イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ポルシェ・911カレラ4 GTSのレビューです。


Carrera 4 GTS

私の知り合いのある自動車評論家が以前、ポルシェ・911には154種類のオプションが存在し、結果9兆6000億通りの組み合わせがあると書いていた。つまり、地球上の人間1人につき、およそ1,371種類の911が用意されているらしい。

しかし、それは間違っている。実際にはそれ以上ある。オプションは一端に過ぎない。オプションを選ぶ前に、まずは911の種類を選ばなければならない。しかもその種類は多い。993も、997も、991もある。2WDもあれば、もっとパワーのある2WDもあるし、クーペもあればタルガトップもコンバーチブルもある。そして4WDにも全く同じバリエーションがある。あるいは、GT3もあるし、GT3 RSもある。それに、4WDにも2WDにもターボがあり、同じようにルーフも選択できる。

これは頭がおかしい。見た目は全部全く同じだし、エンジンも基本的には同じだし、運転しているのは総じてペニスがほとんど使い物にならなくなっているような人間だ。

人生で何百回と言ったか知れないが、何億とあるモデルのどれをとっても、私は911のことなどまったく好きではない。私の911に対する偏見は、1990年代はじめに形作られた。

当時、911は豚だった。コーナーを曲がればアンダーステアが生じ、車の挙動が読めずにアクセルを離せばオーバーステアを生じた。このため、私はシートベルトを外してリアシートに逃げ込み、どこかにぶつかって止まるまで縮こまっているしかなかった。

何より私を悩ませたのは、次のラップでまったく同じスピードで、まったく同じように運転しても、車の反応は全く違うものになったという点だ。

ベテランの自動車評論家に聞くところによると、この車は車の挙動を完全に把握している人に向けられており、ステアリングやスロットルの特性がシビアすぎるために車の反応が変わってしまうのだという。言うまでもなく、それ以降私はコーナーを曲がる練習を何度も行い、今や911が私を恐怖に陥れることはなくなった。私は911の悪癖を克服し、うまく扱えるようになった。

しかし、911好きが腹立たしい言い方で言うところによると、私が911を扱えるようになったのはもはや911に悪癖など存在せず、大人しくなったからだという。かつて後部に搭載されており、極限状況下では振り子の役目を果たしていたエンジンは前方に移動し、また空冷式から水冷式に変更されている。それに、ステアリングは油圧式から電動式に変更されている。結局、今の911は「巨大な子猫」だ。911好きのおたくの世界では、これは世界の終焉を意味する。

しかし、我々のような一般人にとっては違った意味を持つ。ポルシェ・911にはモータースポーツの一端があり、それに、価格はフェラーリよりも安く、フェラーリのような演出過剰もない。

しかし、ではどのモデルを選べばいいのだろうか。ポルシェはその疑問をさらに難問とすべく、GTSという新モデルを投入した。これはカレラSとGT3の中間に位置するモデルだ。なるほど。ただ、そもそもカレラSとGTSに本当に違いがあるのかすら分からないのだが、GTSはその隙間に入り込むようだ。

考え方は単純だ。カレラSよりも馬力が大きく、ボディはワイドで、一方GT3ほどは本格的ではなく、GT3よりも安い。コストパフォーマンスは高い。というのも、ポルシェにしては珍しく、GTSは装備が充実している。

もし、私が911を買うとしたら、きっと2WDのGTSを購入することだろう。それが最高の選択肢のように思う。ただ、残念ながら、私が試乗したのは同じGTSでも4WDモデルだった。

4WDモデルは後輪駆動モデルと比べればピュアではないのは知っているが、ラッシュアワーにロンドンからラグビータウンに向けてこの車に乗って出発するときにはそんなことは気にもならなかった。むしろ、ノーサンプトンを過ぎて雪が降り始めたため、4WDであることに感謝さえした。

それ以外にも感謝することがあった。どんな車にもクルージング速度というものがある。そのスピードで高速道路を走れば落ち着いて運転以外の他のことを考えていられる速度だ。これには、乗り心地や騒音、トランスミッションが関連している。ミニだと180km/hまで出さないと怖さを感じることはなく、結果的にオービスに捕まって免許を失うことになる。

しかし、GTSでは95km/hだ。私にはその理由が何かは分からないが、おそらくはアクセルに原因があるのだと思う。ペダルのスプリングが非常に強く、スピードを少しでも強めようとすれば、意識的に足に力を入れなければならない。これは細かいことだが、ぼーっとしながら運転していてもパクられることがないという点では非常に重要だ。

率直に言おう。これは素晴らしい車だ。この車は速いながらも冷静だ。それはスポーツプラスモードでも変わらない。これは快適性を損ない、騒音を増し、燃費を悪化させるモードだ。そして、このモードだけを使うのが最高だ。

装備が足りないということもない。ナビは他の車と同じくらいには使えるし、発生しているGフォースや目的地への到着時間など、あらゆる情報を教えてくれるコンピューターも付いている。この車はドイツ車だ。まともなのは当然だ。

そしてドライビングポジションも良い。実のところ、パドルシフトも良い。唯一の問題は、この車が速さや合理性、快適性、静粛性を同時に実現するだけの高い能力を持っているにもかかわらず、この車のことが好きになれないという点だ。まったくもって欲しいとは思えないのだ。

『AUTOCAR』という雑誌があるが、我々Top Gearの人間からしたら可笑しくてたまらない。というのも、この雑誌の編集者は常に大まじめに車を運転しているからだ。我々がアルプスのヘアピンカーブでランボルギーニに乗ってパワースライドをして学生のようにはしゃぎまわっている(3人のうち1人は例外だが)一方で、AUTOCARの連中は常に会議中のような顔をしている。

そして、それこそがポルシェを運転している時の顔だ。ポルシェに乗って「ワオ!」とは決して思わない。この車は―なんと表現するべきか。科学的だ。とはいえ、もし911が欲しいなら、GTSを買うべきだろう。


The Clarkson review: Porsche 911 Carrera 4 GTS