カテゴリ:
2015年10月11日にスポーツ庁より「平成26年度体力・運動能力調査」の結果が報道機関に発表された。

詳細:
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/houdou/27/10/__icsFiles/afieldfile/2015/10/13/1362692_01_1.pdf

当該報道発表によると、高齢者(65歳〜79歳)において、殆どの項目及び合計点で向上傾向を示し、合計点は65〜69 歳の男子,70〜74 歳の女子,75〜79 歳の男女で過去最高を示したとされているが、文科省のwebサイトで発表されている高齢者(65歳〜79歳)の「体力・運動能力の年次推移」から詳細を確認すると、筋力の指標として捉えることの出来る「握力」のスコアと通常歩行に比べより下肢の筋力が必要となる「10m障害歩行」のスコアについては向上傾向というより横ばい傾向にある点、また、筋力と柔軟性の関係性から考えた時に柔軟性の指標である「長座体前屈」のスコアも横ばい傾向にある点に着目すべきだといえるかもしれない。

いい換えれば、運動指導者としては筋力ならびに筋力に関係する測定項目のスコアがそれ程向上していない点について着目すべきであるといえるだろう。

高齢者の体力、特に、筋力の評価基準の一つとして広く知られているのはロコモティブシンドロームの判断基準として臨床現場で取り組まれている「立ち上がりテスト」と「2ステップテスト」であるといえるが、これらのテストによって評価される筋力は必要最低限度の筋力レベルであると考えられ、これらのテストを基準に高齢者の筋力を捉え運動プログラムを考えると筋力の向上という点では十分な効果が得られないかもしれない。

「立ち上がりテスト」&「2ステップテスト」

高齢者として、いい換えれば人間として必要最低限度の筋力レベルについては上述の通り明確な基準があるといえるが、超高齢化社会を迎えるにあたり、そのレベルで十分であるといえるのか、もし不十分であるならば、どの程度の筋力レベルを目標とするのかについて明確にする必要があると考えられる。


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カテゴリ:
J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2010 May;65(5):510-6.
Extracellular water may mask actual muscle atrophy during aging.
Yamada Y, Schoeller DA, Nakamura E, Morimoto T, Kimura M, Oda S.

Abstract
BACKGROUND:
Skeletal muscle tissue holds a large volume of water partitioned into extracellular water (ECW) and intracellular water (ICW) fractions. As the ECW may not be related to muscle strength directly, we hypothesized that excluding ECW from muscle volume would strengthen the correlation with muscle strength.

METHODS:
A total of 119 healthy men aged 20-88 years old participated in this study.
Knee isometric extension strength, vertical jump, and standing from a chair were measured as indices of muscle strength and power in the lower extremities. The regional lean volume (LV), total water (TW), ICW, and ECW in the lower leg were estimated by anthropometry (skinfold and circumference measurements) and segmental multifrequency bioelectrical impedance spectroscopy (S-BIS). Then, we calculated the ECW/TW and ICW/TW ratios.

RESULTS:
Although ICW and the LV index decreased significantly with age (p < .001), no significant changes in ECW were observed (p = .134). Consequently, the ECW/TW ratio increased significantly (p < .001) with age (young adult, 27.0 +/- 2.9%; elderly, 34.3 +/- 4.9%; advanced elderly, 37.2 +/- 7.0%). Adjusting for this by including the ICW/TW ratio in our models significantly improved the correlation between the LV index and strength-related measurements and correlated with strength-related measurements independently of the LV index (p < .001).

CONCLUSIONS:

The ECW/TW ratio increases in the lower leg with age. The results suggest that the expansion of ECW relative to ICW and the LV masked actual muscle cell atrophy with aging.

