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新代表チームのテーマ「エクイリブリオ」とは何か
アルベルト・ザッケローニ監督の就任会見において、彼は、新日本代表チームのテーマを一言でいえば「エクイリブリオ(equilibrio)」であると答えていた。それでは「エクイリブリオ」とは何か。まずは今回は、私が尊敬するイタリア人監督であるアンチェロッティの説明をお読みいただきたい。
カルロ・アンチェロッティ(チェルシーFC監督)
イタリアには「エクイリブリオ」という言葉がある。「均衡、平衡、釣り合い」を意味する語句だが、カルチョの文脈では攻守のバランスを云々する際に使われる用語となっている。「エクイリブリオが高いレベルで保たれている」と論評されれば、攻撃の局面でも守備の局面でも質の高いプレーができているということだ。そういうチームは、攻撃の局面では、効果的なオフェンスを続けながら、ボールを失ってもディフェンスがおろそかにならない状態を、守備の局面では、堅固なディフェンスを保ちながら、ボールを奪ったあとの攻撃力を犠牲にしない状態を、それぞれ保っているものだ。
通常、質の高い攻撃を実現するには、ボールのラインよりも前に多くの選手を送り込む必要がある。ところが往々にして、そういうチームは「前がかり」になりがちで、カウンターのためのスペースを相手に与えてしまうケースが少なくない。逆に、堅固な守備組織を築こうとすれば、ボールのラインよりも後ろに多くの選手を戻して、スペースを埋めるのが一番だ。しかしこの場合は、チーム全体が「引いた」状態になりがちで、攻撃に転じても敵陣までボールを運ぶのが難しくなる。どちらもエクイリブリオを保てておらず、攻撃か、守備か、いずれかの局面にバランスが偏った状態なのだ。
攻撃に偏っていれば、得点も失点も多いチームになるだろう。守備なら、失点も得点も少ないチームにならざるをえない。逆に言えば、攻撃と守備という相矛盾するふたつの局面を両立させうるバランス(エクイリブリオ)を見出せば、論理的には得点が多く、失点が少ないチームができあがる。すなわちあらゆるチームが、エクイリブリオを高い次元で保つことを、最大の戦術的課題としているはずなのだ。
イタリアのチームに少なくないのが、非常にコンパクトでよく組織された守備網を敷いている反面、攻撃に人数をかけられず、もっぱらカウンターに依存しているパターンだ。まずは失点を避けたいという守備的なメンタリティーを反映した傾向だが、いずれにしてもエクイリブリオは保たれていない。
エクイリブリオを高いレベルで保つための具体的な方法論は、もちろんシステムや選手のキャラクターに応じて変化する。ただ、一般論として言うならば、フィールドプレーヤー10人のうち最大で5人(ボールホルダーを含む)までが攻撃に参加し、後方の5人が次のプレーに備えたポジションを取っていれば、エクイリブリオは十分保てるはずである。
最も重要なのは、コンパクトな陣形と戦術的な秩序を維持することだ。攻撃に転じたら、チーム全体を押し上げる。ライン間の距離を短く保っていれば、たとえボールを取られても、即座にプレッシャーをかけることで、相手の攻撃からスペースと時間を奪えるだろう。そこまでいかなくとも、ボールホルダーを自由にさせず、攻撃の展開を遅らせて、守備陣形を整えるための時間を稼ぎ出せるに違いない。(以上、ワールドサッカーダイジェスト234号から)
このように攻撃・守備の高次元の権衡・両立こそ、アンチェロッティやザッケローニが意味するところの「エクイリブリオ」であろう。システムや選手の個性が違えば、どこにバランス・ポイントを見出すかも違ってくる。ザッケローニが日本の選手の個性とその個性に適したシステムを見出しながら、いかに高度の「エクイリブリオ」を確立し、攻撃の局面でも守備の局面でも、オン・ザ・ボールでもオフ・ザ・ボールでも質の高いプレーを実現できるか。期待して待つことにしよう。通常、質の高い攻撃を実現するには、ボールのラインよりも前に多くの選手を送り込む必要がある。ところが往々にして、そういうチームは「前がかり」になりがちで、カウンターのためのスペースを相手に与えてしまうケースが少なくない。逆に、堅固な守備組織を築こうとすれば、ボールのラインよりも後ろに多くの選手を戻して、スペースを埋めるのが一番だ。しかしこの場合は、チーム全体が「引いた」状態になりがちで、攻撃に転じても敵陣までボールを運ぶのが難しくなる。どちらもエクイリブリオを保てておらず、攻撃か、守備か、いずれかの局面にバランスが偏った状態なのだ。
攻撃に偏っていれば、得点も失点も多いチームになるだろう。守備なら、失点も得点も少ないチームにならざるをえない。逆に言えば、攻撃と守備という相矛盾するふたつの局面を両立させうるバランス(エクイリブリオ)を見出せば、論理的には得点が多く、失点が少ないチームができあがる。すなわちあらゆるチームが、エクイリブリオを高い次元で保つことを、最大の戦術的課題としているはずなのだ。
イタリアのチームに少なくないのが、非常にコンパクトでよく組織された守備網を敷いている反面、攻撃に人数をかけられず、もっぱらカウンターに依存しているパターンだ。まずは失点を避けたいという守備的なメンタリティーを反映した傾向だが、いずれにしてもエクイリブリオは保たれていない。
エクイリブリオを高いレベルで保つための具体的な方法論は、もちろんシステムや選手のキャラクターに応じて変化する。ただ、一般論として言うならば、フィールドプレーヤー10人のうち最大で5人(ボールホルダーを含む)までが攻撃に参加し、後方の5人が次のプレーに備えたポジションを取っていれば、エクイリブリオは十分保てるはずである。
最も重要なのは、コンパクトな陣形と戦術的な秩序を維持することだ。攻撃に転じたら、チーム全体を押し上げる。ライン間の距離を短く保っていれば、たとえボールを取られても、即座にプレッシャーをかけることで、相手の攻撃からスペースと時間を奪えるだろう。そこまでいかなくとも、ボールホルダーを自由にさせず、攻撃の展開を遅らせて、守備陣形を整えるための時間を稼ぎ出せるに違いない。(以上、ワールドサッカーダイジェスト234号から)
そして、2007年のアジアカップ(サウジ相手に3失点し、4位敗退)、2010年ワールドカップの日本は、エクイリブリオが保たれていたか。仮に保たれていなかったとすれば、どのような点に問題があったのか。余裕があれば、そういった点を次回は考えてみたい。
ちなみに「ボールのライン」とは、ボールを通る、ゴールラインと平行に引いた線をいう。図を参照されたい。
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アンチェロッティの戦術ノート | |
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