Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェームズ・メイが2009年に英「Telegraph」に寄稿した、「高級車の条件」をテーマとしたコラム記事を日本語で紹介します。


Citroen C6

ある知人がこんなことを言っていた。ロナルド・マクドナルドは史上最悪の悪人であると。彼は無理矢理に国際化を巻き起こし、熱帯雨林を破壊し、そして肥満を大流行させたそうだ。

しかしながら、彼は良いこともしている。マクドナルドが世界中に店舗を展開したおかげで、世界中の主要都市に少なくとも一つはまともなトイレが用意されている。マクドナルドはトイレ版アメリカ大使館とも言えるかもしれない。

ハンバーガー自体はさして美味しいわけではないのだが、だからどうしたと言うのだろうか。確かに味は画一的で産業的なのだが、少なくともマクドナルドの食品を食べてその土地の危険な感染症に罹る可能性はほとんどない。

先日、ブリティッシュ・エアウェイズを使って長距離フライトを行ったのだが、昔よりかなりグレードアップしていた。座席は広くなったし、フォークやスプーンは高級になっていたし、ワインのクラスも上がっていたし、スリッパも用意されていた。しかし、私が本当に必要としていたのは、海外滞在によって恋しくなっていた真っ当な紅茶だ。

旅行先で紅茶に文句を言う気難しい老人だと思われたくはないのだが、真面目な話、海外で真っ当な紅茶を出してくれる店はほとんどない。多くの人は悪魔の飲み物「コーヒー」に満足しているのだが、せめてイギリスの航空会社であるブリティッシュ・エアウェイズにはアッサムを常時提供できるようにしてほしい。

このように、真の贅沢とは非常にシンプルなものだ。高級ホテルの条件とは、プラズマテレビでも先進的なシャワーでも間接照明でもウェルカムチョコレートでもおしゃれなトイレでもバルコニーでもない。まともな枕こそ、高級ホテルの条件だ。まともな枕がないならキャンプしたほうがいい。グリフォンの蛇口や高級洗髪料の用意されたホテルよりも、まともな枕のあるキャンピングトレーラーのほうがずっと高級だ。

高級品と呼ばれるものはろくでもないものばかりだ。「高級」という言葉は本革や複雑な形状の物体を表現するために使われている。余計なもの、重いもの、使うために会員証が必要なサービス、あるいは「テーラーメイド」や「セレクション」などといった言葉の付いた製品が「高級」であると考えられている。しかし、高級とは華美に見えるもののことではない。平穏な中身を持つもののことだ。こちらのほうがよっぽど作るのが難しい。

そしてここからが車の話だ。真の高級車とは、単に乗り心地が優れた車のことだ。私の愛車のコーニッシュには本木目や牛革や羊毛カーペットが付いているのだが、そんなものは簡単に樹脂や安布に取り替えることができる。それでも、この車が高級車であることに変わりはない。なぜなら、この車は道路工事の欠陥を消し去り、浮くように走ることができるからだ。最近はますます舗装が悪くなっている気がするが、建設業者などあてにならないので、車に頼るほかない。

飛行機を降り、私はヒースロー空港ターミナル5に降り立った。2週間の海外滞在だったため、空港に自分の車は停めておらず、必然的にハイヤーで家に帰ることとなった。普通ならメルセデスのEクラスやSクラスに乗ることになるのだが、嬉しいことに私を待っていたのはシトロエン・C6だった。

C6にはメルセデスほど多くのボタンは付いていないし、メルセデスほど頑丈でもない。ほかのシトロエン同様、ドイツ車と比べるとエンジンには余裕がない。しかしながら、乗り心地はまともだ。乗り心地がまともな車は意外と少ない。

これまでにも何度か言ってきたのだが、世界にフランスという国があって本当に良かった。フランス人にまともな紅茶を淹れることはできないのだが、どいうわけかまともな車を作ることはできる。


The luxury car defined