2009年05月20日

香恵の視点

亜由美は香恵のマンションを訪れた。

なんだか息も絶え絶えに、亜由美はそれでも、聖士君を愛していて・・・

彼も私を愛していると言いはる。


香恵は冷静だった。
冷静・・・
そういうよりは冷めていたし、どこかで亜由美を軽蔑していた。

亜由美を軽蔑していたのか、聖士という人を軽蔑したのか、香恵にはわからなかったが、それでも亜由美を救いたいと思った。

あいつは亜由美なんか愛していない。
亜由美が愛と呼ぶそれは、あいつの執拗なセックスと暇さえあれば確認の為にしあう連絡で作り上げられた“勘違いのメイクラブ”。

『愛されてるの、守りたいの。守られたいの。』

そう呟く亜由美が痛々しい。

香恵は思った。

なぜわからないの?あいつは亜由美なんて愛していない。
そこに女がいて男がいる。情事があって、それを愛と吐き違える亜由美。

まぁ、恋愛なんて2人の間に成り立つものだし、頭を打たないと、いくら他人が間に入ったって、何を言ったってわからない。

ただ香恵は・・・亜由美にはわかって欲しかった。

愛、愛、愛。。。

愛なんて、亜由美が云う愛なんて幻想。


『幻想だよ。亜由美は頭がおかしくなったんだよ。聖士君は、亜由美なんて愛していない・・・と、私は思う。』

香恵は言い放った。

その瞬間。

亜由美は泣き崩れた。


香恵の言ったことに傷ついたのではなかった。


亜由美は、
『わかってるんだよ。本当は。』

と、消え入りそうな声で言った。


続く  
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2008年09月11日

現実

手紙の内容は、ごくごくシンプルなものだった。


亜由美へ

お雛さまを飾ったよ。

最近どうしているのかな?
たまには帰ってきてよ。

お母さんより


たったそれだけの、たった3行の文章だった。

携帯電話のある時代に、わざわざ母は、そんな事を伝えるために手紙を書いたのだろうか?

消印は2月の下旬だった。

ああ・・・
と私は思った。


この手紙がちゃんと私のもとに着いたことも、母は知らない。

今さら手紙が着いたよ!なんて電話も出来ない。

1ヵ月も放置された、その手紙に、風俗嬢になってしまった私が見たのは、そこにある真実だと気付いた。

母は、何を意図して、この手紙をしたためたのだろうか?
実際は、何も意図したわけではないかもしれないし、何かを諭すために書いたわけでもないかもしれない。

でも私は、その手紙を読んで涙が溢れ出た。

おごり高ぶって、綺羅綺羅に着飾った空っぽの自分。
愛はお金では買えない!
そう言い切ってしまう事の出来ない自分。

そして、1番は母の愛。


この人の子に生まれて良かったと、そう思うと同時に自分から溢れて止まらない自分への憎しみと卑下する気持ち。

葛藤。


何度読んでも裏も表もないその手紙からは、私の裏と表をきっちりと分けさせるぐらいの重みがあった。


母に会いたい。

そう思う。


逃げたい。逃げたい。逃げたい。

泣き崩れた。

不思議の国から、やっと戻ってきた私は“逃げたい”と心で叫んでいた。


何からだろう?
私は何から逃げたいのだろう?

混乱と恐怖が入り交じって頭がパニックになった。


そしてユニットバスの小さなトイレで毎夜の酒の飲み過ぎで、傷ついた喉から、血の混じった胃液を、吐いた。


父親が買ってくれたキティちゃんのトイレカバー。

ベッド、布団。

沢山のキティちゃんが私を睨んでいる。

たまらなくなった。

家から飛び出して、隣りのコンビニに駆け込むように入る。

その瞬間、フッと入れ違いで出ていった客から漂った香り。

ベルサーチ・ブルージーンズ。

今までに覚えのない感覚が襲ったのを自覚した。

息が出来ない・・・

どんなに頑張っても息が出来ない。
息が出来ないという言葉が適当なのか、違うのかは解らないが、とにかく息が出来ない。



大丈夫ですかっ!?

