May 28, 2016

長期株主を優遇する論拠は確かではない

Jesse M. Fried, The Uneasy Case for Favoring Long-Term Shareholders, 124 Yale L. J. 1554 (2015)

よく「短期株主(short-term shareholders)よりも長期株主(long-term shareholders)を優遇すべきだ」と言われるが、長期株主を優遇することが会社の長期的な価値の低下につながることもあるよ、とする論文。結びの部分が全体の要約になっているので、ざっと訳すと、次のとおり([ ]内は私の補足):

結び

短期株主の権限は、「short-termism」 を導くと論じられてきた。すなわち、経営者は、長期的に企業によって生み出される経済価値の最大化を犠牲にして短期の株価を押し上げるようプレッシャーを感じるものとされる。short-termism に対抗するため、学界や政策決定者、また、指導的な事業経営者たちや会社弁護士たちは、短期株主に比べて長期株主の数と権限を増やすことを目指す様々な改革を提案してきた。これらの提案は、長期株主に仕える経営者は、短期株主に仕える経営者よりも、長期的に大きな経済的価値を生み出す見込みがあるという、強く抱かれた直感を反映するもののようだ。

本稿で、私は、少なくとも典型的な米国企業(自身の株式を大量に売り買い[株式の発行と自己株式の取得のこと]する企業)については、この直観には誤りがあることを示してきた。平均で、米国の企業は、5年間で自身の株式の30%を売り買いする。transacting firm [自身の株式を売り買いする企業]では、経営者は、[本来の企業価値よりも]低い価格での自己株式取得と[本来の企業価値よりも]高い価格での株式の発行を通じて、他の株主から単に富を移転することによって、長期株主に便益を与えることができる。実際に、今日、長期株主のために生み出される富のほとんど20%が、経営者が自己株式取得と株式の発行を用いて他の株主から富を移転することで生み出される。transacting firm において、長期株主は、短期株主と同様に、経営者が意図的に企業価値を破壊することから便益を得ることができる。とりわけ、長期株主は、経営者が、低い価格で自己株式を取得するために企業内のプロジェクトに過少に投資する場合、高い価格で株式を発行するためにプロジェクトに過大に投資する場合、自己株式取得時の周辺で株価を下方に操作する場合、および、株式発行時の周辺で株価を上方に操作する場合に、便益を得ることができる。長期株主価値を増加させようとする経営者がまさにこれらの活動に従事することを示唆する証拠がある。経営者がそのような活動に従事することは、short-termism よりも大きく価値を破壊するかもしれない。結果として、典型的な企業において長期株主をさらに優遇する諸改革は、実際には長期的に企業によって生み出される価値を減少させるかもしれない。

私の分析は、短期株主と長期株主のいずれが企業の長期的な経済的価値創造とより良く一致する利害を有するのかということは、最終的には、実証によって決着をつけられる問題であることを示す。私が本稿を執筆した目的の1つは、学界がこの問題を取り上げるよう促すことである。長期株主に仕える経営者が短期株主に仕える経営者よりも多くの価値を生み出す見込みがあるかどうかを決めることは、規制による介入の提案とともに、新たな自主規制の仕組みを適切に評価するために決定的である。多くの者がそうしているように、公開会社において長期株主の力を強めることは、ただ長期株主が短期株主よりも長い期間その株式を保有するからというだけで、望ましいことだろうと決めてかかるだけでは、十分ではないのだ。

assam_uva at 12:37|PermalinkComments(0)││研究 

May 27, 2016

亡霊星域

アン・レッキー(赤尾秀子訳)『亡霊星域』(創元SF文庫、2016年)

『叛逆航路』の続編。このあいだ前著を読んだので、分かりにくい設定等にも慣れ、まあ楽しめた。相変わらずいろんな視点から見たシーンが細切れに切り替わるが(主人公はそういうものを同時に見ることができるという設定なので)、前著のように現在の話と過去の話が交互に来ないだけ、まだ分かりやすい。

assam_uva at 23:47|PermalinkComments(0)││読書 

May 23, 2016

会社支配権と特異なビジョン

Zohar Goshen & Assaf Hamdani, Corporate Control and Idiosyncratic Vision, 124 Yale L. J. 560 (2016)

