新型シビックタイプRの欧州での発売は今夏に予定されていますが、新型シビックタイプRの試乗を世界に先駆けて英国「Top Gear」が行っています。

今回は、「Top Gear」によるシビックタイプRの試乗レポートを日本語で紹介します。

Auto ExpressによるシビックタイプRの試乗記はこちら


Civic Type R

どんな車なのだろうか。
新型シビック タイプRは最高出力310PSを発揮するハードコアなジャパニーズハッチバックだ。前輪駆動、6速MT、正統派機械式LSD、最高のトランスミッション、身体を締め付けるシート、高回転型エンジンがシビックタイプRという車を構成している。


―高回転型エンジン…?
新型シビックタイプRのエンジンを高回転型と表現するのは正確性に欠けるかもしれない。確かに新型に搭載されるターボエンジンのレブリミットは7,000rpmだが、その回転数に至るためにはやかましいエンジン音を聞かなければならず、実際には2速、3速と手早く変速する必要がある。


自然吸気の従来のVTECに比肩するエンジンだろうか。
それについて考える前に、まず標準モデルのシビックから変更されている点を見てみよう。

ホンダという会社の技術に対するこだわりの強さは周知の事実だが、実際、タイプRはボディ自体から大幅に変更を加えている。ボディに鋼板を追加するということはせず、細かな部品の設計自体を変更し、接着剤の使用域を最適化したことで、剛性を18%向上している。

事実、シビックタイプRはほとんど一から再設計されたようなモデルであり、普通のハッチバックにこれだけの手間をかけてホットハッチを作り上げることは珍しいことだ。


サスペンションは?
数年前、ホットハッチの間ではキングピンオフセットを下げることが流行した。フォード・フォーカスRSやヴォクスホール・アストラVXR、それにルノースポール・メガーヌといったホットハッチは、トルクステアを減弱させるため、コーナリング中の前輪のキャンバー変動を可能な限り抑えるように設計された。

この機構としては、ヴォクスホールではHiPerStrut、フォードではレボナックル、ルノーではPerfoHubというものがそれぞれ採用されていた。そしてこのホンダ版がデュアルアクシスストラットフロントサスペンション、DASFSだ。長ったらしい名前ではあるが、実力はありそうだ。ホンダによると、トルクステアはこれにより55%減少するという。

ロアアームやダンパーフォーク、ブッシュの設計も改められているが、リアサスペンションは標準のシビックと同じトーションビーム形式を残している。結果、タイプRは標準車と比べて+177%も足回りが硬くなっており、スタビライザーの必要性もなくなっている。


―では、エンジンは?
新型タイプRに搭載されるのは、完全新設計の2.0L 4気筒 直噴VTECターボエンジンだ。ここまでは非常に普通だが、最高出力は310PS/6,500rpm、最大トルクは40.8kgf·m/2,500rpmと強力だ。とはいえ、現代においてはこれでも法外というわけではなく、例えばゴルフRはこれより10PS劣るだけだ。

幅広い回転域でブーストを制御するため、多くのモデルに可変ベーンターボジオメトリーが採用されているが、一方のホンダはシングルスクロールターボを採用し、ブーストの制御をVTECのバルブの調節により行っている。また、ウェイストゲートの作動は電子制御式になっている。

しかし、だからといってターボラグがなくなったわけではない。事実、低回転域ではそれなりにターボラグが感じられ、3,000rpmを超えなければこのエンジンの本領は発揮されない。しかし回転数を上げてしまえばタイプRは驚くほどに速い。驚異的だ。

では、この万能性やパワーは、従来のシビックタイプRにあったエンジン音やシャープな性格にも勝るものなのだろうか。その答えを出すのは難しい。しかし、個人的には新型の良さを認めたい。

車重は1,378kgと発表されており、そのためパワーウエイトレシオは225PS/tとなり、ゴルフRと比べると10%勝っている。マニュアルトランスミッションは正確かつ滑らかで、ギアチェンジの操作は非常に楽しい。

