米 原 伊 吹 の 今 夜 も 眠 れ な い !


『大図書館の羊飼い-Dreaming Sheep-』2014年3月28日発売予定、11月29日より全国のPCショップで予約受付開始です。 『大図書館の羊飼い-Dreaming Sheep-』2014年3月28日発売予定、11月29日より全国のPCショップで予約受付開始です。

世のは、アニメやゲームだらけ。

そんなものを全部やっていては、夜も眠れない

そんな中でも、果敢に自分の好きなモノを追い求める――

きっとそこに、何かがあるはずだから。


大図書館の羊飼い

大図書館の羊飼い 白崎つぐみ SS 仲間と育んだ三つの"しき"

こんにちは。米原です。

本日、2015年8月22日(土)、23日(日)に、東京オペラシティにて予定されている、トラベリングオーガスト2015に動きがありました。
既にあったティザーサイトに、つぐみの絵が公開されました。

https://twitter.com/side_connection/status/585374680611041281

指揮棒を振るつぐみの姿は、今回の趣旨である「オーケストラ・コンサート」らしいような、らしくないような。
美しいドレスは合っているのですが、つるが指揮棒と体、そして左腕にまかれ、指揮者としては少し動きづらそうに見えます。
さらに、水面に浮いています。
ちょっと妖精チックにも見えるこの絵は、あくまでオーガストのキャラクターによる、キービジュアルです。
「オーケストラ」とか「オペラ」と聞くと、格式が高く、堅苦しさをも想像してしまいますが、この絵を見ると、「オーガストらしさ」を感じました。
おふざけはダメですが、前回同様、ゆっくりと、楽しく、リラックスして聞けそうです。

さて、このつぐみ。
凪ぐらい胸があるように見え、そして本当に美しいです。
千莉推しな私ですが、このつぐみは本当にかわいいと思います。
それだけすばらしい絵であるにもかかわらず、一枚絵であるため、動きません。
ならば、ストーリーをつけて動かしてしまおう。
いつもの病気が始まりました。

思考する事、数分。
そして、案を実行する事、約1時間と30分。
この絵を挿絵にしたSSを完成させましたので、公開いたします。
ずいぶん無茶な設定ですが、仕方ありません。
元々、大図書館の羊飼いとは、何の関係もない絵なのですから。

私だけでなく、皆様も感動したであろうこの絵が、動いた瞬間を、お楽しみいただければと思います。


大図書館の羊飼い 白崎つぐみ SS 仲間と育んだ三つの"しき"


―3月30日(月)―

次週より、一万を超える新たな汐美学園生が誕生する。
つまり、今週が、俺達が今の学年で行う、最後の活動と言う事になる。
しかし、この場に御園は、いない。
「もう一週間も千莉を見ていないと、やっぱり寂しいですね」
会議の休憩中に、佳奈すけがポツリと言う。
「元々、こうなるのはわかっていた。今の御園を見ていると、今後はこういうことも増えそうだ、今のうちに慣れておくとしよう」
至って冷静な意見を述べた桜庭だが、その顔には寂しさが滲んでいた。
「ま、特別な生徒なんだから、これぐらいやってもらわないとね」
サバサバとした意見を述べるたのは、高峰だった。
自身も、『一応』特別な生徒ならではの意見だろう。
厳しい中にも、思いやりがある言葉だと感じた。

御園がいない中であっても、滞りなく進んでいく会議。
先週からずっと、新入生歓迎会の歌練の為に、生徒会室には来ていない。
桜庭の言うとおり、こうなるのはわかっていた。
高峰の言うとおり、御園は特別だ。
だが、佳奈すけの言う通り、『仲間』がいないのは、本当に寂しい。
「なんか私達に手伝える事、無いんですかね」
「鈴木、ピアノか何か出来るのか?」
「まーったく出来ません。桜庭さんは?」
「たしなみとして多少は出来る。だが、御園を狂わせてしまうが関の山だ」
肩をくすめる桜庭。
鈴木の言うとおり、手伝いなり、励ましなり、仲間なのだから何かしてやりたい気持ちはある。
しかし、俺達素人レベルが口出しする事は、無駄どころか、マイナスになりかねない。
「高峰、特待生として、何かコメントできる事はないか?」
「ヒュー、まさか筧から痛いところを突かれるたぁーね」
苦笑いをする高峰。
「ま、緊張ってのはさ、練習不足が原因なのさ。例えば、百マス計算の完走なら、緊張はしないだろ?」
もしこれが、『何秒以内で完走しろ』だったら緊張もするだろうが、時間を幾らかけても良いなら、極度に緊張する必要も無くなる。
「それは、今までに、百マス計算が完走出来るだけの練習、もとい勉強をして、それ相応の実力があるからさ。実力がないと緊張もするし、自信も失う。それと同じさ」
「おぉ……」
高峰の適切な意見に対し、感嘆する二人。
「ま、俺達が出来る事は、邪魔せず、千莉ちゃんが安心してたくさん練習が出来るように、サポートする事だけさ」
高峰は、窓の外を見ながら、言った。
その顔は、過去の自分に、そう言い聞かせているようにも思えた。

「でも、何かしたいですよね」
佳奈すけがそうつぶやく。
「千莉のことだから、私たちが一回も顔を出さないと、へそを曲げそうです」
「ハハハ、かもな」
佳奈すけの発言に対し、桜庭が笑う。
確かに、御園の性格だと、そうかもしれない。
親友らしい意見だと、俺は思った。
「何か出来ないですかね。指揮とか」
「オイオイ、佳奈すけ。音感の無い俺達に、指揮なんか出来っかよ」
「そうだぞ、鈴木。ただ単に手を振っているだけじゃないんだから」
「そ、それはわかってます。でも、私達が出来そうなのって、それぐらいしかないじゃないですか!」
……佳奈すけの言い分はわかる。
楽器が出来ないのであれば、俺達にできるのは、演奏者を鼓舞する、指揮者ぐらいだろう。
だが、鼓舞するには相当の力が必要だ。
ただ手を振ってれば良いってもんじゃない。
「あー、もう。人のボヤキに対してそこまで突っ込まないでください。ハイハイ、考えが浅はかでしたよーだ」
へそを曲げる佳奈すけ。
「会議、始めましょ。私達に出来る事は、祈る事と、千莉のいない間に会議を進めておくことなんですから」
膨れっ面の佳奈すけは、ホワイトボードを消し、次の議題を書き始めた。
「佳奈すけ、待った」
「へ?」
「全然浅はかな考えなんかじゃない。良いアイディアだ」
「何言っているんですか、筧さん。指揮者って、演奏の一番大事なところですよ。それを……」
「まぁ、そういわずに、聞いてくれよ」
俺は、一つのアイディアを語った。


―4月6日(月)―

Another View ―御園 千莉―

新入生歓迎会が進むにつれ、周りの大人からは、焦りの色が見え始めた。
自らが行うわけで無いにもかかわらず、顔には、不安の色も見えている。
いや、自らが行うわけではなく、生徒一人に全てを委ねているからゆえ、なのかもしれない。
だったら大物を、閲覧者として呼ばなければ良いのに――
そう思ってしまう。
大人の世界はしがらみが多く、先生だって好んで呼んだわけではないのはわかる。
新入生がメインの場であるにもかかわらず、新入生を祝う気がさらさら無い人を呼ぶなんて、幾ら意地の悪い先生方でも、普通しない。
サマコン以降、学校の行事のたびに、歌う事がまるで義務であるかのように発生していった。
そのピークが、卒業式だった。
私の歌を目当てにする人が押し寄せたのだった。
その枠に漏れた人々の怒りを静めるためのステージが、この新入生歓迎会というわけである。
そこまでこの結果を重視するのであるのならば……せめて、私と心中するぐらいの覚悟でいて欲しい。
そうではなく、わが身の可愛さ余りに苛立ちを抑えるのに必死だなんて、失礼すぎる。
……今回は、みんなの後押しがあって、練習に集中できた。
今までに無いぐらい、完成度が高い。
自分で、そう思うぐらい練習した。
だからこそ、成功する自分の姿だけが見え、暗い部分は一切見えない。
どのような結果になっても、私は後悔しない――
そういい切れる程。
私は、眼を閉じた。
『ありがとう。みんな』
大切な仲間に、そうテレパシーを送った。

Another View ―御園 千莉― END

「なーにを緊張しているんだっ」
「ひゃっ」
俺達生徒会の突然の訪問により、驚く御園。
「び、びっくりさせないでください。せっかく貯めた適度な緊張感が、全て抜け出てしまいました」
「ハハハ、悪かった」
「本当に悪かったと思っているんですか? 桜庭先輩!」
不機嫌そうな顔をする御園。
ただ、本当に不機嫌ではないだろう。
顔には、『心配してくれて、ありがとう』と書いてあった。
「さて、御園。本番だ」
「え? 私の出番はまだですよ」
「ほら」
桜庭が、ステージの方向を指差す。
「それではこれより、汐美学園生徒会長、白崎つぐみより、挨拶をさせていただきます」
芹沢さんが司会を務めるこの式。
当然、学校長の式辞はあるものの、それ以外は全て生徒が運営する。
生徒会長の挨拶も、当然行われる。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。私は、生徒会長の白崎つぐみと申します」
白崎に、昔のようなたどたどしさは一切無かった。
今は、堂々とした生徒会長の姿を、俺達に見せてくれる。
「御園」
俺が切り出す。
「御園がいない間、俺達、生徒会の仕事をこなしてきたよ」
「はい」
「この式の進行計画作成は鈴木、各部との調整は桜庭、式の会場作りは高峰、挨拶文、及び、お偉いさん形の対応は白崎と多岐川さん」
「先輩は?」
「俺は残念ながら、日々の雑用さ」
「先輩らしいですね」
御園が笑う。
「さて、御園もこれから、生徒会の仕事をこなそうとしているよな」
「はい、生徒会のメンバーとして、そして、学校の代表として、新入生が感動するような歌声を届けるる仕事をします」
「その意気だ。さて、でも俺らが仕事を全うできるように、タクトを振ってくれたのは、誰だと思う?」
「桜庭さん……と言いたいところですが、白崎さんですね」
「その通り」
俺は、鈴木に合図を送る。
こっそりと置かれていたイーゼルの上で、一つの『芸術』が披露された。
「うわぁ……綺麗……」

TA2015キービジュアル

御園の眼に飛び込んできたのは、きらびやかな服装で、指揮棒を振る白崎の絵だった。
「俺達全員で構図を考えて、桜庭に描いて貰ったんだ」
「凄く……幻想的です」
「あぁ、俺も、こんな人にタクトを振られて、そしてこの人の下で働けて、本当に嬉しい」
「はい」
「少し、やりすぎ感のある絵かもしれないけど、みんなで色々話した結果、こんな白崎になった」
「白崎先輩、恥ずかしがってなかったですか?」
「そうなると思ったから、白崎には隠して勧めたんだ」
「全然、指揮官の言う事を聞いていないじゃないですか」
笑みを浮かべる御園。
俺も、つられてしまった。
「……それでは、皆さんの三年間がより良いものになるよう、私達が全力でサポートさせていただきますので、よろしくお願い致します!」
拍手に包まれて、壇上を後にする白崎。
『千莉ちゃん、がんばって』
そんなメッセージが、こちらに届いた気がした。
「さ、御園。バトンがお前に渡されたぞ」
「任せてください」
御園の背中は、いつもよりも大きく、そして、凛々しく見えた。
「それでは、新入生皆様へのへのお祝いに、当校を代表しまして、二年生の生徒会メンバー、御園千莉より、お祝いをさせていただきたいと思います」
芹沢さんの司会に合わせて、ドレスに身を包んだ御園が、壇上に登場した。
御園の一礼と共に、沸きあがる拍手。
歓声が一切発せられないところをみると、御園の名声は、どうやらもう、響いているようである。


―4月7日(火)―

「ふええええ……」
白崎が生徒会室に入ってくるなり、間の抜けた声が部屋中に響いた。
「白崎、生徒会長なのだから、もう少ししっかりしてくれ」
「そうですよ、白崎先輩。昨日の凛々しかった先輩は、どこに行ったんですか?」
「白崎さん……(この体が)うらやましいです!」
桜庭、御園、佳奈すけの三人は、それぞれ、好き勝手に感想を述べる。
当然、俺達が作った、タクトを振る白崎の絵について。
「わ、私こんなに胸も大きくないし、妖精さんみたいにきらびやかな格好なんてしてないし、指揮棒なんて振ったこと無いよぉ!」
「大丈夫だ、白崎。白崎ならこのように、立派に俺達を導いてくれるさ」
「筧くぅん、プレッシャー、かけないでよぉ……」
今にも泣きそうな声を出しながら、あたふたしてしまう白崎。
こんな面もある白崎だからこそ、だろう。
俺達が白崎に指揮されたいのは。
俺達は、白崎が大好きだ。
残りの任期だけでなく、これからもずっと白崎を支えて行きたいと思う。
なぜなら、白崎は『仲間』であり、『俺達を指揮するのにもっともふさわしい人物』なのだから。


仲間と育んだ三つの"しき" END


いかがだったでしょうか。

今回は4千字程度でさらっとまとめてみました。
既にお分かりでしょうが、タイトルの"しき"は、下記の三つです。

指揮
士気
の三つです。
「士気」のみ、本文中に言葉が出てきませんが、「鼓舞」という言葉に隠れています。
「士気」は入れようと思ってた言葉ですが、あえて外しました。
白崎が、仲間の「士気」を高めているのは、明白なので。

さて、冒頭でもお話したように、今回の絵は、トラベリング・オーガストのキービジュアルです。
大図書館の羊飼いとは全く関係のない絵です。
しかしながら、これだけ美しい絵、そして可愛いつぐみの絵を、なんとかして大図書館の羊飼いの世界に持ち込みたいと思ったのが、このSSを書いたきっかけでした。
はっきり言って、設定は強引。
無茶も多く、良く見れば、ちょっとめちゃくちゃ過ぎないか、という話の流れの部分があると思います。
しかしながら、つぐみがもはや図書部ではなく、学校のリーダーであり、今後、彼女の指揮によって、どんどん学校が良くなって行くのは明白です。
生徒士気を高めてくれるのは、もはや疑いも無くつぐみであり、式を取り仕切るのもつぐみなのです。
それだけ、つぐみは成長したのです。

大図書館の羊飼いは、千莉や玉藻、凪などの魅力的なメンバーが登場します。
ですが、やはり話の中心はつぐみなのです。
つぐみがいるからこそ、このゲームが成り立つのです。
実績ゼロの図書部を、生徒会をも超える図書部にし、その実績を引っさげ、今後は生徒会として、そして図書部員として、学校をもっと良い方向に変えていくでしょう。
トラベリング・オーガストの指揮だけでなく、そっちの指揮も、つぐみに頑張って欲しい――
そんな願いを込めて、三つの"しき"という掛詞のタイトルで話を書かせていただきました。
大図書館の羊飼いは、一年間の話で終わってしまっています。
しかしながら、もう一年だけ、一人のメンバーも欠けずに、活動が出来ます。
是非、その世界も我々に見せて欲しい――
そんな淡い想いを東中野に送りながら、挨拶とさせていただきます。

米原伊吹

大図書館の羊飼い -Library Party- 刈屋美沙希 SS "羊飼い"の依頼

こんにちは。米原です。

一日の更新以来、金魚ルートはもちろんのこと、他のルートをちょくちょくプレイしています。
更に、金魚ルートをはじめ、羊飼いLPのまとめ文を作成しております。
しかし、七日、八日の週末はどちらも勤務、そして十四日も勤務があり、なかなか時間が取れません。
そんな中、やっと休みが取れた十五日に、秋葉原に行ってきました。

前々からネットでは、「UDXでの電撃イベントで、羊飼いのタペストリーが売られるらしい」という情報が流れていました。
しかし、絵柄は一切わからず。
結局、現地に行かなくてはわからないという状態のまま、当日を迎えました。
当然、行列が。
最長は二時間待ちを超えたとか。
そんな中、午後も三時を過ぎると、列がほとんどなくなりました。
チャンスとばかりに飛び込み中を覗くと、なんとつぐみと金魚の書き下ろしタペストリーでした。
元々、ゲームのパッケージ絵だと予想していましたが、びっくり仰天。
六千円+消費税と比較的高額でしたが、迷わず買いました。
それがこちら!

