僕にはインターネットで様々な人たちと会話をする「チャット」を通して知り合った友達、仲間達が多くいる。

 


 


今日その仲間達と初めて顔を合わす日。

所謂オフ会というものが開かれた。そして現在オフ会の開催会場の前に僕は来ていた。

 


4年間もチャットでオフ会をしようと話題が出た時は冗談だろうと思って会話をしていたのだがまさか本当にオフ会をする日が来るなんて思わなかった。

当日になると正直僕は参加すると言ったことを後悔していた。まさかここまで緊張するとは思わなかったからだ。

 


僕は会場の前で持っている手鏡を鞄から出して髪形を見たり服装は決まっているかなどを用心深くチェックしていた。

チャットで何回も会話をしていたとはいえ初めて会うのだからやはり身だしなみはちゃんとしっかりしておかないとな…。

 


 


とにかく意を決して会場の中に入ろうとするといつの間にか僕の隣に女性がひとり僕のことをじっと見ていた。

ロングの綺麗な黒髪で外見は僕と同い年ぐらいで化粧もしっかりとしておりぱっちりとした大きな目が印象的でなんていうか美人である。

 


「ん~」

 


なぜかその女性は僕を見ながらうなっていた。

 


「あ、あの僕になにか用ですか?」

さすがに見つめられたままでは僕が困ってしまうので女性に声をかけた。

 


「うーん、もしかしてくろあ?」

僕はその彼女の口から出たくろあという単語にびっくりした。

そう、くろあというのは僕のチャットでの名前でありその名前はチャットのメンバーじゃないとわからないはずなのだから。

 


「え!なんで僕のチャットでの名前を…」

「アハハ!やっぱりくろあなんだ!!」

 


なぜだが急に彼女は笑い始めた。

 


「へ~、こんな顔してたんだ!カッコいいというより可愛い系だよね!」

「もしかして、君ってチャットのメンバーのひとり?」

「あれ、私のことわからない?」

 


どうやら彼女がチャットのメンバーのひとりなのは間違いないようだった。

だが、彼女がチャットのメンバーの中で誰なのかはわからなかった。

 


「もしかして、むらぁ?」

「ぶぶー!全然違うよ。ちょっとくろあ、女の子の名前間違えるなんてひどいよ!」

 


チャットで仲良くしている女の子の名前を言ってみたがそれはどうやら間違いだったようだ。そして僕はもう一人可能性のある女の子の名前を言ってみた。

 


「まさか、奈々?」

「せいかーい!でも気づくの遅いよ!私なんかくろあ見た時そうじゃないのかな~って一瞬でそう思えたんだよ」

「はは、ごめんごめん」

 


やっぱり奈々だった。

奈々はチャットでは僕と仲良くしている友達のひとりでそして奈々はチャットでみんなの人気者でもある。

 


「それで、くろあ?私になんか言うことない?」

「え、何?」

「ちょっとー!そんなこともわからないの?リアルで私をみて綺麗とかかわいいとかそういう感想はないの~?」

「あ、そういうことか。いや、かわいいよ」

「今更遅いよ~。もう!ほんとチャットとリアルで全然性格に違いはないね!」

「そう言う奈々だって全然チャットと一緒だろ」

 


チャットでの奈々はいつも元気でお気楽という感じ。

まさかリアルでもこんな感じだったとは…。

 


「そんなことよりそろそろ会場に入ろうよ。おもいっきり私達遅刻してるし」

「うわ、ほんとだ。それじゃあ早く行こう!」

 


僕達は会場へと急いだ。

中に入ると受付の人が名前を確認し部屋まで案内をしてくれた。