ダチア・サンデロといえば英国の人気自動車番組「Top Gear」でネタにされていた車としても有名ですが、今回はTop Gearの"元"司会者であるジェレミー・クラークソンが英国「Driving.co.uk」に寄稿したダチア・サンデロの試乗レポートを日本語で紹介します。


Sandero

奇妙なことがある。現存する自動車メーカーの数は30年前よりもかなり少ない。ところが、車を買うときに考えることは増えている。なぜなら、30年前には車を選ぶ際に1つのことしか重視されなかったからだ。それはナンバープレートの最初の文字だ。これのお陰で、近所の人に新車を買ったということを伝えることができた。

ナンバープレートの文字で年式を表現するという手法は1963年に始まった。しかしそれからすぐに自動車メーカーはこれに大きな問題があるということに気付いた。文字の示す年式は1月1日に変わるため、誰もが元日に車を欲しがった。結果、自動車のセールスマンは1年のうちで11ヶ月間は花瓶の埃をはらうくらいしかすることがなく、クリスマス休暇頃になると狂った蟻のように働かなければならなかった。自動車工場での労働環境も同様に大変で、かつては七面鳥産業にしか見られなかったような混乱を生み出した。

このため、1967年にはナンバーの文字の変更日が8月1日に変わった。この年にはピークは2回に分散されると予想された。1つが例年通りの1月1日で、そしてもう1つがその年の8月1日だ。しかしそううまくはいかなかった。これにより大きな混乱が引き起こされた。

かつて、ナンバーの文字が何よりも重要だった。その文字はオーナーが成功者であることを意味していた。人生がうまくいっていることを意味していた。その文字はとても重要だった。新しい車だということさえ伝えられれば、車種なんて誰も気にしなかった。そしてこの風潮を手伝ったのは、皮肉なことに鉄のカーテンの向こう側の人々だった。

ソ連圏で作られた車は安かった。よってこれを買うことがナンバープレートに新しい文字を入れる最も簡単な方法だった。人々はナンバープレートのHの文字を見て隣人が新車を買ったことに気付いても、誰もその車がモスクヴィッチだということには気付かなかった。モスクヴィッチは本物の車ではない。車に似せられた銑鉄の塊だ。

FSO・ポロネーズもそうだ。この車はポーランドで何も気にしない人により作られ、重い上に隙間だらけの鉄でできており、あまりに酷かった。ステアリングはセメントを介して前輪に繋がっており、アクセルを踏めば、まるでトランクの中の肥満の汗っかきな男に信号が伝わり、その男が嫌々ながらに火に石炭をくべているかのように感じられた。これでようやく1km/hだけ加速できた。

ブレーキはどうかといえば、確かに付いていた。しかしこれはまるで荷物を乗せすぎた手押しの一輪車を急な泥道の下り坂で止めるようなものだった。どちらにしてもまともには走らなかった。にもかかわらず、格安でナンバーにVの文字を入れられたため、FSOは飛ぶように売れた。

続いて登場したのがラーダ・リーヴァだ。これは『ベン・ハー』がまだ人気絶頂の頃に設計されたフィアットをベースとしている。私の言っているベン・ハーはチャールトン・ヘストンのベン・ハーではなく、本当のベン・ハーのことだ。そして意匠権がラーダに売却され、何の改善もされなかった。なぜなら、本国では30年分の予約が入っていたし、ライバルもいなかったし、イギリスではナンバープレートのためだけに多くの人がその車を欲しがっていた。

ただし、ラーダはロシアの道に合わせて設計しており、頑丈になっていると主張していた。しかしそれも嘘だった。実際はイタリアの道路に合わせて設計されており、紙製の衝突防護機構が備わっていた。屋根を支えるピラーの強度はストローほどであり、事故をして車が横転しようものなら頭が心臓にのめり込んだ。

一方のシュコダは、喜ばしいことに、車の設計に変化を加えようとした。しかしシュコダは物差しを持っていなかったため、しばしば失敗に終わった。ところで、私の言う「しばしば」は「いつも」と同義だ。

リアエンジンの車に変わったリアサスペンションが装着されたため、どんなスピードでコーナーを曲がっても車はスピンして木にぶつかり、火の海の中で叫びながら死ぬことになる。

もちろん、ナンバープレートに使える新しい文字が尽きる日がいずれ来るのは言うまでもなく、そのため現在のシステムが誕生した。現在でもナンバープレートから車の年式を算出することはできるが、それができるのは象の大きさの脳を持った人だけだ。

冷戦が終わり、ベルリンの壁が崩壊したのはロナルド・レーガンの提案したスター・ウォーズ計画のおかげだと言う人もいる。あるいは、チェルノブイリ事故によりミハイル・ゴルバチョフがマーガレット・サッチャーと会談を行うことになったためだと考える人もいる。しかし実際の理由はナンバープレートの変化だ。ただ安いだけの車の需要がなくなったからだ。

非常に長い前置きとなったが、これがダチア・サンデロの話にようやく繋がる。価格は5,995ポンドからと、一見して非常にお買い得そうに思える。この車はガーナと同じくらい自動車産業の歴史の浅いルーマニアで作られているが、ベースとなっているのは先々代のルノー・クリオ(日本名: ルーテシア)だ。つまり、この車は2007年のルノーをベースとし、23km/L以上の燃費性能を実現した格安車だ。

名前にはちょっとした問題がある。スペルはDaciaであり、英語的に発音するとデイシャだが、公式な発音は"ダーチャ"とされている。ダーチャとはロシアの屋敷のことだ。しかしわざわざルーマニアの発音をするなど馬鹿げている。

では車自体はどうだろうか。欠点はあるかって?ある。それもたくさん。エクステリアは今まで車を見たことがない人が設計したようなデザインだ。それに少しスパルタンで、リアシートには少し閉塞感があり、ストレートでは少し遅く、コーナーでは少しずんぐりむっくりしている。またライバル車と比べると二酸化炭素の排出量がかなり多く、税額が増えてしまう。

かつては6,000ポンドで新車が買えるという事実さえあればよかったのでこんなことは問題にもならなかった。しかし今ではナンバープレートの文字が示すところなど誰も理解できない。

よってサンデロを車として批評する必要が出てくる。ただ、5,995ポンドもあればDriving.co.ukでよっぽどましな中古車を探すことができる。今では安い新車を買う意味がほとんどなくなってきている。今では新車かどうかなどほとんど区別できなくなっているため、広大な中古車の世界に足を踏み入れるべきだろう。


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