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あと、べっかんこう先生が以前描いた愛宕と高雄のスポーツタオルも売っていたとの事。
なんとお値段二千五百円!
コミケの時より安い!
てか、コミケで売り切れたはずでは……再生品?
まぁ、既に持っている私には関係ありませんね。

なお、ツイッターで画像を公開したところ、携帯の鳴りが止まりませんでした。
夕刻には、八月信者ご一行様がお買い上げしていました。

そんなつぐみと金魚のかわいらしいタペストリーの絵柄からひとつ。
久しぶりのSS、そして初めてとなる一之江金魚の二次創作です。

※金魚ルートのアフターの設定ですので、金魚ルートを終わらせてから読む事をオススメします。


大図書館の羊飼い -Library Party- 刈屋美沙希 SS "羊飼い"の依頼


ぽかぽかとした陽気が当たり前になってくる。
それにつれ、カミツレでのオーダーも、ホットドリンクからコールドドリンクに変わってくる。
カミツレ自慢のブレンドコーヒーも、アイスコーヒーの割合が増えてきた。
「ふ~ん……」
店長がため息をつきながら、今日何十回目かのアイスコーヒーを出した。

閉店後、店長に聞いてみる。
「どうしてあの時、あんなため息を出されたのですか」
店長は、ご自慢のちょび髭を指先でなぞりながら、答えてくれた。
「……今年は、朝晩は冷えるが、昼間は暖かい。そんな日が多くてね。なかなかオーダーのバランスが取れない」
「? どういう事ですか?」
「コーヒー、特にブレンドコーヒーって言うのはね、ブレンドされているから豆単体の個性は薄いが、その店の味、そして顔になるんだよ」
「そうですね。キリマンジェロとか、モカとか、有名豆のコーヒーって言うのは、産地が違うだとか、挽き方が違うだとかあるかとは思いますが、基本的にはどこでも同じ味ですよね」
「そう。うちでは、朝コーヒー、昼コーヒー、午後コーヒーと、三種類のコーヒーが用意されている。それぞれ、ホットとアイス用。合計六種類だ」
「それがカミツレの自慢だったはずじゃ……」
「その通り、その通りなんじゃが……在庫の偏りが多くてねぇ。昼のホット豆が結構余ってるんだよ」
店長の言う通り、昼間のコーヒーオーダーは、ほとんどがアイスに変わっている。
「何とかして減らさないとねぇ……と言っても、腐る物でもないから、そこまで躍起にならなくてもいいとは思うが、在庫のバランス調整をしないとなぁ」
カミツレは、大きな食堂ではない。
必然的に、バックヤードは小さくなる。
そのスペースを出来るだけ有効活用すべく、カミツレでは、問屋に調合表を渡し、既に豆を混ぜてもらった状態で卸してもらっている。
常時六種類の袋があるわけだが……毎年、季節の移り変わりには在庫量で苦労するそうだ。
「今年は特に苦労してるよ。金魚ちゃん、いや、ミサキがお客さんを随分呼びこんでくれたからねぇ。先を読むのが難しいよ」
店長は笑いながら、クロージング作業を進めて行った。

帰り道、店長の話を美沙希に伝える。
「はぁ、京太郎さんはよく見てますねぇ。娘である私は気がついてないというのに」
「ハハ、俺はフロントとバックの中継地点だからね。たまたまさ、たまたま」
「でも、長年父と働いている私が気が付いてサポートすべき内容なのに、それを全部京太郎さんがこなしている気がします!」
頭から蒸気機関車のような煙を出しながら、美沙希は強く主張した。
「美沙希は、美沙希にしかできないことをやるのが一番だよ」
「私にしか、出来ないこと?」
「そうだよ。おとりつぶしになってものほほんとしていた店長を、ここまで奮い立たせたのは、美沙希の力なんだ。美沙希にしか出来ない方法で、在庫削減の方法、考えてみてよ」
「私だけの方法……ですか……」
「俺も俺なりに考えてはみるけど、美沙希の視点から、何か提案してみてよ」
「う~ん……」
美沙希は、きらめく星空を見ながら、あれこれと考えて始めた。
『美沙希、気が付いたのは俺かもしれないが、問題を解決するのは、今まで同様、美沙希だよ』
俺は、美沙希の過去の頑張りを思い返しながら、ミサキをサポートしていくことに決めた。

翌日。
朝起きてからずっとご機嫌な美沙希を見ながら、美沙希お手製の朝食を食べた。
何を聞いても、
「放課後までのおたのしみで~す」
としか言わない美沙希。
「頼むから、内容を忘れないでくれよ」
「ひぐっ!」
電池が突然切れたロボットのように、固まる美沙希。
「せ、せっかく考え付いたのに、わ、忘れたらどうしましょう」
「俺にだけ伝えておけ。記憶力には自信がある」
「だ、ダメですダメです! これは、放課後のサプライズなのです」
「なら携帯のメモ帳にでも入れておけ」
「あ、その手がありましたね♪」
ルンルン気分で入力を始める美沙希。
「はっ! もしや後でこっそりと中身を見ようという魂胆じゃ……」
「しねーよ」
美沙希らしい喜怒哀楽をはっきりさせながら、朝の楽しい時間が過ぎて行った。
『いったい、どんなアイディアなんだろうな』
放課後を、楽しみにしておくことにしよう。

本日最後の授業が終わると、携帯が震えた。
『今日は、図書部でお待ちしてますね。 美沙希』
どうやら、発表は図書部で、らしい。
アレコレと予想しながら、図書部へと向かった。

「なぁ、筧。金魚が来たってことは、何か図書部に依頼があるってことだよな」
「知らん。俺は何も聞いてない」
影の部長、玉藻にコーヒーを淹れながら、答えた。
「私の予想によると、『また売上アップの為に、我々に一肌脱いでくれ』……だとは思うが、詳細が少なすぎて、わからん」
「ひぐっ!」
朝、こんな光景を見たような……。
チワワみたいにプルプル震えてるし。
「エ、エスパーです。桜庭さんはエスパーです!」
「……依頼が無ければ、我々の元には来ないだろう。これぐらい、誰でも予想は出来る」
「で、でも……私の驚き、桃の木、山椒の木のアイディアが、筒抜けで……」
「美沙希、桜庭は、売り上げアップを依頼してくるとは予想しているが、具体的な内容は知らない。お前のアイディアは漏れていない、大丈夫だ」
「ほ、本当ですか? 桜庭さん……」
「あ、あぁ。本当だ。私はなーんにも。知らない。はっはっは」
「そ、そうですか。良かった♪」
美沙希は、再びルンルン気分で、図書部のメンバーが集まるのを待った。
「はぁ、疲れる」
「すまないな」
インスタントとはいえ、カミツレ自慢のブレンドコーヒー。
『頼むぞ、桜庭を癒してやってくれ』と念を込めてから、桜庭に手渡した。

全員がそろい、会議が始める。
「今回は、私から依頼をしたいと思いまーす」
「よっ、待ってました! 金魚ちゃんの為なら、たとえ火の中、水の中。どんな困難でもこなしてやるぜ!」
「あ、たぶん高峰さんの出番はないです」
「……なぁ、筧。俺ってやっぱり、要らない子?」
「……ぶっ、ぶぶぶっ!」
ギザにまで笑われた高峰は、部室の奥の方で屍と化していた。
……あとで、元気づけてやるとしよう。
「今回の依頼は、カミツレのコーヒー豆在庫一掃で~す」
ミサキは高峰には目もくれず、自分のアイディアを語った。

「……つまり、女の子を呼べばいいってことだよね」
「そうです、白崎さん。男性に比べ、女性は冷えを気にするし、温かい飲み物を求めます。だから、女性の来店を促せば、必然的にホットコーヒーが売れるというわけです!」
美沙希の考えはこうだ。
男性客には悪いが、女性専用のキャンペーンを打ち、女性に来店してもらう。
女性客ならば、アイスコーヒーではなく、ホットコーヒーをオーダーしてもらえる。
そうすれば、ホットコーヒー用の豆が減る、という魂胆だ。
「それで、どうやって女性を呼ぶのですか」
御園が訪ねる。
「今考えているのは、女性がうれしくなるような、可愛いお店に変えてしまおうと考えています」
「可愛いお店……猫カフェの時みたいな?」
千莉はあの時を思い出したのか、少しやる気になったようだ。
「猫カフェもいいのですが、また同じだと二番煎じになりかねません。ですから、別の内容にしようと思っています」
「そうですか……」
猫カフェを否定され、御園のやる気の火は、消えてしまったようだ。
「それで、内容は?」
今度は鈴木が訪ねた。
「今考えているのは、ファンシーで女性心をくすぐる店内にしようと思っています。ホットコーヒーに合うようなお菓子をだして、コーヒーをたくさん飲んでもらいます」
「おぉ、なんだか楽しそうですね」
今度は鈴木の火がついたようだ。
「つきましては、店内のレイアウト、お菓子のアイディア、それと宣伝ポスターの作成をお願いします」
「ねぇねぇ、執事とかいらないかな?」
「そんなイケメンを雇えればいいですね。あ、でも、男性の目が気にならないお店の方で考えているので、不要かな?」
「あ……そ……」
……高峰は、狙ってやってるのではないかと思ってしまう。
今度聞いてみるとしよう。

図書部内で、美沙希の意見を聞きながら、少しずつまとめていった。

・店内は、ファンシーでお菓子の城のようにしたい。
・食べ物は、ホットコーヒーを飲みながら食べたくなるような、お菓子を用意したい。
・店員は、図書部全員がお手伝いし、男は裏方に徹する。
・イメージ写真を撮ってポスターにし、学校に張る。

「男性客には申し訳ないけれど、沢山の女性お客さんが来店してもらえるような店にしたいです!」
鼻息の荒いミサキ。
「金魚ちゃん。あくまで期間限定にしておいて、今後のリピーターになってくれるように、頑張ろうね」
「はい!」
美沙希は特に、白崎と息が合ったようだった。
思えば、理系教室が多く集中するところにあったカミツレ。
必然的に、男性客が多かった。
美沙希目当ての客も多く、ちょっとイラッと来ることもあったが、これで男女比が釣り合いが取れれば、俺の気も休まるやもしれん。
「店長と在庫量の相談をして、期間を決めておきますね」
美沙希の瞳は、輝きに満ちていた。

店長に今日の出来事を報告する。
「う~ん、そうだねぇ。三日、ぐらいが良いところかな?」
「そんなに短い期間でいいんですか?」
「男性は完全に排除しちゃうわけだし、ほとんどのオーダーでホットコーヒーを出すとなると、随分在庫が減ってしまう。真夏だってホットを求めるお客さんだっているんだ。バランスを考えると、三日で十分だよ」
「む~、店長がそういうのなら……」
せっかく店内を改装するのだから、美沙希はもう少し長い期間にしたかったのだろう。
どれだけの作り物で部屋を飾るかは未知数だが、立った三日で消えてしまうのはもったいない。
「美沙希、期間が短い方が限定感が出ていいと思うよ。女の人は『限定』って言葉に弱いし」
「でも……」
「たった三日だけど、お客さんの思い出として、永遠に残るような店になるよう、頑張ろうぜ」
「永遠の思い出……ですか」
「そ、ずっとやってたらありがたみがないじゃん? ぱっと散ってしまうかもしれないけど、その分味わい深いものにしよう」
「……はい!」
「ハハハ、流石筧君。手なずけてるなぁ」
「店長! 何か言いましたか?」
「いやいや、何も。さ、僕はお菓子の案でも出しておくかね」
美沙希の鋭い視線を背に、店長は奥へと消えて行った。

図書部では翌日から、店内の改装案を出してくれた。
珍しく、佳奈すけが仕切り、随分と早く案がまとまったそうだ。
ついで乗り気なのは、白崎。
桜庭、御園のクール組は、暴走阻止という役割だったと聞いた。
期間は、次々週の火曜日から木曜日の三日間に決定した。
飾り付ける物が出来上がる度、美沙希の眼の輝きが増す。
『けっこうこういう、可愛らしいの、好きなんだな』なんて言ったら、美沙希にへそを曲げられてしまった……。
『ちょっと子供っぽいところがあるんだね』と取られてしまったようだ。
『似合っていると思うんだけどなぁ』なんて言ったら、火に油を注ぐかな?
つぐみと作業しながら、自分の背丈の事を気にしていたから。

「できたーっ!」
すっかり意気投合した白崎と美沙希キが、大きな声を上げ、飾り付け制作は終了した。
あとは実際に飾り付けるだけである。
「ねぇねぇ、実際に取り付けてみようよ。この図書部に」
「白崎、そんなことしたら、つけて、はずして、面倒だ。それに……」
「いえ、桜庭先輩。取り付けるべきだと思います」
「え?」
今までほとんど口を出さなかった御園に、全員の瞳が向けられた。
「まだポスター撮影をしていないですし、取り付けと取り外しの練習も必要だと思います。全部ではなく一部を付けて、ポスター用の撮影をした方が良いと思います」
「……私も、千莉の意見に賛成です。実際に取付用のテープの強さも見ておきたいですしね。食べてる最中にコーヒーカップめがけて落下したら、それこそ大惨事ですから」
「……そうだな、御園と鈴木の言うとおりだ。一部だけ、飾ってみよう」
店内のイラストをベースに、飾り付けが始まる。
「……実際に店内に飾ったら撮ろうと思っていたが、それだと開催当日にポスターを張ることになる。幾らお客の集中を避けたいと言っても、閑古鳥が鳴いては元も子もないか」
桜庭はそういうと、うれしそうに飾り付けをしている四人に加わった。
五人は、うれしそうに飾り付けをしている。
俺はこっそり、彼女らの笑顔を、ファインダーに納めてしまった。

