イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIのレビューです。


Golf GTI

現在販売されている車の中には素晴らしい車がたくさんある。フェラーリ・458イタリア、マクラーレン・12Cスパイダー、ベントレー・コンチネンタルGT V8、メルセデス・SLS AMG、レクサス・LFA、アストンマーティン・ヴァンキッシュ、BMW M6グランクーペ…。どれも速く、スタイリッシュで個性もあり、どれを所有しても幸せになれることだろう。いや、どうだろうか。派手な車を乗り回すのは、まるで裸で歩き回るようなものだ。常に人に見られる。それはあまり気分の良いものではない。

外出するたび、車を停めて写真を撮らせてくれないかと頼まれる。カメラ付き携帯電話をいじりながら、彼らは決まってこう言うのだ。「ホッケーの試合を控えた娘に見せてやりたいんだ。」

娘のホッケーの試合の話やら、娘のボーイフレンドがBMW M3に乗っている話やらを数分間聞かされ、ようやく携帯のカメラ機能を起動させ、その人はそばを歩いていた人に私とのツーショット写真を撮ってくれるように頼む。しかしその通行人は写真の撮り方など分からず、結局は自分の鼻の写真を撮るだけに終わってしまう。あるいは、電源を切ってしまう。そんなことをしているうちに、また別の人間が来てこう言うのだ。「息子のために是非写真を撮らせてくれないか。撮らなければ怒られてしまう。」

「だったら私に会ったことなど息子に話さなければいいではないか」と言いたくなる気持ちを抑え、写真を撮ることを了承するのだが、彼は写真家気取りのようで、逆光気味だからと移動するように頼んでくる。そして結局、本来なら2分で済むようなちょっとした買い物が2時間の撮影会に変わってしまう。

もちろん、これは私がテレビに出演しているゆえの副産物だ。しかし、路上でこんなことが起こると、時に非常に危険だ。中には、突然ブレーキを掛け、進路を変えて3車線も横切って私の写真を撮ろうとする人さえいる。かつて、私の姿をビデオ撮影することに夢中になり、前の車に追突してしまったミニ乗りの男がいた。しかも傑作なことに、その追突された車に乗っていたのはゴリラのような屈強そうな男だった。

いずれ、誰かが死ぬことになるのではないかと恐れ、次の愛車は目立たない車にしようかと考えている。ただ、問題なのは、私が望むようなスピードや楽しさを持っている車は、どれも「私を見ろ!」というデザインも併せ持っている。唯一の例外を除いて。それが、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIだ。

本来、私は読者のために車の批評をするべきなのだが、今回は申し訳ないが自分のための批評とさせて欲しい。なにより、新型GTIは私の求めるものを全て持っているように思えるのだ。

37年前、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIが登場した当時、この車は万人向けの車だった。当時、この車を買うために節約した主婦がいた。この車を買うためにゴードン・キーブルを下取りに出した人もいた。ゴルフGTIはあらゆる人に愛された。この車は5人を乗せることができた。リアシートを畳むこともでき、広い荷室も付いていた。普通のゴルフと修理代の変わらないボディパネルを持ちながら、109PSのエンジンのおかげで当時走っていたどのスポーツカーよりも速くて楽しかった。

2代目ゴルフGTIも同じくらいに良い車だったのだが、その頃にはこの車から麻薬が抜けてきた。フォルクスワーゲンは、ただ面白いからという理由ではなく、義務感によってゴルフGTIを作るようになったのではないかと思えるようになった。しかし、フォルクスワーゲンは7代目ゴルフGTIの開発にポルシェ・911 GT3 RSを手がけた男を引き入れた。聞くところによると、初代の不思議な魔力が戻ってきたそうだ。

エンジンは最高出力220PSを発揮する2.0Lターボだ。また、980ポンド追加で支払うことでパフォーマンスパックを選択することができ、こちらは最高出力が230PSまで上昇する。今回私はパフォーマンスパックに試乗したのだが、少し試乗してこの車が現実世界に存在するあらゆるものに追い付くことのできる車であることが分かった。

しかも静かだ。GTIにはやかましさがない。ドラマがない。愉快な排気音がない。アクセルを踏み込む。追い越しが終わる。コーナーを走る。電子制御フロントデフのおかげでアンダーステアは存在せず、ステアリングの挙動も完璧だ。そして、コーナーを脱出する。これは速く走るために作られたマシンだ。まさにドイツ車だ。

それだけではない。価格は先代モデルよりもわずか195ポンド高いだけだが、カメラ方式のエマージェンシーブレーキシステムのおかげで保険料が安くなる。それに、240km/hを出せる車としては非常に燃費がいい。

つまり、この車に存在するのは数多の純粋な常識だ。2つの例外を除いて。1つ目に、オプションの19インチホイールをサンルーフと一緒に注文することはできない。理由は分からない。そして2つ目に、この車にはコンフォート、ノーマル、スポーツという3つのモードがあり、フロントディファレンシャルやサスペンション、トランスミッション、ステアリングのセッティングが変えられる。なので実際に試してみた。この車でTop Gearテストトラックへと赴き、ノーマルモードにしてからスティグにラップを頼んだ。1分29秒6だった。続いてスポーツモードにしてもう1ラップしてもらったところ、1分29秒6を記録した。そしてコンフォートモードにしてさらにもう1ラップしてもらったところ、今度は1分29秒5を記録した。

サスペンションやトランスミッションのセッティングは多くの車で変更することができるが、こと車の速さに関して言えば何も変化させないと感じている。実際、スポーツモードは乗り心地を悪くするだけで何の意義もない。ノーマルモードでは素晴らしい。ラップタイムが示す通り、ノーマルモードにもスポーティーさはある。しかし、コンフォートモードは別格だ。これは最高だ。

内装はドイツ製の下着入れくらい合理的で、10年経っても何かがへたったり壊れたりすることはないだろう。ただ、ラジオは例外で、2日で壊れてしまった。それからリアウインドウまわりのパーツも例外で、こちらは外れ落ちてしまった。とはいえ、私が試乗したのは量産前のプロトタイプモデルであることも考慮に入れなければならない。それに、この欠陥を引き起こした人間は量販ラインが流れ始める前に撃ち殺されることだろう。

しかし、何より嬉しかったのは、この車を運転していて写真を撮られることが一度もなかったことだ。この車は、物理学の教科書を無視し、100km/hまで6秒ちょっとで加速し、モノスキーヤーのごとくコーナーを曲がり、ぐっすり眠るときと同じくらいに快適だった。にもかかわらず、誰もこの車を二度見しなかった。

唯一、問題に思えたのはパドルシフト変速のデュアルクラッチトランスミッションだった。赤信号からの発進加速をスムーズに行うことはできなかったし、4日もこの車に乗っているとイライラしてきた。7日目にはあまりに頭に来て鼻が痒くなってきた。そしてその時、ようやくオートホールドボタンを見つけた。

この機能は坂道で停車した際に車が後退するのを防ぐためのもので(このトランスミッションには通常のATにあるようなクリープはない)、車が停車する度にブレーキをかける。アクセルを踏むとブレーキは再びオフになるのだが、すぐにではない。それゆえ、ずっとギクシャクしていたのだ。

それをオフにすると問題は一切なくなった。素晴らしい。私にとって、この車は完璧だ。それどころか、どんな人にとっても完璧な車だ。


The Clarkson review: Volkswagen Golf GTI (2013)