夜中、ひとりでぼーっとお酒を飲んでいると、なにか、あらゆるものから自由になれている気がします。
エバンスのピアノトリオを小さな音量で流し、ぼーっとする。
ひたすらぼーっと。
こんなとき、不意にクロノトリガーという、古いテレビゲームを思い出します。
このゲームは強くてニューゲームというシステムがあって、他のゲームデータの状態でまた最初からプレイことができる。
ようするに、レベル1からはじめないわけで、異様に簡単にゲームを進めることができるのです。
時々、リセットボタンを押したくなります。
今あるしがらみから解き放たれて、人生を別の地点からやり直したい。そんなことを不意に思います。
でも、本当にリセットしてしまうと、意味がないので、今の記憶を持ち込みたい。クロノトリガーのシステムのように。
そんなことを考えていると、だんだんアルコールが満ちてきて、思考はさらにとりとめがなくなっていきます。
最近、夜中に飲むのはラフロイグ。
有名なシングルモルトのスコッチウイスキー。
俵万智さんのエッセイ、百人一酒にも登場します。
正露丸、消毒液なんて呼び名があるほど、風味にクセのあるウイスキーですが、慣れてしまうと抜け出せなくなります。
村上春樹が、「10年ものには10年ものの頑固な味があり、15年ものには15年ものの頑固な味があった」と書いているように、若い年数でもとても美味しい。
ウイスキー夜半にし飲めば舌ひびく今のひととき妻も子もなし
/高野公彦「汽水の光」
夜中にひとりで飲むアルコールには不思議な力があるようで、その瞬間、本当に世界から切り取られるような感覚があります。
掲出歌でも、妻と子がいる人生が心から嫌なわけではないと思います。
しかし、ふっと、そうではない自分を夢想する瞬間がある。
それは、夜半に、ひとりウイスキーを飲んでいるときが、1番しっくりくるのではないでしょうか。
気持ちよく眠りにつき、また翌朝には日常があらわれる。
人生とはそのようなものなのでしょうか。