June 19, 2018

株式の譲渡を承認しない旨の議案?

今からもう1年以上前のJPX金商法研究会で、譲渡制限株式の譲渡の承認をするか否かを株主総会が決定する際に(会社法139条1項)、「不承認の議案」(譲渡を承認しない旨の議案)を出せるのかといった話が出た。また、同様の話が、先週出席した私法学会シンポジウムの準備会でも出てきた。この「不承認の議案」という話、私にとっては、勤務校ロースクールの授業を教えに行っていたころから、何だかおかしいというか、どうしてそういうことを考えなきゃいけないのかが分からないという話だ。

前田雅弘=洲崎博史=北村雅史『会社法事例演習教材〔第3版〕』(有斐閣、2016年)153頁以下の【設例8−2】(私が勤務校ロースクールに教えに行っていたときは第2版の【設例9−3】)は、「不承認の議案」というものがありうることを前提に、株主総会が可否同数の場合にどうなるかということや、その場合に備えた定款規定の作り方といったことが出題されている(と思う、多分)。「不承認の議案」がありうるという前提に立てば、株主総会が可否同数の場合、「不承認の議案」も「承認の議案」も成立しないため、承認をするか否かの決定をしたことにはならないということなのだろう。

しかし、そういったややこしい問題は、そもそも、この場合に「不承認の議案」を提出することが適法だと考えるから出てくるのであって、「不承認の議案」は不適法である、つまり、譲渡制限株式の譲渡の承認をするか否かを株主総会が決定する際には、「承認の議案」(譲渡を承認する旨の議案)に関する可否という形で決定しなければならないのだと解釈べきなのではないか(実際、上記のJPXの研究会でも、龍田先生は、「承認しない議案というものを出すことなどあるのでしょうか」とおっしゃっている)。

この場合に「承認の議案」を提出しなければならない(「不承認の議案」は不適法)と考えれば、後は、次のように考えることができる(これが普通の解釈なのではないだろうか)。
(1)「承認の議案」について決議が可決成立すれば、譲渡を承認する旨の決定をしたことになる。
(2)「承認の議案」について決議が成立しなければ、譲渡を承認しない旨の決定をしたことになる(140条1項にいう「承認をしない旨の決定をしたとき」に該当するために「不承認の議案」が可決される必要はない)。
(3)上記(1)(2)いずれにしても、139条2項にいう「前項の決定をしたとき」(承認をするか否かの決定をしたとき)にあたり、139条2項による通知は可能であり、そのような通知を期間内にすればみなし承認(会社法145条1号)は生じない。

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June 02, 2018

改訂コーポレートガバナンス・コード補充原則4−2

6月1日から施行された改訂コーポレートガバナンス・コードのうち、経営者の報酬規制を研究する者にとって興味深いのは、補充原則4−2,澄F永篏叱饗Г虜能蕕諒犬蓮⊆,里茲Δ鵬められた。

「取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。」

これを文字通り読めば、同コードは、取締役会が経営陣の具体的な報酬額を決定することを原則としている(したがって、個々の取締役の報酬の決定の代表取締役への再一任などもってのほか)ようにも見える。しかし、東京証券取引所は、「『フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について』に寄せられたパブリック・コメントの結果について」の23頁で、「実務においては、具体的な報酬額の決定を、取締役会から代表取締役等に再一任する対応も行われていると承知しており、補充原則4−2,蓮△海Δ靴深駄海鯣歡蠅垢襪發里任呂△蠅泙擦鵝廚判劼戮襦