●目的:
骨格筋の筋細胞内水分量と筋力の関係について検討

●被検者・主な測定項目:
・被検者:20歳から88歳までの119名の男性
・測定項目:等尺性膝伸展筋力/垂直跳び/椅子からの立上り能力/部位別多周波
生体電気インピーダンス分光法(S-BIS)による下肢筋群水分量等

●主な結果:
・筋細胞内水分量は加齢に伴い減少した。
・筋細胞外水分量は加齢に伴う有意な減少はみられなかった。
・筋総水分量における細胞外水分量が占める割合は加齢に伴い増加する。
・筋細胞内水分量と等尺性膝伸展筋力、垂直跳び、椅子からの立上り能力との間にはいずれも相関関係がみられた。

●Note:
多くの先行研究によって加齢に伴い骨格筋量ならびに筋力が低下することが明らかにされており、また、筋力は筋横断面積に比例することが明らかにされていることから、加齢に伴う筋力の低下は骨格筋量の減少が要因であるとされているが、筋力の低下が骨格筋量の減少よりも2倍〜5倍大きいことも報告されており、近年では加齢に伴う筋力の低下は「骨格筋量の減少以外の要因」によるところが大きいとされ様々な研究が行われている。

ところで、骨格筋は単一の要素から成り立っている訳ではなく、骨格筋細胞、細胞外区画、筋内脂肪の3要素で構成されていると考えられているが、これらの要素のうち力を発揮する要素は骨格筋細胞であることから考えれば、加齢によって筋力が低下する要因は単に骨格筋量の減少によるものではなく骨格筋細胞量の減少によるものであると考えられ、このことが加齢に伴う骨格筋量の減少よりも筋力の低下が著しい理由であるといえるかもしれない。

いい換えれば、加齢に伴う骨格筋量の減少を「見かけの減少」、骨格筋細胞量の減少を「真の減少」と捉えれば、加齢に伴う「見かけの減少」よりも「真の減少」が著しく、高齢者の骨格筋量を評価する上では骨格筋細胞量の減少、すなわち「真の減少」を推定することが重要であると考えられる。

骨格筋細胞は水分を多く含むため骨格筋細胞内水分量を測定することで骨格筋細胞量を推定することが可能であると考えられるが、本研究において加齢に伴い骨格筋細胞内水分量が減少し、骨格筋細胞内水分量と筋力(等尺性膝伸展筋力)、パワー(垂直跳び)、機能的筋力(椅子からの立上り能力)との間に有意な相関関係がみられたことから、インピーダンス法によって骨格筋細胞内水分量を測定することで骨格筋細胞量を推定することが可能であり、加齢に伴い骨格筋細胞量が減少し筋力等の低下が生じることが示唆された。

また、本研究によってインピーダンス法によって四肢の骨格筋量を評価する際に細胞外水分量が骨格筋量の評価に影響を及ぼすこと、いい換えれば、高齢者の四肢の骨格筋量をインピーダンス法によって評価する際には細胞外水分量の影響によって過大評価してしまう可能性が示唆された。

これらのことから、高齢者においては骨格筋の「見かけの減少」より「真の減少」が著しく、「真の減少」の結果として筋力が低下することが明らかにされ、高齢者の骨格筋量を評価する上では何より骨格筋細胞量を評価すべきであることが明らかにされたといえる。

以上を踏まえて考えれば「加齢に伴う骨格筋細胞量の減少を如何に防ぐか」ということが高齢者の運動器における健康課題であるといっても過言ではなく、加齢に伴う骨格筋細胞量の減少が著しいという点から壮年期(厚労省の一部資料によると31〜44歳)より骨格筋細胞量を維持するための運動を継続することが重要であるといえるだろう。(ちなみに、ランニング等の有酸素運動・持久系運動はサルコペニアおよびダイナペニアを十分に予防することは出来ないことが明らかにされている(1)ことから、壮年期から継続的なウエイトトレーニングに取り組む必要性があるといえよう。)

●参考文献:
Marcell TJ, Hawkins SA, Wiswell RA.J:Leg strength declines with advancing age despite habitual endurance exercise in active older adults., Strength Cond Res. 2014 Feb;28(2):504-13


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The Showa University Journal of Medical Sciences Vol. 11 (1999) No. 4 P 247-254
Dynamic Flamingo Therapy for Prevention of Femoral Neck Osteoporosis and Fractures -Part 1:Theoretical Background -
Keizo SAKAMOTO, Futoshi SUGIMOTO, Yoshisada SATO, Etsuo FUJIMAKI, Yoshihisa TASHIRO

Abstract
This paper describes the theoretical background of Dynamic Flamingo Therapy (DF therapy) . DF therapy is a method based on Wolff's laws and Pauwels' lever arm theory for increasing the bone mineral density at the femoral neck. According to Pauwels' theory, during one-leg standing the femoral head receives 2.75 times the load applied during two-leg standing. Our photoelasticity results show that the maximum concentration of stress in the inner side of the femoral neck was 0.706kg/mm2 for the one-leg standing posture and 0.212kg/mm2 for the two-leg standing posture. When the patient stands on one leg the femur is subjected to a mechanical stress approximately 3-fold that of a normal standing posture without any increase in body weight. According to Peizer's walking cycle, 95% of the maximum stress applied to the femoral head of one leg (the supporting leg) equals 1.5/80 of the walking cycle. The time necessary to complete this number of cycles is 2987× (60/56) =3200 seconds (53.3minutes) .