そう遠くから聞こえる店員だか誰だかわからない声。

救急車が来て、私はその場で処置を受けた。

“過呼吸症候群”

だと救急隊員に告げられた。

今までに、こうなったことは?などという質問。

もう、どうでもよかった。

返事も曖昧に、店員と消防隊員に礼を告げ、
特別意味も必要でもないトイレットペーパーを買って、コンビニをあとにした。

家に戻ると、またキティちゃんが私を睨みつける。


泣いて泣いて泣いて

その日は仕事に行かなかった。

逃げたいのは、聖士君からなんだと・・・私は


気付いた。

つづく  
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手紙

ナンバー1だった唯ちゃんとは仲が良かった。

仕事帰り、よくご飯を食べにいったりもした。

その彼女が、店をクビになった。

理由。本番嬢だったから。
私には、どっちでも良かった。
熾烈な争いをしてまでナンバー1の地位を欲しいとも思っていなかったし、第一、唯ちゃんは、いつも私に優しかった。

彼女がお店をクビになった日、彼女は私を呼び出し、焼鳥屋さんのカウンターで嗚咽を洩らして泣いた。

意外だった。

彼女のプライドだったナンバー1という地位。名誉。名声。

その可愛らしい顔。

そこからむき出しになった本音。

“彼氏に愛されたい。だからお金がいる”

お金のいる愛なんてない!そんな事言えなかった。

唯ちゃんは泣き止んでから
『ソープに行くわな』
と寂しそうに笑った。


唯ちゃんが店を去り、私はナンバー1になった。

風俗嬢なアタシが
当たり前になった。


春も訪れようとしていた日、私は久しぶりに枚方のマンションに帰った。

ポストの中は電気やガスの請求書の山。

その中に1通の手紙。

差出し人は母親だった。

読みたくなかった。
読みたくないと言うよりは、読むのが怖かった。

しばらく封を切らずに部屋の中でそれと睨めっこをした。

決意。

読んでしまおう。

やわらかい小春日和の日差し。

久々に空気を入れ替えられた部屋は歓んだかのように、やわらかくカーテンを揺らす。

本当なら心浮き立つ気分になっていいような天候なのに、ずっしり重い頭で手紙を読む。

つづく  
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消滅

人形と化した私は
少しずつ少しずつ、亜由美という人間を忘れていった。

香恵はひどくそれを嫌がった。

それでも私は彼と一緒にいたい。
彼が求める事なら何でもしたい。そういう想いはあった。


亜由美は虚像で鏡の中に映り、ありすちゃんな私が当たり前になっていった。


両親は今頃、何をしているのか?なんて、もう思い出すことも稀になった。

彼の為に生きること。

それが私の生きる道だと信じきっていた。


それを彼は気付いていた。
彼は、何にもない2人の為だけにある空間に、たまにしか帰って来なくなった。
私はさらに頑張った。
ありすちゃんである為の私磨きに余念がなかった。

