昨今のオンライン出演の多さに、既に全然追いつけなくなっています。寝不足です…。

ミュージシャンの腕や手の治療を支援するというニッチな非営利団体Musician Treatment Foundationのオンラインチャリティ番組、元Rustyのアラン・メイズと共に再び登場しました。

https://mtfusa.org/events/musician-monday-elvis-costello-allan-mayes/



今回は、団体の創設者アルトン・バロン医師(※イケメン)が一応司会するかたちで進行したため、前回に比べればちゃんとテーマのあるトークになっていたと思うのですが、まあやっぱりコステロがよく喋る喋る喋る喋りまくる…大変です。とても興味深い話がいくつもあったので、少しでもシェアできればと、あくまでもざっくり要約しようと思ったのですが、どんどん膨らんでしまいました。会話形式で書いているものの、書き起こし直訳などではなく、かなり端折ったりまとめたりしていますのでご了承ください。尚、このYoutubeの動画は自動生成の英語字幕を出すことができますので、リスニングは厳しいけど読めるという方はぜひ。

前置き/紹介の後…
アルトン・バロン医師(AB):今世界中でライブ会場がクローズしてミュージシャンにとっても大変困難な時だ、アメリカのミュージシャンの43%は無保険で… 

EC:僕の友人でも、医療を利用できないミュージシャンがいる、恥ずべき状況だ。アランと僕は国民保険(NHS)のある国で生まれ育った。もちろんNHSにも問題はあるけれど。予算がカットされてサービスが低下し、例えば今年93歳になる母は、70を過ぎた頃でもすぐに医療を受けられず待たされたりした。そういった問題はあるけど、でも国民保険が存在するという意味で、アメリカとは全然違う。1945年、第二次大戦の英雄だったウィンストン・チャーチルが政権から引き下ろされたのは、労働党がより平等を追求する政策を掲げたからだ。僕が今ここにいるのもNHSのおかげだ、子供の頃重い病気にかかった時、当時の両親の収入ではとても支払えないレベルの医療を受けることができたんだ。アラン、君の場合は?

(と、ここで接続が切れてしばし中断。その後コステロが映らないままアルトンとアランが復活し、アランが一曲弾き語り)

♪ Going Back(ダスティ・スプリングフィールドのカバー)(AM)

(曲が終わってコステロも画面に復活)

EC:僕がSocialismという魔法の言葉に関係する話をしたからカットされたのかな?いや笑い事じゃなくて。NHSは劣化したとはいえ、ある程度の安心感を与えている。ミュージシャンといってもリッチなのはほんの一握りだから… アラン、君の経験はどう?イギリスとアメリカを比較して…

アラン・メイズ(AM):僕も手の問題があって、保険がないから手術するのに莫大な費用がかかったんだ。でもその後オバマケアが導入されたから、65歳になったら保険が効いて費用が支払われるものと信じていた。ところがそうはならなかった。今年2月に検査を受けた時もまた高額な費用がかかった… エルヴィス、このMTFは僕ぐらいのミュージシャンにも適用されるものだと思うかい?それとも、ちゃんとレコード契約とかのある”real musician”のためのものなのか…

EC:どんなレベルであろうと、それで生計を立てているのならreal musicianだよ。必ずしも成功していなくたって。父もそうだった。クラブで演奏していても、他人からそれが本当の仕事だとは思われていなかった。鉱山で働くとか、看護師だとかそういう仕事に比べたら違うかもしれないけど、演奏のために旅をして、大切な人と別れたりとかいう苦労もあるし… 昔からライブ会場というのは健康的な場所ではなかった。今はもう、タバコの煙でいっぱいとかそういうことはなくなったが、すごく清潔な場所とはいえない。そういうことも含めて色々考え直す時なのかもしれない。でも今は、君が話していたアメリカの医療制度の運営上の問題とか、制度の是非について僕の意見を論じる場ではなくて、困っている人たちをどう助けられるかというメカニズムについて… そうだ、ここで説明しておこう、アラン、君と僕とでは違う種類の手の問題があって…。アルトン、もう一度発音してみて

AB:デュピュイトラン拘縮(Dupuytren's contracture)(EC:フランス語みたいな響きだな)。北欧に由来を持つ人々に多く見られる症状で、手指が伸ばせなくなる疾患だ。ミュージシャンにとってはピアノを弾けなくなったり、トロンボーンのスライドを伸ばせなくなったりと深刻な状況になる。非常に精密な手術が必要で、コストも時間もかかる。

EC:僕の父も同じ疾患があって…遺伝的なもので、僕の異母弟のひとりも同じ疾患があって手術をした。父にも手術を勧めたんだけど説得できなかった。プロのミュージシャンを引退していても、トランペットを演奏する機会はあったからね。晩年は手が伸ばせなくなり、パーキンソン病も患っていたからとても心配だった。アラン、君のCarpel tunnel(手根管症候群)はどうなの、痛いんだろう?

