う売買代金債務の支払いについて、連帯保証をした。
(1)この連帯保証は利益供与(会社120条1項)か
(2)Bが議決権行使をして成立した株主総会決議には取消事由があるか

(1)について、前田先生のご報告では、利益供与にはあたらないとした東京高裁の判示には問題があり、むしろ、利益供与にあたると解するべきであるということだった。これについては、フロアでは特に争いはなかったし、私もそれはそうだと思った。

フロアで意見が分かれたのは、(2)の問題。前田先生のご報告では、AB間の株式の売買契約自体は有効であるが、Bが議決権行使をして成立した決議には取消事由があるのではないか、いうことだった。これについて、まず、そうだとして、その後もずっと、Bが議決権行使をする限り、決議には取消事由があるということになるのか、という話になった。

私は、AB間の株式の売買契約自体は有効だとしつつ、Bがその株式を保有する限り、来年も再来年も、Bが議決権行使をすれば、決議には取消事由があることになるというのが、どうもおかしく感じられたので、あえて、AB間の株式の売買契約自体は有効だとすれば、Bによる議決権行使にも違法な点はなく、決議には取消事由はないという考え方も、ないではないのではないかと発言してみた。

これに対して、師匠の森本先生からは、AB間の株式の売買契約は無効だという考え方もありうるのではないか、売買契約が無効だと考えれば、Bは株主でないことになるので、問題の処理もすっきりするのではないか、というご発言があった。

結局、それ以上議論が進まずに時間切れになったので、研究会が終わってからもう少し自分で考えてみたのだが(例によって間違っているかもしれません):

まず、AB間の株式の売買契約の効力なのだが、これはやはり有効だと考えるのが素直ではないか。AB間の株式の売買契約自体が利益供与なのではなく、Bの売買代金債務の支払いを会社が連帯保証したことが利益供与なわけだから、売買契約が強行規定違反であるとは考えられないだろう。それ以外にAB間の株式の売買契約を無効だと考える根拠があるかということなのだが、果たして、Bの売買代金債務の支払いを会社が連帯保証したことが利益供与にあたるからといって、AB間の株式の売買契約が、たとえば公序良俗違反だといえるか。最初からBが売買代金債務を支払うつもりはなく、実質的には会社がこれを負担することが予定されていたのであればともかく、そうでなければ、会社が連帯保証をしたことで売買代金債務の履行が確実になり、Aも株式を手放す気になったというだけで、AB間の株式の売買契約を無効にすることはできないだろう。

このように、AB間の株式の売買契約が有効である、つまり、Bは有効に株式を取得したということを前提に、Bが議決権行使をして成立した株主総会決議に取消事由があると考えられるか。今から思えば、これについては、まず、その取消事由が、具体的に、会社法831条1項のどの取消事由なのかを、きちんと考えるべきだったように思う。

Bが有効に株式を取得しており、また、利益供与に該当するのは会社による連帯保証だ(AB間の株式の売買契約が違法だというわけではない)ということからすると、Bが議決権を行使したことが、決議方法の法令違反であると考えるのは、やっぱり無理がありそうだ。そうすると、取消事由として問題になるのは、Bが議決権を行使したことが、決議方法の著しい不公正にあたるかどうかということだ。

このように、「Bが議決権を行使したことが、決議方法の著しい不公正にあたるかどうか」を問題にするのであれば、AB間の株式の売買契約が有効かどうかということも、決定的な問題ではなくなる。ここでは、経営支配権をめぐって争いがある中で、会社から連帯保証という援助を受けて株式を取得したBが議決権を行使したこと(そのような者の議決権行使を認めたこと)は、決議方法の著しい不公正にあたるといえるか、ということを問題にすればよい。

こう考えてくると、少なくとも、Bが株式を取得して初めての議決権行使については、取消事由(決議方法の著しい不公正)があると考えて良さそうだ。そして、その後は、時間の経過とともに、Bによる議決権行使が帯びる不公正性は薄まるだろう。いずれかの時点で、Bが議決権を行使しても、決議方法は(少しは不公正でも)著しくは不公正ではないということになるのではないか。

また、Bが議決権を行使したことが、決議方法の法令違反であると考えれば、どうか。その場合も、やはり、時間の経過とともに、Bによる議決権行使が帯びる違法性が薄まると考えることはできないだろうか。