ネイルサロンに通い、美容院にエステ。

私は、お店の中でナンバー2まで、よじのぼった。

その頃、聖士君は、クリアでナンバー1になり、私の中では、忙しくて帰ってこれなくて当然だ!なんて無理矢理なコジツケの言い訳を当てはめて、寂しさを紛らわせた。


本当は知っていた。

同じ店の中に聖士君の彼女と自分で言う女の子がいる事も。

でも私は、その子に何も言わなかった。

彼の邪魔をしたくなかったから。

もう彼が誰を何処かで抱いていたとしても、私は知らんぷりを決め込むことにしていた。

お金を遣えば、愛は買える。

そんな気すらしてくる。

クリアに行けば毎日、彼と一緒にいられるし、彼はずっと私の席についていてくれる。

他の女なんか、くそくらえ!ぐらい嫌だったから、彼を独占するために私は100万円以上するボトルを平気であけた。


彼は私のもの。
誰にも渡さない。


大学の冬休みが終わっても、私は大学に行かなくなった。

枚方にあるマンションだって、もうしばらく帰っていない。


季節は冬も終わりになろうとしていた。

つづく  
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人形

愛なんて言葉の意味はわからない。

恐怖の中の悦楽は何だか少し物寂しさがあって、ちょっとだけ塞がれて今まさに2人に寵愛を受けているはずなのに、空虚な気持ちがそこにはあった。

3P


彼は私の中で果てた。

香恵はひょうひょうとしていて、聖士君に物言いたげだったが、ふっと笑ったような顔をして、自分で服を着ていた。

何もない、この部屋の中に3人のおかしな空間があって、私は怖くてたまらなかった。

自分がどんどんと蝕まれて、いなくなってしまいそうだ。

そう思った。

裸のままの私に、聖士君は服を着せて

『な。』

とだけ言って強く抱き締めた。

香恵は気にいらない様子で見ていたけれど、煙草を吸ってから、そろそろ帰るわねと家を出ていった。


もう、香恵に2度と会えない気がして、ちょっと待ってって呼び止めたかったけれど、強く抱き締められた体は硬直していて、声も出なかった。


そう。
私の予感は当たらずとも遠くはなかった。


彼は。
聖士君は、私の全てをのっとって操縦し始めたのを、少しずつ少しずつ理解していく。


私の思考はもはや完全に停止状態になり、聖士君の思うがままに動く人形と化しつつあった。

つづく  
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2008年09月03日

閉塞

絡みつくように
私は聖士君にしがみつこうとした。

香恵は離さなかった。
つないだ手も
その指先も、唇も。

ネットリと至近距離で彼女は私のボタンを外し、首筋を這う。

息絶える

そういう感覚だろうか?

罠に“ハメラレタ”

私はそう気付いた。

香恵は聖士君の挑戦状に見事にハメラレタのだと。

スーッと唇が離れて、香恵は自ら裸になった。

聖士君はさも愉しげに私を後ろから抱き、耳元で呟く。

『な、どっちが亜由美は好き?香恵と俺。』

そう呟きながら香恵が外したボタンをひとなでして私を抱き寄せ、

丁寧に丁寧に



丁寧に私の安っぽい服を脱がせた。


『愛してる。』

また耳元でそう呟く。


頭の中で白いモノとか赤いモノとか黒いモノが走る。

砕けたように私は2人に舐めまわされる。



『唾を飲みたい。』

私がそう言うと

香恵は私の口にジュルジュルと彼女の唾液を押し込んだ。


そして、そこにねじ込まれる彼の性器を美味そうに喜んで頬張る私は、マゾヒスト以外のなにものでもないと思う。


全身の総ての部分が塞がれている感じは私から意識をうばっていく。


香恵なのか、聖士君なのか、どちらに犯されているのかすら解らない。


ただ遠退く。
意識。



『愛って何?』

私は涙を流しながら
悦楽と恐怖の中で

そう言葉を発した。


つづく  
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2008年01月15日

客観

そう。


当たり前のように
彼は私達2人の隙間に入ってきた。
いともたやすく。


その日も、私のマンションに入り浸り
夜を越えて、朝を迎えた私達のあいだに。

『仲いいのな。ホント』

と彼。

私と香恵は顔を見合わせて苦い顔をした。

何かが起こるね…そう心で会話したかのように。

『どれぐらい好きなの?』
っと返事をしない私達に彼はまた言った。

どれぐらい?
うーん…どれぐらいって?そうだな。親が子を一般的に愛するくらいは好きなんじゃなかろうか。

『亜由美が聖士君を好きなのと同じくらいよ。』

と香恵が答えた。

聖士君は鼻でフッと笑って…私に香恵の目の前でキスをした。
なめらかに、滑るように…私を抱き締めてキスをした。

香恵は黙って見ていた。


私は

『何?これは、何の意味があることなの?』

と言って少し構えた姿勢になる。

聖士君は香恵に言った。



『くやしい?』

笑いながら。
笑いながらというよりは…意地悪な笑みを浮かべて。

香恵は頭のいい子だ。

さらりと答えた。同じように微笑んで。

『くやしいね…でも』

私にも出来ると言うか言わないかのうちに、
彼女は彼がしたのと同じように私にキスをした。

そして

『でも亜由美は香恵のものでもあるよ。』

そう答えてのけた。

異様な空気を、
まるで私だけが客観視しているような錯覚に陥らされた。

物凄くそれは
客観的な光景で…、
自分自身の上から、また違う自分が観ている。

当たり前のような

そうでないような…


つづく  
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2008年01月10日

隙間

軟禁生活にも少しのゆとりはあった。

以前の大学の近くのマンションも契約したままで空き家状態だが、私が新しいマンションで生活を始めたことで、以前より近くなった事もあり、香恵はよく私が休みの日には遊びにきた。
家から出るわけでなく、ただワンルームの中で会話を楽しむだけなのだから、聖士君はそれに対しては何も言わなかった。