AM:いや、痛くない、全然痛くないんだ。逆に麻痺して感覚がなくなってしまうんだのがとても困るんだ。

AB:Carpel tunnelはアランのように痛みのないこともあるが、通常激しい痛みをともなう…(と手根管症候群の説明)(ここで接続の問題生じた?)…エルヴィス、ちょっと1人で喋ってて

EC:OK(といってギターを抱える)

♪ Rainbow All Over Your Blues(ジョン・セバスチャンのカバー)(EC)
♪ I Still Miss Someone(ジョニー・キャッシュのカバー)(EC)


(一旦2人が戻るがまた消える→コステロがひとりでインスト演奏)

(AB、AM再び復活。2人で何か歌って、というABのリクエストに応え、70年代に2人で歌っていた曲をやろう、技術的問題で同時には歌えないから会話スタイルで…)

♪ Wooden Ships(CS&Nのカバー)(AMとEC交互に)

EC:17歳の頃以来歌っていなかった曲だ。今聞くと、終末後の世界を歌ったディストピアソングみたいだ、単なる戦争の歌じゃない。当時僕がギターソロを弾いてたんだけど、君の方がギターうまかったのになんで僕だったのかわからない…

AM:それはあの白いギブソンのギターを弾きたくて…(ここからしばしギターとアンプとか機材の話、よくわからないので略)

AM:当時のソングライティングの話をしよう、ここに君が当時書いたオリジナルの歌詞のノートがある。”Show Must Go On”という曲なんだけど、それを僕は(歌詞の登場人物の名前を使って)”Maurine and Sam”という曲として…(EC:MaurineとSam?Danじゃなくて?)元々はDanだったんだけど、Samのほうがよく響くと思ったんだ。それを録音してEPレコードを作った。1977年の初め、まだエルヴィス・コステロが誕生する前にだよ。君のことは一切クレジットせず、1000枚も作った。そしてそのうち950枚は破棄する羽目になった(笑)それが今やebayで150ドルで売られているんだよ!あの950枚があればどれだけ儲かっていたか(笑)ともあれ、君のファンの人たちに、Ghost Trainの元曲がどんなだったか聴いてもらおう

♪ Maurine and Sam(AM)

EC:Fantastic!(一節口ずさみながら)サイモン&ガーファンクルみたいなところがあるね。一緒に書いたのか僕が書いたのか覚えてないけど

AM:4年前、ここ(オースティン)でのライブに、わざわざアーカンソーから、この曲を聴くためにやって来た男がいるんだ。チャーリーって名前だったんだけど、この曲がエルヴィス・コステロの曲の元ネタだと知って、一度聴きたいというそれだけのために、600マイルも離れたアーカンソーから!君が差し向けたヤラセじゃないかと思ったよ。

EC:ヤラセじゃないよ、その証拠に僕はアーカンソーでライブをやったことないんだ、不思議なことに。ミシシッピにも近いのに、いつも通り過ぎるだけで。(アメリカで)やったことない州はノースダコタ、モンタナ、そしてアーカンソー、あ、あとアラスカだけだ。これを見てる人、誰かアーカンソーに呼んでくれたらこの曲をやると約束するよ!

AM:チャーリーは、君がこの曲のエピソードをライナーノーツで触れていたからだと言っていたよ。その曲をやってくれるかい、 Ghost Trainを。

EC:ああ。この曲にはティーンネイジャーの頃の君と僕の真剣さが感じられるよね。当時君と僕でライブをやっていた頃、僕の父もソロでイングランド北部のクラブを回っていたんだ。そのいくつかに僕も同行して、照明だとかの手伝いをしていたことがある。当時の父は60年代後半のヒッピーみたいな風貌で…今思うと父がああいったライブをしていたのは、ずっと若く感じていたかったのだと思う。父は昔ダンスバンドで演奏していたから、お客は皆そういうのを期待していたけど、音楽は変わるもので、父は昔には戻りたくなかった。そういったクラブの壁にはかつて演奏した人々(?なのか、お客さんの写真なのかわからず)の写真が貼ってあって、まるで幽霊みたいだと思った。僕は当時、ティーンネイジャーにありがちなスノッブなやつで、ノスタルジーに生きるのは嫌だと思っていた…