飾り付けを終えると、自然に構図の話が始まった。
「金魚ちゃんがモデルになるは当然として、あとはどうしようか」
「はーい、案がありまーす!」
もうノリノリの美沙希に、全員任せることにした。
「ん? どんなどんな」
白崎もノリノリである。
「白崎先輩は、ここに正座してください」
「うん」
「そして私は先輩にダーイブ!」

CAJQQY3UUAAltFu

「おぉっ!」
一同の声が上がる。
妹が姉に甘えているのか、はたまた若いお母さんに対して子供が甘えているのか。
それとも、保母さんに甘えている園児か。
色々な思考が、廻れるような、絵がそこにはあった。
「……桜庭先輩、見とれていないで早く、撮影撮影!」
「おっといかん、そうだったそうだった。あまりにも刺激的で……」
「……早くしないと私が撮りますよ」
「ダメだ、それはダメだ。美しくもかわいい、癒し度満点の白崎は、私の手で永遠に保管するのだ!」
桜庭は、白崎のカメラで、様々な角度から撮影を始めた。
「ん~、さすが先輩の、柔らかくって、フカフカで、弾力があって……はぁ、幸せ」
「金魚ちゃんのだって、私と変わらないぐらい大きくて、柔らかいよ」
「でも先輩には大人の風格があります~。むふ、癖になりそう」
「……ハァハァ、わ、私もあの中に飛び込みたい!」
「桜庭先輩、……仕事が出来ないなら私が代りますよ」
「ダメだ、ダメだダメだ! この情景は、私だけのものだ!」
「うっ……くっ……羨ましい、うらやましいです! 千莉、あれは反則です! ギルティです!」
「別に私は羨ましいとは思いません」
「せんせぇ~、裏切者がいますぅ……」
桜庭は興奮し、御園は相変わらず、佳奈すけはコロコロと顔を変えていく。
……なんだか、ほほえましさまで覚える。
「京太郎さ~ん」
「……ん?」
「うらやましぃですかぁ~」
「……」
俺は金魚からのあおりに対し、無言を通し続けた。

パソコンに画像を取り込むと、一同が画面にくぎ付けとなった。
どれがいいか、どれにするか、どれを保存するかの大合唱。
携帯の待ち受けにするだの、個人パソコンの壁紙にするだの、本来の目的を忘れ、皆一同に本音をぶつけまくっていた。
どの絵柄が良いか、五人がそれぞれ譲らず、結局夜遅くまでバトルが勃発。
最終的に、俺が選ぶことになり、それがポスターへと採用された。

「あ~、今日は幸せでしたぁ~」
美沙希は、ずっと白崎の胸に当て続けていた自分の頬を、さすり続けていた。
「……そんなに良かった?」
「はいぃ~とってもやわらかで~」
まるで、この世にある極上の料理を食べた後かのように、美沙希は幸せの絶頂を感じていた。
「はぁ。でも白崎先輩は羨ましいです」
急にしょげた顔をする美沙希。
「私より身長は十センチも大きくて、大人で、美しくて、でも可愛さがあって、胸が大きくて、お母さんみたいで、料理も上手で、図書部のリーダーで……」
美沙希は、白崎の特徴を上げ続けた。
「あぁ……私もあぁなりたい……」
「……それは困るよ、美沙希」
「え?」
「俺は美沙希が好きなんだ。美沙希が白崎になってもらっちゃ困る」
「……」
「確かに、白崎、いや、白崎だけじゃなく、魅力的な女性ってのは数多くいる。でも、俺はその中の誰よりも、美沙希がいいんだ。美沙希じゃなきゃ嫌なんだ!」
「京太郎さん……」
「俺は美沙希が好きなんだ。美沙希が誰かにあこがれて、美沙希じゃなくなっちゃうのは嫌だ。そうあってもらっては困る!」
「では……ではもし、私が今の私じゃなくなったらどうします?」
「例えば?」
「ん~、事故にあって顔に傷がついたとか、羊飼いに戻って仕事をすることになったとか……他には、なんでしょう」
「……俺は、美沙希の個性がなくなるのが嫌だ」
「個性、ですか」
「美沙希だけの良さ。今まで羊飼いとして世界を救い、誰よりも優しさ、そして優しさの裏にある残酷さを知っている。今までの苦労があるからこそ、今の美沙希があって、今の幸せがあるんだ」
「……」
「俺は美沙希が美沙希であって欲しいんだ。誰に影響されることもなく、美沙希の個性、それを残したままの変化は仕方ないよ。体型とか。でも、影響されて、マネして、だんだんそのマネしたものと同化してなんか欲しくない」
「そ、そうですか……」
美沙希は、頬を赤くした。
「って、体型は変化してませんよ! 太ってなんかいませんよ!」
おなかやお尻をぺたぺたと触りながら、慌てふためく美沙希。
俺、身長とか、そういう事を言っていたんだけど。
もしかして、最近、体重の変化があったのだろうか。

その夜、美沙希は、ベッドの中で口を開いた。
「京太郎さん」
「なんだ?」
「白崎先輩が抱きついているとき、先輩は性的に興奮しました?」
「え?」
「女性同士がいちゃついているとまでは行きませんが、普通の男性なら興奮するようなシチュエーションだったと思います」
「えっと……」
「ごまかさないで、正直に、伝えてください」
月明かりを通して見た美沙希の瞳は、真剣そのものだった。
「そりゃぁ、結構興奮したよ。なんかこう、男が出来ないことを堂々とやっているからさ、余計」
「そう……ですか」
沈黙。
やはり、美沙希には聞きたくない答えだったか。
「してみたい、ですよね」
「え?」
「男性なんだから、私が白崎先輩にやったように、胸に顔をうずめたり、触ったりしてみたい……ですよね」
「……そりゃぁ、まぁ」
俺は小さく答えた。
「今日、嬉しかったんです」
「え?」
「憧れの白崎さんに甘えられたのが、嬉しかったんです。でも、京太郎さんに、私へのストレートな気持ちを言ってもらえて、もっともっと嬉しくなりました」
「ミサキ……」
「そ、そうしたら……私も女なんですね。京太郎さんに同じことをされたくなっちゃいました」
「……」
「以前、ソファーでキスしてくれたじゃないですか」
俺は、コクリとうなずく。
「あの時、私は嬉しくて、気持ち良くて、幸せで……今、私は、その時、いや、その時以上の嬉しさ、喜び、幸せ……そして、気持ち良さを味わいたいんです」
「……」
「ですから、京太郎さん、お願いします。……私を、女にしてください」
「……わかった」
俺は……美沙希の気持ちを受け入れた。

ポスターの撮影を終わらせれば、作成、張り出しの作業が待っている。
それと同時に、店内の改装も進めていく。
ポスター関係を、桜庭、御園、鈴木。
改装を、白崎、美沙希、俺が担当することにした。
図書部で山ほど作った飾り付け品を、カミツレへと運ぶ。
「金魚ちゃん、なんだか嬉しそうだね。何か良いことでもあったの?」
「えへへ、わかります?」
「うん、とっても幸せそう。あ、昨日の余韻かな?」
「そうなんですよ。もう二度とあんな幸せは、味わえないのかな……って」
「えへへ、恥ずかしいけど、本当にたまにだけ、させてあげたいな~って」
「……?」
「あ、あれ? 私、変な事言ったかな?」
「あ、いえいえ、何でもありません。ぜひお願いします」
「うん、本当はちょっと恥ずかしいんだけどね。なぜだか金魚ちゃんだったら体が受け入れるんだ」
二人のすれ違い続ける会話にヤキモキしていたが、美沙希は気が付いて、上手く修正してくれた。
まったく、そばにいる男の身にもなって欲しい。

すっかりとファンシーになった店内は、もはや女性の憩いの場と化していた。
クリスマスのようなきらびやかな飾りつけに、薄いピンクの垂れ幕。
やわらかく、男だったら座るのに躊躇しそうなクッションに、風船。
ここまでファンシーにすれば、女性専用としなくても、男は退散するだろう。
「で~きた、できた♪」
「な~にが、できた♪」
「「お店~」」
すっかり仲良し、いや、もはや姉妹とも言えるような美沙希と白崎。
ある意味、明日からの三日間が楽しみだ。
「やれやれ、たった三日、限定期間とはいえ、なんだか店がのっとられた気がするわい」
「我慢してください、店長。これも美沙希の思いやりによるものです」
「ハハ、この年になって、思いやりを学ぶとは思わんなだ」
店長は肩をすくめていた。
「明日は俺も裏方で手伝いますので、よろしくお願いします」
「あぁ。私も、キミがいてくれないと参りそうだ」
はしゃぐ二人をよそに、俺達は大きくため息をついた。

あのかわいらしいポスターが功を奏したのか、午後のカミツレは女子生徒でいっぱいだった。
飾り付けられた店内と、おいしいコーヒー、それに店長特製のドーナツが、女子生徒には大ウケしたようだ。
さらには、店内と飲食物がSNSで拡散されたようで、あっという間に学校中に広まっていく。
「て、店長、豆、減りすぎませんかね?」
「ハハハ、こんな事もあろうかと、取り寄せておいた」
「ざ、在庫低減が目的だったはずじゃ……」
「ま、上手く減らして見せるよ、わはは」
どうやら、俺の心配は、取り越し苦労だったようだ。

怒涛の三日間が終わった。
店員として頑張ってくれた、白崎、桜庭、御園、鈴木、そして美沙希。
全員、よっぽど疲れたのだろう。
机にうつぶせになっている。
「お疲れ様。三日間本当にありがとう」
店長が差し入れのコーヒーと、ドーナツを振る舞ってくれた。
「わーい、ありがとうございます!」
一番最初に元気を取り戻したのは、佳奈すけだった。
「早くいただきましょうよ、ね」
「そうだね、佳奈ちゃん。出来立てをいただいちゃいましょう!」
部長の白崎が音頭を取った。
「はむっ……うわぁ~、これおいしい」
「ほう、この甘さと苦味……絶妙だ」
「……癖になりそうです」
「あ~、疲れたからに効きますぅ~」
四人とも、大満足のようだ。
「ほら、美沙希、筧君。キミ達にも」
「わはは~い、ありがとうございます」
俺達も、三日間の限定品に、舌鼓を打たせてもらうことにした。

翌日からポスターと飾り付けの回収が始まった。
担当は、変わらず。
気分転換で変えてみてはという意見もあったが、『ポスターの位置を正確に知るのは、ポスターを貼った者だけだ』という意見の元、準備と同じ面子が片づけをする事になった。
「あぁ……せっかく作ったのに、もったいないです」
「金魚ちゃん、幾つか取っておこうよ。それと、幾つか持って帰ってお家に飾ったら?」
「あ、それはいいアイディアです♪」
早速、店を片付けながら、アレコレと話す二人。
和ましいが、そろそろ現実に戻ってきてもらう頃だ。
もうお祭りは終わったのである。
また明日からは、通常の営業。
今まで来てくれた男性客はもちろん、今回のイベントをきっかけに、女性が来店してもらえるように、努力しなくてはならない。
……しかし、美沙希の笑顔を見ると、なかなか言い出せなくなってしまった。
もう少しだけ、夢を見させておくことにしよう。

部室に戻ると、なんだか部屋が騒がしい。
「一体どうしたんだ?」
「大変なんですよ、筧さん!」
「ポスター画像と、私達の画像が、ネット上で評判なんです」
御園と鈴木の表情は真剣だった。
二人が指差す先には、渋い顔の桜庭。
桜庭が開いた画面を覗くと、あのファンシーなポスターや、店内の図書部員の画像が、電子掲示板やSNSで出回っている。
女子生徒が宣伝目的で公開した画像が、一人歩きし始めたのだ。
中には、
『あぁ、うらやましいなぁ。俺も女の子の胸に飛び込みたい』
『おまいら、右と左どっちが好み?』
『ウエイトレス可愛すぎ』
『また図書部の女の子か。永久保存だな』
という男の嫉妬心が見て取れる。
「なんだか……勢いでやってしまったが、冷静になってみると……こうなる事は明白だったな」
桜庭はがっくりと肩を落とす。
「うぅ……なんだか、死ぬまで永遠に他人に見続けられているようで……正直怖いです」
がたがたと震える美沙希。
「ど、どうしよう。何か方法ないかな?」
怯える白崎。
「あ」
「鈴木、なんかいいアイディアがあるか?」
「一つだけ、可能性があるかもしれません」
「何だそれは! 是非言ってみてくれ」
桜庭が、藁をもすがる思いで鈴木に問いかける。
「あ~、でも成功するかどうか……」
「何でもいい、まずは言ってみてくれ」
「ちょっと聞いてきます」
鈴木は、部室を出て行った。
「一体、何だろう?」
「白崎、鈴木に賭けてみようじゃないか」
「うん……」
佳奈すけが帰ってくるまで、図書部はしんと静まり返っていた。
しかし、佳奈すけが帰ってくるなり、図書部は喚起に湧いた。
「うん、それなら問題ないね」
「良く思いついたぞ、鈴木」
「さっすが佳奈!」
「鈴木さん……ありがとうございます!」
「ま、ま、待った! 俺の許可を取れ!」
喚起の中、一人慌てふためく俺。
「まぁまぁ、人助けだと思って」
ニコニコ顔の鈴木。
「膳は急げという事で、飛んできました♪」
「う、うわ、悪魔だ!」
「いえいえ、私は皆を救う天使、嬉野紗弓実です」
「い、いや、お前は悪魔だ!」
「貴方にとってはそうかもしれませんが、ここの女性陣にとっては、天使ですよ」
にっこりと笑った嬉野さん。
手にはいつの間にか、鈴木が俺に使っている化粧道具があった。
「それでは筧さん、私に撃たれて誘導されるか、それともおとなしく誘導されるか、二つに一つ、選んでくださいね」
「う……」
俺は、がっくりと肩を落とした。
「京太郎さん……」
「な、何だ美沙希!」
俺はこのとき、美沙希なら……美沙希なら俺の味方をしてくれると思った。
「頑張って来てくださいね!」
彼女が、彼氏を売った瞬間だった。

俺は京子となり、涙を呑んで撮影をこなした。
その電子データがとあるサーバーに保存されると、瞬く間にダウンロードを求めるアクセスが集中した。
その電子データには、ポスターの画像や、ウェイトレス姿の図書部員など、カミツレの三日間の撮影データが消滅するウイルスが含まれている。
その為、この電子データのダウンロードと引き換えに、それらのデータが消滅する。
かなりきわどい写真をとったせいか、汐美学園中の男の中から、あの三日間のデータは、綺麗さっぱりなくなったらしい。
それらの消滅と共に、俺の中の大事な何かも消滅したような気がする。
ただ、このおかげで、今、目の前に、美沙希の笑顔があるのだから、それもやむなし、と思うことにしよう。
「ねぇ、京太郎さん」
「なんだ?」
「私、羊飼いの時は、他人の願いを叶えてばっかりでした。でも、自分の願いを、みんなで叶える時って、こんなにも楽しいんですね!」


"羊飼い"の依頼 END


いかがだったでしょうか。
久しぶりに一万字をゆうに超える長文となりました。
イヤハヤ、筆が進む進む。
急遽作成したので、ぽろぽろと脱字があると思いますが、発見次第修正していきます。

さてはて、このお話、自分で作ってて結構気に入っちゃいました。
中盤で金魚が女になるわけですが……。
その部分を追加した完全版を、5月24日に行われる「真夏のフェスティバル」にて出版しようと考えています。
当然、十八禁です。
絵はなく、文字だけとはなりますが、金魚と筧のハジメテを描こうかと思います。
乞う、ご期待!

