July 01, 2016

期差取締役会は企業価値を向上させるという論文

K. J. Martijn Cremers & Simone M. Sepe, The Shareholder Value of Empowered Boards, 68 Stan. L. Rev. 67 (2016)

米国のほとんどの州で、株式会社の取締役会の任期は、(1)取締役の任期を1年とし、全取締役が毎年改選されるか、(2)取締役をいくつかのグループ(通常は3つ)に分け、毎年どれか1グループの取締役だけが改選される(3グループに分けた場合、取締役の任期は3年になる)か、どちらの決め方もできる。(2)のような任期を定めた取締役会を、期差取締役会(staggered board)という。

この期差取締役会については、これがポイズン・ピルと相まって強力な買収防衛措置になってしまっているという批判や、また、期差取締役会が企業価値の低さと相関しているという実証研究があった。そして、米国では、近年になって株主の力が増大しており、期差取締役会を廃止する会社も多数出ている。期差取締役会は早晩姿を消すと言う人もいるぐらいだ。

これに対して、この論文は、期差取締役会の企業価値への影響に関する従来の実証研究には限界があるとし、1978年から2011年までの期差取締役会採用・廃止に関するパネル・データにもとづく実証研究によれば、firm-fixed effectsをコントロールした場合には期差取締役会とトービンのQは正の相関を示すと述べる。つまり、期差取締役会は企業価値をむしろ向上させるという実証結果が示されている(私はこのあたり疎いので、本当にザックリしたまとめです)。

期差取締役会が企業価値を向上させることの理論的な説明として、この論文は、期差取締役会が株主によるコミットメントの仕組みとして働くと述べる。株主と経営陣・株主以外の利害関係者との関係を長期的な契約と捉えれば、経営陣の交替(また、それによる企業の経営方針の変更)の可能性があることは、長期的な契約について一方的に再交渉する権利が株主に与えられていることを意味する。しかし、このような再交渉の権利が与えられていると、経営陣のインセンティブが歪み(短期的な成果の出るプロジェクトが好まれる)、株主以外の利害関係者は最適な投資をしない。このような問題を緩和するためには、株主が再交渉権を行使しないとコミットメントをする必要があり、期差取締役会は、そのようなコミットメントの仕組みとして働くとされるわけだ。特に、近年の、標準化されない革新的な技術の開発を伴い、特定の人的資本の投入に依存するような事業(そしてこれが今日では重要になっている)を営む会社については、このようなことが当てはまる。

もちろん、取締役会の権限を強めることには、経営陣のモラル・ハザードの危険もある。この、株主によるコミットメントの必要性と、経営陣のモラル・ハザードとのトレード・オフについて、この論文は、経営陣のモラル・ハザードへの対処の手段は、株主の権限を強化すること以外にも、業績連動型報酬などいろいろな対処法がある一方で、株主によるコミットメントの必要性については、期差取締役会でいくしかなく、トータルでは、期差取締役会の採用(取締役会の権限強化)が株主の権限の強化よりも勝るとする。

以上のようなこの論文での検討からすれば、期差取締役会の廃止が望ましいどころか、むしろ、期差取締役会を復活させなければならないことになる。この論文によれば、そのためには、株主権の強化の流れを止めるだけではなく、取締役会の権限強化が必要だとされる。そのために、この論文は、期差取締役会を quasi-mandatory なルールとすることを提案する。期差取締役会をデフォルト・ルールとし、ここから opt-out するための基本定款変更を提案する権限は取締役会だけに与える(株主にはそのような権限を与えない)というわけだ。

assam_uva at 17:43|PermalinkComments(0)││論文紹介 

June 18, 2016

M&Aa取引における特別委員会の進化する役割

Scott V. Simpson & Katherine Brody, The Evolving Role of Special Committees in M&A Transactions: Seeking Business Judgment Rule Protection in the Context of Controlling Shareholder Transactions and Other Corporate Transactions Involving Conflicts of Interest, 69 Bus. Law. 1117 (2014)