♪ Ghost Train(EC)

AM:素晴らしい。当時の(Maurine and Dan)詞の中のエピソードにいくつか触れているね。

EC:ああ。今でもこの曲は時々歌うんだ。この前のブラックプール公演で、17歳の時、ブラックプールで父と初めて共演した時の話をしたんだけど。ちょっと脚色してね。僕は譜面が読めないのに父に譜面を渡されて、でも全然音響が整っていなくて、オルガンが調子っぱずれに鳴っていて…(オルガンの音のマネ)だから僕はギターのプラグを抜いて、その夜はずっとギターを弾く真似をして笑顔を振りまいていた(笑)父の話をする時はいつも少しばかり美化して話しているかもしれない、実際には父は家にいないことが多かった…僕もその後そういう親になってしまったんだけど。でもその後の僕のキャリアのいい修行になったと思うよ、テレビ番組でアテフリさせられたりしたからね。

AB:この不安定な時代に、どうやってクリエイティビティやモチベーションを持ち続けたらよいか、若いミュージシャンやその他の人たちに向けて何かアドバイスを

AM:Patience(忍耐)だな。こんな時代にライブをやるのは…いろんなことに神経を使って、規制のある中で、リスクを冒して… 悪夢でしかない

EC:インポスターズのピート・トーマスとデイヴィ・ファラガーがやっているJackshitというバンドがオンラインで無観客ライブをやった(?やろうとした?)んだけど、いくら無観客といっても照明や音響、撮影などのスタッフが必要で、何らかのリスクに晒されることになはなる。ロンドンのロイヤル・アルバートホールは客席の30%の観客でコンサートをやることにしたそうだけど、それでも掃除をする人だとかチケットオフィスの人だとか、働く人が必要だ。

僕らミュージシャンは、それでもクリエイティビティを保って前に進もうと努力している。なんとかレコーディングをしてみたり、そのアイデアをシェアしたり。毎週日曜日、僕はスティーブ・ナイーブがやっているオンラインライブに出て一緒に演奏している。回線の接続が良くなくてしょっちゅうカットされたりするけれど、それでも人々とつながることができる。アクセスして聴いてくれて、リクエストや感想をコメントしてくれる人たちがたくさんいる。スティーブは毎回45分間、ほぼ毎日ずっと無料でこういうことをやっているんだよ、プロフェッショナルなことだと思う。

あと例えば、イギリスの素晴らしいシンガー、ローラ・マーリンはオンラインでギターのレッスンを配信している。僕もそうだけど、彼女の音楽を好きな人にとって、どうやって演奏しているのか観られるのは願ってもないことだ。

そうやって色々な試みがされているけど、いつまでもというわけにはいかないだろう。僕の妻のダイアナはジャズ・ミュージシャンなんだけど、ジャズという音楽はロックとは違ってお互いを聴いて反応するということがすごく重要なんだ。だから彼女は、他のバンドメンバーとリモートの状態で演奏することは考えられないと言っている。

一方で、レコーディングについて言うと、元々別々に録音することが多いからね。僕の最初のアルバムをレコーディングしたのは電話ボックスみたいに小さな部屋だった。モータウンレコードを訪れた時…僕はずっと、あの名曲の数々を生み出したモータウンはきっと大聖堂みたいなスタジオなんじゃないかと思っていたんだけど(笑)実際はすごく小さなレコーディングルームだった。

コンサートはまだ難しいけど、この前も話したようなソーシャル・ディスタンシング・スティックがあればいいんじゃないか。スティックのついたベルクロのベルトを腹に装着して…(笑)

AB:2人とも配信番組など経験してみて、本当のライブとオンラインの違いは?オーディエンスの反応をリアルに感じられるライブとは違うと思うけど…

AM:アルトン、エルヴィスと僕とではぜんっっぜん事情が違うんだよ!僕のライブなんて、普段からソーシャルディスタンスばっちりなんだから(笑)完全にからっぽの客席で、それでも最後まで演奏しろと言われて、演奏中に寝てしまったことさえある。彼と僕とでは全然世界が違うんだ

