イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、トヨタ・ランドクルーザーのレビューです。


Land Cruiser V8

中流階級には想像するまでもないかもしれないが、イギリスのありふれた学校の迎えの風景を想像してみよう。全員が同じ服、同じ髪型、同じ眼鏡で、そしてもちろん車も同じだ。そう、ボルボ・XC90だ。そんな中で目立つために、私は陰毛のような髪を生やし、校門の外でタバコを吸い、酷い眼鏡をかけた。それでも私の車は皆と同じXC90だ。これは私のサードカーで、XC90を持っているのにはちゃんとした理由がある。

子供を1人売り飛ばしでもしない限り、他に選択肢がないのだ。子供がいれば友達だっているだろうし、大型のボルボでしか対応できなくなってしまう。なぜなら、7人乗りのミニバンと違って、XC90には母親の車っぽさがなく、周囲に人生を諦めた人間だと思われることもない。それに、ランドローバー・ディスカバリーと違ってちゃんと荷室があるし、幼い子供を乗せている時にはリアシートを倒すこともできるし、なによりドライバーが殺人犯になる必要もない。

XC90は風呂の栓くらい常識的なデザインだ。ただ、あまり良くない部分も多く、私を悩ませている。ディーゼルエンジンはロシアのトロール船の一等航海士からしても粗くて使えないものだし、カーナビは走った場所がどこだったかを教えるだけだ。それに、ウォーレン・ベイティよりも早くゴムを使い果たしてしまい、以前は8,000kmでタイヤが寿命を迎えた。8,000kmというのは学校の送り迎えの道の話で、シルバーストーンサーキットを8,000km走ったわけではない。

こういうわけで、私はXC90の代わりとなる車を探しており、その一環として先週、4.5L V8のディーゼルエンジンを搭載する巨大なトヨタ・ランドクルーザーV8を試乗した。正直に言うと、この車には少し問題があった。例を挙げてみよう。

低速ではペダルから酷い振動が伝わってくるし、ステアリングからは車がどの方向に向かっているのかという感覚が全く伝わってこないし、エンジンは壊滅的に垢抜けていないし、駐車するにはアイオワ州ほどのスペースが必要だし、シフトレバーはアン・ウィディカムくらい強情だし、ダッシュボードのフェイクウッドはちゃちすぎてむしろ可笑しいくらいだし、ドライビングポジションは変だし、操作系の位置もおかしいし、快適じゃないし、リアシートは床下に折りたためないし、F-15戦闘機くらい燃料を食うし、道路税は1年目で1,000ポンド近くなるし、あまり速くもないし、見た目の酷さはデザイナーが見たら恥ずかしくて死んでしまうレベルだ。

もちろん、こういった欠点も補って余りある良さがこの車にあると考える人もいるだろう。なぜなら、ランドクルーザーという車はボルボがボロボロに砕け散ったとしても走り続けるような、堅牢で実際的な車なのだから。しかし、これは今でも事実といえるだろうか。

かつて、ランドローバーは厳しい環境の多いオーストラリアで97%のシェアがあった。そして、ランドクルーザーが登場し、車は小さな石に乗り上げただけでは壊れないということを示したところ、そのシェアはたったの2%まで落ち込んだ。

トヨタの名を世界中に知らしめたのはランドクルーザーの功績だ。そしてトヨタは、新しいランドクルーザーも世界中の平和維持活動や鉱業、テロリズム、奥地農業において、そしてイギリスの学校の送迎車として、トップに立つことを望んでいることだろう。

これがトヨタが1,500人体制でこの車の設計を行った理由だ。また、トヨタはこの車の構造をシンプルにすることに心血を注いだ。現代の大部分の車とは違い、ランドクルーザーはモノコック構造をとっていない。シャシとボディは別個のユニットとなっており、トヨタいわくこれにはれっきとした理由があるという。カザフスタンには車を修理するための精密な機械がなく、ハンマーくらいしかないのだ。そして、同じ理由により、電動パーキングブレーキや電子制御エアサスペンションも装備されず、ヘッドランプにはコンベンショナルなタイプのものが採用され、足回りはコイルスプリングに調節式の油圧ショックアブソーバーが組み合わされている。

内装に関しても同様で、蹄でも操作できるように操作系は大きなボタンやレバーとなっており、川の水で汚れてもいいようにビニール素材が大量に使われている。この車のメッセージは明らかだ。この車は働くために造られている。この車は、利便性のための信頼性ではなく、生死に関わる信頼性を求める人達のための機械だ。12月にオーストラリアの牧草地で車が壊れたとしても、ロードサービスなど来ない。ただ、灼熱の太陽にやられ、ディンゴの餌食になるだけだ。

「シンプル・イズ・ベスト」という方針に賛同し、燃費の悪さや走行性能の悪さ、パワーの無さ、乗り心地の悪さ、騒音、そして酷いデザインの全てを我慢しようという人もいるだろう。なぜなら、これはV8エンジンを積んだウェリントン・ブーツなのだから。しかし、この車によりカザフスタン人は幸せになれるだろうか。あるいは、お金を節約できるだろうか。

というのも、もしトヨタが修理しやすいようにランドクルーザーにエアサスペンションを採用しなかったのならば、なぜ電子制御式液封エンジンマウントやソレノイド式コモンレール噴射システムを採用したのだろうか。これはハンマー台の上で直せるような代物ではないのに。

英国仕様車にはもっと色々なものが付いている。シートヒーターやリアビューカメラ、それにクロールコントロールとかいうオフロードで低速を維持しながら一定速度(3段階の設定が可能)で走行するシステムなどが装備されている。言ってしまえば、この車はダイヤモンドで覆われたシャベルだ。これは一見して魅力的に見えないこともない――シャベル自体が良いものならば。ただ、最近ではもう、シャベル自体が良いものだとは思えなくなってきた。

かつて私は、トヨタの信頼性に太鼓判を押していた。ただ、最近では、市場の波に押され、トヨタの信念というものが崩れ始めているのではないかと危惧している。例えば、昔のトヨタ・ハイラックスには2つの電気システムと2つのバッテリーが搭載されていた。ところが、今のモデルには、コスト削減のためなのだろうが、1つしかない。

それだけではない。私は最近ロケでトヨタのオフローダーに乗って北極に行ったのだが、一見したところその車は大きなタイヤと大型燃料タンクを取り付けただけの市販モデルに見えた。ところが実際はそうではなかった。改造を担当したアイスランド人はトラニオンを300%強化した。彼らいわく、トヨタの標準部品では強度が足りないらしい。ちょっと前まではランドクルーザーをショールームからそのまま氷河まで走らせることもできたのだが、今ではそれが不可能になってしまったそうだ。

簡単に言えば、もしこの現行ランドクルーザーを海に浮かべ、火を付け、高層ビルから突き落とせば、この車は動かなくなってしまうだろう。大金を賭けてもいい。つまり、今回の結論は、酷く、醜く、不快なこの車は、結局シンプルな車ではなく、同時に名声通りのタフな車でもないだろう。そういうわけで、中流階級の均一性に嫌気が差していたところで、私はボルボにこだわり続ける。そして、私以外も皆そうなのだ。


The Clarkson review: Toyota Land Cruiser V8 (2010)