イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英国「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを紹介します。

今回紹介するのは、シボレー・コルベットZ06のレビューです。


Z06

ここ数週間、電話でカリフォルニアの人と話す機会が多かったのだが、なかなか楽しかった。アメリカ人と話すのは、子供に動物園に行く話をするようなものだ。イギリス人と話すときのように、皮肉や自己非難、それに分かりづらい機微があるわけではない。単純な熱意のジェットコースターだ。

シボレーがコルベットZ06のオンライン広告用に作った宣伝文句にも全く同じことが言える。そこには「ワールドクラススーパーカー」、そして「デザインとエンジニアリングの勝利」と書かれている。また、コルベットZ06のチーフエンジニアであるタッジ・ジェクターの言葉も添えられている。「空力的なダウンフォース性能は素晴らしく、これまでテストしたどんな市販車とも違っている。」

ヨーロッパでは、このようなことは嘲笑される。我々がこれを読めば、車を設計した人間がその車を悪くは言わないだろうと思うことだろう。一方、アメリカ人はこの広告を読んで、「おお、新型Z06の空力的ダンフォース性能は素晴らしく、これまでシボレーがテストしたどんな市販車とも違っているのか」と考える。

他にもある。シボレーは我々に、Z06の立ち位置は「ル・マンとアウトバーンの交差点」だと説明した。私にとって、ル・マンとアウトバーンの交差点はフランス トロワ南東部のバル・シュル・セーヌの村だ。ただ、Z06はそんな場所にはなかった。Z06がいたのはハンプシャーのスラクストンサーキットのピットであり、その日は5月はじめの非常に風が強くて肌寒い日だった。

イギリスのB級サーキットほど憂鬱な場所はない。そこには、カビの生えたような掘っ立て小屋があり、板の打ち付けられたバーガーバンが停めてあった。そんな中にあったのが、エッグイエローの子供のおもちゃ、コルベットだった。殺風景な部屋に付けられた明るいカーテンのように、この車はその場の雰囲気を盛り上げていた。

まず始めに言っておくが、私は新型コルベットが大好きだ。以前にスティングレイコンバーチブルについて、見た目が良く、速く、コーナリング上手でコストパフォーマンスも素晴らしいと書いた。シボレーというブランドの屑鉄のようなイメージや、左ハンドルしかないという点は好き嫌いが別れるところだと思うが、それでも私は新型コルベットがとても欲しい。

今回紹介するコルベットの最新モデル、Z06は、ル・マンとアウトバーンの交差点にあり、空力的ダンフォース性能は素晴らしく、これまでのどんな市販車にも勝る。なら、私はこの車を買うべきだろうか。

6.2L V8エンジンにはスーパーチャージャーが追加されており、大迫力の唸り声を上げる。そして、最高出力は659PS、最大トルクは89.9kgf·mを発揮する。これにより、ドラッグレースではポルシェ・911ターボと同一のパフォーマンスを発揮する。これは、私が自分で実証した。

昔ならばこれで十分だった。アメリカ人たちはこの車の直線スピードだけを見て購入し、ひとしきり大喜びした後に車を売り払った。しかし今では、ケンタッキーでもそれほど短絡的に車は売れない。そのため、コルベットはカーボンファイバーのボンネットを採用して重心を低くし、チタン製のインテークバルブやコンポジットフロアパネルを採用し、カーボンセラミックブレーキもオプションで設定した。

そして、センターコンソールにはダイヤルが追加され、これを回せば比較的穏やかなロードカーを絶叫するサーキットモンスターへと変貌させる。私の言う絶叫とは、怒号を意味する。いや、怒号という表現でも表現しきれない。Z06をサーキットで全力でスタートさせれば、センターマウントの4本出しテールパイプからの排気音は耳に痛いくらいだ。ハリアーという戦闘機のホバリング音を聞いたことがあるだろうか。その音に近い。

かつて、私はミシシッピ州のステニスという場所で行われた、NASAによる3700万馬力超のスペースシャトルのエンジンのテストを見に行ったことがある。最初は耳栓などいらないだろうと思ったのだが、結局は必要になった。その音は本当に物凄く、酷い経験だった。にもかかわらず、それはコルベットほどはうるさくなかった。コルベットの音は実体を持った音だ。その音で人が殺せたとしても驚きはしないだろう。

言うまでもなく、車内はその音源から数メートル以内なのだが、そんなことよりも心に留めておくべきことがある。「きっとすぐにクラッシュするだろう」ということだ。運転席に乗っていると何が問題なのか分からなかったのだが、家に帰って風呂の中でじっくり考えて思い至った。シボレーはチタンなんとかやらセラミックなんたらをカタログ映えするというだけの理由で付けた。あるいは、ゴルフ場や射撃場でオーナーが他の人に自慢するためだけに付けた。しかし、それのおかげで車が運転しやすくなると思ってはいけない。なぜなら、実際に運転しやすくなどないからだ。

この車は凶悪だ。コーナーを曲がれば、かなりはっきりとしたアンダーステアが現れる。それに対処するために緩めにアクセルを踏んでも、トルクがありすぎるためにリアタイヤが完全に滑り出してしまう。

結果、横に走り始め、ここで問題が生じる。アメリカ人はレーシングカーにはクイックなステアリングが必要だという話を聞いておかしくなってしまい、PlayStationのような超神経質なステアリングをZ06に与えた。それに、セミスリックタイヤもだ。そのため、ちょっとでもステアリングを動かせばスピンしてしまう。

次のラップでは学習してグリップを失わないようにするのだが、ステアリングはあまりに神経質で、パワーが有り余りすぎているために、ほとんど制御することはできない。唯一の解決策は本当に物凄くゆっくり運転することだけだ。

言わせて欲しいことがある。この車がル・マンとアウトバーンの交差点にあり、チタンやカーボンファイバー製の部品にはマーケティング以上の意味があるとしたら、どうしてこの車にはマニュアルか試乗車のような使えないオートマチックしか設定されていないのだろうか。どうして電光石火のパドルシフトがないのだろうか。

結局はそういうことだ。この車はカタログ映えするためだけに作られている。スペックや部品は素晴らしいのだが、その実力はヨーロッパでは勝負にならない。この車はどんな車よりも速いかもしれないし、テキサス州くらいの広さのある、衝突する物のない場所で走らせれば、並外れた横Gを発生するかもしれない。しかし、この車は走りが良いわけではない。

結局、本物の車が欲しいなら、シェイクスピアやモネ、エマーソン・レイク・アンド・パーマーを生み出した大陸の車を買うべきだ。ヨーロッパは本物を作ることができる。ヨーロッパは実質的だ。ヨーロッパの仕事は素晴らしい。一方、アメリカはディズニー的だ。結局、Z06とは、ディズニーがアフリカの内戦のドキュメンタリーを作ったような車だ。

普通に考えて、まともなはずがない。


The Clarkson review: Chevrolet Corvette Z06 (2015)