「牧野、入るよ」

「えっ?ちょっちょっと待って」

 

予期せぬ来訪者に戸惑いを隠せず、ろれつがうまくまわらない。

こんな時間にわざわざやってくるのだから仕事の件、つまりは明日の朝の食事のこと、シェフか使用人のだれかが相談に来たのだろうと予想していた。

それなのに聞こえてきたのは、非常階段で日向ぼっこしているような穏やかな類の声。

思わず、ベットから飛び起きて泣いていたのがわからないようにパジャマの袖で目の下をゴシゴシ(こす)りながら、ドアに駆け寄る。

まだ、入っていいとも言っていないのに目の前のドアが開きいつもと変わらぬ美しい人が姿を見せた。

 

「あんた、目真っ赤」

「えっ?そんなに?」

「鏡見てごらんよ

 田村があんたの部屋からすすり泣きが聞こえるって心配してたよ」

 

ほらっと言いながらアイスノンとタオルが手渡してくる類。

その言葉を聞き納得する。

どうしてオートロックになっているはずの個人の部屋もとい家に勝手に類が入ってこれたのか。

田村さんと一緒だったんだ。

それとも田村さんが類を呼びに行ったのかな?

そんなに心配されるほど大声で泣いてしまっていたのだろうか。

ありがとうと言いながら、荷物を受け取ると類のビー玉のような透明な瞳と目が合った。

 

無性に恥ずかしさがこみ上げてきて、アイスノンにタオルを巻きつけ太ももに載せたまま俯く。

ぐいっと下から覗きこむような体勢であたしの表情を伺う類の目は普段と一緒で、その瞳に同情や憐みは含まれていなかった。

ただ心配しているだけ。

そんな彼の優しさに、また涙が浮かんできてしまって悔しく口惜しい。

今ままで自分はこんなに弱い生き物じゃなかった。

あたしは雑草のつくしなのに。

赤札にだって正面から立ち向かってきた自負がある。

 

「つくしじゃなくてうさぎに改名すれば?」
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