イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェームズ・メイが英「The Telegraph」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2009年に書かれたダチア・サンデロ 1.6のレビューです。


Sandero

あなた、ちょっと買い物に行ってくるけど、何か欲しいものはある?
別にないけど。あっ、そうだ、車を買ってきてくれ。

こんな会話が現実にあるとしたら、そして、自動車が野菜や男性用化粧品と同列に売られているとしたら、レジを通して買ってくる車はきっとダチア・サンデロのような車だろう。

サンデロは車の本質であり、ファッションやステータス、ブランド、アクセサリーなどの余計なものは一切付いていない。これは実用的なミドルサイズハッチバックであり、車好きにとっては少し退屈な車だ。

しかし、愛車の90ccのホンダ製バイクにあるものがこの車にもある。以前に乗ったランボルギーニ・ガヤルドと1.6Lのサンデロには大きな違いがあるが、サンデロと電車の違いの方がよっぽど大きい。あるいは、バスや徒歩との違いもそうだ。

サンデロはお金のない国、すなわち発展途上国のためのベーシックカーだ。ご存知の通り製造はルーマニアで行われているのだが、ブラジルやコロンビア(ラテンアメリカ向けを製造)、南アフリカでも製造されている。ダチアの親会社はルノーであり、ブラジル仕様車にはルノーのバッジが付いている。また、サンデロはダチア・ロガンをベースに開発されているのだが、ロガンにも仕向地によっては日産やマヒンドラ(インド)のバッジが付いている。

1998年にダチアの親会社となったルノーは安価かつ現代的な車を製造しようという実験的な試みを行っており、ロガン同様サンデロもその一環だ。基本的なプラットフォームは3代目クリオ(日本名: ルーテシア)やマイクラ(日本名: マーチ)と共有しているのだが、クリオの上級モデルと比べると、サンデロの低級モデルは部品点数が最大で50%削減されているそうだ。

ガラスは曲面を作らないようなるべくシンプルな構造となるなど、可能な限り構造が単純化されており、またドライバー自身が整備しやすいよう、電子機器は極力排除されている。しかし、エアバッグやABSはしっかり装備されている。

この結果、サンデロからは前時代的な雰囲気を感じる。エクステリアデザインは無害で普通だ。インテリアはファブリックを使用しており、ギアレバーは長くてシフトストロークも長く、ステアリグは細く、運転姿勢は少しアップライトだし、窓の開閉は手回し式だ。

私が試乗したのは最上級の1.6Lモデルだ。欧州仕様車には他に1.4Lガソリンモデルと2種類の1.5Lディーゼルモデルが設定され、フレックス燃料を用いるブラジル市場では1.0Lモデルと1.2Lモデルが選択できる。

Top Gearにおいて2年間の片思いの末ようやく私がサンデロと邂逅したシーンを見たことがあればご存知のことかと思うが、その時サンデロと共にいられた時間は残酷なほどに短く、最初の出会いは一瞬で終わってしまった。しかし、少なくとも記憶としては、その時のことを鮮明に思い出すことができる。

1.6Lエンジンは荒削りだが元気が良く、回すと尾骨を介して小気味よい唸りが伝わってくる。サンデロはルーマニアの田舎道ような不整路も走らなければならないため、サスペンションストロークが大きく設定されており、かなり跳ねるし、ハンドリングはフランス車的だ。つまり、運転していて楽しい。

私はベーシックな車が好きだし、サンデロはシンプルゆえに驚くほど軽量で、それも寄与してか応答性も良い。

私はこの車の正直さが大好きだ。価格は中古のフォード・フォーカスと変わらないし、実際的な性能を考えても良い車だ。バスからの絶大なる飛躍とは言えないが、ルノー・12ベースのダチア・1310からサンデロに至るまでの道は長かった。1310やラーダ・リーヴァなどの共産主義の名残のような車は、平等主義を標榜する軍隊の干渉よって元々良かったはずの車が酷い車になったものだ。しかし、サンデロからは自由の匂いがする。

この自由はルーマニアでは6,890ユーロ(1.4Lモデル)で手に入れることができるのだが、フランスでは装備が上乗せされて7,800ポンドとなる。

この車の見方は2つある。1つは、貧乏人に向けられた安物であり、それ以外の人間には不十分な車だという見方だ。

しかし、そんな車には思えない。潔く、シンプルで、アンチファッション的な、むしろ格好良い車とさえ思える。

結局のところ、これはただの車だ。そして、サンデロは車という単語の意味を再認識させてくれる。


Dacia Sandero: In praise of the anti-fashion car