今回は、イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェームズ・メイが2005年に英「Telegraph」に寄稿した、「最高の車」は何かをテーマにしたコラム記事を日本語で紹介します。


AX GT

これが私がテレグラフに寄稿するちょうど100本目のコラム記事となる。記念に職場で風船を飛ばしたりもしたし、コレクター向けのレザー仕様の限定版も出るのかもしれないが、ともかくこの機会に真面目な話題について論じてみようと思う。

その真面目な話題というのがこれだ。私が今まで乗った中で最高の車は何だろうか。Top Gearに出演している影の薄い男として、こんな質問をパブなどでよく受ける(ところで、こういう場合、真っ先に尋ねられるのは「ジェレミーは一緒じゃないのか」という質問なのだが、別に私は四六時中彼と一緒にいるわけではない)。しかし、私はこの質問の答えを今まではぐらかし続けてきた。

候補となる車を挙げるのは簡単だ。ベントレー・コンチネンタルRは長らくのお気に入りだ。しかし、この車は万人にお勧めできるわけではない。駐車するのは大変だし、貴族的な車なのでガソリンをがぶ飲みしてしまう。

私はフェラーリ・エンツォにも乗ったことがある。この車のことは自分でもびっくりするくらいに気に入っている。しかし、だからといってこれが最高の車と言えるのだろうか。金額的な制約もあるし、ミニスカートを穿いている人やホームセンターで材木を購入する人にとっては最悪の選択肢だ。

例を挙げたらきりがない。最高の高級車や最高のスーパーカーを選ぶのは簡単なのだが、自分が乗ったことのある中で最高の車を選ぶとなればどうだろうか。私は何時間もかけてリストを作成し、ようやく答えを得た。

それから、私は一流の投資家にその結論を話してみた。彼らは世界を股にかけて働く有能な人々だ。乗っているのはフェラーリやアストンマーティンなどの車だ。要するに、彼らはどんな質問に対しても「スバル」と答えるような車オタクとは違う。

そんな彼らに対し、私が乗ったことのある中で最高の車は1991年のシトロエン・AX GTだと伝えた。ところが、誰も反論はしなかった。ひょっとしたら私はものすごい発見をしたのかもしれない。

AX GT(ちなみに後に登場したAX GTiはやりすぎだ)はあまり有能な車ではない。ボディは使い古しのビスケット缶からできているし、搭載されているエンジンは1.4Lとごく平凡だし、事故を起こせば死んでしまうかもしれない。それに、製造はフランスで行われていたため、作っていたのはおそらく共産主義者だろう。

しかし、車にとって重要な部分を抽出して見てみると、この車は意外に実力が高い。価格は9,000ポンド未満と比較的安い。0-100km/h加速は9秒と十分楽しめるレベルにあるし、最高速度は172km/hだ。それでいて、14km/L以上の燃費は余裕で実現できる。それに、デザインも悪くない。

調べれば調べるほど、この車の素晴らしさが判明した。全長が短いしオーバーハングも短いので、扱いやすいし駐車も簡単だ。しかも、衝突安全性があまり考慮されていない時代に設計されたので、空間効率が高く、4人が十分快適に座ることができる。乗降性も高いし、荷物も十分に載せられる。

当時は軽量化なんて概念は存在しなかったのだが、それでもかなり軽い。軽ければ楽しさが生まれる。元気が良く、応答性も素晴らしい。しかも、保険分類ではそんな楽しさなど無視されていたため、保険料も安かった。

軽いため、ボディの動きを抑制する硬いサスペンションも必要ない。そのため、操作性が高いにもかかわらず、乗り心地も良い。軽いので慣性力もあまり生じず、タイヤも小さくて済み、結果的にパワーがグリップに勝った。これは昔のミニが楽しかった理由でもある。

この車の凄いところは書き尽くせない。どんな車と比較しようと、AX GTの方が勝っている点というものは必ずあるだろうし、それだけこの車は万能だ。もし公正な基準で車のトップトランプをしたなら、AX GTが最強のカードになることだろう。何人かの同僚にこの話をしたのだが、まだ誰も私の意見にまともに反論できていない。

さて、読者に私を論破できる人はいるだろうか。


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