今回は、米国「Autoweek」による日産 マイクラ(カナダ仕様)の試乗レポートを日本語で紹介します。


Micra

もしあなたが20年ほど前にヨーロッパに行ったことがあれば、レンタカーで借りた車はきっとこの車だろう。庶民の車、マイクラだ。アメリカの近くでこの車を買えるのはメキシコやカナダだ。メキシコではマイクラの製造が行われており、カナダではマイクラが最も安価な車だ。

けれど、奇妙なことにカナダとメキシコの間のここ、アメリカでは販売されていない。別にこの車が禁断の果実だとか、そんなことはないのに。数カ月前に我々はAutoweekの読者に対してマイクラについてのアンケートを行った。結果、77%の読者が安価なマイクラに興味を持っているようだった。

ここで、少し検討をしてみよう。

マイクラには2014年に米国で販売中止となったキューブ同様、日産のコンパクトカーらしい異様さがある。全体的な形は帽子のようで、頬が強調されたような顔はまるでコストコから帰ってきたリスのようだ。三角形のヘッドランプはギョロ目っぽく、同時に藪睨みっぽくもある。それに、V字型のグリルは漫画的に怒ったイメージを与え、まるで弱い者ほど吠えるという言葉を体現しているようだ。また、ルーフラインは丸いが、リアウインドウのあたりでは切り立っており、そこには怒ったリスの尻尾のようにリアスポイラーが鎮座している。

屋根には、シトロエンのダブル・シェブロンやスタートレックのロゴのような2重の円弧状のプレスラインが入っている。なぜだかは分からないが。ただ、これはバルコニーから街行くマイクラを凝視でもしない限り気付くことはないだろう。また、パーソナライゼーションパックをつけると、ドアミラーとドアハンドルがパープル塗装となる。日産カナダでは「カスピアンシー」という暗い青緑色のボディカラーともこのパックを組み合わせることができるが、きっとゴッホの色覚異常を酷くしたような絵のようになることだろう。

マイクラに乗り込むと、ダッシュボードのデザインはヴァーサ(日本名: ラティオ)に似ている。下の方に配置されたダイヤルやステアリングのデザイン、それにフープイヤリングのような形のドアの取っ手も共通だ。内装は昔の日産 エクステラのキャッチフレーズを思い出させる。「必要な物は全部ある。いらないものは何もない。」ラジオも、上級グレードの「SR」にしか装備されない。室内空間は十分にある。

乗り心地は驚くほどスムーズで振動も少ないが、その一方でロールやノーズダイブはかなりある。三菱 ミラージュを思い出させる乗り味だ。また、軽量ではあるが貧弱ではない。111PSを発揮する1.6Lエンジンは勇ましく、このエンジンには4速ATが組み合わせられており、まともな加速をしてくれる。まあ、騒音はまともとはいえないが。4,000rpmを超えるとエンジン音は大きく増す。ただ、農耕用エンジンのようなミラージュの3気筒よりはスムーズだ。また、ミラージュと違って「本物の車」といえる。

今回の試乗車は上級グレードの「SR」というグレードで、パワーウインドウやバックカメラ、スタイリッシュなツートンホイール、フォグランプが装備されている。マイクラSRに乗るためには、15,748カナダドル払う必要がある。けれど、もしエアコンや電動のあらゆる装備がなくてもいいのならば、下級グレードの「S」は9,998ドルで購入できる。アメリカでも、非常につまらない車であるところのヴァーサセダン(日本名: ラティオ)が同じような売り方をされているが、2,000ドル高く、さらに上級グレードともなると16,490ドルまで跳ね上がる。これは相対的に高く思えてしまう。ただ、どっちにしろ、都心部の駐車料金が2ドルと聞いてお得だと思ったら、それが実は30秒間の駐車料金だった、みたいな商法だ。

現在、ガソリン価格はそれなりに安定してきているが、ガソリン価格と安い車を買いたいと思う消費者の願いはバタフライ効果のように関連している。もしドバイの誰かがくしゃみをすれば、オハイオ州の誰かは愛車をシボレー・サバーバンから安いシボレー・ソニックに変える。結局、値段やサイズが強調された車がアメリカで発売されるということが、アメリカ人達の集団心理による購買意欲に関わってくるのだろう。

けれど。標準的なグレードが12,000ドル程度という価格を考えれば、マイクラはアメリカでそれなりに成功することだろう。ミラージュほど酷い車では決してないし、ヴァーサよりは楽しいし、シボレー・スパークくらいの面白さはある。ミレニアル世代はこの車を気に入ることだろう(それに、マーケティングさえしっかりやれば誰もが気に入るのではないだろうか)。日産の製品プランナーに私はこう言うべきだろう。トヨタがサイオン iQ(日本名: トヨタ iQ)を真面目な顔をして販売しているのと同じように、日産もマイクラを売ればいいのではないか、と。

小さすぎる? 異様すぎる? かつてキューブを売った会社ならば、売ってみてから判断してほしいものだ。


Micra-nesia: could the smallest Nissan find success in America?