●主な知見:
片脚立位時に支持脚大腿骨骨頭に加わる力積量は53.3分間の両脚歩行時の片側骨頭に加わる力積量に匹敵する。

●Note:
ロコモティブシンドロームを予防するための運動の一つとして推奨される1分間の片脚立位運動は、支持脚大腿骨骨頭に加わる力積量が53.3分間の両脚歩行時の片側骨頭に加わる力積量に匹敵することから移動能力を維持するという点でロコモティブシンドロームの予防に対する有効性が推察され、また別の報告(1)では大腿骨頸部骨密度を改善することが認められ運動療法として重要であることが示唆されていることから高齢者の運動として重要度の高い運動であると考えられている。

しかしながら、健常高齢者に対する1分間の片脚立位運動は十分な負荷とならず大腿骨頸部骨密度の改善には有効ではないことも報告されており(2)、また「漸進性過負荷」というトレーニングの原理・原則に基づけば高齢者が片脚立位運動を継続的に実施しても、いずれ効果の頭打ちがみられるといえよう。

これらのことから、ロコモティブシンドロームの予防(さらに筋量の維持および筋力の維持を含む)、骨密度の維持・改善という側面から高齢者が取り組むべき運動を考える場合、片脚立位運動(を含む自体重エクササイズ)から如何に運動を漸進、発展させるか(最終的には如何にウエイトトレーニングへと漸進、発展させるか:以下【参考】参照)が重要であるといえるだろう。

●参考文献:
(1)田代善久,阪本桂造:大腿骨頸部骨折予防に向けての片脚立ちの効果.日骨形態誌13,21〜26(2003)
(2)厚労科研費補助金長寿科学総合研究事業「開眼片脚起立運動訓練による大腿骨頸部骨密度の改善と維持の証明並びに筋力・バランス能の改善による転倒・骨折予防への介入調査」平成18年度総括・分担研究報告書(主任研究者阪本桂造),2007


【参考】高齢者に対するウエイトトレーニング指導における運動プログラムのプログレッション

高齢者に対して適切にウエイトトレーニング指導を行う上で重要となるポイントは、高齢者は体力レベルの個人差が著しいため個々の体力レベルを考慮し段階的に運動プログラムを発展させることである。

従って、まずはロコモティブシンドロームの状態に至っていないかを評価、すなわち移動能力を十分有しているか、自身の体重を十分に支持できる筋力を有しているか、という視点から個々の体力レベルを評価した上で段階的に運動プログラムを発展させウエイトトレーニング(フリーウエイトトレーニング)へ移行していくことが望ましいと考えられる。

以下に高齢者に対するウエイトトレーニング指導における運動プログラムのプログレッション(発展)例を示す。


●高齢者に対するウエイトトレーニング指導における運動プログラムのプログレッション(発展)例

Step1:60秒間の片脚立位運動が可能か?

1分間の開眼片脚起立で得られる大腿骨骨頭に加わる力積量は53.3分の両脚歩行で得られる片側骨頭に加わる力積量に匹敵する(Sakamoto, Sugimoto, et al.)ことから、移動能力を十分に有しているか否かを(移動能力必要とされる最低限の筋力を有しているか否か)を評価する。

Yes→Step2へ
No→座位運動および片脚立位運動を中心とした運動プログラムを2週間〜4週間展開し再チェック(以降、同様)



運動プログラム例:
・シーテッドペルヴィックティルト
・シーテッドグッドモーニングエクササイズ
・シーテッドニーアップ
・スタンディングニーアップ
・スタンディングヒップアブダクション
・スタンディングレッグスイング
・1Lデッドリフト(自体重)


Step2:40cmの高さの台等から片脚で立ち上がることが可能か?