米原 伊吹

二月総括!

こんにちは。米原です。

このブログ、更新されるのは夜だし、朝通勤途中で読まれる方もいる。
当然、昼休みの方もいるでしょう。
ならば、「おはこんにちばんわー」っていうあいさつ、ベストなのかもしれませんね。

さて、そのあいさつの元ネタ、「おはこんにちはー」の生みの親、フィオネ(ドラマCD)・玉藻(アニメ)両役を担当された斉藤佑圭さんのお渡し会からスタートした羊飼いVita、皆様の進み具合はいかがでしょうか。
普通であれば週末の土日、いや、12、13、14、15と4日もあるのだから、その間にコンプリートするのが当然であろう羊飼いVitaですが、3/1時点で、米原は終わっておりません。
理由と致しては、後程。
まずは、2月を振り返ってみましょう。

2月に入り急遽、斉藤佑圭さんによる、羊飼いVita発売記念のお渡し会が発表されました。
全国のソフマップ、ゲーマーズにて羊飼いVitaを購入したレシートを見せると、"べっかんこうオリジナル栞"がもらえるというこの企画。
最初は2日に更新されました。
当日は"2月12日(日)"なんていう、ありえない日付になっておりましたが、数時間後には"2月12日(木)"に直されました。
4日にはお渡し解散かルールが更新され、ますますヒートアップしていく中で迎えるのが、アキバゲマにての羊飼いラジオ出張イベントです。
担当の種崎さん、そして米澤さんのコンビで放送された生ラジオですが、同日にサンクリが。
べっかんこう氏が出展されているという事で、悩んだファンも多いでしょう。
私は、サンクリだけにしましたが、どうも整理券の状況から判断すると、はしごがギリギリできたかも?というぐらいの混雑状況だったとか。

さて、翌週はついに羊飼いVita発売!&お渡し会!!
まぁ渡されたのは、予想通り、金魚ちゃん。
羊飼い体験版のときと同じやつですねー。

そして肝心の金魚ルート。
前回は誰かを攻略しないと出来なかった凪、そしてTrueルートが一発目から公開されており、凪の後に攻略可能、というものでした。
なお、誰でもいいから一人攻略すると、しっぽ版とDS版のルートが全て公開されます。

そこから二週間、今日までみっちり時間はあったわけですが……ごめんなさい、前出の通り、まだ終わっておりません。
元々、昨年最終月が始まる頃からどうも体調が悪く、(会社を休むほどではない)本調子でないままコミケに。
年明けも同様で、ずーっとなんだかなー、という日々が続いていました。
病院行っても異常なし、どないなこっちゃ!

結局、サンクリには"かろうじて"さんか出来るほど体調を悪化させ、2月10日にダウン。(うずくまる事しかできず、救急車を呼ぶか考えたほど)
12日のお渡し会までには執念で何とか体調を取り戻しましたが、プレイのために用意した4日間は、休養に当てました。
そこから二週間、ゲームはせずに体調をよくすることだけに取り組んだ結果、三月は気分良く過ごせそうです。
一時期は荒れ放題だった部屋も今はすっかり綺麗になりました。
皆さんも体調には十分お気をつけて。

さて、アニメ羊飼いの第三巻も発売されました。
もう半分発売されたと見るか、もう半分発売されたと見るか。
羊飼いVitaとあわせて、もう少し、羊飼いの世界を堪能したいと思います。
三月は、私の誕生月
です。
二月末、突然発表された「トラベリング・オーガスト2015」に思いをはせながら、新作「千の刃濤、月染めの皇姫」や同人イベントにも力を注ぎたいと思います。
現状で攻略が終わったのは、通常ルートの玉藻、それと凪&金魚。
早く今やっている千莉を終わらせつつ、金魚のレビューも書きたいと思います。
乞うご期待!

米原伊吹

羊飼いLPの最新攻略情報!

さて、発売されました羊飼いLP。
今週末、やっとプレイされる方も多いと思います。
やっぱり気になるのが、金魚情報ですよね。
まずはどうしたら金魚が出てくるのか、お話したいと思います。

最速方法

無印版羊飼い(凪ルート攻略)
↓(凪のオマケが出ます)
×みんなに感謝しないとな/○これからも知り合いを増やしていこう

今回は、無印判の時とは違い、凪をいきなり攻略できます。
私は、最初玉藻を攻略後、凪に行ったのですが、無印羊飼いでは選択肢がロックされていた凪の選択肢が、全部空いていました。
と言う事は、各ヒロインのTrueからの攻略も可能だってことですね。

ちなみに、金魚への選択肢は、ミナフェス後、凪と話しているときのシーンです。
必ず、セーブして置いてくださいね。
(ご丁寧にも20番目の選択肢なはず。その上、ロックかかっているからわかりやすいかと)

さてさて、金魚がどんな話なのか……ですが、ごめんなさい。
やりましたが、ちょっと消化不良。
もちろんオーガストらしい話ではありましたが、ちょっとご都合主義(?)っぽい所もあり、消化不良なところも。
早くやりすぎで詰め込んでしまったので、正しく理解していないところもあると思います。
もう一度、攻略させてからにしてください。

あと、今回わかっている事を下記に書き出します。

・つぐみ、玉藻、千莉、佳奈の無印版のおまけは、Trueのあと。(なはずです。とりあえず、無印通常ルートではオマケは出ません)
・凪、真帆、水結、紗弓実の無印版おまけは、各ルートのあと。(少なくとも、凪は凪ルート終了後に出てます)
・しっぽの二人のおまけは、しっぽの二人が終わったあと。
・DSのおまけは、DSのヒロインが終わった後。
・おまけはHシーンのないほうのおまけ。
・しっぽの二人+さよりのおまけは、Hシーンカットか、新作かは不明。
・おまけ個数は、全て合わせて6+8=14(6が無印、8がDS)
・初めは無印版しか選択できず、誰か一人でも攻略すれば、しっぽとDSが解放。
・金魚は、無印凪ルートあと。(上に書いたとおり)
・金魚ルートには、しっぽの二人も登場
・金魚攻略後、おまけは出ず。(おまけがあるかは不明。無印6組目の枠が誰か次第)
・全てあわせ、攻略ルートは40。
・一人でも攻略すれば、アルバム、ミュージック、プレイログが開けるようになり、攻略したルートのそれぞれが保存。

とまぁこんな感じです。

他に知りたいことがあったら、Twitterか何かで聞いていただければ、わかる範囲で答えます。

それでは、引き続き楽しみましょう!

米原

大図書館の羊飼い 桜庭 玉藻 ショートストーリー 料理の心得

こんにちは。米原です。

やっと発売羊飼いLP!
予想通り10時30分頃宅配便で届きましたので、やっています。
2時間で千莉加入までしか終わってないよぅ!
こりゃ、オールクリア出来るのは、いつの日か。

さて、本日は桜庭玉藻役、斉藤佑圭さんによるお渡し会!
っていうことで、玉藻のバレンタインネタでひとつ。
LP攻略の息抜きにどうぞ。


大図書館の羊飼い 桜庭 玉藻 ショートストーリー 料理の心得


2/12(木)

『心躍る』というのは、きっと、今の私のような状態を言うのだろう。
ひとりでに脚が進み、勝手に小走りになる。
転んで、勇み足にならないかどうか、心配になってしまう。
それでも、歩みは止まらない。
「ただいま」
誰もいない部屋に向かって、元気な声をかけてしまった。
もし、私がドラマのヒロインであるならば、さぞかし幸せそうな女性なのだろう。

すぐさま、買ってきた材料を台所に置く。
「よし!」
気合を一つ入れて、エプロンを羽織る。
『早く、始めたい』
気持ちを抑えながら、買ってきた材料をチェックする。
「溶かすためのチョコレートに生クリーム、転化糖にバター、それとココアパウダー……。よし、はじめよう!」
ネットで見つけたレシピを元に、それぞれ、必要な分量を取る。
「チョコレートが150g、生クリーム50ml、転化糖15g……バター25gっと」
計量器の上にトレーを置き、針をゼロに戻す。
その上に、まずは常温で溶かしておく必要のあるバターを、25g計量する。
「これぐらい……かな?」
針は23.1gを指した。
「あと1.9g……」
少しずつ、バターを削り、トレーの上に落としていく。
「あと0.9、あと0.3……おっと、行き過ぎた。少し戻して、あと0.1……」
針はなかなか言う事を聞いてくれず、『25.0g』を指してくれない。
やった!と思っても、0.1gだけ、ずれてしまう。
「あ、あせるなあせるな。桜庭玉藻」
自分にそう言い聞かせ、もう一度、計量器とにらめっこを始めた。
「あと0.6……行き過ぎた、0.2オーバーしたから、少しとって……あと0.3……」
もう、『25.0』の表示をさせる事しか、私の頭の中にはなかった。
「あっ!」
気が付くと、私の手の体温で溶けたバターが重みに耐えられなくなり、折れてしまった。
幸い、トレーの中に納まってくれたため、買い直さなくて済んだ。

私の心は、太陽が沈んだ外のように、真っ暗になっていた。
眼を開ければ真っ白、眼を閉じれば真っ黒。
このまま、黒いほうに引きずり込まれそうだった。
幸い、まだ明日がある。
今日は気持ちを落ち着かせるために、寝てしまうのも良いと思ってしまうほどだった。
「はは……何をしているんだ、私は」
レシピに書かれた分量に対し、0.1g単位でそろえる必要なんて、全くない。
それどころか、数グラムずれていたところで、大きな影響なんてありっこない。
……にも関わらず、私は、そこにこだわってしまった。
「恋は盲目というのは、こういう事を言うのか……」
私は、自分自身にあきれてしまった。

昨年、私は白崎に手作りチョコレートをつくって渡した。
料理上手な白崎からしたら、何段も腕の落ちたチョコレートだったとは思う。
でも白崎を笑顔にしたくて、一生懸命作った。
そうしたら、白崎は笑って喜んでくれた。
今回もそれと同じ。
それと全く同じようにすればいい。
味が多少悪くても、筧は喜んでくれるだろう。
白崎の時と同じ……同じはずなのに。
私は、寸分の狂いもない完璧なモノを筧に渡す事にしか、頭になくなっていた。

ピリリリリッ ピリリリリッ

メールの着信音が部屋に響く。
手にとってみると、白崎からだった。
『玉藻ちゃんへ
 筧君へのチョコレートはどうなっていますか?
 出来上がったら、画像見せてね
 ファンファーレ つぐみ』
もし、『まだ材料を集めただけ』なんて返信したら、白崎はどんな顔をするだろうか。
おかしくなってやってみたくもなったが、やめておくとしよう。
親友からの恋文が、私の心を少し晴れさせた。
気晴らしに、ネットでも見よう。
もしかしたら、同じような事で悩んでいる人が、いるかもしれない。

パソコンを立ち上げ、行きつけの掲示板へ。
ここは、恋愛に悩む人が内容を打ち込むと、気まぐれな人々から返信が来る、という仕組みになっている。
「……繋いだついでだ、書き込んでみよう」
そんな気軽なつもりで、書き込みをしてみた。
『彼氏に渡す、手作りチョコレートを作っています。
 しかし、料理は余り得意ではなく、正直不安です。
 どなたか、背中を押してくれる言葉をください』
インスタントの紅茶をいれ、戻ってくると、レスポンスがあった。
『こんにちは。H.N 家老 右京啓太です。
 私は、ある人にこういわれたことがあります。
 料理は、作る人の顔が出る。そして、その食べた人は、料理を作った人の顔になる。
 つまり、料理を作った人の顔が笑顔であれば、その料理を食べた人の顔も笑顔になる、という事だそうです。
 難しく考えずに、彼のことを思いながら、笑顔でつくってはどうですか?
 成功をお祈りします』
……私は、ソファーから飛び起きると、台所へ向かった。
今まで、私は筧の顔を想像してつくっていた。
でも、それではダメ。
筧を料理で笑顔にしたければ、まず、作り手である私が笑顔にならなくてはならない。
だから――
「このチョコレート、私は笑顔でつくろう」


2/13(金)

「玉藻ちゃーん」
朝の登校中、白崎から声をかけられた。
「おはよう、玉藻ちゃん」
「おはよう、白崎」
「あはは、元気そうだね。チョコレート、上手くいった?」
「あぁ。ばっちりだ」
スマートフォンで撮った冷凍中のチョコレートの画像を、白崎に見せる。
「うわー、おいしそう!」
「わずかで申し訳ないが、白崎のもつくっている。14日に渡すから食べてくれ」
「うん、楽しみ!」
白崎はやはり笑ってくれた。
私の笑顔は、食べる前であっても、料理を通じて人を笑顔に出来るようだ。
「でも、私心配したよ。玉藻ちゃん、全然メール返してくれないから」
「ごめんごめん。メールを受け取った時はまだ上手くいってなかったんだ。だから返信できなかったんだ」
「そうなんだ」
「あぁ、ネットで『家老 右京啓太』と名乗る人が相談に乗ってくれた」
「家老……右京……啓太?」
「あぁ。江戸時代の人間みたいなハンドルネームを使っているその人が、料理をする時の作法を教えてくれてだな……って、どうかしたか?白崎」
「う、ううん。なんでもない。行こう、玉藻ちゃん」
「お……おう」
白崎の元気いっぱいの笑顔に吸い寄せられながら、私は校舎へと入っていった。
明日、14日は、あいにく土曜日だ。
学校で筧にチョコレートを渡す事は出来ず、渡すには、わざわざ筧を呼び出さなくてはならない。
だが、それもいいだろう。
一つ屋根の下、誰の邪魔も受けることなく、筧を独り占めできるのだから。


END


いかがだったでしょうか。

「きっと玉藻のバレンタインデーはこうなんだろうな」と思いながら書いた作品です。

今回は久しぶりに、主人公、筧京太郎の視線ではなく、ヒロイン、玉藻の視線から書いてみました。
一応言っておきますが、『家老 右京啓太』というのは、『筧京太郎』のアナグラムです。
無理やりですが、何とかつけられて良かったです。

さて、私事ではございますが、10日火曜日に、動けなくなるほどの風邪を引きました。
今ではすっかり回復していますが、風邪にはお気をつけください。
そのほうがLP攻略には都合がいいかもしれませんが、程々に……ね。

米原

大図書館の羊飼い 御園千莉 誕生日SS 2015 猫のバースディ

こんにちは。米原です。

今日は、千莉ちゃんの誕生日です。
千莉ちゃん、誕生日おめでとう!