そうはいっても、「補充原則4−2,蓮経営陣による上場会社の持続的な成長に向けた健全な企業家精神の発揮に資するインセンティブ付けの観点から、経営陣の報酬制度の設計及び具体的な報酬額の決定を、取締役会の責任の下で、客観性・透明性ある手続によって決定することを求めるものです」とされ、代表取締役等への再一任という「対応を行う場合でも、十分な客観性・透明性が確保されるよう、取締役会の責任の下で、上場会社ごとに手続上の工夫がなされることが重要と考えられます」とされる(上記「パブリックコメントの結果について」23頁)わけだから、代表取締役への再一任をしている会社も、単に、「補充原則4−2,郎動貲い魑容するものだから、わが社は同補充原則を実施しているのだ」とは言えないのではないか。再一任自体を改めなくとも、報酬制度の設計と具体的な報酬額の決定について十分な客観性・透明性が確保されているということ(そのためには、「わが社の社長は公正無私な人です」とか、「職位に応じた基準があり、それに従って決めています」というだけではダメだろう)を、株主等に説明できるようにしておかなければならないだろう。

また、上記のように東証は補充原則4−2,再一任の実務を否定するものではないとするわけだが、そもそも、代表取締役への再一任は、「取締役会の責任の下で」の「客観性・透明性ある手続」による決定という同原則の求めるものとは、やはり相容れないというべきである。上記のような東証による説明は、究極的には再一任という実務が改められることが望ましいという判断を前提にしつつも、上場会社にはある程度の猶予期間が与えられることを示すものにすぎないとも考えられる。

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May 26, 2018

備置書面等を備え置かなかったことと株式交換の無効

先週末の京大商法研究会で扱われた裁判例の1つが神戸地尼崎支判平成27年2月6日金判1468号58頁。同判決の事案と、判決の要旨は、次のようなものだった。

【事実の概要】

Y1社(株式交換完全親会社)とY2社(株式交換完全子会社)が株式交換をしたが、株式交換契約を承認するためのY2の株主総会(以下では「本件総会」という)の招集通知に添付された「議決権の代理行使の勧誘に関する参考書類」には、「株式交換完全親会社の過去5年間にその末日が到来した各事業年度に係る貸借対照表の内容」と「Y1の最終事業年度に係る計算書類等」は後掲のとおりだと記載されていたが、それらの貸借対照表・計算書類等は添付されていなかった。Y2の株主であるXは、他の株主の委任状を持参してY2の本店で開催された本件総会に出席し、本件総会において、Y2に対し、Y1・Y2の各決算書等を閲覧謄写させるよう求めた。Y2から、Y2の決算書等はY1の西宮支店にのみ備置があり、Y2の本店に運ばれてくるのは午後になる旨の説明がされ、議事は進行した。株式交換契約の承認については、Xは反対したものの、出席株主の議決権の3分の2以上にあたる多数をもって可決された(このようにして承認された株式交換を、以下では「本件株式交換」という)。Xは、本件総会終了後の同日の午後に、Y2の過去5年分の決算書を渡されて閲覧したが、Y1の決算書等の閲覧は拒絶され、閲覧することができなかった。その後もXはY2にY1の過去5年分の決算書等の閲覧等を要求したが、最終的にXが閲覧できたのは、Y1の直近事業年度の決算報告書だけであった。Xは、本件でY2は株式交換契約の内容その他法務省令で定める事項を記載しまたは記録した書面または電磁的記録の備置き(会社782条、会社則184条)を怠ったとし、これを本件株式交換の無効原因と主張して、本件株式交換の無効の訴え(会社828条1項11号)を提起した。

【判旨】

「そうすると、上記…のとおり、本件株式交換については、備置書面等が備え置かれていなかったことになるが、それは、株主等利害関係人が本件株式交換の公正等を判断することを妨げ、株主の議決権行使等の権利行使に重大な支障を来すものである上、本件においては、被告会社の株主である原告…に現実の支障が生じているといえるから、本件株式交換の無効原因になるというべきである。」

この裁判例についての報告やその後の議論は興味深いものだったが、事前に読んでいたこの裁判例の評釈にはいくつかおかしいと思うところがあったし、議論を聞いていても何だかモヤモヤしたものが残った。以下、忘れないようにそのいくつかを記しておきます。