40cmの高さの台等から片脚で立ち上がるときに必要とされる大腿四頭筋の筋力は体重の60%を支持するために必要な筋力(体重支持指数:WBI=0.6)に相当し、基本的な社会生活を送るためにはWBI0.6以上が必要(黄川と山本ら,1988#1,1991#2)であるとされることから、基本的な社会生活を送るために必要とされる筋力を有しているか否かを評価する。

#1)黄川昭雄,山本利春ら(1988):アスレティック・リハビリテーションにおける下肢の機能および筋力評価.臨スポーツ医会誌,5:213−215.
#2)黄川昭雄,山本利春ら(1991):機能的筋力測定.評価法−体重支持指数(WBI)の有効性と評価の実際.日整外スポーツ医会誌,10:463.468.

Yes→Step3へ
No→片脚立位運動を中心とした運動プログラムを2週間〜4週間実施し再チェック(以降、同様)



運動プログラム例:
・グッドモーニングエクササイズ(自体重)
・スタンディングニーアップ
・スタンディングヒップアブダクション
・スタンディングレッグスイング
・1Lデッドリフト(自体重)
・1Aダンベルロウ
・ディップス(自体重)


Step3:自体重エクササイズを中心とした運動プログラム

運動プログラム例:
・スタンディングレッグスイング
・グッドモーニングエクササイズ(自体重)
・リバースランジ(自体重)
・ルーマニアンデッドリフト(自体重)
・1Lデッドリフト(自体重 or ダンベル)
・1Aダンベルロウ
・ディップス

*リバースランジおよびルーマニアンデッドリフトの適切なフォームが獲得出来た段階でStep4へ


Step4:フリーウエイトトレーニング導入プログラム1

運動プログラム例:
・スタンディングレッグスイング
・リバースランジ(自体重)
・ルーマニアンデッドリフト(バーベル)
・椅子を使ったスクワット(自体重)
・1Lデッドリフト(ダンベル)
・1Aダンベルロウ or ベントオーバーロウ(バーベル)
・ディップス

*椅子を使ったスクワットの適切なフォームが獲得出来た段階でStep5へ


Step5:フリーウエイトトレーニング導入プログラム2

運動プログラム例:
・スタンディングレッグスイング
・オーバーヘッドリバースランジ(プレート)
・フロントスクワット(バーベル)
・ルーマニアンデッドリフト(バーベル)
・オーバーヘッドプレス(バーベル)
・ベントオーバーロウ(バーベル)
・ディップス or プッシュアップ(自体重)

*フロントスクワットの適切なフォームが獲得出来た段階でバックスクワットを導入した通常プログラムへ(必要に応じて1RMテストを実施)


以上


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J Hypertens. 2006 Sep;24(9):1753-9.
Resistance training and arterial compliance: keeping the benefits while minimizing the stiffening.
Kawano H, Tanaka H, Miyachi M.

Abstract
Objectives This study aimed to determine the effects of moderate resistance training as well as the combined resistance and aerobic training intervention on carotid arterial compliance.
Background Resistance training has become a popular mode of exercise, but intense weight training is shown to stiffen carotid arteries.
Methods Thirty-nine young healthy men were assigned either to the moderate-intensity resistance training (MODE), the combined resistance training and endurance training (COMBO) or the sedentary control (CONTROL) groups.Participants in the training groups underwent three training sessions per week for 4 months followed by four additional months of detraining.
Results All training groups increased maximal strength in all the muscle groups tested (P < 0.05). Carotid arterial compliance (via simultaneous carotid ultrasound and applanation tonometry) decreased approximately 20% after MODE training (from 0.20 W 0.01 to 0.16 W 0.01 mm2 / mmHg, P < 0.01). No significant changes in carotid arterial compliance were observed in the COMBO (0.20 W 0.01 to 0.23 W 0.01 mm2 / mmHg) and CONTROL (0.20 W 0.01 to 0.20 W 0.01 mm2 / mmHg) groups. Following the detraining period, carotid arterial compliance returned to the baseline level. Peripheral (femoral) artery compliance did not change in any groups.
Conclusions We concluded that simultaneously performed aerobic exercise training could prevent the stiffening of carotid arteries caused by resistance training in young healthy men.