こんなマニュアルトランスミッションがどの車にも付いていれば、誰もデュアルクラッチトランスミッションなど必要としないことだろう。


音は良いのだろうか。
シビックタイプRは音を立てる。かなりの音を立ててドライバーを駆り立てるが、美しいというほどではなく、それでも聞いていて気分は良い。ただ、エンジン音からは車がどんどんシフトアップして欲しいと望んでいるかのように感じられる。

エンジン始動時に排気音はほとんど聞こえず、その点は少し残念だ。街中でのちょっとしたアクセル操作でもウェイストゲート音は鳴り響く。


普通の車と言えるだろうか。
シビックタイプRはゴルフRではない。ゆえに、ゴルフRのような普通の静粛性はない。しかし、粗い路面ではかなりのロードノイズが感じられるものの、高速道路ではそれなりに静かだし、荷室も広い。リアシートも同様に広いが、標準のシビックとは違い座面の跳ね上げはできない。

ヘッドルームも広いし、後方視界も良く、巨大なリアウイングに視界が妨げられることもない。今回の720kmの試乗では、街中から高速まで様々な道路を走ったが、平均燃費は11.8km/Lを記録した。それに、乗り心地にも不満はない。


―乗り心地に不満はない…?
確かに快適だとは言えないが、非常に安定感があり、上質なダンパーを使っているということが乗っていて感じられる。凸凹に乗り上げれば硬さを感じるが、それでも角はうまく削られている。235/35ZR19(コンチCSC6)というタイヤサイズを考えれば十分健闘していると言えるだろう。

interior

シートの出来は?
素晴らしいの一言に尽きる。サイドサポートは大きく、十分にサポートしてくれる。実のところ、ここ最近で経験した自動車のシートの中でも最高だ。触れる部分全てに同様のことが言える。アルミ製のシフトレバーは素晴らしいし、本革ステアリングのデザインもスタイリッシュだし、ペダルの重さも適切だ。

ただ、問題なのは2段式のダッシュボードで、計器類が2段に仕切られており、ステアリングの調節幅が非常に限られてしまう。それに、シートの高さは標準のシビックより30mm下げられているが、それでもまだ高すぎるように感じられる。


―それは運転中も気になるものだろうか。
私はさほど気にならなかった。要は慣れだと思う。それに、運転そのものは非常に楽しい。

この感覚を一番的確に表現すれば、この車はフォード・フォーカスSTやミニクーパーSのような楽しいハッチバックの中の1台ではない。この車はスピード命だ。そしてその点に関しては、加速性能とコーナリング性能のどちらをとってもレベルが高い。

何より魅力的なのは、体感的な重心の低さと剛性感の高さだ。今回は比較のためにゴルフRも持ち出したのだが、ウェールズの高難度な道でゴルフRにボディの軋みを感じた。シビックタイプRの剛性感がこれほどまでに高くなければそんな細かいことには気付かなかっただろう。

この上、ダンピング性能は高いし、本格的な機械式LSDまで備わっているため、山道の走行にはもってこいだ。確かに、ステアリングの正確さという点ではゴルフRには敵わないが、それでもシビックタイプRは非常に楽しい車だ。ゴルフRはどちらかといえばドライバーの要求に応えてくれる車であるのに対し、シビックタイプRはドライバーに要求してくるような車だ。


―つまり、本気で走るための車ということだろうか。

その通りだ。タイプRの走りは非常に頑固だ。エンジンが一番活発になる回転域を自然と使うようになるし、フロントの4ピストン クロスドリルベンチレーテッドディスクブレーキ(ブレンボ製・350mm)は非常に強力で(一方のリアディスクブレーキは相対的にショボく見える)、ディファレンシャルも非常に効果的だ。