(1)本件での株式交換無効原因

本件で、Xは、会社法が要求する事前備置がされなかったことを無効原因だと主張した。そのため、裁判所も、上記のような事実から、まずは「Y2は事前備置を怠った」という評価をして、そのような事前備置の懈怠が本件株式交換の無効原因になるとした。

これに対して、フロアからは、そのような事前備置の懈怠そのものを本件株式交換の無効原因と捉えることには、次の意味で違和感があるという発言があった。すなわち、事前備置は、Y2の株主にとっては本件総会での議決権行使の参考となる情報を提供するためのものだから、その懈怠は、実質的には、株主総会の参考書類に不備があった場合などと同様に、株式交換承認決議の瑕疵というべきものであろう。ところが、(A)株式交換承認決議の瑕疵は吸収説によれば総会決議の取消の訴えの提訴期間(本件総会の日から3か月)の間しか株式交換の無効原因としては主張できないのに、(B)事前備置の懈怠をそれ自体として株式交換無効原因と捉えれば、そのような制約はないことになり(株式交換の無効の訴えの提訴期間である株式交換の効力が生じた日から6か月間はフルに主張できる)、これはアンバランスではないか、というのだ。

しかし、このようなバランス論には、あまり説得力がないように思う。この議論は、(A)の無効原因は主張できる期間が短いのに、それと性質上の違いがない(B)の無効原因についてそのような制約がないのはバランスを欠くとするわけだが、そもそも、なぜ(A)の無効原因を主張できる期間を短くしなければならないのだろうか。たしかに現在の通説である吸収説はそう考えているわけだが、むしろ、吸収説自体を再検討すべきではないかと思う。吸収説の根拠は、総会決議の効力の早期確定という総会決議の取消の訴えの趣旨をこの場合にも貫徹させるべきだという点にあるわけだが、なぜそう考えなければならないのだろうか。むしろ、組織再編の無効原因として、組織再編承認決議の瑕疵が主張される場合については、総会決議の効力の早期確定という考慮は後退し、組織再編の無効の訴えの提訴期間内であればそのような無効原因を主張して良いと考えて、不都合はないのではないか。

(2)株主の現実の支障

本判決の評釈でも、研究会での報告でも、本判決が述べた「被告会社の株主である原告…に現実の支障が生じているといえるから」という部分が問題とされ、株式交換無効原因としては事前備置の懈怠そのものがあればそれでよく、株主に現実の支障が生じていることを要求すべきではないのではないか、といった議論がされていた。

しかし、本判決のような下級審の裁判例について、そのような議論をすることは、あまり意味がないように思う。Xは本件総会で議決権を行使する前に事前備置書類の閲覧をY2に請求した(株主総会の議場で請求をしたようなので、これが会社法782条3項の請求として適法かということが問題になるかもしれないが、まあ、本店で開催された株主総会の席上で請求しているのだから、問題はないのだろう)にもかかわらず、議決権を行使するまでに、閲覧請求をした書類の閲覧ができておらず、かつ、閲覧請求をした書類(Y1の計算書類等)は本件株式交換の承認に賛成すべきかどうかを判断するための重要な書類だから、Xにとって実際に権利行使の支障が生じている。そのような事案で、「事前備置の懈怠があったし、Xに現実の支障が生じているのだから、無効原因あり」と裁判所が言っているにすぎない(しかもこれは、(3)にも述べるように、先例としての拘束力を有しない下級審裁判例だ)わけだから、そのことから、「株主の現実の支障」を要求すべきかといったことを一般的に論じる意味は大きくない。

また、本件ではXが事前備置の懈怠を無効原因として主張しているから、裁判所も、わざわざそのような無効原因があるかを判断している。しかし、本件での無効原因は、実質的には、「Xが本件総会で議決権を行使する上で必要な情報の提供を会社に要求した(そして会社はそのような情報を提供する義務があった)にもかわわらず、Xが議決権を行使するまでにそのような情報が提供されなかったこと」だとも考えられる。組織再編の無効原因は、別に、教科書やコンメンタールに例示されているものしかないわけではなく、事案ごとに問題点を抽出して、それが当該組織再編の手続の重大な瑕疵なのかどうかを検討する、というやり方をとればよいのではないかとも思う。

(3)本判決の「射程」?

