今回は、イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェームズ・メイが2008年に英「Telegraph」に寄稿した、自動車の鍵をテーマにしたコラム記事を日本語で紹介します。


Mercedes Key

我が家の台所の端にある棚には、スペインやポルトガルの土産にありがちな大きくて派手な皿があるのだが、どんな料理を食べるときにも使っていない。

その皿の中には他に置き場のない物が入っている。切手セットの切れ端、サングラス修理用のドライバー、なんの物かよく分からないバッテリー、2年前の配達不在票、釘、USBメモリ、ラベルシールなどだ。皿の模様はすでに色褪せてしまっており、今ではなんでも置き場と化している。この皿の中を探せば必要な物はたいてい見つかる。

その皿にないものは、テーブルの中央に置かれている巨大容器の中を探せば見つかる。この容器は緑色のガラス製で、元々はリンゴを入れるために購入した物だ。しかし、この容器の中に果物を入れたことは一度としてない。実際に入っているのは、ダーツ用の予備のフライト、どの携帯電話用かよく分からない充電器、愛猫ファスカー用の予備のネームタグ、マッチ、ボールペン、洗濯機用のスパナ、葉巻、小型のヘッドフォン、外国のお金などだ。要するに、時々必要になるものが詰め込まれている。

こういった収納法を実践しているのはなにも私だけではない。隣に住んでいる人も必要な物だけを詰め込んだ引き出しを作っている。

長年の経験から、皿に入れるべきものとガラス容器に入れるべきものは自然と分けられる。その分類は本能的なもので、例えばポルシェのパイプはガラス容器に入る。そのパイプが必要なとき、私は絶対に皿を探したりはしない。ちなみに、食べかけのチョコレートの箱が必要なときは、戸棚を探せば見つかるはずだ。

随分と回り道をしてしまったが、本題に入ろう。車の鍵はどこに収納するべきだろうか。家の鍵は今穿いているズボンのポケットか昨日脱ぎ捨てたズボンのポケットのどちらかに入っている。しかし、車の鍵はいつも持ち歩いているわけではない。では、どこに保管するべきだろうか。

私は複数台車を所有しているし、古いオートバイも数台持っているので、鍵の置き場問題はちょっとした懸案事項だ。皿は緊急時に必要な物を入れるための場所なのでそこに入れることはできない。巨大なガラス容器に入れてしまうと物に埋もれてすぐには見つからなくなってしまう。小銭ケースに入れていたこともあるのだが、今は一杯で入れられない。適材適所という言葉もあるが、車の鍵に適した場所は存在しない。世の中には鍵用の金庫もあると指摘する人もいるかもしれないが、ならばその金庫の鍵はどこに保管すればいいのだろうか。

問題なのはどこに鍵を置くべきかということではなく、そもそも車に鍵が存在しているということ自体が問題なのだ。精巧な電子機器によって制御される愛車のポルシェのエンジンをかけるために、どうしていまだ金属製の鍵を使う必要があるのだろうか。

最近の車にはキーレスエントリーが付いていたりもするのだが、鍵を挿入してひねるという行為から解放されるだけで、鍵自体は依然として存在している。ルノーなどはカード型の鍵を使っているのだが、それだと置き忘れるおそれがある。指紋や虹彩、あるいはパスワードを使うことはできないのだろうか。

鍵を探すことに人類の労力がどれだけ割かれたことだろうか。鍵など過去の遺物であり、もっと昔になくなっていて然るべきものだ。

私は昔、少年聖歌隊に入っており、教会の祭服室に入るときには重い鍵を使って扉を開けた。その時に開けた扉は500年前のものだ。鍵はその時代からまったく進化していない。


James May: The car key conundrum