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大学ラグビー選手権決勝は、対抗戦1位と4位の顔合わせである。
帝京は昨年の今大会で初優勝を遂げた。
今季は早慶明に敗れて4勝3敗。筑波とも2点差の接戦だった。
ただ私は11月の早稲田戦を見て、妙な印象を受けた。
チームとしての意図、意欲を感じない試合運びなのである。
伝統校はおそらく選手権より対抗戦を重んじている。
でも帝京は「予選ラウンド」の感覚で戦っている…。
そう思ったら案の定である。
帝京は関東学院、慶應、東海と厳しい相手を連破して決勝に到達した。

早稲田大学
PR  上田竜太郎 2年 182/108 東福岡
HO  伊藤平一郎 2年 174/102 大分舞鶴
PR  垣永真之介 1年 180/109 東福岡
LO  岩井哲史  4年 181/95  桐蔭学園
LO  中田英里  4年 193/108 成蹊
FL  中村拓樹  4年 170/75  啓光学園
FL  山下昂大  3年 180/95  東福岡
NO8 有田隆平  4年 176/96  東福岡
SH  榎本光祐  4年 170/70  大分舞鶴
SO  山中亮平  4年 187/95  東海大仰星
WTB 中濱寛造  4年 176/85  大阪工大高
CTB 坂井克行  4年 172/88  四日市農芸
CTB 村田大志  4年 180/83  長崎北陽台
WTB 中靍隆彰  2年 176/74  西南学院
FB  井口剛志  3年 180/84  伏見工

帝京大学
PR  吉田康平  3年 184/106 京都成章
HO  森太志   4年 174/102 仙台育英
PR  西村尚紀  3年 177/115 京都成章
LO  菅原貴広  4年 182/101 都多摩工
LO  T・ボンド 3年 196/107 クライストチャーチズ
FL  H・ツイ  4年 188/110 デラセラ
FL  吉田光治郎 4年 177/87  啓光学園
NO8 柴田一昂  4年 176/90  長崎南山
SH  滑川剛人  3年 166/65  桐蔭学園
SO  森田佳寿  3年 172/83  御所工
WTB 富永浩史  4年 172/76  高鍋
CTB 南橋直哉  3年 175/84  伏見工
CTB 黒川勝平  4年 175/77  長崎南山
WTB 鬼海雄次  4年 166/71  長崎北陽台
FB  竹田宜純  1年 180/85  御所実


1分、早稲田は敵陣ハーフライン付近のラインアウトを確保。
左オープンに展開してCTB坂井克行、SO山中亮平が縦を突く。
しかし接点で圧力を掛けられ早稲田はオフサイドの反則。

11月3日の早稲田はSO、CTBの位置からガンガン抜いていた。
この場面も山中がインサイドを抜け掛かった。
しかし今日の帝京はラックの圧力が強い!

3分、早稲田は自陣深くのラックで「ダミーパス」の反則。
帝京に敵陣5mの好位置でフリーキックが与えられた。
帝京はスクラムを選んで攻め続ける。

6分、ヘンドリック・ツイがNO8に入ってまず縦を突く。
FWが集まってモールで押す。
早稲田がこれを崩して主審は「アドバンテージ」を見る。
帝京はFB竹田宜純が切れ込んでブレイク。
左中間のラックからSH滑川剛人が外に振る。
FL吉田光治郎が大外で余ってトライ。
コンバージョンは森田佳寿が失敗。
<帝京大 5−0 早稲田大>

帝京はFWの近場を突く、固まって動くプレーが強みだ。
ただこの場面はアドバンテージがあったのでボールを動かしてきた。
直前までFWが並んで「ゴリゴリ行くぞ」という構えだった。
その3人が右から左のスペースへサッと動いた。
早稲田はコンマ何秒か遅れてスライドし切れなかった。

11分、早稲田は自陣でハンドの反則。
12分、帝京のペナルティキックはゴール正面。
森田佳寿が30mほどの距離から直接狙って成功。
<帝京大 8−0 早稲田大>

18分、早稲田は自陣でスクラムコラプシングの反則。
19分、帝京のペナルティキックはゴール正面。
森田佳寿が25mほどの距離から直接狙って成功。
<帝京大 11−0 早稲田大>

序盤は帝京が圧倒していた。
早稲田はスクラム、ラインアウトが思うに任せない。
接点も帝京FWが強い。
だから早稲田はラックの反則も多かった。
ボールをテンポよく動かせなければバックスは生きない。
早稲田はボールを持てず、持ってもラックで圧力を受ける。
自陣で我慢の時間が続いた。

22分、早稲田は敵陣5mの左ラインアウトをキープ。
SH榎本光祐が右オープンに展開して山中亮平が縦を突く。
FL吉田光治郎のタックルに引っ繰り返されてしまう。
早稲田はこのラックを何とかキープして榎本が左大外に飛ばしパス。
しかし帝京はPR西村尚紀が岩井哲史に猛タックル。
帝京が凄まじいタックルでボールを奪還した。