これは研究会でも発言したのだが、当日の報告や、一部の評釈(たとえば、藤林大地「判批」ジュリスト1492号(2016年)110頁)では、本判決について、「射程」という言葉を使っている。しかし、下級審裁判例には先例としての拘束力もないのだから、その「射程」というものを議論しても意味がない(先例としての拘束力がある最上級審の判例だからこそ、その「射程」が議論される)。ちなみに、藤林・前掲評釈が「射程」という言葉を使って引用をしている弥永真生「判批」ジュリスト1485号(2015年)2頁は、射程という言葉を使っておらず、「この理は…妥当するものと考えられる」という表現が使われている。

(4)平成26年改正後の変化

当日の報告や、一部の評釈では、平成26年改正後に、事前備置の懈怠が組織再編の無効原因になるかが論じられている。たとえば、久保大作「判批」私法判例リマークス52号(2016年)97頁では、「事前開示の不備については当該事前開示を正しく利用できないことが問題とされるべきなのであり、利用しようとした段階ですぐに気づくべき瑕疵については直ちに対処することを求めたとしても酷だとは思われない」とし、「この解釈に従うなら、本件のように事前開示書類が全く備置きされていないような場合においては、少なくとも株主においては専ら差止めによって争うべきであり、無効原因とはならない、と解されることになる。その意味で、本判決の射程は平成26年会社法改正後には及ばない、ということになろう」とされる。

しかし、そもそも「射程」という語を使うこと自体が適切ではないことは(3)に述べたとおりなのだが、より問題なのは、「その意味で、本判決の射程は平成26年会社法改正後には及ばない、ということになろう」とされていることだ。その文の前までは、平成26年改正後の組織再編の無効原因の捉え方をめぐる解釈論上の争い(差止めが可能であったような場合に無効原因はないと考えるべきなのか)について議論され、そのうち一方の見解(そのような場合に無効原因はないと考えるべきだとするもの)からして、事前開示書類が全く備置されていないような場合には、これが株主が訴えを提起する場合の無効原因にはならないと考えるべきである、という話がされている(本判決の読み方が議論されているのではなく、この問題についての同評釈の著者の見解が表明されている)のに、その締めが、「本判決の射程は平成26年会社法改正後には及ばない、ということになろう」というのはおかしい。

また、本判決の判例研究として、このような論点を扱うことは、適切ではないようにも思う。本判決は、平成26年会社法改正施行前の事例であり、当時は組織再編の差止めの制度もなかった。だからXも本件株式交換の差止めを申し立てておらず、後で、株式交換の無効の訴えを提起しているのだ。そのような事案を素材に、「差止めが可能であったような場合に無効原因はないと考えるべきなのか」という平成26年会社法改正後に生じた議論について検討することには、あまり意味はないだろう。

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May 06, 2018

ヘッジ禁止提案の有効性

東京地決平成25年5月10日資料版商事法務352号34頁は、HOYAの株主提案をめぐる一連の裁判例の一つで、平成25年6月に開催された同社の第75期定時株主総会に向けて、株主が株主提案の提案議題・提案の要領・提案理由を招集通知・参考書類に記載するよう求める仮処分の申立てをしたものだ。東京地裁は株主の申立てを一部認容し、認容された提案は実際に株主総会に付議された(どの提案が認容されたかといったことは、三浦亮太「株主提案の全部または一部を付議しない対応」野村修也=松井秀樹編『実務に効くコーポレート・ガバナンス判例精選』(有斐閣、2013年)55頁の表にまとめられている)。他方で、裁判所が被保全権利の疎明がないとした提案の中に、気になるものがある。それが、同決定にいう第4号議案だ。