支配株主が存在する株式所有構造(concentrated ownership)について、企業家(entrepreneur)の「特異なビジョン」(idiosyncratic vision)[=自分の戦略の適切な実行が市場リターンを上回るリターンを生み出すという企業家の信念]という切り口で説明し、そこから、企業統治についての会社法ルールへの示唆等を探る論文。

1.株式所有構造と特異なビジョン

会社の株式の control block を所有するということは、所有者(支配株主)にとっては、株式所有を分散させず流動性を犠牲にすることによるコストを生じさせる。それにもかかわらずなぜこのようなコストを負担してまで control block を所有するのか?これについて、通常行われる説明は、(1)支配株主が私的な便益(private benefit)を得られるから(minority-expropriation view)、または、(2)支配株主がそのように私的な便益を得ることは、支配株主が存在することによって効率的なモニタリングが行われることの対価である(optimal-reward view)、といったものだった。

しかし、本論文は、(1)では、世界中のほとんどの支配株主が少数株主を搾取する機会主義者であることになるし、米国のように強力な投資者保護法を有する国においても concentrated ownership が少なからず存在することを説明できないとする。また、(2)では、同じ国の中でも concentrated ownership の会社もあればそうでない会社もあることを説明できないし、支配株主に対価を付与する方法は私的便益の隠れた消費を認めること以外にも可能であるとされる。

本論文が(1)(2)の代わりに提示する枠組みは、企業家は、特異なビジョンを投資家の反対を受けずに追求するために、会社の支配権を必要とする、というもの。そして、どのような所有構造がとられるかは、そのような特異なビジョンの追求と、エージェンシー・コストからの保護を望む投資家の意向とのトレード・オフで決まる、とされる。このような見方からすれば、concentrated ownership というものは、分散した株式所有(dispersed ownership)と、dual class firm との間に位置するものだということになる。

[A] 分散した株式所有=支配権は contestable
→エージェンシー・コストは低いが、企業家が特異なビジョンを追求できる度合いも低い

[B] dual class firm=企業家が uncontestable かつ indefinite な支配権を握る
→企業家が特異なビジョンを完全に追求できるが、マネジメント・エージェンシー・コスト[直接の私的便益の収奪以外のミスマネジメントによるコスト]、コントロール・エージェンシー・コスト[直接の私的便益の収奪によるコスト]ともに高い

これに対して、
[C] concentrated ownership=企業家は、大きな equity stake を有する限りで支配権を有する
→[B] と同様に企業家は特異なビジョンを追求できるが、支配権がキャッシュ・フロー権と結び付けられている(one share / one vote)ため、エージェンシー・コストは [B] ほど高くない
(支配株主自身が多額の equity 投資をしているため、支配株主の利益と少数株主の利益は大きな程度一致しており、マネジメント・エージェンシー・コストは低く、また、control block は流動性が低いため、支配株主は素早く脱出することもできない)

2.会社法ルールへの示唆

1.のようなフレームワークから、会社法ルールについて、次のような示唆が得られるとされる:

(a)少数株主保護と支配株主の権利のトレード・オフ

concentrated ownership の本質を1.のように考えれば:
・持株比率に応じてキャッシュ・フローを得る投資家の権利が保護されるべき
・特異なビジョンを追求する支配株主の権利も認めるべき
・支配株主が特異なビジョンを追求する自由と、支配株主が大きな equity investment を行うこととの結びつきが保持されるべき

このように、会社法は、一方で少数株主をエージェンシー・コストから守らなければならないが、他方で、支配株主の特異なビジョンを追求する権利も守らなければならず、両者はトレード・オフの関係に立つ(前者を守るためのルールは、必然的に、後者の権利を制約する)ため、それは難しい課題になる

(b)支配株主の権利

会社法は支配株主の特異なビジョンを追求する権利を守らなければならない。このことから:
・裁判所は支配株主が行う利益衝突のない事業決定への介入を控えるべき
(=経営判断原則の正当化根拠についての新たな説明)
・支配株主が取締役を選ぶ権限を制約することには、慎重であるべき