最近はずーッと書いていない誕生日SSですが、千莉だけは何とか続けたいと思います。
それでは、どうぞ!


大図書館の羊飼い 御園千莉 誕生日SS 2015 猫のバースディ


うららかな日差しが、まぶたの裏まで届いた。
暦の上ではもう春……とは、よく言ったものだ。
一月の終わりに差し掛かったにも関わらず、これだけ温かくて柔らか……。
「!」
太陽の低くなる冬に、ベッドまで日が差し込む。
それはすなわち、遅刻を意味していた。
「時間は?」
枕元にある携帯をつかむ。
8:30
そう記されていた。
「遅刻だ! くそ、何でコイツはならなかったんだ?」
あわててベッドから降りようとするが……足が動かない。
「あれ?」
落ち着いて目の前を良く見ると、猫ちゃんが足元にいた。
「ふふふ、にゃーん」
俺を挑発する、悪い猫ちゃん。
俺はすぐに、犯人であると悟った。
「コラ千莉、遅刻する、どいてくれ」
「にゃーんにゃん♪」
「ふざけている場合じゃないんだ、さ、早く」
「ふふふ、いやーん」
「千莉、いい加減にしてくれ」
「別にいいじゃないですか、たまには学校をサボっても」
「そういう気の緩みが人間をダメにする。さ、どいておくれ」
「そうですか」
千莉はそう言うと、おとなしくベッドを降りた。
「それでは。しっかりモノの先輩に、お祝いをしてもらいましょう」
「お祝い?」
「はい、今日は私の誕生日ですから」
「……」
俺は、今までにない頭痛を感じた。

千莉曰く、自らの誕生日を知らせてなかったのだから、俺が誕生日を知らないのは仕方ない。
だが、今日ぐらいは学校を一緒にサボって、遊んで欲しい。
俺は、それを許可せざるを得なかった。
「で、何をして欲しいんだ?」
「それはもちろん、一日ゆーっくりと、二人でくつろぐ事です」
「ま、千莉の誕生日だ。出来るだけこちらも言う事を聞くとしよう」
「あ、言いましたね」
千莉の眼が輝く。
何か悪い予感がしたが、今更、後には引けない。
「それではまず、朝食から一緒に取りましょうか」

昨晩のうちから下ごしらえをしていたようで、台所の千莉は、すぐに朝食をテーブルの上に広げた。
サラダに、オムレツ。
それと温かそうなハッシュドポテト。
「うまそうだな」
「さっそくいただきましょう」
千莉は、紙袋に包まれたハッシュドポットをつかむと、俺の口の前に持ってきた。
「はい、あーん」
仕方なく、受け入れる。
「あーん」
「どうですか?」
熱過ぎず、冷た過ぎず、適切な塩味がして、おいしい。
「シンプルで、美味いよ」
千莉は、ほっとした表情を見せるが、手の位置は変えなかった。
「全部食べてくださいね、京太郎さん」
俺は、三口でハッシュドポテトを食べ終えた。
イタズラで、千莉の指も咥えてやろうかと思ったが、察したのか、標的は逃げてしまった。
「ハッシュドポテトって、北米のイメージが強いですけど、東欧や北欧でもメジャーなんですよ。ご存知ですか」
「確か……ラトケス、だっけ? 伝統料理でなかったっけ」
「さっすが先輩」
千莉は、済ました顔を見せながら、次の料理、オムレツをスプーンですくった。
「はい、どうぞ」
頭の中で、『まだやるの?』と思ったが、今日は彼女の誕生日。
乗ってやるのが男というものである。
「あーん」
食べると、普通のオムレツではない事が、すぐにわかった。
いわゆる、卵だけのプレーンではない。
これは……そう。
「ジャガイモか」
「ピンポーン、正解でーす」
「地中海周辺では、こういうオムレツ、多いよな」
「はい。炒めたジャガイモ、たまねぎ、ベーコンが具材として入っています」
千莉は、もう一口分、用意する。
「はい、あーん」
こうして、スペインオムレツも、俺の胃に納まった。

「ラストは、サラダです。これは食べづらいので、京太郎さん自身で食べてください」
ボウルの中に納まったサラダは、ポテトサラダ。
またか……とは思ったが、言わないでおこう。
「京太郎さん、食べながら聞いてください。ジャガイモって、何科の植物でしょう」
「ナス科」
「では問題です。ジャガイモに含まれている動物で、代表的な毒の名前は?」
「ソラニン」
「それでは、それに似た、トマトの毒の名前は?」
「トマチン」
「ナス科全体を通して、一般的に含まれている有毒な毒の名前は?」
「アルカロイド」
「ぬ……」
千莉の眼が釣りあがる。
この程度であれば、百科事典に載っている……。
そう言いたいが、ここは黙っておく事にしよう。

「……参りました」
千莉は、このあとも次々とジャガイモに関連するクイズを出してきたが、俺によって撃沈されてしまった。
千莉を立てるべく、わざと間違えてやろうかと思ったが、口が勝手に、即答で正しい答えを発してしまう。
「ふぅ、まぁ、自分の彼氏が博識なのは、嬉しい事です」
「なんでまた、こんなにジャガイモのクイズばっかり出したんだ?」
「はい、クロスワードをやっていて、ジャガイモがナス科だとしって、納得いかなくて……」
「トマトだったら、ナスと同じで花が熟した後を食べるけど、ジャガイモは根っこを食べるからね。確かに、イメージとは違うかも」
「あと、留学中に、フランスでも結構食べられているのを知り、驚いたのも理由です」
「フランスは農業国だからね。こういうマイナーな食べ物でも、工夫して食べるよ」
「『シンシア』っていう名前のジャガイモもあるんですって」
「へぇ、そいつは知らなかった」
千莉の顔がぱっと明るくなる。
「流石に、ここまでは知らなかったようですね」
笑顔の千莉は、満足そうに他ならなかった。

俺達は朝食を食べ終わると、服を着替えて街へと繰り出した。
「せっかく学校をサボったのだから、普段出来ない事をやりましょう」
それが千莉の希望だった。
繁華街をぶらぶらと歩いていると、突然、千莉が立ち止まった。
「どうした?」
「ここ、入ってみません?」
千莉の目の先には、『猫カフェ』の文字。
ギザを一番飼いならしている千莉であるならば、興味を持って当然か。
「よし、じゃぁ、行ってみよう!」
俺は千莉の手をつかみ、意気揚々と店内へと入って行った。

「うわあああ……」
千莉の声が弾む。
かわいらしい雑貨と、家具。
そこで、猫がくつろいでいる。
あくびをしたり、日に当たってくつろいだり。
皆、気ままに暮らしている。
「いらっしゃいませ。二名様分、でよろしいでしょうか」
「はい」
「京太郎さん、京太郎さん。ギザ様そっくりの猫がいますよ」
店員さんの説明そっちのけの千莉。
「コラ、千莉。説明だけはちゃんと聞きなさい」
「はーい」
と言いつつも、早く猫とふれあいたくってうずうずしている。
「……それでは以上となります。ごゆっくりおくつろぎください」
『以上』が聞こえた時点で、千莉は猫の傍にすっ飛んでいった。

「京太郎さん、京太郎さん。この子、眼が可愛すぎます!」
「京太郎さん、京太郎さん。この子、元気いっぱいです!」
「京太郎さん、京太郎さん。この子、ほっぺたぷにぷにです!」
千莉はさっきから、猫を抱きかかえるたびに、その猫の特徴をこちらに伝えてくる。
「ふふふ、彼女さん、本当に猫が好きなんですね」
店員さんが、サービスドリンクを持って来てくれた」
「猫って警戒心が強いので、結構最初、なれるまでは寄り付かないのですが、こういう光景は本当に珍しいです」
この店員さんも、本当に猫がすきなのだろう。
猫が嫌がることなく、千莉に寄っているのを、ほほえましそうに見ている。
猫にとっても、千莉の傍は居心地が良いようだ。
うん、いい事だ。
「……京太郎さん?」
「ん?」
「なーんで店員さんと仲良く座ってるんですか!?」
「シャーッ!」
どうやら、不機嫌にさせてしまったようだ。
千莉に連動して、猫も怒っている。
「あらあら、失礼致しました」
店員さんは、奥へと引っ込んでいった。
「……京太郎さんは、私のモノです!」
千莉はそう言うと、俺の隣に座った。
千莉に抱かれていた猫はするりと千莉の腕を抜けると、仲間と共にじゃれあい始めた。
「ふふふ、かわいいですね」
「そうだな」
「はぁ、練習どころか、学校をサボって遊ぶのって、本当に楽しいんですね。サボり魔の気持ちがわかっちゃいました」
「でも、その分、しっぺ返しは大きいぞ」
「それは自己責任ですよ。バカみたいに一日中遊んでいるから、伸びないんです」
……きっと、千莉は今日もトレーニングをしてから俺の家に来たのだろう。
やらないといけない事は、きちっとやる。
いかにも、千莉らしい。
「にゃーん」
一匹の猫が、ボールを口に咥えて、千莉のもとにやってきた。
「はいはい、行きますよー。それー!」
全速力でボールを追いかける猫。
そして、律儀にもう一回持ってくる。
「ふふふ、それー!」
どうやら、今日は千莉の良い休息日になっているようだ。

結局、三時間も猫カフェで猫と戯れる事になった。
世間は、お昼時。
昼食を求めて、街は混雑していた。
「京太郎さん、うちに来て下さい。午後は、私達の番ですよ♪」
どうやら、千莉は既に色々決めているようだった。

帰り道、千莉に色々聞いてみる。
「何で誕生日なのに、祝ってもらおうとしなかったんだ?」
「欧米では、自分の誕生日は、自分で開いて、ゲストを呼んでお祝いしてもらう事があります。それをマネたんです」
「なんでまた」
「だって教えたら図書部のみんながお祝いしてくれるじゃないですか!」
……なるほど。
「私は、皆にも、もちろんお祝いしてもらいたいですが、筧さんと二人っきりっていうのも、やってみたかったんです。だから……」
俺も、この続きはわかっている。
さっきの猫のように、仲良く千莉とじゃれあうとしよう。
あそこの猫達のように、楽しく、いつまでも。


END


いかがだったでしょうか。

誕生日というのは、当たり前ですが、同じ日に行われます。
季節も同じ、気候も同じ、大体似たような一日。
もちろん、昨年やその前のように雪が降ったり、以上に寒かったりとありますが、『寒い』という事には変わりありません。
だから、だんだんとネタが切れてきます。

今回も、ネタ切れの中、『千莉っぽい誕生日』をコンセプトに、私自身が千莉とのやってみたい誕生日の半日を書いてみました。
普通の恋人ではなく、筧と千莉だからこその誕生日。
……本当は、丸一日分を書きたかったのですが、すぐに話が交わる話に変わってしまい、一苦労。
実は、午後はどうしても、『昼食を作りながら誘う千莉を、筧がおいしくいただく』という話以外思い浮かばず。
無理やり、午前中だけでまとめました。

約3,800字もありますが、起伏も少なく、平凡で、オチもない、という悪循環の中ではありますが、千莉好きが楽しめる話であることを願っています。
それでは、今日一日、千莉をたーくさん、めでてあげましょう。

米原 伊吹

羊飼いアニメ終了と、今後のブログの方針について

こんにちは。米原です。

今日の内容は、ここもご覧になりながら、お読みください。

大図書館の羊飼いアニメ、本日12月25日をもって、ついに終了してしまいましたね……。
三ヶ月間、毎週本当に楽しみにしていました。
そのアニメが終わってしまうのは、本当に寂しく、残念です。

さて、普段なら批評に移りたいのですが……ごめんなさい、本業の関係で、当分見送りです。
(いま、修羅場です。ハイ)
評価をするには、もう一度見直さなくてはならない点が多く、早くて年明けかな……と。
と、言いつつも、内容が一部駆け足だったり、ちょっと分かりづらいところがあった羊飼いアニメですが、私の評価はおおむね「良」です。
FAのアニメが「可」だったのを考えると、一歩前進ですね。

思い起こせば、最初は作画が微妙だったり、OPは動かないし、低評価のスタートでしたが、中盤から一気に盛り返しました。
このあたり、時間のあるときに振り返りたいと思います。

本日、クリスマスの日に、羊飼い第1巻ブルーレイを引き取ってきました。
特典の活動日誌には、今だから公開できる内容がいっぱいあり、とても楽しめました。
(アニメ1話作るのに4ヶ月ってマジ?12話だと48ヶ月、2年もかかるの???)
これからテレビアニメ放送時との差分や、特典映像も楽しみたいと思います。

それともう一つ、今後の活動ですね。

まずはコミケ。
一日目と三日目は必須。
ただ、三日目は本業の関係で午後入りとし、八月島だけ廻るかもしれません。
二日目は、一日目の内容次第です。

あと、今回は応募していないので、米原の同人誌発売はありません。
ついでに、次の夏コミも応募しません。
来年の冬……はありえるかもしれませんが、まだわかりません。

同人関係で行きますと、このブログの更新もぐっと下がりそうです。
羊飼いのVITA版のCGから作ったSS公開も終わってますので、本当にネタがないんですよ。
ただ、コミケで千の刃濤の話が出ると思いますので、そこからまた活動を再開するかもしれません。

千の刃濤に関しては、冒頭をこの夏に書きましたが、それ以降は情報不足で進まず。
無理やりやればもっともっとかけますが、情報がない中無理に進めても破綻します。
せめてもう少しキャラCGが出れば……というところ。
コミケと、年明けからの雑誌による情報公開に期待です。

現状、そんな感じで考えています。

ツイッターなどで呼び出していただければ、コミケの日にお話する事は可能です。
恐らく、オーガストをさっさと済ませたら、あとは無料配布の時間まで暇していると思います。
相手してあげてください(笑)

それでは、HAPPY CHRISTMAS!