同議案の議案の要領は、資料版商事法務352号42頁によれば、次のようなものだ:

第4号議案 定款一部変更の件(ストック・オプション保有者のヘッジ禁止)
議案の要領「ストック・オプションや株式を保有する取締役や執行役が、プットオプションを保有しコールを売却することなどの手段によるヘッジを行うことを原則として禁止する。報酬委員会は、そのためのガイドラインを作成し、株主に開示しなければならない。」という条項を、定款に記載する。

このような提案について、本決定は、次のように述べた:

「(イ)…第4号議案は,義務を課す対象を「ストック・オプション…を保有する取締役や執行役」としているところ,この「ストック・オプション」が,今後付与されるであろうストックオプションに係る新株予約権を指すものと限定的に解することができる記載は第4号議案中にはなく,…第4号議案に記載された「ストック・オプション」とは,今後付与されるであろうストックオプションに係る新株予約権のみならず,取締役又は執行役に対して既に付与されたストックオプションに係る新株予約権をも当然に含んでいるものと解される。しかしながら,…役員に付与されたストックオプションにつき,事後的にその権利行使に関して条件を付すことは,いったん支払われた報酬の内容を変更するものであって,個別の同意を得ない限り許されないというべきである。そうすると,第4号議案は,既に付与されたストックオプションに係る新株予約権については,効力の及ばないものと解するほかはない。
 また,第4号議案は,「株式を保有する取締役や執行役」も義務を課す対象としているところ,この「株式」とは,債務者会社の株式を指すものと善解することができるとしても,取締役や執行役が付与されたストックオプションに係る新株予約権を行使した結果取得した債務者会社の株式のみを指すものとは解し難いから,相続による取得や市場からの取得といった新株予約権の行使以外の方法により取得した債務者会社の株式をも含むものと解さざるを得ない。
 そうすると,第4号議案は,既に付与されたストックオプション,今後付与されるであろうストックオプション,ストックオプションに係る新株予約権を行使した結果取得した株式及びストックオプションに係る新株予約権の行使以外の方法により取得した株式といった複数の性質の異なるものを対象としているところ,少なくとも既に付与されたストックオプションを対象とする部分は効力を生じないというべきであり,かつ,その禁止すべき行為も「プットオプションを保有しコールを売却することなどの手段によるヘッジを行うこと」というあいまいなものであることからすると,議案全体として明確性を欠くものというべきである。
 したがって,第4号議案については,無効である部分を多く含む上に,内容としても明確性を欠くものといわざるを得ず,このような議案の提案は,適法な株主提案権の行使とは評価できないというべきである。
(ウ)以上のことからすると,第4号議案に係る申立てについては,被保全権利の疎明があるということはできない。」

裁判所は、このような提案は、無効な内容を含んでおり、また、明確性を欠くものであるから、適法な株主提案権の行使とは評価できないとしたわけである。しかし、本当にそうなのだろうか?

(1)まず、裁判所が、すでに付与されたストックオプションを対象としてヘッジ禁止をすることが「事後的にその権利行使に関して条件を付す」ものだとしている点が、支持できない。ヘッジの禁止とは、付与された新株予約権そのものについて権利行使条件を追加するものではなく、そのような新株予約権とは別に、ヘッジの効果を有する取引を行うことを役員に禁止するものだろう(久保大作「判批」ジュリスト1495号(2016年)121頁)。

(2)また、このヘッジの禁止を既存の任用契約等の内容の変更だと捉え、そのような事後的な契約内容の変更は役員の同意がなければ無効であると考えたとしても、ヘッジ禁止提案全体を不適法だと考える必要はない。将来の任用契約等についてヘッジ禁止を義務付ける部分は無効にはならないからである(久保・前掲121頁)。

