ダイバーKENJIがGBRをゆく

オーストラリア、クイーンズランド州のタウン情報を毎月配信している日本語フリーペーパー、バグース・マガジン(www.bagguse.com)に”ダイバーKENJIがGBRをゆく”という題名でコラムを連載しておりましたが、2005年4月から2012年3月までの全84回でコラムの投稿を終了致しました。今までコラムを読んでいただいた方、コメントをいただいた方、長い間本当に有難うございました。継続して、水中動生物の生態やGBRダイビング産業の動向に興味ある方の為に、コラム自体は削除せず閲覧できるようにしています。単語検索が可能なので興味あるテーマを探して閲覧することで参考になれば幸いです。コメントよろしくお願いします!

全84コラムが掲載されています。

興味のあるワード ⇒ 例 : ”サメ”、”産卵”、”ウミウシ”、”水中写真”、”インストラクター”
などから検索が可能です。
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尚、本ブログ内で使用している写真の多くは、ケアンズ在住の水中写真家「梶本 聡」
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サカタザメ先日、ダイバー同士の会話で“サカタザメ”はエイなのかサメなのかで討論がありました。実際どちらでもいい話なのですが、意外と知らない人が多いようなのでこれらの違いを紹介してみましょう。まず、サメもエイも軟骨魚類で原始的な魚類の仲間と言われています。魚類の約97%は硬骨魚類で後の残りがそれらにあたります。基本的に軟骨は腐ってしまうのでこれらの仲間は顎だけで身体全体の標本は存在しません。現在のところ、サメ9目約500種、エイ4目約530種が確認されています。単純にサメとエイの違いは?と聞かれると、平たいのがエイで円筒形がサメと答えるのがごく普通ですが実は大間違い!平たいかどうかは分類上重要ではありません。実際は、鰓穴(えらあな)が開く位置で決まってくるのです。単純に鰓穴が腹面にあればエイ、側面にあればサメなのです。水族館などで横から見た時、縦に並んだ鰓穴が見えればサメで見えなければエイということです。頭がショベルのような形をしていることから英名ではショベルノーズシャーク、またはショベルノーズレイと呼ばれているサカタザメの仲間・・・。実は日本語名ではサメなのですが、エイの仲間が正解です。しかしながら、エイにしか見えないカスザメ(サメの仲間)や、エイの仲間のウチワザメなど・・・実はややこしいのがいっぱい!エイの仲間は細長い尾と5〜6対の鰓(えら)を持ち、そのうちのほとんどが卵胎生(胎内で卵を育てる)です。中には尾に毒針を持つ種も存在します。クロコダイルハンターの異名を持っていたスティーブン・アーウィンは2006年9月4日にグレートバリアリーフにおいてアカエイの仲間に刺されこの世を去ってしまいました。エイはサメほどの恐怖心がありませんが、このような事故もごく稀に起こるのです。エイもサメも雄の腹鰭の軟骨の一部が変化して棒状に伸び、2つのクラスパー(交尾器)が発達するため、雌雄の見分け方が簡単に行われます。繁殖期に入ると雄は雌の背後から胸鰭近くに咬みつき、互いに腹面を会わせて交尾を行います。サメが“交わる魚”と書いて“鮫”と読むのもこれらの行為が由来だと言われています。サメとエイには共通する知られざる特徴が数々と存在するのです。 面白いですよね!“ダイバーKENJIがGBRをゆく”は前任のダイバーHIDEから引き継ぎ、今回のコラムで84回を迎えました。早いもので、スタートしてから丁度7年の月日が経ちます。残念ですが私的問題から今回のコラムを持ちまして終了することとあいなりました。今までコラムに目を通して頂いた皆様、長い間本当に有難う御座いました。機会があればGBRのどこかでお会いする日が来るかも知れませんね!