EC:いや、観客がいないということでいえば、ラジオだって同じだよ。僕は過剰にエキサイトするDJが苦手なんだけど…80年代ケヴィンというDJがいて、放送が始まる前には普通に自己紹介や挨拶をしていたのに、オンエアの赤いライトがついた途端に「オーーウケーーイ!!!This is a big day!!!」(DJのモノマネ)とか叫び始めるんだ(AB、AM爆笑)。あんた何やってるんだと思ったよ、マイクがあるんだから叫ぶ必要ないのに、って。僕はもっと静かに語りかけるようなスタイルが好みだ。

僕はいつもかなり大声で歌うんだけど、最近自宅で、観客がいないところで歌う時はよく目をつぶって、聴いてくれる人のことを想像しながら歌う。大事なのは自信を持ってやることだよ、自分に何ができるか…

アラン、君がどれだけの稼ぎがあるのか知らないけど、君の歌には音楽のフィーリングがある。僕たちが一緒に書いた曲を君が歌うのを聴けて本当に嬉しかった。持ち歌が何曲あるか想像もつかないけど、ずっと続けて欲しい。ミュージシャンには楽器を手放してほしくはない。たとえ生計を立てられなくても。

AM:前回の配信の後、聴いてくれたたくさんの人がコメントをくれたりしたんだけど、君が僕と一緒にやっている時、本当に嬉しそうだった、と皆が言ってくれた。本当にありがとう。君のことを「僕の友達だ」といえることに、本当に感謝している。

EC:自分や自分の子供がミュージシャンを志しているという人たちが僕のところに来てアドバイスを求めることがあるけれど、僕は「有名になりたいんだったらミュージシャンなんかじゃなくて株のブローカーか銀行強盗でも目指した方がいい」と言っている。有名になることが大切なんじゃない。今若くて才能のあるミュージシャンでも成功するのは本当に難しくなっている。僕が出てきた頃とは時代が違ってね。僕らが昔憧れていたブリンズリー・シュウォーツやクローバー、CSN&Yといったバンドも決して超有名というわけではなかった。有名かどうかが重要なのではない。

AB:才能があっても金銭的に苦しくて、手や腕に問題があっても治せないミュージシャンがたくさんいる。そして今このような事態になって、音楽の仕事を失った人が数多くいる。オースティンのミュージシャンの平均収入は16000ドルだという統計があって、普段でさえ苦しい人が多いんだ。

EC:僕らが演奏していた頃のリヴァプールは活気がなくて、Cavernのような有名なクラブも大企業のせいで潰れてしまって、今あるのは観光用に再建されたクラブだ。でも今は活気を取り戻して、オースティンみたいな存在になっている。僕の友人のイアン・ブラウズもリヴァプールで活動していて、こんな状況でも頑張っている。

ロイ・ネイサンソンはブルックリンの自宅のバルコニーでアルト・サックスを演奏して、そこに他の楽器が加わったり、音楽に合わせて踊ったりする人がいるそうだ。

今朝、有名なサックス奏者のソニー・ロリンズによるとても素晴らしいエッセイを読んだんだ。オンラインで読めるからアクセスしてみてほしい。アートや音楽に関する、すごく希望を感じる内容だから。ちょっと待って、今引用したいから(といってスマホで検索を始めて、冒頭部分を朗読)

https://www.nytimes.com/2020/05/18/opinion/sonny-rollins-art.html

When people talk about art, they tend toward a specific type of question. Who was the first to play a tune? Who owns a specific style? Who can judge when borrowing crosses the line? Those are questions for a political, technological world. In my mind, debates about black versus white — whether a guy can make $100 a year or $1 million a year from his art — are just dead ends. And technology, as Aldous Huxley said, is just a faster way of doing ignorant things.

なぜアートが重要なのか、なぜ演奏を続けるべきなのか。アートというのはテクノロジーと違って白黒をはっきりつけられるものじゃない。テクノロジーは無知なことを加速させるものだと書いている。アートは、収入が100ドルなのか100万ドルなのかは問題じゃないんだ。素晴らしいエッセイだ、この9週間に読んだものの中で最高の文章だった。

AB:僕がこういう時にいつも聴きたくなる曲をリクエストしていいかな。君が有名にした曲で…

♪ (What's So Funny 'Bout) Peace, Love And Understanding? (AMとEC交互に)

EC:あと一曲歌って最後にしよう。最後にサプライズがある。アラン、君が当時持っていたレコードから、この曲のアイデアを盗んだということがわかるだろう

♪ Alison(AMとEC交互に)〜Street Choir(ヴァン・モリソンのカバー)(EC)