香恵は私を救い出そうと必死だった。

お互いがどんどん病的に自分と相手がわからないぐらいに依存しあっていた。

私も香恵もその空間に酔いしれ、それが異常だとも思わなかった。

彼女といると話さなくても楽しかった。
話さなくても平気だし、お互いの気持ちなんて話さなくてもわかった。

その少しだけ開いている隙間に2人でいられるだけで楽しかった。

一緒に眠る日もあったし、たまには一緒に聖士君が働く店に行く事もあった。

唯一の

私の隙間だった。

部屋のすみっこのほこりのように、掃除しにくいぐらい、癒着し、依存し、お互いの存在を認めあっていた………

その隙間を聖士君は決して見逃していたわけではなかった。

そう、彼は私達がすでに2人で1人だという事に当たり前のように気付いていた………

少しのゆとりと隙間に彼がじわりじわりと近づいていることなんて私達はちっとも気付いていなかった。

私は香恵が大好きだった。
天秤にかけられないぐらい………
私は香恵が好きだった。


つづく  
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2008年01月07日

聖士君は

しばらくは朝になると朝ご飯を持って帰ってきた。

朝ご飯を2人で食べて
寝る。

聖士君の携帯は喧しくよく鳴った。

ブンブンと

六月の蝿のように

よく動いた。


それでも彼は眠っていた。
動いている電話を見つめて1度は開いて誰からなのか確かめたいと思った。

でも

怖くて開けなかった。

その頃やっと、開閉式のパカパカ携帯が流行りはじめ…

iモードなるものが、出回った。

私と彼は色違いの同じ機種を京橋駅近くの携帯ショップで予約して買った。

彼が勝手に予約してきて

彼が勝手にお揃いだよと喜んで

2人で取りに行ったのを今も覚えている。


朝ご飯を私に与え、私の出勤前には起きて、行水のような短い風呂に入り

髪をセットしてから

彼はいつも出て行った。
『営業』に。

色恋枕…

何でもござれなんていうのは自覚していた。

抱いている女も私だけではないだろうと、気付いていた。
だから喧しく鳴り響く彼の携帯を開こうとは思わなかったし、開く勇気もなかった。

私の仕事が休みの日

私は久々に買い物に出掛けた。
梅田にあるヘップファイブに行こうと、タクシーに乗って降りたところだった。
携帯が鳴った

『はい?』

『オマエ何処にいるんや?』

明らかに彼の声は怒っていて…

『え?梅田』
とモゴモゴと答えた。


『今、何時かわかってるか?』

『6時過ぎ…』

『今すぐタクシー乗れ!そんな時間にそんなとこ歩いていいと思ってるんか!?』

『え?』

『え?とか言ってないで言われたとおりにしろって』

イラつく彼の声に

私はまたタクシーに乗った
帰ると…
そこには聖士君がいて

大目玉を食らった。

勝手に外出しない事。
勝手にご飯を食べにいかない事…………


その日から私は、マンションの前にあるコンビニに行くのにも許可がいるようになり、

そして隣りにあるファミレスすら行く事が禁じられた………

許されたのは、
出前を取ることだった。

軟禁生活が始まった。

何故そうまでして私を軟禁したのか私は今は知っている。
そう、誰にも私を管理されず、誰にも接触されず、彼の言うがままになる私を作り出したかったからだ。


飲み物は彼によって小さな冷蔵庫に定期的に補充された。


見張り番のついた牢獄に

定期的に餌が放り込まれる。


そこはとっても

息がつまる空間だった。

つづく  
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2008年01月04日

忘却

自分が何たるか。

私の逝く道には何があるのか。

明暗すらわからない、それ以上に真っ暗な手探りの道を歩く。

相も変わらず私は毎日アリスちゃんとして生きていて、ずんずんと、1人のとある某女子大学生である亜由美なんて人間を忘れつつあった。

夜な夜な通うホストクラブと、私の働く棺桶。

休みばっかりの冬休みの大学。

蟻地獄の巣と棺桶、盛り場を行ったり来たりの毎日。
何が楽しいかすらわからなくなって

何が食べたいかもわからなくなって

何もわからなくなって

毎日同じものを食べた。

ミルクちぎりパンと、ボスカフェオレ。

店では栗庵という店のポパイ丼を出前。

毎日同じメニューで同じように時間が過ぎて、毎日浸かるほどに酒を呑んだ。

私にはもう、


ゆとりなんて言葉がなくて………