(3)さらに、ヘッジ手段は様々であるとか、この提案理由には「原則として」と記されているからといって、このような提案が明確性を欠く(久保・前掲121頁はそのように解し、結論として本決定を支持する)ともいえない。そのような細目は、まさに、報酬委員会がガイドラインを作成して補充すべきことであり、株主がこのような提案を行う段階でそのような細目を定めていないからといってこのような提案が明確性を欠くとするのはおかしい。

(4)そして何より、このようなヘッジ禁止提案は、実は同社の第72期定時株主総会(第17号議案)・第73期定時株主総会(第6号議案)でも行われている。これらの定時株主総会では、会社はそのような提案を付議しているのだ。そして、同社の「第72 期定時株主総会における決議結果および議決権行使の集計結果に関するお知らせ」によれば、ヘッジ禁止提案は25.64%の賛成を得ている。

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May 03, 2018

決算情報変更・発生事実とバスケット条項

先月のJPX金商法研究会で発言したこと。支持者がいなかった見解ですが、忘れないように書いておきます。

金商法166条の重要事実について有名な論点として、166条2項1号〜3号に該当するが軽微基準からして重要事実から除かれるような事実が、4号のバスケット条項によって重要事実とされることがあるか、という問題がある。これについて、研究会では、著名な日本商事事件(最判平11・2・16刑集53巻2号1頁)や、それに先行するマクロス事件(東京地判平4・9・25判時1438号151頁)、また、より最近の事例としてリサ・パートナーズ事件(東京地判平23・4・26)、さらに、課徴金事例である東洋ゴム事件等が検討された。

日本商事事件では、166条2項2号イ(災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害)に該当しうる事実であっても、同号イの損害の発生として包摂・評価される面とは異なる別の重要な面を有している事実については、4号の該当性を問題にすることができるとされた。そして、問題となった副作用症例の発生は、同号イの損害の発生に当たる面を有するとしても、そのために4号に該当する余地がなくなるものではないのだから、4号の重要事実にあたるとして公訴が提起されている本件の場合、2号イの損害の発生としては評価されない面のあることを裏付ける諸事情の存在を認めた第一審としては、4号の該当性の判断に先立って2号イの該当性について審理判断しなければならないものではない、とされた。この判例によって、最高裁は、ある事実について、1号〜3号に包摂されない評価が可能であれば、4号を適用できるという立場を表明したということになるようだ。

マクロス事件でも、取締役が、自社が多額の架空売上を計上していたことを知って自分が保有する自社の株式を売却したという事案で、裁判所は、「公表されていた売上高の予想値に大幅な架空売上が含まれていた事実、及びその結果現に売掛金の入金がなくなり、巨額の資金手当てを必要とする事態を招いた事実は、まさに投資家の投資判断に著しい影響を与える事実といわなければならない。すなわち、この事実は、証券取引法一九〇条の二第二項三号に掲げられた業績の予想値の変化として評価するだけでは到底足りない要素を残して[いる]…。加えて、年間の売上高の見込みが二三〇ないし二九〇億円で、計上利益の見込みが二〇億円という谷藤の会社の規模に照らせば、その事実の重要性においても、投資者の判断に及ぼす影響の著しさにおいても、証券取引法一九〇条の二第二項一ないし三号に劣らない事実と認められるから、かかる事実は同条二項四号に該当するものと解するのが相当である。」とした。これも、日本商事事件に先行して、同事件につながるような解釈を示したものとされる。

しかし、こういう事件の事案を見た私が思ったのは、そもそも、これらの事件で、1号〜3号に該当する事実について4号の該当性を問題にできるかといった議論をして、日本商事事件のような解釈論を展開する必要があったのかということだ。