●目的:
中強度のレジスタンストレーニングならびに複合トレーニング(レジスタンストレーニング+有酸素トレーニング)が動脈コンプライアンスに及ぼす影響について検討

●被検者/トレーニング等:
・被検者:39名の若年者を無作為にMODE群(中強度レジスタンストレーニング群:12名/20 ± 1歳)、COMBO群(複合トレーニング群:11名/21 ± 1歳)、CONTROL群(コントロール群:16名/22 ± 1歳)に分けて実験を行った。

・トレーニング:週3回×12Weeks/ハーフスクワット、レッグエクステンション、レッグカール、ベンチプレス、ラットプルダウンおよびアブドミナルを実施。
MODE群・・・3×14-16:50%1RM
COMBO群・・・3×8-12:80%1RM+30min自転車運動:60%MaxHR
*トレーニング介入後12Weeksの脱トレーニング期間を設定

●主な結果:
・両トレーニング介入群において全トレーニング種目の1RMが有意に向上した。
・COMBO群における1RMの向上率はMODE群における1RM向上率よりも有意に高かった。
・MODE群における頸動脈コンプライアンスはトレーニング介入後に有意に低下した。
・COMBO群における頸動脈コンプライアンスはトレーニング介入後に増加傾向を示した。
・両トレーニング介入群における頸動脈コンプライアンスは脱トレーニング期間でトレーニング介入前とほぼ同じ状態に戻った。

●結論:
・中強度(50%1RM)のレジスタンストレーニングによっても頸動脈コンプライアンスが低下する。
・レジスタンストレーニングと有酸素トレーニングを組み合わせた複合トレーニングでは頸動脈コンプライアンスの低下が起こらず、レジスタンストレーニングよって生じる頸動脈コンプライアンスの低下を有酸素トレーニングが抑制している可能性がある。

●Note:
これまでの先行研究でレジスタンストレーニングよって頸動脈コンプライアンスが低下することが示されているが、中強度のレジスタンストレーニングが頸動脈コンプライアンスに及ぼす影響については明らかにされていないことも多く、本研究の結果から中強度のレジスタンストレーニングよって頸動脈コンプライアンスが低下することが明らかにされたことは非常に興味深い。

加齢に伴う筋量の減少および筋力の低下を予防することと動脈コンプライアンスの低下を防ぐことは、高齢者にとってどちらも重要な健康課題であるという点で考えれば、高齢者に対するレジスタンストレーニングにはパラドックスが存在するといっても過言ではないが、本研究の結果からレジスタンストレーニング後に有酸素エクササイズを実施することでレジスタンストレーニングによって生じる動脈コンプライアンスの低下を抑制できることが示唆されたことから高齢者に対してレジスタンストレーニング指導を提供する上では有酸素エクササイズを組み合わせた方が良いといえるかもしれない。

しかしながら、本研究の被検者は若年者であり加齢に伴う動脈コンプライアンスの低下がみられる中高年者において同様の結果が得られるとは限らないといえるだろう。

また、レジスタンストレーニングの効果と有酸素トレーニングの効果は両立せず有酸素トレーニングはレジスタンストレーニングの効果に悪影響を及ぼすことが報告されている点を踏まえて考えれば、レジスタンストレーニングと有酸素トレーニングを組み合わせた複合トレーニングはレジスタンストレーニングによって得られる本来の効果を減弱させる可能性があることは否定出来ない。


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Hypertension. 2003 Jan;41(1):130-5.
Greater Age-Related Reductions in Central Arterial Compliance in Resistance-Trained Men
Motohiko Miyachi, Anthony J. Donato, Kenta Yamamoto, Kouki Takahashi, Phillip E. Gates, Kerrie L. Moreau, Hirofumi Tanaka