少しずつ考えることを辞めていった。


私はゆっくりと

自分を忘れていくことで、自分から逃げていった。

それが

1番の選択肢だったのかもしれない。


つづく  
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2007年09月20日

空間

賃貸契約が成立したのち
私と聖士君の二人で
京橋駅のすぐそばにあるショッピングモールに布団とエアコンを買いに行った

12畳のワンルームには
セミダブルの布団だけが奇妙に浮いて存在していて

ほかにはなーんにもなかった。

空間……
空虚……

日差しの入る8階のその部屋には

カーテンすらなかった。

小さな冷蔵庫がモトモトついていて

そこからブラックの缶コーヒーを取り出して飲み干してから

煙草に火をつけて、それを灰皿がわりに使った。

なーんにもない私の新しい空間には

ユニットバスと

小さな冷蔵庫

あと布団だけがあった。

ベランダに出てうる覚えのデタラメな歌を口ずさんだら

後ろから聖士君が私を抱き締めた。

コンッと私の頭の一つ上にある顎をぶつけて

『もう何も怖くないか?』
と彼は聞いた。

何も言えなかった。

ただ、静かに私は頷いた。私の中にはデタラメな曲が流れたまんまで
なーんにも考えてなんかいなかった。

デタラメなその音楽は私の脳を破壊し、そのうち、脳みその皺まで末梢するだろう。

私はもう、
自分自身が何たるかすら、忘れつつあった。


つづく  
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2007年09月19日

あの頃はどうだったとか
今はどうだとか
そういう事を議論してロジックに考えたって時間は過ぎていくもんだという事を今の私は考えられるのだけれど、
その頃の私は其処に執拗に執着していた。
あえて執着することで、自分という人間が何たるかを証明する事しか出来ないちっぽけな存在だった。
生きる上で大切な6大栄養素
糖質
脂質
蛋白質
ビタミン
ミネラル



私にはそんな栄養素より聖士君の存在が生きる糧で、何よりそれに依存することで生きていた。

元旦が過ぎて、私は一人家を探しに行った。

パンドラで眠ることに、私はほとほと疲れていた。

でもそれは、開けてはいけないパンドラの箱を開けた瞬間だった。

家を借りるだけのお金はもっていた。
でも、私は未成年だった。
保証人が必要だった。
親には言えない。
そう………
聖士君に名義を借りることしかできなかったのだ。

私は京橋の近くに家を彼の名義を借りて住みだした。
聖士君は
『愛の巣』
だと言った。

それに私は過敏に反応した。同棲生活が始まることに、凄く興奮した。

ピチョンピチョンと


私の心に雨漏りのする音を聞くことを知らないまま。

ただ、嬉しかった。


つづく  
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2007年09月15日

吉凶

初詣に詣りましたのは初めてでして………
すみません。神様?仏様?御先祖様?

参拝の仕方なんて知らないんです。


えぇ、実はアルバイトもしたことないですよ。

世間知らずという名札をつけて私は歩いてるようなもんです………。


人生初の初詣は手をつないで聖士君がくれた百円玉を賽銭箱に入れた。

お祈り?お願い?

何だかわからないけど背中がぞくぞくして
神様か仏様か誰だかはわからないけど、私がずっとこの手を離さないように見張っていてください
そう心でつぶやいた。

『ねぇ、何考えてこれお願いしたの?』

そう聞いた私に彼は、

『それは言っちゃ届かないよ』

と笑った。

そんなものなのかぁ。よくわからないけど私今幸せだからいいやなんて、刹那的過ぎるよなって落胆。。。

おみくじ

待ち人きたり………

誰?それ。

恋愛耐えれば成就する。

はぁ…耐えますよ。
でもこの恋が刹那的なものなのはどっかで自分で気付いていたりした。

私には羽がない。
だからお願い翼をくださいと神様に祈る日がくるような気がして、握った手をさらに握り締めた。

中吉

不安とか、恋愛感情だかわからないものが一緒にがちゃがちゃやってきて私をあおる。

こんな時も親の顔がかすめるのが不思議だ。

あぁ…愛されて育ったんだと実感する。

怖かった。
なんだか、怖かった。
隣りにいるはずの聖士君が笑っているのも、何だかうすぼけて見えた。

私は神様?今どこにいるんですか?