軽く走らせるだけという用途に合わないかと言われればそんなことはないが、やはりこの車の本領を発揮するためには気を引き締めて運転に集中する必要がある。

コーナーで無駄のない加速をするためには、理想的には左足ブレーキとしたいところだ。もちろん、こんなことはサーキット走行をする人間の視点だが、シビックはそういう車のはずだ。

ただ、この車の操作性はさほど良くはない。前輪があらゆる動作を行い、後輪はその動きに付いていくだけだ。それに問題があるわけではないのだが、この車にはゴルフRにあるようなコーナー途中での柔軟性が欠けている。

しかし、トラクションに関しては、コーナー出口での加速は4WDのゴルフRと同等に速いと認めざるを得ない。これは凄いことだ。ここでは+Rにしたくなる。


―+Rって?

メーター類のライトを白から赤に変えるスイッチだ。同時にこのモードではESCの介入が抑えられ、トルクマップがよりアグレッシブになり、電動パワーステアリングのアシストが弱まり、磁性流体ダンパーが硬くなる。


―磁性流体…?
磁性流体ダンパーとは、アウディ・R8やフェラーリ・458、シボレー・コルベットスティングレイに用いられているものと同じ可変ダンピング技術だ。これを用いることで、シビックでは最大30%ダンパーを硬くすることができる。

ただ、+Rモードでのダンパーの制御だけはあまり有用ではない。これほど硬い足回りにする必要性があるシーンは滅多にない。とはいえ、個々に+Rとノーマルのセッティングを変えることができる。

rear

外見は派手だ

シビックの外見には大きな問題がある。このデザインには落ち着きというものがない。ただ、見ようによっては格好いいのかもしれない。

ホイールのデザインは気に入っているのだが、標準のホイールアーチではこの19インチタイヤを収めることはできず、エクステンションが付いている。それにボンネットやフロントホイールアーチ後部のベントはどこか間が抜けている。ホンダによると、これにはちゃんと意味があり、実際に空気を通すらしいが、見れば見るほどに飾りっぽく見える。

このプラスティック製のベントには小さな穴が空いているそうだ。しかしなぜ実際以上にベントを派手に見せようとしているのだろうか。それにそもそも、これほどに小さな穴に本当に意味があるのだろうか。

ホンダは長らく技術に対するこだわりに高い評価を得てきたが、この車のデザインを見てしまうとそこにも疑問符がついてしまう。

また、ホンダは高速走行時にダウンフォースを生じると説明していたが、具体的にどれほど生じるのかは教えてくれなかった。確かにタイプRは良い車なのだが、見た目が子供っぽすぎてこの車を欲しがるような層にはアピールしそうにない。これが私の思い違いならばそれでいいのだが。


価格は?
2万9,995ポンドで、GTパックを装備すれば2,300ポンドさらに高くなる。イギリスでは7月に発売予定だ。


ニュルのタップタイムは?
量産前モデルは北コースで7分50秒63を記録している。もし量販モデルでもそれを実現できればホンダは最速のハッチバックの称号を手に入れることができる。もちろん、私もこのタイムを評価する。この車はとてつもなく速い。

今回、数日間シビックタイプRに乗ることができた。ホンダによると、0-100km/h加速は5.7秒らしいが、我々が試したところ5.3秒を記録し、また0-160km/h加速は11.2秒だった。最高速度は269km/hと発表されているが、それにも偽りはないだろう。


まとめ

ホンダは新型シビックタイプRをかなりのハードコアなモデルに仕上げている。しかしこの車は非常に刺激的だし、非常に速いし、それでいて見た目から予想されるよりはよっぽど快適だ。

この車はゴルフRとは全く違うが、独自性を持っており、これに似た車はメガーヌを除けば他にない。そして個人的にはシビックタイプRの方がメガーヌに勝っていると思う。ともかく、この車は運転するほどに好きになる車だった。最終的にはこの車のことが大好きになった。


First drive: 2015 Honda Civic Type R