Abstract
Reductions in the compliance of central arteries exert a number of adverse effects on systemic cardiovascular function and disease risk. Using the cross-sectional study design, we determined the relation between chronic resistance training and carotid arterial compliance. A total of 62 healthy normotensive men, 20 to 39 years of age (young) and 40 to 60 years of age (middle-aged), who were either sedentary or resistance-trained, were studied. In both activity groups, carotid arterial compliance (simultaneous ultrasound and applanation tonometry) was lower (P0.05) in the middle-aged compared with the young men. There was no significant difference between young sedentary and resistance-trained men. In the middle-aged group, carotid arterial compliance in the resistance-trained men was 30% lower (P0.01) than their sedentary peers. Femoral artery compliance and arm pulse wave velocity (measures of peripheral artery stiffness) were not different among any groups. Left ventricular hypertrophy index (echocardiography) was greater (P0.05) in resistance-trained compared with sedentary men and was associated with carotid arterial compliance (r0.35; P0.01). We concluded that (1) resistance training is associated with the smaller central arterial compliance in healthy middle-aged men; (2) age-related reductions in arterial compliance was greater in resistance-trained men than in sedentary men; and (3) the lower arterial compliance in the resistance-trained men is associated with left ventricular hypertrophy. In marked contrast to the beneficial effect of regular aerobic exercise, the present findings are not consistent with the idea that resistance training exerts beneficial influences on arterial wall buffering functions.

●目的:
レジスタンストレーニングが中高年者の動脈コンプライアンス(動脈伸展性)に及ぼす影響について検討

●被検者:
・20歳から39歳の男性(若年者)および40歳から60歳の男性(中高年者)
・Sedentary群(若年者:17名、中高年者:16名)/Resistance-Trained群(若年者:15名、中高年者:14名):計62名

●主な結果:
・若年者についてはSedentary群に比べResistance-Trained群において頸動脈コンプライアンスの低下(傾向)が見受けられたが有意な低下ではなかった。
・若年者のSedentary群に比べ中高年者のSedentary群は頸動脈コンプライアンスの有意な低下がみられた。
・中高年者についてはSedentary群に比べResistance-Trained群において頸動脈コンプライアンスの有意な低下がみられた。
・若年者ならびに中高年者のResistance-Trained群において頸動脈コンプライアンスと左心室肥大指数との間に有意な相関関係がみられた。

●結論:
・加齢に伴い頸動脈コンプライアンスの低下がみられる。
・継続的なレジスタンストレーニングは中高年者の頸動脈コンプライアンスを低下させる。
・年齢に関わらず継続的なレジスタンストレーニングによって生じる頸動脈コンプライアンスの低下は左心室肥大に関係している。

●Note:
動脈コンプライアンスの低下、いい換えれば動脈スティフネスの増加は心血管疾患の危険因子であることが明らかにされており、加齢に伴い動脈スティフネスが増加することが明らかにされていることから、高齢者の健康維持・増進を図る上で動脈スティフネスの増加を抑制することが重要であるとされている。

これまでの先行研究の結果から有酸素エクササイズは動脈コンプライアンスを改善することが明らかにされている一方で、レジスタンストレーニングは動脈コンプライアンスを低下させる可能性があることが示唆されており、本研究においても継続的なレジスタンストレーニングを実施している中高年者において動脈コンプライアンスの低下が認められた。

加齢に伴う筋量ならびに筋力の低下は移動能力を低下させ転倒のリスクを高めることが明らかにされていることから加齢に伴う筋量ならびに筋力の低下を抑制することは超高齢化社会の到来が懸念される我が国においては重要課題の一つであると考えられるが、レジスタンストレーニングは加齢に伴う筋量ならびに筋力の低下を抑制することが明らかにされており、有酸素トレーニングには加齢に伴う筋量ならびに筋力の低下を抑制することが出来ないことが明らかにされていることから中高年者にとってレジスタンストレーニングは必要不可欠な運動であるといっても過言ではない。

しかしながら、本研究の結果から中高年者にとってレジスタンストレーニングは動脈スティフネスを増加させ心血管疾患のリスクを高める可能性がある運動であることを認識しなければならないといえるだろう。

但し、レジスタンストレーニングが動脈スティフネスを増加させることは疑いようのない事象であるといえるが、この事象が心血管疾患の危険を増加させるNegativeな非可逆的適応なのか血管破裂の危険に対して動脈壁を強くするPositiveな適応なのかは不明な点も多く更なる研究が必要であり、必ずしも中高年者が取り組むべき運動としてレジスタンストレーニングが否定される訳ではない。

また、レジスタンスエクササイズ後に有酸素エクササイズを実施することで動脈スティフネスの増加を抑制する可能性があること、タウリンの摂取によってレジスタンストレーニングよる動脈スティフネスの増加を抑制する可能性があることが報告されている点を参考にした上でトレーニング指導者は中高年者に対して適切なレジスタンストレーニングを提供すべきであるといえよう。