米原伊吹

大図書館の羊飼い Library Party 一之江 金魚 スペシャルSS 鐘の導き

こんにちは。米原です。

"羊飼いLPのCGを見て、そのシーンを当てちゃおう"のコーナー、ラストは新ヒロインの金魚ちゃんです。
金魚は……もはやネタバレの域に達しますが、羊飼いの可能性が高いです。
理由としては、羊飼いアニメのCMで羊飼いLPの宣伝しているのですが、金魚の紹介シーンでつぐみが「えっ? これが噂の羊飼い??」と発言するからです。
そんな理由で、私は金魚が羊飼いであるという前提でこの話を作りました。
合っているかどうか、そんなのわかりません。
でも、私はそのつぐみの発言を信じて、想像してみました。
よって、ネタバレになります。
(と言っても、内容が合っているとは限りませんが)
「ネタバレ上等!」という人だけ、この先のSSを読んでください。


大図書館の羊飼い Library Party 一之江 金魚 スペシャルSS 鐘の導き


鐘と言うものは、時を知らせるものである。
始まりの時、終わりの時。
両方に使われるのだが、それが必ずしも有効に働くとは限らない。
「えー、悪いがここだけ説明させてくれ。すなわち――」
このように、守られない場合と言うのは、往々にしてある。
きっかり五分、延着ののち、我々の昼休みは始まった。

「いらっしゃいませー、こちらへどうぞ」
「Aセットが3つですね、かしこまりましたー」
佳奈すけや嬉野さん、その他見慣れた女性陣が、アプリオを切り盛りしていく。
しかし、すべてにおいて限界と言うものは存在する。
彼女らの声が自分たちだけのものになるのは、随分先になりそうだ。
本来、朝シフトが担当の佳奈すけが、ここに駆り出されているのが、何よりの証拠だ。
「なぁ、筧」
「なんだ?」
「俺たち、完全に出遅れてるよな」
「うん」
「このままいて、何とかなると思う?」
「どういう意味だ?」
「次の授業に間に合うかってことだ」
「幸い、俺たちの授業は、次の時限にはないだろう」
「いや、そうじゃなくてだな……」
きゆ。
「……」
「……」
配慮が足りなかった俺は、高峰の空しい音を聞かされる羽目になった。
「……しかし、そうは言っても、他も混んでいるだろう」
「どうやら、最近ひそかに人気の場所があるそうだぜ」
「移動時間、そしてその人気の場所でのオーダー速度を加味した場合、どちらがはや……わかったよ」
高峰の熱意に折れ、俺たちはそこへ赴くことになった。

スマートフォンのガイドに従う事、約十分。
綺麗にメンテナンスされた植木の向こう側に、小さな建物が見えた。
少しイタリア風……あるいは、おしゃれなカフェだろうか。
壁の一部が樹木に覆われ、いかにも涼しそうな建物――それが、お目当ての食堂であるようだ。
「カミツレ、か……」
スマートフォンには、"第八食堂『カミツレ』"と表示されている。
「高峰、うちの学校に、食堂はいくつあるんだっけ?」
「確か十八……」
「そんだけあるにもかからず、俺たちはアプリオ専門だったな」
「そうだな。なんだかんだで、あそこが一番早いし安いし上手い」
「っても、アプリオと他の食堂の検証すらしてないだろう」
「なんか検討する気、なくしちゃうよな。あれだけのサービスがあると」
高峰が言うのもわからなくない。
"第一食堂"というネームバリューに頼らず、しっかりとしたサービスを提供している。
『他も試してみよう』という気は失せ、『またここに来たい』となる。
それだけ、アプリオには魅力があった。
「『そんな俺たちが、どういう風の吹き回しで?』って、神は思うかな?」
「そりゃ、早さだよ」
「早さ?」
「そ、提供までの早さ。どうやらそこで働く一年生のウェイトレスがカンの鋭い奴で、行くと料理がすぐ出てくるんだと」
「ほう……」
「しかも、それが俺たちが食べたいと思っている料理なんだって」
「イマイチ、信じられないな」
「百聞は一見にしかず。行こうぜ」
興味津々の高峰についていく。
もし、料理がすでに用意されているんなら、確かにあのアプリオの行列を待つより早いことになる。
俺が食べたいと思っている鮭のムニエルが出てくるかどうか、見ものである。

建物に近づくにつれ、周りの空気が冷えていくのを感じた。
地中海の、すがすがしい気候。
そんな感じの心地よさを感じる。
「オイ、筧。あの娘」
高峰の視線の先には、小さな女の子がいた。


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学校の制服とは異なる服を着ている。
察するに、カミツレ従業員だろう。
アプリオのように"いかにも"な制服ではないが、清潔感と可愛らしさを備えた制服である。
小さな体であるが、腕を大きく伸ばし、長いホースをうまく扱いながら、周りの植物に水を与えている。
胸を大きく張った格好で水を与えているせいだろうか。
出ているところが出ていて、スタイルが良いのが見て取れる。
放水した先からはかすかに虹が形成され、彼女のかわいらしさに、華やかさをも演出している。
「ふんふふーん」
我々の来店には気が付かず、鼻歌を歌いながら、楽しそうに放水を続けている。
「こんにちは、お嬢さん」
「……?」
女性は、高峰の声掛けに、一瞬驚きの表情を見せる。
しかし、すぐに営業スマイルを見せて、俺たちをもてなしてくれた。
「あら、お客様ですか。いらっしゃいませ」
「席、空いてるかな?」
「はい、今日はもう、お客様がいらっしゃらないと思っていましたが、問題ありません」
「……?」
俺は、高峰と彼女がやり取りをしている会話に、違和感を感じた。
彼女はなぜ、もう客が来ないと断言できるのだろうか。
「それでは、ご案内いたしますね」
笑顔の彼女は、水を止め、ホースをくるくるとしまうと、店内に案内してくれた。

店内は、ヨーロッパの小説にでも出て来そうなくらい、典型的なヨーロッパ風だった。
木のテーブルと椅子は、日本の物とは全く違う。
デザイン性に優れ、おしゃれな飾り付けが施されている。
機能性重視の無機質商品とは、正反対の代物だった。
「お水、お持ちしますね」
彼女は俺たちを席に案内すると、奥へと消えて行った。
「彼女、なかなかかわいいね」
「あぁ、整った顔をしていると思う。
「筧はどう? ああいう女性」
「もっと友好を深めないと、わからん」
「じゃぁさ、どうよ。佳奈ちゃんと比べて」
「高峰!」
「おっと、失礼」
高峰がへらへらと笑っているうちに、彼女は、水とおしぼりを持ってきた。
「それでは、料理が出来るまでもうしばらくお待ちください」
彼女は、深々と頭を下げる。
「あれ、この店って来店と同時に提供されるのがウリなんじゃないの?」
高峰がちょっと意地悪な質問をする。
しかし、彼女のスマイルは崩れなかった。
「はい。私のカンにより、いらっしゃるお客様を想像し、ジャスト・イン・タイムでご提供しています。ただ、今回はカンが外れてしまいました」
「あら、カンが外れることもあるんだ」
「実は、初めて外れました」
「なんと」
「私、お客様方に興味があります!」
彼女は、自分の胸の上につけているバッジを外し、俺たちに見せてきた。
「私、この第八食堂『カミツレ』のアルバイト、一之江 金魚と申します。よろしくお願いいたします!」
深々と頭を下げる一之江さん。
「俺は高峰 一景。よろしく」
「筧 京太郎。よろしく」
「高峰さんに、筧さんですね。よろしくお願いいたします」
彼女の営業スマイルは、料理が提供されるまで崩れることはなかった。

俺の眼の前には、想像通り、鮭のムニエル。
高峰の前には、カツレツが提供された。
「それでは、ごゆっくりとお召し上がりください」
一之江さんは頭を下げ、奥へと戻って行った。
「おぉ……すげぇな」
驚く高峰。
「高峰が食べたかったのは、カツレツ?」
「あぁ。お前も?」
「そうだよ。朝まで読んでいた小説に、鮭のムニエルが出ていたから、食べたいと思っていた」
「良く考えたらアレだな。俺たち、何を食べたいか言い合ってなかったな」
「あぁ」
「俺たちは一言も食べたいものを話していないから、盗み聞きすることは出来ない。よって、彼女はズバリ当てたというわけか」
「少なくとも、俺が食べたいものは出て来た」
「そんなこと言って、彼女の可愛さのあまり、出てきた料理ならなんでも良くなった……なんてことはないか」
「高峰は何でカツレツなんだ?」
「一時間空いた後がサッカーでね。勝てるようにまじないを」
「なるほど」
スジは通っている。
高峰は結構、迷信を信じる方だ。
「そうすると、彼女と夢中になって話している間に、まったくオーダーしないのに料理が出て来た。これが彼女の持つ"カン"ってやつだな」
「一之江さんは水を俺たちのところに持って来てから、料理を持って来るまでの間、ずっと俺たちの前にいた。オーダーをするタイミングは、俺たちと出会ってから水を持ってくる際に奥に下がった時しかない」
「いったいどこでどうやったのか、どうしても気になるな」
「あぁ。まったくだ」
高峰とアレコレ話しながら完食したが、結局"カン"の出所はつかめなかった。

それからというもの、この"カン"が気になった俺たちは、時より、カミツレに赴く事になった。
頻度としては、週二回から三回程。
アプリオと比べればメニューは豊富ではないものの、本格的な洋風料理を望む時は、カミツレに向かう事の方が増えて行った。
しかし、カミツレに行く度、俺は疑問を持って帰ることになった。
俺たちだけ、なぜか一之江さんのカンが外れることがまれにあったのである。
正確には、

・二人で行くと、カンが外れる時がある。
・高峰が単独で行くと、全く外れない。
・俺が単独で行くと、外れる時がある。

気になった俺は、法則を調べることにした。
すると、下記のような法則である可能性が高かった。

・アプリオに行こうとしていたが、カミツレに代えたときは、カンが外れている。
・初めからカミツレに行くと決めていた時は、カンが当たる。
・ただし、カミツレに行くと決めていたものの、特に食べたいものがない時は、カンが外れる。

より詳しく分析すると、

・カミツレに行くつもりがなかった時に突然行くと、確実にカンが外れる。
・カミツレに行っても、何を食べたいかを考えていない、あるいは何を食べるか悩んでいるときは、ノーオーダーでの提供がされない。
・すなわち、カミツレで食べたいものがあるときは、ノーオーダーで提供がされる。
・昼休みまでに、カミツレで何を食べるかを決めていると、来店と同時に料理が提供される。

……という事らしい。
「うーん、何ででしょうね。筧さんだけ、わからないんですよ」
しょぼーんとした顔をした一之江さん。
疲れた表情で、俺の向かいに座る。
「俺が放課後に来るってこと、わからなかったんだ」
「はい……他のお客様は分かるのですが」
「……その"カン"って言うやつ、詳しく聞かせてもらってもいい?」
「本当は秘密にしたいのですが……筧さんには詳しくお話しするとします。
一之江さんは俺の耳元に椅子を置き、そこに座ると、耳元でささやいた。
「目を閉じて、精神を集中すると、見えるんです。未来が。どのようなお客様がいらっしゃり、何をお召し上がりするのか。私は、それにしたがってシェフにオーダーをしているんです」
「……なるほどね。それで、俺以外の優柔不断な人間にも、きっちりと料理が出るのか」
「はい。食べたい物悩んでいても、その人は結局何かをここで食べるわけです。だから未来に食べている物写っているのですが、筧さんだけは、時より写らないんです」
「う~ん……」
未来が見える一之江さん。
それは、俺の虫の知らせと近いと感じる。
彼女は、誰が、何を食べているか。
それがわかるぐらい、鮮明に見えている事になる。
俺にも、時より見える近未来。
俺たちに共通する"シックス・センス"とも言えるこの能力に、何か関係はあるのだろうか。

『筧さん、一緒に買い出しに行きませんか?』
そんなメールをもらったのは、一之江さんの秘密を聞いてから一か月程経った放課後の事だった。
俺はあの日以降、"実験"の為に、毎日カミツレに通っていた。
当然、だんだん親しくもなっていった。
時より、電子メールでするたわいもない会話。
俺の一つの楽しみだったりする。
集合場所は、本日の午後四時、正門にて。
急な誘いではあるが、乗ってみることにした。

三時五十分。
正門にて、本を読みながら待つ。
今日の本は、料理人として生きた男の話としゃれこんだ。
しばらくして、
「筧さーん」
と俺を呼ぶ声。
誘い主の登場である。
「おまたせしましたー」
「時間ぴったりだよ。待ってない」
「はひー。それでは、行きましょうか」
いつものスマイルを見せた彼女と共に、街中へと足を進めていった。

今日の目的は、ホームセンターでの機材購入だった。
特に電球等の電化製品が多い。
「当店では雰囲気を大事にするために、味のある電球を使っています」
と一之江さん。
ただ、悩みは電気代らしい。
「背に腹は変えられないんですよね。どうしても蛍光灯はチカチカして嫌です。それに、あの電球の発熱は、料理にも影響しますので」
そんな事を言いながら、二人でお目当ての電球を探したりした。
他にも、鍋やフライパンなども見ながら、店内をうろついていく。
「あ」
一之江さんの先には、かわいらしい動物達がいた。
「ちょっとだけ、寄っていってもいいですか?」
彼女の顔を見て、断れる男はいなかった。
「ありがとうございますっ!」
彼女は両手を広げながら、まるで飛行機の離陸のようにすっ飛んでいった。
俺も、ついでに本物の猫でも見るとしよう。

ギザとは違い、痩せて、愛嬌のある子猫を見ていて、ふと思った。
『一之江さんは動物が好きなのだろうか』
と。
ペットコーナーに喜んでいくようであれば、相当の動物好きだろう。
話の種に、何の動物が好きなのか、聞いてみることにした。
しかし、犬や猫のコーナーに、一之江さんはいなかった。
鳥やハムスターなどの小動物コーナーにもおらず、更に探し回っていると、とある一角に彼女はいた。
「うわぁ……」


