ねむようこ「三代目薬屋久兵衛」3巻ゆうきまさみ「白暮のクロニクル」8巻

2016年10月07日

村上春樹「海辺のカフカ」




「村上春樹はメタファーが多くて、わかりにくい」というイメージがいつの頃かできてしまった。
 おかしい。よくよく考えてみると「スプートニクの恋人」を読んでなんだ春樹、意外と読めるじゃんと再確認した20代前半の頃は、中学生時代「カンガルー日和」を読んで「なんじゃこりゃ」という感想を抱いた自分も、これは大人にならないと読めない著者の作品だと満足したし、近作「1Q84」もエンターテインメントを意識していて読みやすい作品だと思った。「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」もテーマ的にも相当伝わりやすい出来になっていたし、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」はファンタジー要素が強くて、読む人を選びはするものの娯楽的側面 は強いし、「ねじまき鳥クロニクル」も世界観に没頭が強い作品だった。
 どれも確かにメタファー的要素は強いけれど、楽しめる作品ばかりだ。なのに、なんでこの「わかりにくい」という印象が強くなったのかというと……どうやら読み直してみるにこの作品のせいらしい。

 15歳の誕生日に家出をする少年。彼は田村カフカを名乗り、行動をする。
 若いながらにどことなく神経質で、ストイックな生活を送る彼。高速バスに乗って高松にやって来る。
 そして、ホテルを拠点に「甲村記念図書館」という私設の図書館へ通い、そこで本を読み漁ることにする。
「書庫には自由に入っていいよ。閲覧したい本があれば、そのまま閲覧室に持っていくことができる。ただし赤いシールがついてい る貴重な書籍については、その都度閲覧請求カードを書いてもらう」「本の貸し出しはしていない。雑誌と新聞は置いてない。カメラは禁止。コピーも禁止。飲食は庭のベンチで。閉館は5時」
 スタッフの大島に説明を受けるカフカ。その図書館の責任者は佐伯という50代の女性で、もともとのこの図書館の持ち主である人物と過去に色々とあった人物だが、その相手はいまはこの世の人ではない。大学で理不尽に命を奪われてしまったから。
 カフカ少年は後にこうした佐伯さんの数奇なる人生について知ることになるが、その前に。
 彼は高松に来てから8日目、気を失って茂みの中に倒れていること気付く。誰か知らない人間の血まみれになっていた彼は戸惑い、高松へ来るまで高速バスの中で一緒 だったさくらという年上の女性に電話で助けを求めるのだ。

 ナカタという名の初老の男はネコと話ができる。
 彼は太平洋戦争中、謎の事件に遭遇して以来、多少知恵遅れの気があり、ちゃんとした職につけない。
 代わりに知事から生活保護のお金を受けているという。彼はネコ1匹1匹と話がしやすいようにみんな、固有の名前をつけて、覚えている。
 時々、そんなネコと話せる特質を生かして、ネコ探しの仕事をしているのだ。
 ある時、いつものようにいなくなったネコを探していると、そのネコがジョニー・ウォーカーを名乗る男性に捕われていることを知る。
 ジョニー・ウォーカーはとある目的のために、ネコをたくさん殺そうとしていた。ナカタは目の前でそのネコを1匹1 匹残酷に殺されていく様子を見てしまう。
 ナカタはそれまで感じたことのない衝動に駆られ、ジョニー・ウォーカーを殺してしまう。
 そして、彼はとある使命感に突き動かされて、ヒッチハイクで西へ西へと向かった……。

 カフカ少年とナカタという初老の男の物語が微妙なラインで交わりつつ、離れていく。
 春樹作品には、2つの物語が交錯するかしないかの距離で進むことは、往々にしてある。
 だが、この作品はその2つにどういう関連性があるのか、あまりよくわからない。
 ジョニー・ウォーカーを殺したナカタと、遠い地で血まみれになって倒れていた少年は関連性がありそうで、なさそうで、やっぱりありそう。
 少年はどうして佐伯を生き別れた母に、サクラを姉に 見立てるのか。どうしてジョニー・ウォーカーはネコを殺していたのか。ネコの魂で笛を作るとはどういうことなのか。
 ジェンダーマイノリティー的な存在を持つ大島のこの物語で持つ役割は? 少年が迷いこんだ「町」は何の寓意なのか。ナカタさんが開いた「入り口」とは何の入り口なのか。ナカタさんから出てきた異様な存在は? 多くの疑問が浮かんでは消える。
 そもそも、そんなこと考えなくても村上作品は実に楽しめるものが多いのだけれど、この「カフカ」だけはそこのところを解さないと、すっきりしない。そこらを全部スルーしてしまうと、この物語はほとんど何も残らない。結局、何のお話だったの?的な。
 発行当時、同時にカフカに関しては関連本がいくらか発行されて、作者 本人があれこれとインタビューに答えたり、読者とやり取りをしていたので、そういうのを読んでたら、まぁわかるところはわかったんだろうけど、実際、作品の中だけでそういうのは済ませてくれないかなーと思っている。
 評価は決して低くないのだけれど、個人的にはこの「カフカ」に関しては、全体的に物語の展開や設定に強引さを感じざるを得ない。

babatune06 at 00:00│Comments(0)TrackBack(0) 小説その他 

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