デラウェアの判例における特別委員会の扱い、特別委員会を用いることで有利な扱いを受けるためにどのような点に留意すべきか(In re MFW Shareholders Litigation, 67 A.3d 496 (Del. Ch. 2013) と In re Southern Peru Copper Corp. Shareholder Derivative Litigation, 52 A.3d 761 (Del Ch. 201)の比較からすると、特に、特別委員会に交渉権限・代わりのオファーを探す権限・オファーを断る権限等々、取締役会全体と同様の権限がきちんと与えられていることが重要)、また、特別委員会というものの役割がたとえばヨーロッパでも高まってきているということを概観する、弁護士が書いた論文。取締役の信任義務(注意義務、忠実義務)違反についての裁判所の審査基準や、利益衝突がある取引(MBOや支配株主との取引など)について用いられる特別委員会に関するデラウェアの判例法理についてざっと復習しようかと思って読んだ。

assam_uva at 22:09|PermalinkComments(0)││論文紹介 

June 11, 2016

金融イノベーションとガバナンス・メカニズム

Henry T. C. Hu, Financial Innovation and Governance Mechanisms: The Evolution of Decoupling and Transparency, 70 Bus. Law. 347 (2015)

フーがデカップリング(decoupling)や開示についてのこれまでの自分の研究を概観するもの。フーのこれまでの研究を手っ取り早くつかむのによいかもしれない。

(1)デカップリング

エクイティやデットというのは、古典的な理解では、一定の権利・義務が束ねられたパッケージと考えられてきた(エクイティであれば、議決権や配当受領権等々、デットであれば元本・利息の支払請求権やコベナンツ上の権利、さらに、倒産手続上与えられる権利等々)。それが、今日では、デリバティブ等を使うことで、これらの束ねられていた権利を実質的に分離することができるようになった。フーのいうデカップリングというのは、このような分離のことで、フーは一連の研究でこの問題を取り扱ってきた。エクイティでもデットでもこのようなデカップリングが様々な方法をとって行われる可能性があり、また、現実に行われてきている。デラウェア州の判例でも制定法でも、また、米国の連邦法でもEUでも、デカップリングという現象を認識してこれに対処しようという動きが見られる。

(2)開示

フーによれば、SECの開示システムは、これまで、客観的な現実を発行会社が開示書類にまとめてそれを投資家等に提供するというやり方をとってきた。客観的な現実そのものを投資家等に見せるのではなく、客観的な現実を発行会社が観察・分析した上で開示書類に表現して、それを見せるというわけだ。ところが、デリバティブ等がいろいろと発展してくると、このような開示のやり方では、発行会社が負っているリスクを上手く表現できないとされる。たとえ発行会社がリスクを把握していても、表現方法の限界からきちんと開示書類に表現することができないかもしれないし、発行会社自身がリスクをきちんと把握できないかもしれないからだ。そこでフーが提案するのが、(a)客観的な現実をいわばそのまま開示するというやり方と、(b)多様なデリバティブ等のリスク・リターンを測定する一定の数学的手法を規制機関が設けて(その手法自体も公開される)、発行会社はそれを用いて計算した数字を開示する義務を負うというやり方。

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June 02, 2016

丹後半島

初夏の天気の良い日に、一度行ってみたかった丹後半島の先端へ。経ヶ岬の灯台を見てから、袖志の棚田と集落を訪ねました。

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パノラマ。クリックすると大きい画像が表示されます。
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assam_uva at 23:55|PermalinkComments(0)││雑感その他 

June 01, 2016

エンダーのゲーム

オースン・スコット・カード(田中一江訳)『エンダーのゲーム〔新訳版〕(上)』(ハヤカワ文庫、2013年)
オースン・スコット・カード(田中一江訳)『エンダーのゲーム〔新訳版〕(下)』(ハヤカワ文庫、2013年)

異星人との間の絶滅戦争(しかも物量は地球の方が圧倒的に不利)の最高司令官となるべく選ばれた子供(物語開始時点で6歳!)がゲーム仕立ての訓練を受け、戦争に勝利し、そして…、という話。特別な能力を持ち、家庭的にはあまり幸福でない子供が、否応なく戦いに参加して…というところに、日本のアニメへの影響を言う人も多い(そういう構造を持つ物語自体は、神話や伝説にもたくさんあると思うけれど)。指揮官論やリーダーシップの手本になるという人もいる。私自身は、設定が(話の都合上のものも含めて)作りこまれていて、細かいものも含めてそういう設定が最後まで意味を持っていることに感心しつつ読んだ。途中の訓練やら戦争やらについてはそれほど面白味も感じなかったのだが、戦争が終わった後の話に感動。

assam_uva at 22:07|PermalinkComments(0)││読書