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そんな声が彼女から聞こえてきそうなほど、彼女は幸せそうなまなざしで水槽見つめていた。
その中にいたのは金魚――
彼女と同じ名前の魚だった。
「一之江さん」
「あ、筧さん」
「金魚、好きなの?」
「えぇ、だって私ですから」
「え?」
「筧さん、金魚の正体って知ってますか?」
「求めてる答えと合っているかは知らないけど、フナの突然変異の中から人工的な交配を重ねた魚」
「ぴんぽーん、せいかいでーす」
少し不満そうな一之江さん。
「筧さん、物知りですね」
「知識だけはある」
「そんな博識な筧さんなら、どういう意味かわかるのではないですか?」
「……」
もし彼女が金魚と同じであるならば、突然変異の中から人工的な交配を重ねて誕生した人間……ということになる。
突然変異を交配する……?
意味がわからない。
「その顔、わかっているけど言い出したくない顔ですね。説明します。私は、人間の姿をしているが、人間でない、と言う事です」
「ど、どういうことだ?」
「信じるか信じないかは別ですが、私は羊飼いS18号。生まれながらにして羊飼いなのです」
生まれながらにして羊飼い?
意味がわからない。
「あ、羊飼いは知っていますよね。学園で有名ですから」
「あぁ、なんでも願いを叶えてくれるっていう、噂の……」
「そうです。私はそのうちの一人です」
「……」
「信じられないなら信じなくて結構です。ただ、それが真実なのですから」
「じゃぁ君は、人の願いを叶えられる……って事か?」
「そこは少し違います」
一之江さんは、水槽の中の金魚を見ながら、話を続ける。
「羊飼いは、才能がある人が躓きそうになった時に手助けをします。例えば、才能がある人が事故に合いそうになった時、その事故にあわないように仕向けます」
「才能のある人……だからこの学園には羊飼いが多いのか。具体的には?」
「わざとぶつかり、乗り物に乗り遅れさせる。直接、忠告をする。羊飼いによってさまざまです」
「じゃぁ願いを叶えるってのは?」
「悩んでいる人に直接、アドバイスをする事もあります。それが印象強かったのでしょう。噂として広まったのだと思います」
「なるほど……」
「普通、羊飼いというのは存在を知られてはいけないもの。未来を知れるわけですから、バレれば人が殺到してしまいます」
「確かに、自分の未来を知りたがる人が多いからな」
「ただ、羊飼いというのは、そのうち人の記憶から抜け落ちるようになっているのです。一週間もすれば、羊飼いと話したことすら忘れます」
「なら何故羊飼いの噂が出回っているんだ?」
「人の記憶から抜け落ちる前に羊飼いの情報が他人に渡り、それが渡り続けているからでしょう。仮に羊飼いの記憶が一週間もつとするならば、六日目に羊飼いの話を聞けば、また一週間記憶が残り続けます」
「確かに、それなら"羊飼いの存在"だけは人の記憶から抜け落ちないな」
「はい。それに羊飼いは男性、女性、若い方、年配の方、さまざまです。人によって合う羊飼いは違うのですから、話をまとめればまとめるほど、羊飼いを定義づけできなくなります」
「なるほど。だから噂程度にとどまるのか」
「まぁそれは良いとして、羊飼いというのは元人間です。人間が希望し、羊飼いが認めれば、晴れて羊飼いになれます。だが、ここで一つの疑問が出来ます。なら、初めの羊飼いはどこから来たのかと」
「まるで、鶏が先か、卵が先かの話だな」
「まさにその通りです。さて、問題です。最初の羊飼いはどのようにして生まれたのでしょうか」
「……ハッ」
「気が付いたようですね」
「人間の突然変異……と言う事か」
「その通りです。なので私は、他の羊飼いが数値だけなのに対し、"S18"というアルファベットをが頭についているのです。
「……ちょっと待て。俺にそんなにぺらぺら話して良いのか?」
「はい。筧さんは、私と同じかもしれませんから」
「……はい?」
「ですからー、筧さんは私と同じ、突然変異かもしれないんです。だって私のカンが通じないの、羊飼いだけなんですもの。
……。
マジかよ……。
「だから筧さん、私と暮らす気、ありません?」
……え?
今なんと???
「ですからー、筧さんが突然変異かどうか確かめるため、私と一緒に暮らしてください!」
「え、そ、そんな急に言われても……」
「お願い……します」
「……わかった」
俺は改めて、『涙は女の武器』という言葉を始めていった奴を尊敬した。
彼女の、少し潤んだ瞳で、真剣に見つめられたら、男は首を縦に振ることしか出来ない。
「実は今日一緒に選んだ鍋やフライパンは、共同生活のために使われたりします」
一之江さんは、俺が持っている調理器具を笑顔のまま指差した。
俺は、どうやら彼女に躍らせていただけのようだった。


いかがだったでしょうか。

今回は約七千字。
本来ですともっと細かく書かないといけない部分(出会いから買出しに行くまでなど)があるのですが、ダイジェスト版の意味も込めまして、省略して書きました。
恐らく、序盤はこういう形で話が進むのかな、と。

こっから先、幾らでも想像することが可能です。
恋愛シュミレーションゲームなのだから、筧と金魚が恋仲になるのは目に見えています。
生まれながら、羊飼いに近い能力を持つ筧と、生まれながらの羊飼い、金魚。
これを聞いただけで、仲良くやっていけそうな二人だと思いませんか?
しかしながら、羊飼いは恋愛が出来ない。(凪ルート参照)
自分を捨てないといけない。
でも、生まれながらの羊飼いは、能力を持ったままそれが出来てしまう。
それが故、羊飼いにも煙たがれ、肩身の狭い思いをする。
人間でもない、羊飼いでもない――
そんな世界で、筧と二人、一つ一つ困難を乗り越える。
そんな話になっていきそうな気がします。
そうでなくとも、似たような話になる可能性は高そうです。
当然、確証はありませんが。

さて、とりあえず公開されたCGによる妄想大会はここまで。
あとは、新規CGが出るか、あるいは、私が"書きたい"と思ったら。
羊飼いLPのお話の続きを、書いてみたいと思います。

ちなみに、言わなくてもわかるとは思いますが、"S18"は、都営新宿線、一之江駅の番号です。
"S18"だった関係で、無理やり設定で『生まれながらの羊飼い』としています。
さて、このこじつけは当たるのでしょうか。
(当たるわけねぇな)


米原

大図書館の羊飼い Library Party 嬉野 紗弓実 スペシャルSS パートナーに必要なもの

こんにちは。米原です。


もう12月ですね。
一年というものは早いものです。
最後のつきの一番最初を彩るのは、やっと公開、紗弓実ちゃんです。
待ち望んでいた方、多いのではないでしょうか。
今回は筧の部屋で、両手を伸ばしながらも顔は渋い。
笑顔の紗弓実もいいのですが、こういう顔が出来るのも紗弓実の特徴だと思います。

そんな印象的なCGから、世界を広げました。
ゆっくりとお楽しみください。


大図書館の羊飼い Library Party 嬉野 紗弓実 スペシャルSS パートナーに必要なもの


目の前がゆっくりと、白くフェードアウトしていく。
時間をかけて真っ白になった世界には、下から順に、製作者の名前が流れてきた。
「やりました……やりましたよ、京太郎!」
右隣の紗弓実が、とびかかってくる。
「もうダメかと思いましたが、最後の最後でやりました! やっと……やっと……」
少し涙ぐむ紗弓実。
それだけ、このゲームに想いをかけていたのだろう。

最新作のFSPゲーム、"AGL"。
多彩なグラフィックと、細かい動作がウリのこのゲームは、現在発売されている中で一番高性能なCPUやグラフィックボードが搭載されてるPCでしか、動かない。
市場では50万円近い価格のPCが、このゲームの推奨モデルとして売られている。
『そんなのは邪道です』
なんて言いながら、澄ました顔をしていた紗弓実は、ある日突然、俺の部屋にでっかい箱を持ってきた。
それと同時に届いた宅配便。
それらを時間をかけて組みあげ、帰って行った。
それがこのゲームとの出会いである。
俺にとっても、ゲームのスタート画面はおろか、ハードウェアの準備から見ている、思い出深いゲームだ。
「とりあえず、今日はお祝いですよぉっ!」
紗弓実は、俺の携帯を奪うと、ロック番号を入力して、電話を始めた。

紗弓実が頼んだデリバリーピザとコーラで乾杯をする。
ちなみに、なぜか代金は俺持ちだ。
「いや~、さすがの私でも、大分苦労したゲームでした。今度はやり込みを始めなくてはなりませんね」
「まだとったアイテムは全体の6割強だからね」
「それも重要ですが、すべてSランクでの攻略を目指さなくてはなりません。そこまでやって、初めて『攻略した』と言えるのですよ、京太郎」
……マジ?
でも、紗弓実の顔は本気そうだった。
「京太郎は称号が欲しくないのですか?」
「え? 称号は全部取ったはずじゃ……」
「ノンノンノン、甘いですよ、京太郎。このゲーム制作会社は、"100%"と表示させておきながら、実は100%じゃないのです」
「……隠しがあるのか」
「その通り!」
紗弓実が左の人差し指をびしっと立てる。
「いいですか、京太郎。このゲーム会社は、いつも我々に挑戦状をたたきつけているのです! 私たちはそれに答えなくてはならないのです!!」
……何たる迫力。
だが、俺も、紗弓実と一緒に、それを見てみたくなった。
「よし、付き合うよ」
「それこそ京太郎、もとい、私のパートナーです。でも、今日は疲れたでしょうから、やめにしましょう。食べ終わったら、かるーくフリープレイでもやりましょう」

フリープレイはもっぱら、俺たちの攻略シミュレーション兼、訓練場となっている。
どのように攻めていくのか、どのように守るのか、武器の威力はどれぐらいか、陣形は、相手の移動パターンは。
実際の戦闘訓練さながらの模擬訓練を重ね、俺はここで腕を磨いてきた。
だが、今回はそうではなく、走ったり、転がったり、弾を無駄打ちしてみたりと、好き勝手に行動する。
「喜びの乱れ打ちですっ!」
普段、俺に厳しく訓練してくれた紗弓実も、今回に限っては楽しんでいるようだ。
思えば、最初はまともに動かせなかったっけか。
それがだんだん思う動かせるようになり、紗弓実のサポート役としては十分な腕前になり……気が付いたら、スクリーンの周りの本が見えなくなった。
自分の視野が、完全にスクリーンと同等の大きさとなり、余計な情報が目に入らなくなった。
昔は紗弓実の付き合いとしてプレイしたFSPだが、今は俺も楽しんでやっている。

突然、銃声とともに、俺の視野が真っ赤に染まっていった。
「!?」
「おや京太郎、流れ弾に当たるとは情けない」
紗弓実はニコニコ顔で、ゲームを続けていた。
俺がいた場所を、通過していく。
明らかに後ろから狙ったショットであり、流れ弾では断じてない。
「狙ったな、紗弓実」
「それはありません。たまたま、たまたまです」
「よし、ならばそれを証明してみるとしよう」
すぐさま戦場復帰した俺は、愛用のマシンガンに切り替える。
「やる気ですね、京太郎」
「紗弓実が黒でない事を、証明するだけだよ」
「面白いですね……では、証明してもらいましょうか」

このゲームには、フィールドマップなんて野暮なものは存在しない。
ついでに言うと、スクリーンはデュアル。
俺専用の画面、紗弓実専用の画面があり、一つの画面が分割されて見えづらい、なんてこともない。
一応、俺と紗弓実の協定として、『相手方の画面は見ない』というルールがある。
今までもシミュレーションで紗弓実を倒したことがあるが、それはあくまで紗弓実を仮想敵とし、紗弓実の指導の下、言われた通りに動いただけだ。
お互い、本気の打ち合いは、これが初めてだ。
「行くぞ!」
基本通り、壁に背を向けながら、低く、そして"早く"移動する。
時間をかけず、無駄のない動きをしながら、ターゲットをおびき出す。
地雷を埋めるなど、罠を仕掛け、おびき出すのがセオリーだと教わっている。
「京太郎は本当に覚えが早いですね。お互いの動ける場所が、どんどんと減っています」
「先生の教えが良かったものでね。先生想いの生徒さんは、先生の黒を晴らすのに必死です」
「そこだけ聞けばほほえましいのですが……その生徒さんが反抗しているとあれば、先生は黙っちゃいませんよ!」
安全地帯がどんどんなくなっていく。
それにつれ、移動するには、相手にバレながらの移動を余儀なくされる。
「さぁ、そろそろ頃合ですかね、京太郎」
「ふっ、まだまだ」
「余裕をかましているフリをして油断させるつもりですか……京太郎の癖に生意気です」
紗弓実は最後まで残していた安全地帯に身をひそめ、スナイパーモードに切り替えたようだ。
大きな銃で、一撃で仕留める。
紗弓実の大好きな戦法だ。
「さぁ京太郎、観念して出て来なさい」
「それは出来ないね」
「ぐぬぬっ……京太郎の癖に……もう我慢できません!」
紗弓実はとあるボタンを押す。
しかし、何の反応もない。
「え……」
「悪いが先生、トラップは解除させてもらったよ」
「……!」
ゲーム内で、罠を解除するキャラクターは存在しない。
いや、正確にはいるのだが、所詮はプログラムで動くキャラクター。
それを見越して時限爆弾を仕掛けておけば、自ら罠にかかってくれる。
「じっ、時限爆弾も作動しない!?」
「"早い"のから順に、解除していったからね」
「ぐぬっ……ぐぬぬっ!」
紗弓実に焦りの顔が見える。
「しかし京太郎、私を仕留められなければ意味がないですよ」
「もちろん」
「いいでしょう。先生をどう調理するのか、見届けてあげます!」
紗弓実は頭の中でシミュレーションする。
俺が事前に、『紗弓実が好みそうなところに逃げ込んで行く』事を想定して行動していると。
だから、今いる場所に隠れ続けても、策を練って攻め込んでくる。
自ら仕掛けた罠が解除されているなら好都合。
安全に移動が出来る今のうちに、俺が苦手とする接近戦に持ち込む――
"俺は"そう戦略を立てていた。
「!」
高い銃撃音がスピーカーから響き、紗弓実の脚がとられる。
倒れた紗弓実のキャラに向かって、鈍く、静かな破裂音が一発。
そののち、紗弓実の画面は真っ赤に染まっていった。

「……」
不機嫌そうな紗弓実は、両の手を伸ばした。

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「……おめでとう、京太郎」
「……」
「ほら、京太郎、喜びを表現したらどうですか?」
紗弓実は再度、腕をぶるんと伸ばす。
「あ、あぁ」
俺は、紗弓実の胸に飛びこんだ。
「嬉しいですか、京太郎?」
「あぁ、とっても」
「……そりゃ、見事な作戦勝ちで勝ったわけですから、さぞかし嬉しいですよねぇ」
「違うよ」
「え?」
「こうして、世界で一番好きな人と抱き合えることが、何より嬉しい」
「……っ!」
紗弓実が顔を真っ赤にする。
「紗弓実」
「……なんですか?」
「俺は、認められる男になりたかった」
「……今まで、私は京太郎を認めなかったことなんかありません」
「違うよ」
「何か違うんですか!」
紗弓実の不機嫌さは頂点に達しようとしていた。
「本が好きな俺と、ゲームが好きな紗弓実。俺達は元々、似ても似つかない」
「……」
「でも、そんな俺達が気が付いたら惹かれあい、お互いを求め合っている。昔の俺達を知っている人は、驚くだろう。だから……」
「私達の中を、他の人に認められるように……」
「そう、紗弓実の好きな事を、同じように好きになって、それで誰よりも仲良しに見られたい」
「京太郎……」
いつの間にか、紗弓実の顔は、笑顔になっていた。