23分、早稲田のキックカウンター。
FB井口剛志が内側のスペースを一気に抜け出す。
CTB村田大志、山中亮平が縦を突いて帝京が反則。
榎本光祐がすぐにリスタートする。
CTB坂井克行が縦を突いて榎本光祐が左のラインに振る。
山中亮平が相手を引きつけて右に短くリバース。
井口剛志が絶妙のタイミングで抜け出してトライ。
コンバージョンは坂井克行が正面から成功。
<帝京大 11−7 早稲田大>

今日の帝京はディフェンスをよく準備していた。
「内側」の対応が手厚い。
対抗戦で抜かれまくった「山中亮平とその脇」を修正していた。
ただこの場面は井口剛志が相手の警戒をかいくぐった。

30分、帝京はゴール正面のペナルティでスクラムを選択。
スクラムを押して更にLOボンド、HO森太志が縦を突く。
しかしLO菅原貴広のドライブで帝京FWがオーバーザトップの反則。
帝京は決定機に得点できない。

試合は帝京の4点リードで前半を折り返す。

40分、帝京は西村尚記→坪井秀龍。

44分、帝京はFLツイが早稲田のキックを捕球。
早稲田がラックにFWが寄ってターンオーバーを狙う。
しかし帝京は鬼海雄次がサイドをするっと抜け出して大きくゲイン。
SH滑川剛人が左オープンに振って、SO森田佳寿は外にラストパス。
WTB富永浩史は完全に余っていたけどノックオン!

50分、早稲田は自陣でモールコラプシングの反則。
51分、帝京のペナルティキックは20m弱。
森田佳寿が左中間から狙って成功。
<帝京大 14−7 早稲田大>

55分、早稲田は中村拓樹→金正奎。

56分、帝京は敵陣で早稲田スクラムに圧力。
一気に押し込んでFL吉田光治郎がルーズボールを拾う。
これを攻め続けて早稲田の反則を誘った。

60分、帝京のペナルティキックはゴール正面。距離が約15m。
帝京は「ショット」を選択して森田佳寿が成功。
<帝京大 17−7 早稲田大>

「リードを奪った時の帝京」は難敵だ。
無理に仕掛ける必要がないから、
FWがじっくりボールを持って試合のテンポを落とす。
帝京の弱点はフィットネスだけど「持つ」ことで休める。
短いパスを横に振ってツイ、ボンドが縦に当たる。
ゲインはできないけどボールを失うこともない。
「ツイボン」を有効活用していた。
早稲田はボールを持てればバックスという強みが出る。
しかし後半はボールを手に入れてもスクラムから出なかった。
1回ボールを失うと5,6分は戻ってこない!
帝京は後半からU-20代表の坪井秀龍が3番に入っていた。
あと垣永真之介に脳震盪の影響があったかな?
早稲田は70分にもスクラムをターンオーバーされてしまった。

73分、早稲田は坂井克行→田邊秀樹。
73分、帝京は森太志→小幡大彰。
76分、帝京は鬼海雄次→伊藤拓巳。

76分、早稲田はペナルティから速攻。
SH榎本光祐が中央のラックから左ショートサイドに振る。
山中亮平が外に繋いでWTB中濱寛造は外にスワーブ。
帝京WTB、SHのタックルを振り切ってトライ!
しかし左隅からのコンバージョンは山中亮平が失敗。
<帝京大 17−12 早稲田大>

77分、帝京は森田佳寿→小野寛智。

今日は「タイムキーパー制」だからロスタイムがない。
残り時間は3分を切っていた。
早稲田は帝京のキックオフをキープ。
蹴らずにボールを動かして仕掛け続ける。
しかし帝京はFBを残して分厚いDFを敷く。
早稲田は自陣22mライン内から出られない。
最後はラックをターンオーバーしてタイムアップ!

帝京がスコア以上の「完勝」で早稲田を下した。
どんなスポーツもコンディション、準備が重要ですね。
帝京はほぼ同じ選手なのに2ヶ月で別のチームとなった!

帝京は「人とボールが動かない」ラグビーである。
目の肥えた「通」以外には伝わらない内容かもしれない。
ただあのラグビーは「積み重ね」があったはずだ。
帝京FWはどの選手もよくパンプアップされている。
食事、トレーニングが適切だからだ。
更に当たり方、当たられ方が上手い。
接点に寄ってくるのが早く、ラックを作る手順もスムーズ。
同じ人数で戦っているとは思えない厚みがあった。
「基礎作り」を実に忠実、丁寧にやっている。

外国人選手が大活躍だった。
ただ今の大学ラグビーは他校もポリネシア系の選手を呼んでいる。
「外人を呼べば勝てる」という話でもない。
去年も書いたけど帝京はツイ、ボンドが「お客さん」になってない。
彼らが率先して「痛いプレー」をやる。
他の選手と信頼関係があり、意思疎通もできている。
チームの風通し、寛容さを示していると思う。
「グローバル化」という言葉は陳腐だけど、
今はどんな業界も異文化同士の「共闘」が重要だ。
帝京は「ガイジン頼み」でなく
「外国人を受け入れる度量がある」チームなんだと思う。

今年の早稲田はいいチームだったと思う。
ただ勝たなければ評価してもらえないのが早稲田の宿命。
選手も甘い言葉、優しい慰めは望んでいないだろう。
FW第1列は今日の悔しさを胸に心身とも大きくなって欲しい。