つづく  
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2007年09月14日

初詣

両親と別れてからすぐ私は煙草に火をつけた。

聖士君に逢いたい。

アイタイアイタイアイタイノ


たったそれだけ。

私はすぐに電話をかけた。
プルル………
『どうした?』
聖士君の声が聞こえてきて頭が呆然としてクラクラした。

『……………』
何も答えない私に彼は言った。
『今、大阪か?』
『うん………』
『初詣いくか?』

初詣なんて行ったことがない。両親はそういうのにこだわらないタイプだから、1度も生まれてこのかた行ったことない。

『初詣ってどんな?』

意味不明の返事を返した私に聖士君は

『あー亜由美、初詣知らないんだなぁ。今日行こうか?近鉄線は出てこれるか?』

『うん。いけるよ!』
『じゃあ、駅で待ってるから』
え?

『ねー聖士君、車は?』
『あのなー、車なんかでいったら混むでしょ?本当オマエ頭いいのに何にも知らないのな』
って言う聖士君の声はやさしくて愛おしかった。

私は、何だか嬉しくてウキウキした気分になった。

今までの憂欝が嘘みたいだ。
まぁそもそもその憂欝だって、両親を好きで仕方ない自分が、勝手に居場所がないなんて被害妄想に突っ走っちゃっただけだっていうのだって、十分わかってはいるんだけど。。。

私は手鏡を見ながらウィッグを付けなおしながら電車で考えていた。

いつになれば、両親と向き合える自分になれるのかなと…………


待ち合わせ場所に彼はいた。ただ、私はまたその出立ちに驚愕した。
ベルサーチのスリムのジーパンに豹の絵が描かれたニット………その上に毛皮のコート………


おい!……………いったいいつ時代の感覚で服を選べばそうなるんだ。。。

いや………あえて言えない言えない。
触れてはいけない。
服装なんて見た目で人を………うーん。。。判断しちゃあいけねーんだ………ってオイ!
そのレベル越えてるだろ!『ねぇ、その服………』

『可愛いやろ?』
ってすかさず聖士君がそういうから言えないじゃん。頼むよ亜由美………
もっと押しの強い人になってくれよ〜………ってまぁいいか



って切り替え早いなオマエってか私!

とにかく彼の服装は中身でカバーってことで。

私達異様な服装の二人は手をつないで電車に乗った。
あー初めて二人で電車に乗るんだよ。ねぇ、みんな見て見て。私達カップルに見える?

電車の中で彼は聞いた。

『家は?』

答えない私に、彼はしばらくだまってつないだ手を強く握って言った。

『亜由美は亜由美のままかわってないぞ?大丈夫。ずっと恩は忘れないから』

恩か………。
握り締めすぎた私の指先が白くなっていた。

私は鶴の恩返しみたいに恩返しなんてできると思ってないし、そこまでして、してほしいと思わない。

今のまま、貴方が健康で隣りで笑っていてほしい。
例えその距離が離れても、私の存在を忘れないでいてくれればそれでいい。。。
そう思った。

電車はニ人を乗せてどこまでも行ってくれる気がした。私は


彼が好きだ。

もうそれだけでいい。


つづく  続きを読む
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2007年09月13日

居場所

水族館は楽しかった。

いつものシキタリにしたがって家族写真を全員で撮った。
母親がウィッグをはずせというから仕方なくはずして撮影はしたものの

父親も母親も仲よさげにみえるその写真を満足していたのはその次の年の年賀状がソレだったのに現われていると思う。

うちにはいろんな事情があってお年玉という制度はない。まぁ、話すと長くなるので簡略的に言ってしまうと、うちには親戚というつながりがない。


だから元旦には好きなものを買ってもらえた。

でも水族館に私のほしいものは何にもなくて
あえて言うなら私もこの水族館の魚たちみたいに一緒に泳ぎつづけたいと思った。

マグロという言葉がHにはつきものだが、生きているマグロは泳ぎ続けないと生きていけない魚だ。

死んでしまってやっと、ゴロンゴロンと動かない冷凍マグロになる。

死ぬことを取るなら私は永久に泳ぎ続けてやりたい。狭い水族館でもかまわない。ぐるぐると同じ場所でも私は泳ぎ続けたいと思った。


自由


なんて言葉誰がつくったんだ?