「さて、私の負けは負けです。京太郎の腕も確認できましたし、もう十分でしょう」
紗弓実はコントローラーを放り投げる。
「じゃ、セーブしてやめますか」
俺はコントローラーを操作し、画面をタイトルへと戻す。
「……あれ?」
「どうしました、京太郎」
「紗弓実、タイトル画面が変わってないか?」
「それはエンドロールまで見たのだから、タイトルが画面ぐらい変えてくれないと困ります」
「いや、そうじゃなくって、ほら」
ピザを踊り食いしている紗弓実に、無理やりスクリーンを見せる」
「あ……」
紗弓実はスクリーンを食い入るように見つめる。
「京太郎! 凄いです!!」
紗弓実は満面の笑みで抱きついてくる。
「今回の隠しモード、発見です!」
「???」
俺にはわけがわからない。
紗弓実は放り投げたコントローラをつかみ、スタートボタンを押す。
「見てください、京太郎!」
紗弓実が捜査した画面には、称号が一つ、追加されていた。
その称号は、『ベスト・パートナー』
「恐らくこれは、同じハードウェア内でパートナーモードで攻略をし、その上でフリー対戦でお互いにキルをつけると付く称号です」
「そんなの、大してレアじゃないじゃないか」
「京太郎はわかっていませんねぇ」
ため息顔の紗弓実。
「このゲームは元々、一人用です。オンラインを通じて他人と共同プレイする事はあっても、同じハードで共同プレイする人なんて、めったにいません」
「そうすると、誰もやりそうもないからこそ、称号を作ったのか」
「そうです、その通りです! 『ベスト・パートナー』がいるゲーマーにだけ見られる、特典ですよ!」
紗弓実は俺の手を握りながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
こんなにかわいい紗弓実を見られるなんて、ゲームも捨てたものではないな。

後にわかった事だが、『ベスト・パートナー』の称号を得る条件は、なかなか難しいようだ。
まず初めに、全てのステージを、同じハードによる協力プレイでランクB以上で完全攻略。
続いて、フリーモードで、相手をキル。
この際、得点が重要で、千点以上を取らなくてはならない。
通常のキルでは五百点がせいぜい。
千点以上のキルは、仲間への裏切り、不意打ち、暗殺など、残虐なものである。
『ベスト・パートナー』言う割りに、条件にはそれに当てはまっていないのである。
「『敵を倒すには、まずは味方から』と言いますし、お互いを信じあうからこその称号だと思いますよ」
紗弓実はそう言いながら、今日もゲームをしていた。
「それでは、付き合いますか」
「おやおや、嫌々ですか?」
「早速味方をだましてみましたが、なにか?」
「むっかーっ!」
紗弓実の目つきが変わる。
「京太郎、勝負です!」
「望むところだ!」
本を読んでいた時代。
俺は知らぬ世界を求めていた。
いつか見えるであろう、真の世界。
それを、俺は求めていた。
しかし、俺が本当に欲しかったの世界は、好きな人と過ごす、大切な時間だったのかもしれない。
幾ら争ってもケンカにならず、笑いの絶えない、明るい世界を。


END


いかがだったでしょうか。

数えてみれば約4,600字。
千莉や葵より多いのですが、なぜ……。

今回は、FSPというゲームが登場します。
出来るだけその描写を増やし、実際に体感していただけるように書いたのですが……。
どうなんでしょうか。

よくソフ○ップ等に行くと、ゲームのデモ画面が流れています。
画面にちょこんと持っている銃があり、手榴弾を投げれば画面上部から飛んで行き、ヘリコプターや戦車なんかも運転できますね。
FSPなんかプレイした事ない私は、それを思い返しながら書いてみました。
『百聞は一見にしかず』という諺がありますが、やはり文字で表す世界なんかよりも、断然、絵で表す世界の方がわかりやすいです。
上手く書けているのかなぁ。
なんだかベタすぎな展開じゃないか? と今更ながら思います。
とにかく紗弓実とゲームをした! という体感が皆様に伝われば幸いです。


さて、とりあえずこれで羊飼い無印から登場するメンバーの挿絵を使用した妄想SSは終わりです。
あとはLP版の最新キャラ、金魚のみ。
一応大まかな考えはまとまっていますが、もっと細部をつめなくては、作品になりません。
完成次第、公開したいと思います。
それを早めるのは……皆様からのご感想ですよ!


米原

大図書館の羊飼い Library Party 芹沢 水結 スペシャルSS 自分だけの太陽

こんにちは。米原です。

さて、羊飼いVitaの公開CGによる予言SSシリーズ、お次は水結ちゃんです。

画像を見ていただくとわかるように、この絵柄は正直ちょっとおかしいです。
右端に何かメモ帳のような、なんだかよくわからないものが写っています。
これ、嬉野さんCGの右端に写っているカレンダー、他なんですよね。
なぜ写っているのか……まぁ、ミスとしか考えられないのですが、比率がおかしい(16:9ではない)ですし、なぜこうなったのかと。
ミスはオーガストのせいなのか、はたまた、この画像を公開しているとこが間違えたのか……。
良くは分かりませんが、気にせず行きましょう!

今回は、Hシーンの差し替えではなく、完全オリジナル(つまり今の季節)で行きたいと思います。
それでは、お楽しみください。


大図書館の羊飼い Library Party 芹沢 水結 スペシャルSS 自分だけの太陽


校舎が夕焼けに包まれ始める時間が、次第に早まる。
17時を過ぎれば、あたりはもう真っ暗。
今まで気にしたことのない、日々の外の変化。
その変化を、中央棟の放送室脇の窓から楽しむのが、今の俺の楽しみだったりする。
「筧さ~ん」
扉をちょこっと開き、顔を出した水結に呼ばれる。
昨日とは変わらなく見えても、長い目で見ると確実に変わっている。
明日の変化、明後日の変化、明々後日の変化……それを楽しみにしながら、水結の元へ向かった。

扉を閉じる。
その瞬間、水結が抱きついてくる。
「筧さん♪」
「お疲れ、水結」
左手を水結の腰を廻し、右腕で水結の長い髪をなでてやる。
水結は、こうすると、本当に幸せそうな顔をしてくれる。
「何見てたんですか?」
「夕日だよ、夕日」
「ふぅ、てっきり、下校中のべっぴんさんを見ているのかと思いました」
「ハハ、俺の眼には、水結しか写らないよ」
「またそんなこと言って……カッコ良くてモテる彼氏を持つ女の子は、結構不安なんですよ」
「オイオイ。俺の事、信じてくれよ」
「そりゃ信じてますけど……。同級生はあの白崎さんに、桜庭さん。千莉だって筧さんになついてるし……。やっぱり不安になりますよ」
水結は唇を尖らせる。
「悪いな、水結。水結が不安に感じるのは、俺のせいだ」
「ひゃっ、ちょっと筧さん?」
「もっと俺の愛の証、貰ってくれ……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
水結にキスをする瞬間に、拒否される。
「……あ、ご、ごめんなさい。別に筧さんのキスがイヤなわけじゃないんです。ただ……」
「ただ?」
「筧さん、だんだんと、イケメンと言うか……カッコよくなっていってます。私が出会った時の筧さんよりも、今の方が断然カッコ良いです」
普段自分の事なんか気にしないから、まったくもってそんな自覚がない。
「前の筧さんは、私のハートをつかむような、そんなキザなセリフを言いませんでした。今は筧さんと話すたび、筧さんに愛されたくなって困ります。今だって……」
水結は股を閉じて、内股にする。
なるほど、ちょっと刺激が強すぎたか。
「ごめんな、水結」
水結をぎゅっと抱きしめる。
「あ……」
「好きだ……」
水結の唇を奪う。
「んっ……ちゅっ……」
下を交らわせられない分、上を交らわせた。
舌が奏でる音が、俺と水結だけが理解する無言の会話。
この音の強さが、相手にどれだけ飢えていたかを明白にさせた。

水結は、十分充電出来たのか、俺の横に座り、俺にもたれかかり、肩に頭を載せている。
その頭を、俺は左手でなでてやる。
「筧さん」
「なんだ?」
「ずるいです」
「どうして?」
「さっきので、私、筧さんにもっと依存しないと、生きていけなくなっちゃいました」
「ハハ、彼氏としては、うれしいかな」
「私が我慢しよう、我慢しようとしているのに、筧さんったらすぐにその殻を壊して私の中に入ってくるんですよ」
「オイオイ、なんだか俺が我慢できない人みたいじゃないか」
「そうですよ! 筧さんは、我慢が出来ない人なんです。少し我慢、覚えたらどうですか?」
「……考えておく」
正直、水結と常に一緒にいないと不安だという現象は出ていないが、水結といるときは、物理的に可能なところまで密着していたい。
それが、俺が今水結に持つ願望だ。
それを我慢しろと言われると……ちょっと困る。
「と言うわけで、ちょっとトレーニング、してみません?」
水結は俺の手を取ると、窓のそばに移動した。
「筧さんにお願いです。今から紳士になってください」
「今の俺は紳士じゃないのか……」
「あ、いえ、そういうわけではありません。お芝居として、の話です」
「芝居?」
「今度、恋する乙女の役をやりますので……あ、と言っても声優として、セリフを吹き込むだけなんで、実際に演じるわけではありません。でも、練習がてら、一度やってみたいのです」
既に水結とは、学校の演劇課題では、練習相手をしたことがある。
今度はそれの声優版か。
面白そうだ。
「それじゃ、図書部仕込の腕前、見せてやろう」
「どらかというと、"声前"ですかね」
「そうかもな」
「ふふっ。何がともあれ、いきますよ。あ、私は全て台詞を覚えていますので、筧さんはただ単に自分のパートを読むだけで結構です」
そんな会話をしながら、水結に台本を渡されれた。

「それでは始めます」
一瞬にして空気が変わる。
今までのおちゃらけた雰囲気は、水結により、すべて取り払われた。
水結の眼。
仕事モードの真剣な眼。
この眼は、凄く好きであるが、同時に、怖い。
「……日が落ちますね」
「あぁ、同時に、暖かさがなくなっていくな」
「あれだけ暑い暑いと言っていた太陽のありがたみを、今頃になって感じます」
「ハハ、確かに。人間はわがままなものだな」
「えぇ、本当」
そう言いながら、水結は俺の手を取った。

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「実は、私もわがままだったりします」
水結は俺の手を頬に当てる。
「こうして、貴方に温めていただく事が、私の楽しみでして」
水結の頬の温かさが、手を通じて、どんどんと俺の中に入ってくる。
「太陽と同様、私にとっては貴方は不可欠な存在……そして、私の心を温めてくれる人なのです」
水結の迫真の演技に、俺は息を呑む。
「どうか……私のわがままを聞いてください。貴方は太陽のような人。皆を照らし、温め、明るくさせる人。決して私が独占してはいけません」
「……そんな事はないよ」
「本当……ですか? 本当に、私だけの太陽でいてくれるのですか?」
この男役同様に、俺は困ってしまう。
「私だけの、独占できる太陽である貴方さえいれば、私は、もう何も要らない……」
水結はゆっくりと眼を閉じる。
「はい、カットです。お疲れ様でした」
水結はそう言うと、俺の手を離し、何事もなかったかのように荷物をまとめ始めた。

日は沈み、薄暗い中を、共に歩む。
先程の演技のおかげで、なんだか照れくさくなってしまった。
「なぁ、水結」
「何ですか?」
「水結はやっぱり、太陽のような人、欲しかったりするのか?」
「そうですね……」
水結は考え込む。
「私にとって、ファンの方が太陽のような人……ですかね。時に雨や雷に化けるかもしれませんけれども」
「そ、そうか……」
てっきり『筧さんですよ』とでも言ってくれるかと思ったが、そんな淡い想いは打ち砕かれた。
「……でも、ファンの方とは違い、筧さんはいつも私の見方をしてくれます。そういう意味では、太陽よりも大切かもしれません」
「水結……」
「とは言いつつ、ファンの方っていうのは、私にとってかけがえのない人です。筧さんも、ファンの方も、大事です。『どっちかを選べ!』なんて言われたら困ります」
「ハハ、それは理解しているよ」
「紳士で、何よりです」
水結はにっこり笑う。
「ちなみに言っておきますけど、私はあの台詞、実はあまり好きではありません」
「え?」
「太陽は夜が来れば隠れちゃいます。人生のパートナーに、隠れられちゃ困ります」
言われてみればそうだ。
誰だって、パートナーに真っ暗な裏があって欲しくはない。
「でも、いつまでも昼じゃなくて、朝焼けや夕焼けみたいに、ちょっぴり変化は欲しいですね。……これって、わがままですかね?」
水結の眼は、あの演技の時の眼だった。
俺の手を頬に当て、人のぬくもりを求めていた時の。
「わがままじゃないよ」
俺はすっと腕を出し、水結を俺の傍に寄せる。
「俺は、水結をいつまでも照らす、太陽だからさ」


END


いかがだったでしょうか。

今回は約3,000字と、短くまとめました。
このCGを見たときの印象が「夕日が綺麗だなー」だったので、そこから転じて太陽という題材を取り入れてみました。
皆様にとって、太陽といえるような存在はいますか?
ずっと自分を照らしてくれる、特別な太陽かぁ……。
書いていてだんだん寂しくなってます、ハイ。

出来上がって思ったことは、ちょっぴりCGを使ったシーンが短く、出来が悪いなぁって思いました。
前半の萌えシーンを書いたらなんだか満足してしまって……というのが言い訳です。
ちなみに、私の中で水結ちゃんは、演技と言いながら筧に近づき、本当の気持ちをさらけ出させる悪女です。(笑)
千莉ちゃん同様、テクシャンで、敵に回すと怖そうな印象。
こういう頭のいい女性は、好みだったりします。
誰か、私に仕掛けてくれる、ステキな女性はいないのでしょうか。

さて、お次は紗弓実ですね。
待ちかねの人が多そうなので、ちょっとじらそうとか思っていたりなんかしたりして。

感想、待ってます。


米原

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米原伊吹と申します。肩書き→オーガスト専門評論家、オーガスト専門二時創作家、オーガスト専門Card Game Player、オーガスト専門レイヤー、オーガスト専門ドール保持者、他
『大図書館の羊飼い-Dreaming Sheep-』2014年3月28日発売予定、11月29日より全国のPCショップで予約受付開始です。

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