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J Physiol 576.2 (2006) pp 613–624
Resistance exercise increases AMPK activity and reduces 4E-BP1 phosphorylation and protein synthesis in human skeletal muscle
Hans C. Dreyer, Satoshi Fujita, Jerson G. Cadenas, David L. Chinkes, Elena Volpi and Blake B. Rasmussen

Abstract
Resistance exercise is a potent stimulator of muscle protein synthesis and muscle cell growth, with the increase in protein synthesis being detected within 2-3 h post-exercise and remaining elevated for up to 48 h. However, during exercise, muscle protein synthesis is inhibited. An increase in AMP-activated protein kinase (AMPK) activity has recently been shown to decrease mammalian target of rapamycin(mTOR) signalling to key regulators of translation initiation.We hypothesized that the cellular mechanism for the inhibition of muscle protein synthesis during an acute bout of resistance exercise in humans would be associated with an activation of AMPK and an inhibition of downstream components of the mTOR pathway (4E-BP1 and S6K1).We studied 11 subjects (seven men, four women) before, during, and for 2 h following a bout of resistance exercise. Muscle biopsy specimens were collected at each time point from the vastus lateralis. We utilized immunoprecipitation and immunoblotting methods to measure muscle AMPKα2 activity, and mTOR-associated upstream and downstream signalling proteins, and stable isotope techniques to measure muscle fractional protein synthetic rate (FSR). AMPKα2 activity (pmol min−1 (mg protein)−1) at baseline was 1.7±0.3, increased immediately post-exercise (3.0±0.6), and remained elevated at 1 h post-exercise (P <0.05). Muscle FSR decreased during exercise and was significantly increased at 1 and 2 h post-exercise (P <0.05). Phosphorylation of 4E-BP1 at Thr37/46 was significantly reduced immediately post-exercise (P <0.05). We conclude that AMPK activation and a reduced phosphorylation of 4E-BP1 may contribute to the inhibition of muscle protein synthesis during resistance exercise. However, by 1-2 h post-exercise, muscle protein synthesis increased in association with an activation of protein kinase B, mTOR, S6K1 and eEF2.

●目的:
一過性のレジスタンスエクササイズが骨格筋AMPK活性、mTOR経路、筋タンパク合成に及ぼす影響について検討

●被験者・トレーニング等:
・成人男女11名(男性7名,女性4名;27 ± 2歳)
・レッグエクステンション;10×10(70%1RM)
・運動1h前、運動直前、運動直後、運動1h後、運動2h後に外側広筋よりバイオプシーによって筋組織を採取

●主な結果:
・運動直後において筋タンパク合成の低下がみられたが運動1h後および2h後には増加した。
・AMPKα2活性は運動直後に上昇し運動1h後まで上昇したままであった。
・mTORのリン酸化は運動1h後、運動2h後に有意な増加を示した。
・運動直後に4E-BP1のリン酸化が有意に減少した。

●結論:
・レジスタンスエクササイズによるAMPK(AMPKα2)の活性化および4E-BP1のリン酸化の減少がレジスタンスエクササイズ中の筋タンパク合成を抑制していることが示唆された。
・レジスタンスエクササイズ1h後および2h後の筋タンパク合成の増加はプロテインキナーゼB(Akt)、mTOR、p70S6K、eEF2の活性化によるものであることが示唆された。

●Note:
特記事項なし(2015/10/2時点)


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Mech Ageing Dev. 2012 ; 133(0): 655–664.
Reduced AMPK-ACC and mTOR signaling in muscle from older men, and effect of resistance exercise.
Mengyao Li, Lex B. Verdijkd, Kei Sakamotoe, Brian Elya, Luc J.C. van Loond, and Nicolas Musia

Abstract
AMP-activated protein kinase (AMPK) is a key energy-sensitive enzyme that controls numerous metabolic and cellular processes.Mammalian target of rapamycin (mTOR) is another energy/nutrient-sensitive kinase that controls protein synthesis and cell growth.In this study we determined whether older versus younger men have alterations in the AMPK and mTOR pathways in skeletal muscle, and examined the effect of a long term resistance type exercise training program on these signaling intermediaries.Older men had decreased AMPKα2 activity and lower phosphorylation of AMPK and its downstream signaling substrate acetyl-CoA carboxylase (ACC).mTOR phosphylation also was reduced in muscle from older men.Exercise training increased AMPKα1 activity in older men, however,AMPKα2 activity, and the phosphorylation of AMPK,ACC and mTOR, were not affected.In conclusion, older men have alterations in the AMPK-ACC and mTOR pathways in muscle. In addition, prolonged resistance type exercise training induces an isoform-selective up regulation of AMPK activity.


