こんにちは。米原です。
これだけ猫のことを書いていると、昔、猫がいた家にお世話になったときのことを思い出します。
あの時の猫とのふれあいが今の創作活動の助けになっているのだと思うと、なんだかくすぐったいです。
あれから今年で10年かぁ。
時が経つのは早いと思いながら、続けていきます。
大図書館の羊飼い~放課後しっぽデイズ~ The New Commer(5)
ヒリヒリした頬をさすりながら、部室に戻る。
のぞみを助けたのに、何たる災難!
そう思いたいが、不可抗力とはいえ、のぞみの胸を揉んだのは事実。
のぞみも反論したいけれども出来ないジレンマの中にいる。
こういうのは、水に流すのが一番だと思う。
「なんともお二人さんらしい一幕でした。ご馳走様」
あの一件以来、終始笑顔の女性が、俺たちについてくる。
「あ、あのー」
「何かしら?」
「うちの制服を着ているということは……うちの生徒、ですよね」
「えぇ、そうよ」
「お名前を聞いてもよろしいでしょうか」
「名前? 朔夜よ」
「朔夜……さんですか」
聞いたことがあるような、無いような名前。
思い出せない。
「それで、その朔夜さんはなぜ私たちについてくるのですか?」
「だって、面白そうなんだもの」
俺たちは見世物じゃねー。
「私たちは見世物じゃありません!」
俺が思っていたのと同じ事を言うのぞみ。
……からかわれるわけだ。
「そう怒らないで。別にからかっているわけではないの」
朔夜さんは笑顔を崩さなかった。
「なんとなくね、昔の友達を見ているような気がして、なんだか親近感が沸いたのよ」
へー、と思ったら、のぞみもそんな顔をしていた。
俺とのぞみって、こんなに息が合ったっけ?
「悪いけれど、これ以降のことは部室で話させてくださらない? あまり他人には聞かれたくない内容があるので」
のぞみが『どうする?』と言う顔でこっちを見る。
まぁ、乗りかかった船と言う事で、聞いてみようと思う。
「わかった。じゃぁ部室で聞くよ」
「ありがとう」
『信用できるの?』という顔でのぞみがこっちを見るが、『べつに捕り物でもないし』という顔を返す。
「ふふっ、やはりおしどり夫婦なのね」
ムッ、として、朔夜さんを見る。
チラッと隣を見ると、のぞみも俺と同じ顔をしていた。
のぞみ……悪いが説得力無いから、やめよう。
教室に入り、カメラをしまうと、のぞみが奥からお茶を持ってきてくれた。
と言っても、俺たちがたまに飲む、インスタントのお茶である。
「粗茶ですが」
少し機嫌の悪そうなのぞみに、
「ありがとう」
と笑顔で返す朔夜さん。
この時点で負けてるぞ、のぞみ!
「それで朔夜さん、話の続きを」
「えぇ」
朔夜さんはお茶を一口飲むと、話し始めた。
「私は、実は田舎の出身なの。
都心の学校に行って、自分自身をもっと磨きたいと思っていたの。
でも、親は大反対。
地元の学校に行って、地元で就職をすればいいって聞かないの。
私が男だったら少しは違ったのかもしれないけれど、『女の私は親のそば監視をされるべき』なんて考える親だったから、嫌になっちゃって。
それで家出をして、この学校に来たの」
「ええっ!?」
「驚くことではないわ。成績上位優秀者には奨学金が出るし、国の奨学金を足せば一人暮らしをしながらこの学園に通う事だって不可能じゃないわ」
確かに、お金が無くったって奨学金制度を使えば、学校に行ける。
ましてや、ここの学校の生徒は学校周辺で一人暮らしの生徒が多い。
一人ですんでいたって、誰も変だとは思わない。
「で、でも、良くこの学校に入れましたね……」
「あら、田舎モノは入れないとでも?」
「そ、そうじゃなくて、国の奨学金って、学校に入学してから申請してもらうものでしょ?入学金とかはどうやって用意したの?」
「コレよ、コレ」
朔夜さんは右手にあるカメラを振る。
「私、アマチュアのカメラウーマンなの。雑誌に投稿して、ちょくちょく稼いでいるわけ」