支配株主の特異なビジョンを追求する権利を保持するため、この権利には、property rule による保護が与えられるべきである
→たとえそうすることが会社または少数株主の便益となるとしても、支配株主が支配権を失うことになる行為を会社が行うことは、要求されるべきではない

このような property rule による保護が与えられるべきなのは、それが、当事者(支配株主と少数株主)の事前のアレンジメントを保持するために必要だから

また、支配権を移転する対価(支配プレミアム)は、支配株主が得る私的便益の代理変数なのではなく、特異なビジョンへの対価

(c)少数株主の権利

少数株主の保護は、主に、会社資産の持株比率に応じない分配を規制することによる
ただし難しいのは、正当な事業上の決定と自己取引とを区別すること

持株比率に応じた分配であれば、それがたとえ支配株主自身の流動性ニーズによるものであっても、認められるべき(そうでなければ、特異なビジョンを追求する権利への介入になる)
=この点で、Sinclair Oil Corp v. Levien は妥当

支配株主が会社のガバナンスについてのアレンジメントを中途で変更することによって持株比率に応じない便益を得ようとすること、支配株主がその支配権とキャッシュ・フロー権を結びつけるというコミットメントから抜け出そうとすることは、防止されるべき

少数株主の権利の保護は、peoperty rule ではなく、liability rule によるべき

(d)難しい事例

フリーズアウト
・少数株主の保護と特異なビジョンの追求は不可避的に衝突するのだから、支配株主には、フリーズアウトを行うオプションが与えられるべき
・フリーズアウトは少数株主にとっては大規模な収奪が行われるリスクを伴うものだが、property rule による保護(フリーズアウトを majority of minority による承認にかからしめること)は、上記のような支配株主のオプションを損なうので、良くない

第三者への売却
・第三者が支配株主と少数株主に同じ対価を支払って会社を買収する場合でも、支配株主に流動性ニーズがあることをもってその取引について厳しい基準で審査するというデラウェアの判例あり
→これをどう説明するか?(上記の Sinclair Oil v. Levien のルールと矛盾しないか?)
・説明としては、第三者への売却の事例では、もはや支配株主による特異なビジョンの追求は問題にならない(支配株主は第三者への売却によって特異なビジョンの追求をやめる)ことから、厳しい審査は正当化される

assam_uva at 10:38|PermalinkComments(0)││研究 

May 22, 2016

ブラッドベリもう2冊

レイ・ブラッドベリ(宇野利泰訳)『10月はたそがれの国』(創元SF文庫、1965年)
レイ・ブラッドベリ(小笠原豊樹訳)『刺青の男〔新装版〕』(ハヤカワ文庫、2013年)

ブラッドベリの短編集をもう2冊。上の方は、幻想的だったりほの暗い魅力をたたえていたりする短編たち、下の方は、ロケットや火星人が出てくるSF的な舞台で繰り広げられるシニカルな話や抒情的な短編たち。

assam_uva at 11:48|PermalinkComments(0)││読書 

April 19, 2016

華氏451度

レイ・ブラッドベリ(伊藤典夫訳)『華氏451度〔新訳版〕』(ハヤカワ文庫、2014年)

学生時代に読んだ時には、自分自身の経験がいろいろと足りなかったからか、あまり強い印象も抱かなかった本。新訳版というのが出ていたので、もう一度読んでみることに。読んだ結果、これもものすごく面白かった。本というものが禁制品になり、人々は家の壁に設けられたディスプレイの映像を眺め、時々空には戦争に向かうジェット爆撃機が飛ぶ音がする未来の米国の都市。主人公は、発見された書物の焼却を任務とする「昇火士」。その主人公が自分の仕事、社会の在り方に疑問を持って…、という話。政府が強制したのでもなく生じたディストピアの光景、その中で主人公が疑問を抱き考え方を変えていく様子ももちろん興味深いし、作中に描かれる主人公とその周りの人間との人間関係からも、いろいろと考えさせられる。

assam_uva at 17:13|PermalinkComments(0)││読書