イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、スズキ・ビターラ(日本名: エスクード) 1.4 S のレビューです。


Vitara

1950年代当時、ジェームズ・メイは既に老人で、ラジオに出ている人は誰もが女王のような声で、ヒルマンからは「ゲイルック」という名前のミンクスのツートンモデルが販売されていた。AUTOCAR誌はこの車に非常に感銘を受けたようで、表紙に「ヒルマンに乗ってゲイになろう」というキャッチコピーとともに写真を載せた。

なぜこんな話をしたのかは自分でもわからない。ひょっとしたら、かつてのスズキ・ジープのことを考えていたからなのかもしれない。ジープは登録商標なので本当はそれをジープと呼ぶことはできない。それに、ゲイと呼ぶこともできない。

しかし、正式名称をSJ410というこの車のことは皆さんご存知のことだろう。これは1980年代にブライトンの美容師や客室乗務員の間で人気を博した背の高い小型車だ。これがまた酷い車で、ルーフを取り付けるのはサーカスのテントを組み立てるよりも複雑だったし、どちらにしろまともにフィットしなかった。

そうこうしているうちに爪は剥がれてしまい、さすがにこれ以上の災厄が降りかかることはないだろうと思うのだが、実際に車に乗って走りだすとさらなる不幸にみまわれる。SJは運転するものではない。ただ跳ね回るだけだ。この車には中世の牛車に使われていたものとまったく同じサスペンションが使われている。

要するに、このサスペンションは単にボディを懸架しているだけだ。これではろくに使い物にならず、25km/h以上でスピードバンプに乗り上げると宙に浮いてしまう。その結果、指からは血が流れ出し、別のスピードバンプかマンホールの蓋か、あるいは砂粒に乗り上げるまでずっとバウンドし続ける。そして、バウンドし続ければいずれ路駐している車や街灯に突っ込んでしまう。

高速道路に入ると極端に恐ろしい。ちょっとでもアクシデントがあればバウンドし、やがては横転してしまう。しかもこれはオープンカーなので、横転すれば頭が取れてしまい、首から流血することになる。

幸い、最高速度は非常に低い。私の記憶の限りでは低かったはずだ。しかし、正確にどれくらいだったかは分からない。というのも、65km/h以上で走ると1Lのエンジンから聞こえてくる音があまりにやかましくなり、耳から出血してしまうからだ。

ステアリングにも問題がある。確かに運転席にはステアリングらしき物があるのだが、使おうとしても車は言うことを聞いてくれない。バウンドしているとき前輪はまともに接地していないのだから当然だ。昔SJに乗ったときはイーストヨークシャーのスパーンポイントまで行ってしまった。

そこからなんとかロンドンに帰ろうと思ったのだが、結局到着したのはパディントンだった。この車を運転するのは非常に恐ろしく、もう一生パディントンで過ごそうかとも考えた。SJに乗って高速道路を3時間走るくらいなら、一生ハルで暮らしたほうがましだ。

しかし、意外かもしれないが、私は休暇中によくSJを借りている。この車を使えばお金をかけずに髪を風でなびかせることができる。また、晴れた日に町を走るなら、普通のハッチバックに乗るよりもずっとお洒落だ。それに、ハッチバックよりも安い。

私が農業や狩猟などに携わっていたなら、SJを買っていたことだろう。SJは4WDだし、座席4つとワイパー以外は何も付いていない。つまり、壊れるものは存在しない。確かに出来は悪いのだが、非常に実直な車だ。

今でもSJの精神は受け継がれている。それに、現行型のスズキ・ジムニーはかつてのSJよりも安全なのだろう。しかし、ルーフが付いてしまったため、かつてのSJの最大の魅力は失われてしまった。残念でならない。

ジムニーの兄貴分に当たるビターラにも少しだけSJの精神が受け継がれている。しかし、私が試乗したスポーティーモデルの1.4 Sすらも、平凡で退屈で無害で陰惨で無個性な豚の餌でしかなかった。この車は故意につまらなくなるようにデザインされている。

最後の最後になって、ホイールを黒く塗ったり、エアコンの吹出口をピンクに塗ったりしてなんとか魂を吹きこもうとしたようだが、なんの意味もなしていない。試乗車のボディカラーが赤だったことにも問題がある。赤とピンクはどうやっても調和しない。

私はコンパクトSUVが嫌いだ。日産・ジュークもそうだし、ルノーも、フォードも、ヴォクスホールもそうだ。私はコンパクトSUVのごまかしが嫌いだ。硬派で堅実な4WDオフローダーであるような顔をしながら、その実、ただ高価で見た目が悪いだけのハッチバックに過ぎない。

ビターラには他にも問題がある。この車は驚くほど薄っぺらくて安っぽい。リアドアはトレーシングペーパーから作られているのではないかというくらいに軽いし、スーパーのビニール袋と同じくらいの強度しかなさそうだ。

しかし利点もある。この車の中には何も詰まっていないため、車重はマウスよりも軽い。つまり、燃費は良いし、しっかりした重い車よりも速い。それに、十分使い物になる4WDシステムが備わっているので、実際にオフロードを走ることもできる。

しかも、装備内容は金額を考えればかなり豊富だ。建物のそばを走ると通信が途切れるDABラジオも付いているし、あらゆるものと接続することができる。前の車に衝突しそうになると警報が鳴るシステムまで付いている。警報はかなりやかましいのだが、絶望大賞を受賞できそうなくらいに悲観的な音だ。ロンドンのA1に合流するときも大きな音が鳴り響く。エディンバラ城に突っ込むのではないかと悲観しているようだ。

問題はまだある。ルーフラインが非常に低いため、乗り降りするのは大変だし、パノラミックサンルーフを付けると乗降性はなお悪くなってしまう。それに、操作系をすべて中央のスクリーンに集約したことで見栄えだけは良くなったのだが、実用性はまったくない。ラジオから嫌いな音楽が流れてきても、老眼鏡を使って時間をかけて操作しないと音楽を止めることはできない。

この車には嫌なところがたくさんある。見た目は退屈だし、他のどんなものよりも薄っぺらいし、実用的にも難がある。しかし、その中身は非常に実直で、好感が持てる。走りも良いし、速いし、高品質の代名詞であるハンガリー製だ。


The Clarkson review: 2016 Suzuki Vitara S