「へっ、へーっ」
「でも……これも差別と言われれば差別かもしれないですけど、お金を稼ぐならもっと高級なカメラが必要なんじゃないですか?」
「私の腕はまだまだだから、人と違うもので勝負しようと思ったの。人が撮らないものをとれば、お金になると思ってね」
「なるほど……」
「ちょっと、何が『なるほど』なのよ」
「のぞみ、あのカメラは防水・防塵、衝撃吸収、耐低温の三つを兼ね備えているカメラなんだ。あれなら、水中だろうが砂漠のど真ん中だろうが、カメラの心配をせず写真を取れる」
「でも、性能は一眼が一番でしょ?」
「わかってないなぁ。一眼のメリットの一つは、その時によって最適なレンズを換えられる事。カメラにごみが入りやすいところでレンズを換えられないでしょ?」
「あ……」
「確かに、あのカメラじゃ一眼のような多彩な表現をすることは出来ない。しかし、一眼での撮影を躊躇しちゃうようなところでも撮影できるメリットがあのカメラにはあるんだ」
「そうね……何十万もするカメラを、壊れやすい環境に持っていくのは躊躇するわよね……」
「さすがね」
「どうも」
朔夜さんは笑顔のままだった。
「それで、そんな腕を持つ朔夜さんさんがウチに何の用?」
「私を部員にしてくださらない?」
「えっ?」
俺より先に驚いたのが、のぞみだった。
「そんな腕を持つんだったら、写真部とかに行けばいいのに……」
「あの部活は文化祭の展示や雑誌の投稿がノルマとなっていて厳しいのよ。私は自由気ままに撮影したいの」
「しかし、ウチは野良猫しか撮らない部活ですよ」
「良いのよ。ちょうど猫の写真の依頼が来ててね」
「ではその依頼が終わったらオサラバですか?」
笑顔だった朔夜さんの顔が変わる。
「貴方、なかなか鋭いわね」
「いままでのぞみと二人で仲良くやってきてたわけで。別に新しい人が来るのは拒まないけど、いなくなるとさびしいじゃん」
うん、うんとのぞみが首を縦に振る。
「そんなつもりは無いわ。卒業まで猫を撮り続けたいもの」
朔夜さんはオレンジのカメラをピコピコといじると、スクリーンを俺たちに見せる。
「このカメラには、ペットモードが付いているの。コレを使えば、あなたの一眼よりも綺麗な写真が取れるかも」
「ベストショットで自動でシャッターが降りる機能か。コレはすごいなぁ」
「あとはマジックフィルターで、ちょこっといじれば面白写真に」
朔夜さんはさっき俺たちに見せた猫の写真を、マジックフィルターで変更したものを見せてくれた。
フィッシュアイレンズで撮った画像に変わったりして、面白い。
「ねぇ、アンタの一眼じゃできないの?」
のぞみが興味を持ったようで、俺に聞いてくる
「マジックフィルターは出来るな。でも、ペットの自動シャッターモードは無い」
「なーんだ」
楽なほうに、楽なほうに流れるのは、日本人の悪い癖だぞ、のぞみ。
「まぁそんなところで。私は勝手にいなくなったりしないわ。ただ純粋に、貴方たちの部に参加させてもらって、猫の写真を撮りたいのよ」
「朔夜さん」
のぞみが真顔で立ち上がる。
「あたし、のぞみ。これから、よろしくね」
朔夜さん笑顔を見せて、手を差し出した。
「よろしく」
朔夜さんもにこっと笑顔を見せて、のぞみと握手した。
「ただ単に朔夜さんのカメラが使いたいだけじゃないのかぁ」
「べっ、べつにそんなことはありませんっ!」
あせった顔をして反論するのぞみ。
ダメだこりゃ。
かくして、猫写真部に新たな部員、朔夜さんが加わった。
To be continued
いかがだったでしょうか。
とりあえず、矛盾の無いように朔夜の設定をしました。
奨学金の話とか、羊飼い本編には出てきませんでしたが、まぁこれぐらいあるでしょうということで。
ちなみに、国の奨学金は、米原も大学でお世話になりました。
全額この奨学金で自己負担。
ローンにヒーヒー言いながら、サラリーマン生活を頑張りたいと思います。
米原