たとえば、マクロス事件では、結局、同事案は3号には該当しないとされており、そうだとすれば、「3号に掲げられた業績の予想値の変化として評価するだけでは到底足りない要素」といった判示をする必要はなく、端的に、4号に該当するかどうかを判断することで足りたのではないか。リサ・パートナーズ事件の方は、巨額の融資が得られる見込みが生じたことが4号に該当するとされており、この事件は「バスケット条項と他の条項との重複を気にしなくとも済んだ事例」だと報告されたが、マクロス事件のような多額の架空売上計上の事実の発覚と、巨額の融資が得られる見込みというのは、プラス・マイナスの方向は違えど、業績に影響を及ぼす事実であるという点で変わりはない。リサ・パートナーズ事件について「バスケット条項と他の条項との重複を気にしなくとも済んだ」のであれば、マクロス事件でもそうだろう。

また、日本商事事件も、なぜ副作用症例の発生を2号イの損害の発生に当たる面を有する事実だと考えなければならないのだろうか。166条2項2号は、柱書で「当該上場会社等に次に掲げる事実が発生したこと。」と定められ、イで「災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害」と定められており、この文言を素直に解釈すれば、イに該当するためには、会社に損害がすでに発生していることが必要なはずである。そのような(A)発生した損害と、(B)損害を生じさせる原因となる事実とは別であり、(B)は2号イにはもともと含まれない事実だろう。日本商事事件についていえば、副作用症例の発生というのは(B)にすぎず、実際に副作用を原因として損害賠償請求がされてはじめて(また、もっと狭く解釈すれば、会社の損害賠償責任が確定してはじめて)(A)の事実といえるのではないか。こう考えれば、日本商事事件でも、上記のような判示をする必要はなく、端的に4号の該当性を判断することで足りたのではないかと思う。課徴金事例である東洋ゴムの事件でも、会社の製品が性能評価基準に適合していないということ自体は上記(B)にすぎず、やはり、2号イに該当しうると考える必要はないはずだ。

このように考えてくると、いずれの事件でも、当該事案について166条を適用するためには、1号〜3号と4号の事実の重複といった論点を検討する必要はなく、裁判所は、不必要な法律論を展開したのではないかと思える。また、一般的にも、1号〜3号を文字通り解釈していけば(あまり柔軟な解釈をしなければ)、4号との重複といった問題を考える必要性は低下するのではないかと思う。

…といったことを質問というか発言してみたのだが、特に上記の日本商事事件・東洋ゴム事件についての部分には、批判が強かった。損害発生の原因になる事実(上記の(A))が発生すれば、それで2号イに該当するというのが、大方の意見のようなのだ。が、2号柱書とイをいくら読んでも、そのような解釈は文言から素直には導き出すことができないのではないかと、やはり私は思っている。

[追記]

あれから少し調べてみたのだが、たとえば、木目田裕=上島正道監修、西村あさひ法律事務所・危機管理グループ編『インサイダー取引規制の実務〔第2版〕』(商事法務、2014年)189頁では、次のように記される(下線を引いているところは、オリジナルでは傍点):

「なお、条文の文言上、重要事実とされてるのは、損害が「発生したこと」であるから、損害発生の「可能性」が生じたにすぎない段階では、法166条2項2号イの重要事実には当たらない。このことは、法が、一方で「債務不履行のおそれ」(同号二、施行令28条の2第8号)を重要事実としておきながら、「損害発生のおそれ」といった定め方をしていないことからも読み取ることができる。もっとも、損害発生の可能性が生じた原因自体が他の重要事実に当たる可能性があるほか、発生の可能性のある損害の規模や、損害の発生の可能性の高低等によっては、損害発生の可能性が生じたことが投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものとして、別途、バスケット条項(法166条2項4号)に当たる可能性があると思われる。」

まさに、上記の(B)だけでは損害にはならないといわれている。この引用部分にあるように、(B)もバスケット条項に該当する可能性はあるが、その場合に、「166条2項2号イにも該当するけれど云々」といった議論をする必要はないのだ。

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