他方で、こういうふうに、時間の経過とともにBによる議決権行使が帯びる不公正性・違法性が薄まると考えるのが無理だとすれば、やっぱり、最初から、Bが決議権行使をした株主総会決議には、取消事由はないと考える方が良いようにも思う。

assam_uva at 23:48|PermalinkComments(1)││研究 

August 24, 2020

非株券非振替株式

前回の記事に書いた、「株券発行会社の株式でも振替株式でもない株式」の短い呼び方。法学教室の連載10月号の入稿時には、「非株券株式」にしていたのだが、やはりこれは言い方として正確ではない(振替株式だって株券は発行されていない)ので、迷った挙句、「非株券非振替株式」という格好悪い言い方にすることにした。しかしこれでも、随分字数も節約できるし、言い方としてもシンプルになった方ではないかと思う。

もう少しマシな言い方はないかと思って考えてみたものの、最後まで迷って結局使わなかったのが、次のような言い方(もしかしてこっちの方がよかったのかもしれないが、あまり勝手な言い方を作るのもどうかなと思って、見送りました)。

「単純譲渡方法株式」

「合意譲渡株式」

assam_uva at 16:08|PermalinkComments(0)││研究 

August 12, 2020

株主名簿

ここ数か月、毎月来る法学教室の連載の締切りを何とか守りつつ、その他の仕事もやって、という過ごし方をしている。法学教室の連載は、開始時に2回分あった貯金のうち1回分をすでに使ってしまい、自転車操業待ったなしの状態だけど。お盆過ぎに入稿する10月号分では、当初、株式の譲渡制限について扱う予定だったのだが、その前に、株式の譲渡方法や株主名簿について扱う方がいいと思い、その原稿を今書いている。その過程で気になったこと((2)は思いつきなので間違っているかもしれません):

(1)「株券発行会社の株式でも振替株式でもない株式」

江頭第7版220頁などに書かれているこの言い方なのだが、正確ではあるけれど、やはり長すぎるように思う。勝手に言葉を作ることは慎まなければならないとはいえ、記述を簡潔にするために、ここはあえて、何か短い言い方を作ろうと思っている。今のところ有力なのが、「非株券株式」。不正確すぎていろんな人に怒られそうな言い方だけど。

(2)株主名簿の資格授与的効力

会社法に明文の規定があるわけでもないのだが、株主名簿の資格授与的効力といわれるものがある。この意味の説明の仕方は2通りで、(ア)譲受人の氏名等がいったん株主名簿に記載されれば(名義書換えがされれば)、それ以後、その者は権利行使のたびに自己の権利を証明する必要はない、という説明(逐条解説会社法(2)255頁[北村雅史]、また、資格授与的効力とは言われていないが江頭第7版210頁)と、(イ)名義書換えがされれば譲受人は正当な株主と推定される(大隅=今井=小林・新会社法概説124頁)、という説明がある。

(イ)の意味での資格授与的効力を観念すべき理由として思いつくのが、(A)(ア)のような効力(名義株主は権利行使のたびに自己の権利を証明する必要はない)を説明する理屈として必要である、それから、(B)株主名簿の免責的効力(名義株主が[最初から]無権利者であった場合にも、会社は、悪意・重過失がない限り、その者を株主として扱ったことについて免責される)を導き出すための理屈として必要である、というあたりだろうか。

しかし、(イ)の意味での資格授与的効力は、観念する必要はないというか、むしろ、観念すべきではないようにも思われる。

(A)についていえば、(ア)のような効力は、「名義株主は正当な株主と推定されるからだ」と説明しなくても、「それが株主名簿制度の根本的な趣旨だ」と説明すれば足りるように思える(今井克典「株主名簿の名義書換えの効力と記載・記録の効力」法政論集263号(2015年)17頁には、そういう説明じゃダメだと書いてあったが、なぜダメなのか、私には理解できなかった)。株主名簿制度は、株主名簿の記載を基準として株主に権利行使をさせる制度であり、それなのに、名義株主が権利行使のたびに自己の権利を証明する必要があるのでは、株主名簿の記載を基準に権利行使していることにならないのだ。このような株主名簿制度の根本的な趣旨は、会社法130条に表現されているとも考えられる(会社法130条は、直接的には、株式の譲渡は名義書換えをしなければ会社に対抗することができない[株主名簿の確定的効力]と定めるものだが、この規定には、「いったん名義書換えをすれば株式の譲渡を会社に対抗しつづけられる」(=(ア)の効力)という意味も含まれていると解釈してもよいのではないか)。