誰もどの動物も自由なんて兼ね備えてないのに。


何にせよ考えるところが沢山あって水族館は楽しかった。

アルバイト先で友人が風邪をひいたから替わらないとダメだからという理由で、私は父親と母親に謝って、その場で別れた。


明るい光を家族にも求めたい。

本当は寂しいんだよって泣いて伝えたかったけど

私は自分の今ある居場所に帰ることにした。



つづく  
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2007年09月12日

逝き場所

ポストの中には
千枚近い年賀状がはいっていて

それを毎年毎年
家族の名前ごとにわけるのが好きだった。


私に届いた年賀状なんて、美容院とか服屋さんからしかなくて
より一層憂欝な気分になった。


もう消えたい

ここからいなくなりたい。
ぶっちゃけてしまえば、その意見が1番強い。

でも………
逃げられない。

今年は水族館に行こうと父親が笑顔で言うのを
なんだかさえない頭で聞いていて

あぁ………大阪に帰れると思った。

私の家は
もうここにはないんだと
思いながら

グシャグシャッっと年賀状をゴミ箱に捨てたら
母親が呆れ顔で

何をしてるのよ


とつぶやいた。

そんな言葉おかまいなしに外に隠れて煙草を吸いに行った。

煙草はずいぶん前から吸っているが
誰もそれは知らなかった。

私は昔の優等生の私のままでなければならなかったから…………

私は
誰?
ナンノタメニイルノ?
誰か教えてよ。。。

頭を掻き毟ってみて
フッと笑ってしまった。

水族館に行ったら
そのままその足で1人で仕事場に帰ろうと思った。

私の逝き場所は
もうないんだ。


つづく  
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2005年12月21日

元旦

元旦の朝

父を上座に
並んで座り

父に挨拶をする


おせち料理をつつきはじめた頃には
私はもうひどく憂欝な気分で
数の子がなんとなく尖形コンジロームにしか見えなくなってきて
吐き気がした。


最近の私は本当に
‘オワッテル’

