March 14, 2010
ドイツの取締役報酬規制−その全貌は?
春休みに何の研究をしているかというと、ドイツの取締役報酬規制、特に近年の動向について、論文を書いている。ドイツでは、2002年のドイツ・コーポレート・ガバナンス・コードの制定の頃から、取締役報酬に関する規律が急速に整備されてきている。2005年には取締役報酬の開示に関する法律(VorstOG)、2009年には取締役報酬の相当性に関する法律(VorstAG)によって、株式法や商法典の取締役報酬についてのルールが改正された。こういった動向には、EUレベルでのコーポレート・ガバナンスをめぐる議論も影響している。このあたりの近年の動きを全体的に紹介し、検討しようと思っているわけだ。
ドイツの取締役報酬に関する近年の動向を紹介する論文が、これまでになかったわけではない。たとえば、早稲田のM先生は、マンネスマン事件について紹介されている。大阪市大のT先生は、VorstAGについて紹介されている。ただ、こういった業績からは、ドイツの取締役報酬に関する規律の全貌(要するに取締役報酬についてはどう規律されているのか)や、それが米国や英国の経営者の報酬に関する規律とどの程度違うのかが、いまひとつ見えてこない。
実は数十年前の矢沢先生の取締役報酬についての御論文(これがその後の日本の会社法学界での取締役報酬についての議論の方向を決めた)で、すでに、ドイツの取締役報酬規制(当時は1965年株式法が制定される前だった)が紹介されている。当時からドイツには、(1)取締役報酬が相当なものでなければならないという規定と、(2)取締役報酬の開示についてのルールがあった。これらのルールは現在にまで引き継がれており、(1)についてはVorstAGで、(2)についてはVorstOGで改正がなされ、現在では上場会社の取締役員の報酬の個別開示が要求されている。また、2002年のドイツ・コーポレート・ガバナンス・コードの制定以後は、(3)同コードでの取締役報酬についての規律も重要だ。たとえば、取締役報酬の内容や、決定過程や、開示について勧告がなされており、この勧告の遵守/不遵守(その場合には理由)が開示されなければならない(「遵守せよ、そうでなければ、説明せよ」型の規制)。
こういったドイツの取締役報酬についての様々なルールを全体としてみると、結局、どういう姿が浮かび上がってくるのだろうか。
(1)の取締役報酬の相当性というルールは、実は、あまり機能していない。そもそもこれまでドイツでは、監査役員や取締役員の対会社責任の追及というものが機能しておらず、報酬が相当でないという理由で監査役員や取締役員の責任を追及するということは行われてこなかった。また、「相当性」という基準はそれほど明確でもないし、監査役会が取締役報酬を決定する際には大きな裁量を与えざるをえない。
VorstAGによって取締役報酬についての株主総会の勧告決議が可能になったが、これは、たとえば英国の取締役報酬報告書に関する勧告決議とは似て非なるものだ。勧告決議で承認をする対象は「報酬システム」だが、その内容は定められていない(会社がドイツ・コーポレート・ガバナンスーコードやそれに関する議論などを参考に適宜適切と考える内容を対象とするのだろう)。そもそも、英国と異なり、このルールは、取締役報酬についての勧告決議を毎年行うことを要求するものではなく、そのような決議を行うことを株主総会の議事日程に含めるかどうかは、取締役会の裁量に委ねられる。また、この勧告決議には法的効果がないことは株式法自体に明示されているため、取締役会にそのような勧告決議を議事日程に含めるインセンティブがどれほどあるのか、少数株主がこれについて提案権を行使するインセンティブがどれほどあるのかは、分からない。
こう見てくると、結局ドイツでも主に意味を有するのは、(2)の取締役員の報酬の個別開示と、(3)のドイツ・コーポレート・ガバナンス・コードによる規律だということになる。つまり、ドイツの取締役報酬に関する規律は、米国の経営者の報酬に関する規律とも、大きくは変わらないのだ。Kraakman et al., The Anatomy of Corporate Law では、ガバナンスに関する先進諸国の法制は、結局のところ大きくは異ならないことが示されているが、その一例がここにも見られるということになる。
文献を全部読み込んで、じっくり考えてから書くなんていう暇はないものだから、今回も、文献を読みつつ逐次論文を書くという、就職してからしばらく経ってからずっと論文を書くときには繰り返されるパターン。重要な文献はすべて読んだ(つもりだ)し、紹介部分を中心に3分の2以上は書けているのだが、一番大事な検討部分はまだまだ練る必要があり(そもそも書いてないところもまだまだある)、どうも卒業式の日までに出来そうにない。そうすると、次の照準は、5月末の勤務校の紀要の締め切りに合わせることになりそうだ。
ドイツの取締役報酬に関する近年の動向を紹介する論文が、これまでになかったわけではない。たとえば、早稲田のM先生は、マンネスマン事件について紹介されている。大阪市大のT先生は、VorstAGについて紹介されている。ただ、こういった業績からは、ドイツの取締役報酬に関する規律の全貌(要するに取締役報酬についてはどう規律されているのか)や、それが米国や英国の経営者の報酬に関する規律とどの程度違うのかが、いまひとつ見えてこない。
