乾くるみ『セカンド・ラブ』の感想です。

※本作及び、『イニシエーション・ラブ』のネタバレを含みます



ごく個人的な見解ですが、『イニシエーション・ラブ』の何が良かったかというと、A,Bパートで仕掛けられた叙述トリックそのものではなくて、その結果として生まれた状況の方だったりします。
状況、というのを言い換えると、あの作品において提示される「通過儀礼的な恋愛」という概念が、Aパートではマユによって、Bパートでは辰也によってどのように処理されているか、ということです。


処理の方法は、どちらも「他の相手と付き合う」ことですが、その意味は全く違います。
まず、Bパートの辰也は「通過儀礼」を普通に乗り越えて、マユとわかれて美弥子と付き合うという選択をしています。二人の女性と同時に付き合いながら、後に付き合い始めた女性を選んでしまう、という。「儀礼的恋愛」を認めるようなものになっています。
一方で、Aパートにおけるマユは、相手を同一視することによってそもそも「通過儀礼」が無かったかのように振舞うことでそれを乗り越えている、というように少し方法が違います。
最終章にてマユから「たっくん」と呼びかけられる辰也の感じた恐怖というのは、自分が乗り越えた「儀礼的恋愛」をまだ続けているかのような人間から感じる恐怖であり、彼女に不幸の影が落ちていないように感じられたことによる恐怖でしょう。実際、Aパートの二人は、終始幸せそうに(問題があっても気づかせないように振舞う人間がいるおかげで)過ごしているように映ります。


で、さて『セカンド・ラブ』ですが、『イニシエーション・ラブ』を下敷きにしてますよね。
今回の叙述トリックの犠牲となった(?)語り手のサトやんですが、彼は要するには、「通過儀礼」を乗り越えられなかったのでしょう。
まぁ言ってしまうと、彼にとっての不幸は、彼の前に表れた二人の女性が同一人物だったことですよね。このことで、『イニシエーション・ラブ』で行われた乗り越え「同時に付き合っていた他の女性へ逃げる」ことが封じられたばかりか、マユの行った「通過儀礼の無効化」とでも言うべき方法がそもそも取れないようになっている。本当に同じ人物ですからね。

これは余談ですが、「どうせろくなことにならないんだろうな」と思いながら読んでいた私は、先輩の彼女が「彼と別れた」という話を切り出してきた時点で、「いけ、フラグ立ったからいけ」と思っていたんですが駄目でしたね。彼の逃げ道はここしかなかったと思うんですが。そのせいで……


とまぁそういうわけで、「通過儀礼」を越えて、結婚というゴールに至るというのが「セカンド・ラブ」という言葉の意味なんじゃないでしょうかね。今回越えた「通過儀礼」は他人のものでしたが……




で、ここからさらに余談ですが、文庫版表紙が良くできているなぁと。『イニシエ~』の表紙は、手を繋いでいる男女、『セカンド~』の表紙はブーケと共に手を繋ぎあっている男女。作品テーマがわかりやすく表出してる。
そして思うのは、次回作(らしい)『トライアングル・ラブ』なんですが、これ三角関係ものだと思うんですけれど、もしかしたらテーマは「離婚」になるんじゃないかな、という事です。いやまぁ全くの勘ですが。そしてその場合、表紙はどんな感じになるのかなーと。

万が一「手を繋がない」という表紙になったら「勝った!第三部完!」とか思いながら読もうと思います。


では以上。
全く触れなかった気がするミステリ部分ですが、「幽霊が見える」をオチにもってくる周到さが素晴らしいと思います。




セカンド・ラブ (文春文庫)セカンド・ラブ (文春文庫)
乾 くるみ

文藝春秋 2012-05-10
売り上げランキング : 9620

Amazonで詳しく見る
by G-Tools