March 13, 2007

「失われた町」三崎亜記

 

読書シリーズです。

失われた町
「失われた町」三崎亜記(集英社)

 

30年に一度、そっくり町が消えてしまうという現象。

残された人たちは運命に翻弄され、抗いながら、

さまざまなアプローチで、親しい人を失った

自分自身の心と向き合い、闘う。

SFファンタジーなんだろうけど・・・不思議な小説。

「消滅耐性」「汚染」「順化」「分離」「別体」「古奏器」・・・

この世界ならではの特殊な用語が並ぶ。

 

「町がそっくり消える」

という現象そのものにとらわれると理解不能に陥る。

でも、この構成、SFファンタジーな設定は、

きっと、この作者にとって手段に過ぎないような。

 

この作者が書きたかったのは

「喪失感」。

一度でも、大切なものを失った経験のある人ならば

この小説の表現したかったことに共鳴できるんじゃないかな。

 

最初はなかなか入り込めなかった私ですが、

この入り組んだプロットに徐々にひきこまれ、

エピソード6あたりでは涙が出て仕方ありませんでした。

 

最後には、ほんの少しの救いも残されています。

 

指輪物語」「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」・・・

といった「暗いファンタジー」好きな私としては、

かなりおすすめのファンタジーです☆☆☆☆☆

 

「・・・その音色は、単なる「癒し」ではなかった。人には決して癒されえぬ悲しみや苦しみがあることを知る音だった。それらを抱えたままに進んでいかなければならないという貫くような意志と想いが託されていた。・・・人は失われても望みは受け継がれていく。決して失われないものもあるのだ。・・・」

               「失われた町」より

  

 



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1. 失われた町 三崎亜記  [ 粋な提案 ]   August 06, 2010 17:27
ある日、突然にひとつの町から住民が消失した―三十年ごとに起きるといわれる、町の「消滅」。 不可解なこの現象は、悲しみを察知してさらに...

この記事へのコメント

1. Posted by @odo6   March 15, 2007 09:36
コレ、ちょうど読んでいるところでした。不条理感に少しずつ浸食され、それに取り込まれていく漠然とした「怖さ」は、前作の「となり町戦争」にも共通していますね。極端な状況を通して、現代人の感覚の鈍化や、思考停止のまま、現状を受け入れていくことの危うさを問うているような気もします。
「消滅」というテーマで書かれたオススメをひとつ。
「密やかな結晶」小川洋子(講談社)
身の回りにある物が「消滅」する度にそれにまつわる記憶も消えていきます。忘れることの悲しみまでも・・・。
2. Posted by まめこ@あずきらいふ   March 15, 2007 23:49
>@odo6さん♪

 ちょうど読んでたところとは!嬉しい偶然です。
 そうですね、一応架空の世界ではあるんだけど、現代人になにか警鐘を呼びかけているような作品ですね。
 私の好きなアニメ「攻殻機動隊」シリーズにも通じるところがあるな・・・とも。
 こんどは、「密やかな結晶」読んでみますね
3. Posted by 藍色   August 06, 2010 17:28
こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
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