2015年11月29日

九井諒子「ひきだしにテラリウム」



 テラリウムってなんだっけ? 原始哺乳類の名前? と思ってググってみたら、植物を小さな硝子の箱で栽培するアイテムでした。
 そんな小さな環境世界を体現したバラエティなアイテムがたくさんあるような、珠玉のショートショートを集めた本。
 ちなみに原始哺乳類の名前はデイノテリウムでした……。

 「ダンジョン飯」でも感じていたのだけれど、ネタ自体がこうちょっとズレな感じで描かれている。そして、「竜の学校は山の上」と同様にメッセージ性がその裏側に隠れている。隠れているけど、手とか足とかいろんなところから見えすぎてる感じ。
 つまりうまくネタでカモフラージュして、エンターテイメント的なストーリー展開も楽しめるけれど 、ちゃんと伝わるべきところは伝わりやすくできているということ。

 冒頭の「すれ違わない」。少女マンガ風の絵柄で始まる恋愛モノ。
 失恋するヒロインが雨の中で傘も差さずに濡れながら泣いているというお約束のようなシーン。
 実はヒロインは妹を彼女と勘違い。追いかけてくる彼氏は彼女の鼻に鋭いものを差すと……全部、彼女は理解する……なんじゃそりゃ(笑)と思ってたら、それは実は未来の漫画家が描く歴史モノのマンガという流れ。
 鼻に刺されたのは、その未来の時代で気持ちを伝えるための何かのアイテムだった……みたいな。
 感情のやり取りがあるからこそ、マンガって面白いのよね。こんな気持ちを一発で伝えるアイテムみたいなものがあったら……世間的にはい ろいろ誤解も解けて便利だろうけど、マンガ的には面白くなくなるだろうなぁ……と言ってもそこはそれ、クリエイターの腕が試されるんだろうなぁ。携帯が普及してから、電話でのすれ違いがなくなって、物語作りの面白さが1つ減ったみたいな話もあるし。
 「ノベルダイブ」は眠る直前に小説を読みつつ、寝入りばなに見るへんな夢と小説の妄想が入り混じるお話。ああ、夢ってこういうヘンな展開ある。というかなぜか寝る前に本を読んでると、うとうとしながらヘンな文章が見えることがある。書いてもないことが。あれ、なんなのか。
 「えぐちみ代このスットコ訪問記〜トーワ国編」は旅行ルポの体裁をとったマンガ。
 コメディタッチなギャグ絵で描かれるルポマンガと、シリアスタッチな 現実の状況が交互に描かれる。ルポマンガってあまり生臭いこと描かれないよね、東南アジアや中国の旅行のルポを見てても。過酷な現実も笑いに昇華したりとかして。でも、そんなコメディの裏側には描かれない生臭いものがあるのよねみたいな言葉を感じた。
 このトーワ国という日本よりも貧しい国の少年は、鬱屈した感情で取材に来ているえぐちみ代こという漫画家を見ている。どうせ、この国をネタにして笑いものにしようとしているのだろうと。しかし、彼女の描いた美しいスケッチの中に日本という遠くの国の人々の、異国であるこの国に対する変わった視点に気付いていく。
 見方が変われば気持ちも変わるというのは、この演出方法もそうだし、原住民である彼の気持ちもそうという意味で ダブルミーイングになってるのだろう……って考えすぎだろうか。

 海岸に住む「すごいお金持ち」。彼が何をしているのかという説明に、登場人物がするツッコミがいちいち面白い。
 金をうなるほど持つことの豊かさというのは結局、使い方を知らないと意味がない……とかそんな教訓を含んでいるように見える。

 メッセージ性の強さとナンセンスさが交互に見え隠れする短い物語。
 どれも作者の物事の捉え方の多様性を感じる。深いようで浅く、浅いようで深い。
 いじめや差別の問題を紙芝居にして、小学生に見せようという中学生たちの討論もまた面白い。
 彼らは紙芝居に使おうとしていたネズミとウサギと言う題材から、両者の歴史と戦争についての考察を始め、その根っ この深さに愕然とした。
 いじめや差別っていうのは実は一朝一夕で論じて、なんとかしようとできる問題じゃないのだというそんな重さを感じさせつつ、ただの交友会のための「いじめダメ!」の紙芝居にそこまで掘り下げてかんがえていることの滑稽さを描く。
 九井諒子の作品は実に魔法のごとし。そんな結末アリなの?と問いたくなるような結末に、まぁアリかもしれないと納得するところまで魔法。



babatune06 at 00:00│Comments(0)TrackBack(1)漫画 

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1. ひきだしにテラリウム(九井諒子)  [ 漫画レビューブログ:カピ原温泉 ]   2015年11月29日 21:17
「ひきだしにテラリウム」九井諒子 最短で2ページの短編33篇がぎゅっと詰まった短篇集。 不思議なお買い得感がありますw 以下気になる作品をピックアップして感想を書きます(`・ω・´)ゞ

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