●目的:
高齢男性の骨格筋におけるAMPK-ACC経路およびmTOR経路の変化(加齢的変化)と長期的なレジスタンストレーニングがAMPK-ACC経路およびmTOR経路に及ぼす影響について検討。

●レジスタンストレーニング:
・3回/週
・レッグプレス&レッグエクステンション
・4×10-15@60%1RM;Week1-Week3
・4×8-10@75%1RM;Week4-Week12

●主な結果:
・高齢男性においてはAMPKα2活性の低下、AMPKおよびACCのリン酸化の低下がみられ、またmTORのリン酸化も低下していることが示された。
・長期的なレジスタンストレーニングは、高齢男性におけるAMPKα1活性を増加させたがAMPKα2活性およびAMPK、ACC、mTORのリン酸化には影響を及ぼさないことが示された。

●結論:
・高齢男性の骨格筋におけるAMPK-ACC及びmTOR経路には加齢的変化がみられる。
・長期的なレジスタンストレーニングは高齢者におけるAMPKα1活性を選択的に増加させる。

●Note:
複数の先行研究によってAMPK活性を高めるには有酸素トレーニングが有効であることが示唆されているが、本研究によって高齢者に対するレジスタンストレーニング(負荷によって異なる可能性があるものの)でAMPKα1活性が高まる可能性があることが示されたことは非常に興味深い。

先行研究によってAMPKα1の活性化はmTOR経路を阻害し筋肥大に負の影響を及ぼすことが示されている通り本研究においてもAMPKα1の活性化によってmTORのリン酸化に影響を及ぼすことが示されているが、筋肥大に直接的に影響を及ぼすといえるp70S6Kのリン酸化は有意差はないもののレジスタンストレーニング後に増加を示していることは非常に興味深い。実際にレジスタンストレーニング後に大腿四頭筋の筋横断面積は有意な増加を示しており、高齢者に対するレジスタンストレーニングは負荷によって異なる可能性があるもののAMPKα1の活性化ならびにmTOR経路の阻害による筋肥大に対する負の影響を受けずに筋肥大を促進させる可能性が推察される。

近年、AMPK活性を高めることが生活習慣病の予防、がん予防、長寿に良い影響を及ぼす可能性があることが示唆され注目されていることから高齢者にとってはAMPK活性を高めることが抗加齢の視点で重要であると考えられる。しかしながら、AMPK活性が高まることでmTOR経路が阻害され筋肥大に負の影響を及ぼす可能性があることも示唆されており、加齢に伴う筋量の減少を防ぐという点で考えれば高齢者においてはAMPK活性を高めることばかりが重要であるとはいい切れないかもしれない。そのような側面から本研究によって示唆された知見は、高齢者に対するレジスタンストレーニングが負荷によって異なる可能性があるもののAMPKα1を活性化させつつ、筋量を維持させることが可能となり抗加齢に有効な手段である可能性が推察されるという点で非常に興味深いといえる。

【参考:mTOR(mTORC1)の活性要因および抑制要因】

・活性要因(活性化機構)
1.インスリンによるRheb(Ras Homolog enriched in Brain)へのシグナル経路
2.アミノ酸(特にロイシン)感知システム

・抑制要因
1.エネルギー枯渇(AMP/ATP比の増加に伴うAMPKの活性化)
2.低酸素状態
3.DNA損傷

*興味深い点は、酸化ストレスによって、特に活性酸素種(ROS)の上昇によってもmTORC1が活性化することが明らかにされ、加齢によるROSの上昇に伴うmTORC1の活性化が老化の進行に関係している可能性が示唆されている点であるが、酸化ストレスによるmTORC1の活性化の生理学的意義については明らかにされていない点も多く更なる研究が必要であるといえよう。


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