今回は、英国の人気自動車番組「Top Gear」でもおなじみのリチャード・ハモンドが英国「Mirror」に寄稿したロールス・ロイス レイスの試乗レポートを日本語で紹介します。


Wraith

フライングレディは格納することができる。やり方は簡単だ。iDriveシステムを使って操作すれば、フライングレディはフロントグリルの中に格納される。

これまで、ベントレーの試乗レポートは何度も書いてきたのだが、ロールスの試乗レポートは書いたことがなかった。そして初めて取り上げるのがレイスというモデルだ。これは驚異的な車だ。

レイスはロールス・ロイス ゴースト、通称ベイビー・ロールスをベースとしている。レイスはスポーティーなロールス・ロイスとして開発されたそうだが、これは小さなロールス・ロイスというコンセプトと同じくらいに奇っ怪なコンセプトだ。

巨大なボンネットの下には6.6LのツインターボV12エンジンが収まっている。かつて、ロールス・ロイスは馬力の数値を公言することはなく、「必要にして十分」と表現し続けてきた。しかし、やがてその方針は改められ、ウェスト・サセックス州グッドウッドのロールス・ロイス本部は、エンジン出力が632PSであることを何の躊躇いもなく公表している。

これは、ロールス・ロイス史上最もパワフルなエンジンだ(ただし、第二次世界大戦期に用いられた戦闘機、スピットファイアに搭載されたマーリンエンジンは例外だ)。レイスは250km/hでリミッターがかかり、0-100km/h加速は4.6秒を記録する。しかし、パフォーマンスの話はこのあたりで終わりにして、ロールス・ロイスの本質の話に移ることにしよう。

メルセデス・ベンツ S63 AMGクーペやベントレー・コンチネンタルGTスピードはいずれもかなりの高級車ではあるのだが、レイスには敵わない。レイスには戦前のロールスの面影があり、レイスから1920年代のハリウッド女優が降りてくる姿さえ想像することができる。必ずしも現代の風景に溶け込めるわけではない。リアの眺めは特に素晴らしく、逆方向に開くドア(ヒンジは後方にある)も面白い。ロールスはこのドアをコーチドアと呼んでいるようだが、スーサイドドアという名称のほうが一般的だろう。

この車には現代的ガジェットが数多く装備されているにもかかわらず、車に乗り込むと、そこに広がるのはダウントン・アビーの世界だ。分厚い絨毯と柔らかなレザーが惜しげもなく使われている。タコメーターなどなく、余力を%で表示したエレガントな計器がある。穏やかに走れば表示は100%で、フルスロットルにすると…メーターなど見ている暇はない。

レイスには8速ATが採用されているのだが、パドルシフトだのスポーツボタンだのといった野蛮な装備は付いていない。しかし、ステアリングコラムから生えるレバーには"low"と書かれた小さなボタンが付いており、それを押すと低いギアに入る。ナビの情報を元に、コーナーが近づくとトランスミッションにその情報が伝わって自動的にシフトダウンする機能まで付いている。

車にはナビも付いているのだが、使わない時には美しいカバーで隠してしまうことができる。ナビのグラフィックにまで高級感がある。まるでジャック・スパロウの宝の地図のようだし、昔ながらのコンパスの表示まで付いている。

レイスにしてもゴーストにしてもBMW 7シリーズと多くの部分を共有しているのだが、バルクヘッドが二重構造になっているのはロールス・ロイスだけだ。これはエンジン音を遮音するためのもので、実際、大排気量のV12エンジンが稼働してもその音はほとんど聞き取れない。アクセルを強く踏み込んでも、かろうじて音が聞こえてくる程度だ。

当然ながら、レイスは23万320ポンドと非常に高価だ。それに、レイスを買うような人は数々のオプションを加えるだろうし、試乗車も30万ポンド近くまで価格が膨れ上がっていた。しかし、レイスを究極の高級スポーツカーと考えれば、ヴェイロンが安っぽく見えてしまう。


Rolls-Royce Wraith Two-door coupe review by Richard Hammond: Wraith's a high roller