きっと働きすぎだ。

時々自分の手から精子の匂いがするような気がする。

黙って数の子を
箸の先でつついている間に
家族は今日どこにいこうかという相談を始めていた。

我が家では元旦は家族全員でお出かけをするものだということに
その頃はなっていた。


私は黙ったまま数の子をかじった。

聖士君からのショートメールを待って携帯をチラ見しながら

早く1人になりたいと思った。


正確には
聖士君に今すぐに会いたかった。


家族といることがバカバカしくて、自分なんていなくていいのにと半分開いたままの雪見障子から見える庭をながめた。


枯れた芝生が汚く生えていて
春を待ちわびる冬眠中の動物の気持ちがわかる気がした。


ここに小川があれば
その小川が凍らずに流れていれば…
私の気持ちももう少し
報われるかもしれないなと感じた。

郵便配達が届く音がして
私は玄関へと出た。

つづく  
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2005年06月05日

煩悩

大晦日の夜は
いつものように更けていってるはずだけれど

なんとなく私は
これまでよりもそわそわしていた。

自分の居場所がないとかあるとかって被害妄想を盛り上げて
なんだかわからないままそわそわしていた。


某教育番組の歌合戦とか
無意味なテンションのバラエティー番組とか
無性に私を疲れさせる

目の前にある小さいチーズケーキをものも言わずにワンホール食べきってしまおうとしている自分に気がついて

また太るのにさぁ〜と突っ込んでみたりした。


連絡をよこさない娘に
父も母も何も聞いてはこない


私が思っている以上に
この人たちは私に関して無関心なのかもしれないななんて感じてしまって

腐りきった被害妄想だらけの私を

殴りたくなった


馬鹿高いテンションのカウントダウンが15を叫びだしたとき

私は電話を持って
聖士君の番号とみつめあっていた

こういう時携帯って
たいてい込み合ってるの何のって言ったりして
かかって欲しい
つながりたいときに
つながらないもんなんだよと自分に言い聞かせて

彼の番号を押した。

5・4・3…

プルルル…

あっ…
何かわからないけど手が震えて
何だかわからないけど切らないといけない気がした。

2・1………

『あけおめ!!』


彼の声が遠くに感じて
何だかぼーっと目の前がかすんだ

ほんの数秒
声がでなくて
とにかくドキドキ胸が鳴った。


私のこの1年は
明るいかもしれない。
君とずっと
つながっていられるのかもしれない


そんな未来が
ちょっぴり霞んで明るく見えた

日の出はアナタと見たい。初夢もアナタの傍で見たい。アナタに抱かれて過ごしたい。
今年も来年も
再来年も…


そんな行く年来る年。

煩悩とともに
浄化されて
年が始まるとともに
私はまた清くなれるのか

本当にそうなら
来年は鐘でもついてやるさと思う。


闇夜にダンス…
ジョーカー

つづく  
Posted by ayumix5 at 23:10Comments(1)TrackBack(0)

2005年06月04日

境界線

金髪に近い
ウィッグをつけて

目の周りを真っ黒に塗り

短い黒いベロアのワンピースを着て

目の覚めるようなオレンジのコートを羽織って

15センチもある厚底ブーツを履いた私を見て

母は私の偽物の髪を引き剥がした。

冷静に
『顔を洗ってきなさい』

そう母は私を一瞥してから言った。

『何のために?』

鼻でせせら笑う私に
さも不愉快そうに…

もう1度、母は
『洗っておいで』
と言った。

理解は出来た。
田舎の…
こんなど田舎で
そんな格好をして歩いている子なんて

ここら辺では見かけない。

当然、私だってみたことない。


冷たい水が
肌にばしゃばしゃかかるのを

何となく他人の肌のようにすら感じる。

私の顔は
私の中身と同じように
センシブルの欠片もないくらいに
鈍感になっているのかもしれない。


母が買ってくれた
ラルフの黒いワンピースを着て
白い上品なコートを着て
普通のコートを着て

父が誕生日に送ってくれたティファニーのアレを

付けてくれば
よかったのに……

馬鹿だな。

顔を拭きながら
タオルをギュッとして

舌打ちをした。


つまんないけど
此処には此処の風が流れていて
此処では此処なりの
目には見えない
それなりのシキタリがあって…
それを私は泥だらけの靴を履いたまま
土足でグシャグシャグシャと音を立てて
畳の上を歩いているんだっていうことに
気付いた。


あぁ〜ぁ…
私は…
何もかもを忘れていっちゃうつもりなのかな〜。

久しぶりに会う親の顔は


何だか少し遠くに感じて
鏡の中のスッピンの私に


『おまえなんか死んぢゃえよっ』


って…小声で
呟いた。

此処を
私の居場所にしては
いけないのだなって

哀しくなった。

あぁ…居場所がない。  
Posted by ayumix5 at 19:54Comments(5)TrackBack(0)

2005年06月03日

懺悔

最近…
なんか店が年末年始のイベント中でさ
休んだら罰金で
何だかわからないくらい働いてて
寝る時間もなくて
この上なく辛かった。

今日は師走の最終日

つまり
大晦日…なのにさ
日の出営業なうちの店に
出勤命令下されて…
アリスちゃんご出勤。


指輪はつけたまま働いています。
彼氏いるの?
そんなの耳が腐るくらい聞きました……。
彼氏はいます。
彼氏はホストです。
えぇ、えぇ、
よくあるパターンよ。
貢ぐために働いています……。

なんて………。
言えたら楽チンだろうなぁ

アナタが好きよ
なんてほざく色恋営業は苦手なんだけど
思わせぶりな態度でお客様をひっぱるのが私には1番合ってるみたいで
馬鹿正直にはなれない毎日に欝憤がたまる。


今は電車に乗ってる。
うん…。
お正月だから
実家に帰るよ。

私は結局
なんにも捨てられずにいる……。

家族との連絡は
私からはしていないんだけれど

1人ぼっちになるような気がして怖くて

私は何も捨てられずにいる


私は聖士君のこと
裏切って
信じることが出来ないまま……
中途半端な愛のまま
仮面をかぶって生活しているのかもしれない。


愛なんて
何処にあって
どんな形をした
食べ物だろう?

それはどんな味がして
どんなに誰かを
幸せな気持ちに
させるのだろう?

禁断の果実は
手の届くところにあるのに………


ひたすら私は
無視をする。

私は
自分勝手で
小汚い
動物だ。

つづく  
Posted by ayumix5 at 20:25Comments(1)TrackBack(0)