2011年08月16日
吉田秋生「海街diary4 帰れないふたり」
(flowers コミックス)
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ああ、鎌倉行きたいっ!
何もかもから解き放たれて、あの街に住みたい!
ビバ鎌倉!
父は愛人に逃げ、母はもう亡い。そんな鎌倉に住む香田三姉妹。
父と愛人の間にできた娘、すずを父の死んだ時に引き取って、妹として自分たちと一緒に住まわせることにする。
すずは、鎌倉のお祭りで香田三姉妹の長女、幸が恋人といるのを見かける。
しかし、その恋人は、彼女が勤める病院の医師、椎名。
椎名を見知るサッカーチームのチームメイトたちは、一緒にいる幸が彼の妻でないことを悟り、不倫じゃないかと口々に囁き合う。
やはり、チームメイトで同級生の風太は、それがすずの姉であることを知っていた。
姉のことが気になるすずは、風太に導かれて、姉の後をつけることに。
日が暮れるが、なかなか姉と椎名は別れようとしない。
すずと風太は帰れない。
「どうしてもだめだったの? 好きになっちゃいけない人を好きになって、いろんな人を傷つけて、自分自身も傷ついて、それでもどうしようもなかったの?」
もはや、とって帰れない関係になった椎名と幸、幸の後をつけていて帰れない風太とすず。
そんなダブルミーイングな「帰れないふたり」。
幸のやっていることは、彼女の父親の愛人、すずの母親がやったことと同じ。
妻子ある男性を好きになること。
母親のことを思い出し、そして、姉の気持ちを思いやり、そして涙を零すすず。
「やっぱ気持ちのどっかで奥さんのいる人好きになるなんてよくないと思ってて、でもお姉ちゃんの気持ちもよくわかる気がして、好きな人のことあきらめるのつらいだろうなって」
中学生なのに、そんな状況のお姉ちゃんの気持ちがわかっちゃうすずって、それだけこれまで波乱だったんだろうなあと思わせる、そんな台詞。
でも、そんな「どっかの奥さんのいる人好きになるなんて」ことをして、母が父と逃げなければ、自分という存在はなかったんだろうなというそんなジレンマに、風太が答える。
「なにがいいとか悪いとかそういうのわかんねえけど、おれは浅野がこの世に生まれてくれてよかったって思ってるから」
物事の結論ってこれくらい単純なものかな。
生まれた子には罪はないというけれど、恨みの矛先は関係者にも及ぶことなんて多々ある話だ。
すずの気持ち、風太の気持ちに心がつんと染みた。
鎌倉という小さな町の中で様々に絡まりあい、揺れ動く人間模様がとても心地よい、海街diaryの4巻。
自由奔放に生きる三女、千佳の恋人であるなんとなく正体不明のスポーツショップの店長の正体が明らかに!……ってほど意味深でもないけれど、千佳がなんでこの人を好きになったのかなっていうのが、ちょっと垣間見えるお話あり。
結局、不倫の恋と決別する幸は、すずの監督「ヤス」に誘われて、晩御飯を食べて「久しぶりにおいしいごはんを食べたと思った」。 次女佳乃は、なんとなく冴えない上司と一緒にランチへ行ったり。
新たな物語が走りだした感じのこの物語。すずの中でも、少しずつ風太の存在が大きくなり始める。
彼らの関係性の先行きがとても気になる。そして、アジフライが美味しそうで、お腹が空く。