実は数十年前の矢沢先生の取締役報酬についての御論文(これがその後の日本の会社法学界での取締役報酬についての議論の方向を決めた)で、すでに、ドイツの取締役報酬規制(当時は1965年株式法が制定される前だった)が紹介されている。当時からドイツには、(1)取締役報酬が相当なものでなければならないという規定と、(2)取締役報酬の開示についてのルールがあった。これらのルールは現在にまで引き継がれており、(1)についてはVorstAGで、(2)についてはVorstOGで改正がなされ、現在では上場会社の取締役員の報酬の個別開示が要求されている。また、2002年のドイツ・コーポレート・ガバナンス・コードの制定以後は、(3)同コードでの取締役報酬についての規律も重要だ。たとえば、取締役報酬の内容や、決定過程や、開示について勧告がなされており、この勧告の遵守/不遵守(その場合には理由)が開示されなければならない(「遵守せよ、そうでなければ、説明せよ」型の規制)。
こういったドイツの取締役報酬についての様々なルールを全体としてみると、結局、どういう姿が浮かび上がってくるのだろうか。
(1)の取締役報酬の相当性というルールは、実は、あまり機能していない。そもそもこれまでドイツでは、監査役員や取締役員の対会社責任の追及というものが機能しておらず、報酬が相当でないという理由で監査役員や取締役員の責任を追及するということは行われてこなかった。また、「相当性」という基準はそれほど明確でもないし、監査役会が取締役報酬を決定する際には大きな裁量を与えざるをえない。
VorstAGによって取締役報酬についての株主総会の勧告決議が可能になったが、これは、たとえば英国の取締役報酬報告書に関する勧告決議とは似て非なるものだ。勧告決議で承認をする対象は「報酬システム」だが、その内容は定められていない(会社がドイツ・コーポレート・ガバナンスーコードやそれに関する議論などを参考に適宜適切と考える内容を対象とするのだろう)。そもそも、英国と異なり、このルールは、取締役報酬についての勧告決議を毎年行うことを要求するものではなく、そのような決議を行うことを株主総会の議事日程に含めるかどうかは、取締役会の裁量に委ねられる。また、この勧告決議には法的効果がないことは株式法自体に明示されているため、取締役会にそのような勧告決議を議事日程に含めるインセンティブがどれほどあるのか、少数株主がこれについて提案権を行使するインセンティブがどれほどあるのかは、分からない。
こう見てくると、結局ドイツでも主に意味を有するのは、(2)の取締役員の報酬の個別開示と、(3)のドイツ・コーポレート・ガバナンス・コードによる規律だということになる。つまり、ドイツの取締役報酬に関する規律は、米国の経営者の報酬に関する規律とも、大きくは変わらないのだ。Kraakman et al., The Anatomy of Corporate Law では、ガバナンスに関する先進諸国の法制は、結局のところ大きくは異ならないことが示されているが、その一例がここにも見られるということになる。
文献を全部読み込んで、じっくり考えてから書くなんていう暇はないものだから、今回も、文献を読みつつ逐次論文を書くという、就職してからしばらく経ってからずっと論文を書くときには繰り返されるパターン。重要な文献はすべて読んだ(つもりだ)し、紹介部分を中心に3分の2以上は書けているのだが、一番大事な検討部分はまだまだ練る必要があり(そもそも書いてないところもまだまだある)、どうも卒業式の日までに出来そうにない。そうすると、次の照準は、5月末の勤務校の紀要の締め切りに合わせることになりそうだ。
assam_uva at 00:59│Comments(2)││研究
この記事へのコメント
1. Posted by 辰の March 14, 2010 21:46
ドイツ語を知らない中で、英訳されたものぐらいしか知りませんが、監査役会という訳語は何とかならないでしょうか。日本の監査役会とはあまりに異なる点が忘却されそうで心配です。英語で、Supervisory Board とされていますし、監督役会でもいいですが、何とかしていただけないでしょうか。ドイツの依頼者もいますが、M&Aでsupervisory board の承認に向けられた努力は、かなりすさまじいものがあります。それだけの権威や影響力のある会議体を日本語の監査役会という訳語がすべて台無しにしているように思います。フランスの会社も代理していますが、法制こそ違いますが、Supervisory Boardの権限はかなり強力です。実務家からの切なる要望です。
2. Posted by いとうY March 15, 2010 09:15
Aufsichtsrat に監査役会という訳語を充てることは、どうにも仕方のないことではないかと思います。あえて改善をするのであれば、「(ニ層制における)監査役会」とでもすることでしょうか。ドイツの監査役会というものがどういうもので、日本の監査役や監査役会と何が違うのかが認識されていればよしとするほかないのでしょうね。ドイツの Vorstand も、これを「取締役」と「取締役会」どちらと訳すかは悩ましい問題です。
ちなみに、残念な訳語って、いろいろありますよね。「変態」とか「訴訟物」とか…
ちなみに、残念な訳語って、いろいろありますよね。「変態」とか「訴訟物」とか…