また、(B)についていえば、株主名簿の免責的効力を、(イ)株主名簿の資格授与的効力だけから根拠づけることは適切ではない(久保田安彦・会社法の学び方39頁注5)。株主名簿の免責的効力は、あくまで、手形法40条3項の類推適用(またはこの規定に表現される有価証券法理)によって根拠づけるべきだろう。(1)に書いた「非株券株式」について株主名簿の免責的効力が認められるかという問題も、「非株券株式」について手形法40条3項を類推適用すべきかによって決めるべきだと思う。

assam_uva at 13:12|PermalinkComments(0)││研究 

May 14, 2020

手形法・小切手法の講義資料配布

5月14日から、手形法・小切手法の講義資料の配布(公開)を始めました。講義の提供の方法、資料の配布の方法についていろいろ迷って、結局、次のようなやり方に落ち着きました。

(1)講義の提供方法

以下の<配布資料>を参照しながら、<講義音声>を聴くことで講義を受けてもらうというやり方(資料提示型授業)。学生は、<配布資料>を印刷したうえで、<講義音声>を聴きつつ、レジュメの余白に自分でメモを書き込む。

<講義音声>
=講義の音声(mp3形式)
→Windows10付属のボイスレコーダーアプリで録音(録音用に外付けの小型マイクを買った)した上で、無料の変換アプリを使い、mp3形式に変換(別にmp4のままでもいいのかもしれませんが、mp3の方が若干データ量が少なくなるので、変換することにしました)

<配布資料>
=レジュメ、その他の資料(いずれもpdf形式)
→レジュメはもともとword形式で作っているが、pdfに変換(pdfの方が学生の側がスマホで表示するときに問題が少ないとも聞いたので。もっとも、wordのままでも、スマホにwordアプリ[無料]を入れておけば、問題なく表示はされると思います)

(2)講義資料の配布(公開)方法

・<講義音声><配布資料>を、大学が教職員に提供しているオンラインストレージ(Webdisk)にアップロードし、Web公開(各音声・資料にURLを付与)

・学生には、各音声・資料のURLを表示した文書(URL文書)を、メールで配布するとともに(大学の提供するduetというシステムでこれをやる)、同じURL文書を大学の提供するウェブ教材配布システム(e-classというシステム)にもアップロード

・学生は、URL文書のリンクから、上記のオンラインストレージにアップロードされた各音声・資料をダウンロードして利用

→当初はe-classに各音声・資料を直接アップロードすることも考えましたが、とにかくe-classが使いづらいため、各音声・資料の格納場所自体はWebdiskにしました(e-classは文書のアップロード等が面倒な仕様なので、私はもともと、わざわざ自分で作ったウェブ・サイトで講義資料の提供などをやっています)

なお、<配布資料>のうちレジュメは、後日、上記のウェブ・サイト(伊藤研究室)(文字化けする場合はページ更新してください)でも公開します。

assam_uva at 09:43|PermalinkComments(0)││教育 

April 30, 2020

近況

・勤務校の大学院・ゼミの授業は、MicrosoftTeamsを使った双方向オンライン型授業にすることにしました。大学院の授業2つと、ゼミは、それぞれ初回を終え、次は連休明け。勤務校はZoomよりもMicrosoftTeamsを推しているようなのでこちらを使ってみていますが、音声が出なかったり映像が映らなかったりということもあり、Zoomに切り替える可能性も考えています。

・講義(手形法・小切手法)は、いろいろ考えましたが、資料提示型授業にすることになりそうです。当初は、パワーポイントに音を乗せたものを大学の資料配布システムにアップロードしたり、パワーポイントに音を乗せたものをmp4の動画にして、それをYoutubeで限定公開し、そのURLを受講者に知らせるという形も考えてみたのですが、結局、(1)授業のレジュメその他の資料と、(2)その授業の音声(mp3)を、大学の資料配布システムにアップロードするという形で落ち着きそうです。私の場合、もともとパワーポイントを使っておらず、レジュメその他の資料を配布して、私が話す内容をその場でレジュメにメモしてもらうという形の講義ですので、要するに、私の声とレジュメがあればそれでよいのではないかと思ったためです。講義の資料の配信は連休明けからなので、とりあえずは、初回分の音声だけ、録音をしてみたところです。

・その他の仕事としては、法学教室の連載の数か月後の分をせっせと書いています(数か月分の貯金なしで2年の連載をやるなどというのは心臓に悪いので、こうやって少しでも貯金をためるべく頑張っているのです)。競業取引と利益相反取引でそれぞれ1回ずつ使うことにして、この3月〜4月に、いろいろ調べて原稿を書きました。それ以前の回に比べれば、読まなければならない文献や裁判例も多く、また、難しい話をどこまで文章に含めるか迷うところですが、何とか原稿を完成させることできそうです。

assam_uva at 12:29|PermalinkComments(1)││雑感その他