キンセンイシモチ近年では親が子を捨てたり子育てを放棄するなど、親としての責任を欠いた痛いニュースをよく耳にします。そんなご時世の中でも水面下の小さな命たちは少しでも多くの子孫を残そうと命を擦り減らしながら生きているのです。今回は様々な海水魚の中でも子育てをする魚に絞ってお話ししていきましょう。魚に限らず生きものが繁殖する理由は自分の遺伝子をこの世に残すためだと考えられています。そのためには繁殖行動を増やし、たくさんの卵を産み、更には子どもの生存率を高めることが必要となります。この生存率を高める方法の一つとして子育てが挙げられます。魚たちは変わりゆく様々な環境変化に適応するために子育てを取り入れたのです。海水魚のおよそ13%が子育てするといわれていますが、その中で最も多い子育て方は見守り型(60%)です。スズメダイやハゼのように海底の岩や海藻に産みつけられた卵を新鮮な水を送り世話をし、卵や稚魚を食べようとする外敵を追い払います。通常、オスの縄張りにメスを呼び寄せ産卵し、オスが子育てするのが一般的です。次に多いのが抱きかかえ型(21%)で、タツノオトシゴやテンジクダイのように親自身が卵を体の表面に付着させたり、育児嚢や口の中で抱えて子育てする方法です。この方法は親の体の大きさによって子育てできる子の数は制限されてしまいます。最後は妊娠型(19%)で、サメやエイ、ウミタナゴのように体内受精により交尾を行うことで受精した卵や稚魚をお腹の中で育てる方法です。お腹の中である程度の大きさまで成長させることで死亡率を抑えることができるのです。ただし、子どもの数が少なくなる特徴があります。僕自身が特に興味深いのは抱きかかえ型の中でも親が口のなかで卵を保護する口内保育型(マウス・ブリーダー)です。多くのテンジクダイ科の魚がこれに当ります。キンセンイシモチやネンブツダイ、ジョーフィッシュなども含まれます。グレートバリアリーフでよく見られるキンセンイシモチは、通常小さな群で生活することが多いですが、初夏になって水温が上がりだすとカップルになり、群から離れて産卵のためのテリトリーを作り始めます。その頃からオスは大きく口を開いて卵を口に押し込む練習をし始めるのです。メスがオレンジ色の卵を産むと同時にオスは放精し、顎を大きくずらして卵をくわえ易い状態にします。オスが卵をくわえた後はアゴが異常に大きくなり、エラの隙間から卵が透けて見えることもあります。新鮮な海水を卵に送り込む為に口を開く度に、綺麗ないくつもの粒々が見え隠れします。初めはオレンジ色だった卵も日がたつに連れて銀色になり、オスの口は見事パンパンに膨れ上がるのです。口内保育期間の約2週間は絶食状態なのですからお父さんは大変!子孫繁栄のためとはいえ、涙ぐましい光景ですよね!人間の親が小さな魚から見習うべきことはたくさんあるのではないでしょうか・・・?

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グレートバリアリーフでは季節によって様々なイルカやクジラの仲間を観賞することができます。比較的ゆっくりと走るクルーズボートならば、イルカの群れが併走してくることも多々あります。イルカやクジラは人間の心を癒し、虜にしてしまう愛らしさを持った水生哺乳類といえます。今回はこれらイルカやクジラの生態やその違いについてお話ししていきましょう。イルカは漢字で「海豚」と書きます。海の豚というには見た目もスマートで知的印象を持っているので多少違和感がありますよね・・・。体重に占める脳の割合が人間に次いで大きいことから並外れた知性を持つ動物と考えられています。ちなみに海ではなく河になると河豚(フグ)になるのも疑問を感じますが・・・。クジラ類ハクジラ亜目に属するイルカの仲間は世界中の川や海、汽水域にも生息する肺呼吸を行う水生哺乳類です。イルカは息継ぎをしながら常に泳ぎ続けていることから“眠らない動物”として有名でしたが、現在では右の脳と左の脳を交互に眠らせる特殊な能力(半球睡眠)を持つことがあきらかになってきました。目を閉じてから息をするまでのおよそ1分間が睡眠時間(一日にこの1分間を300回〜400回繰り返す)となり、一定方向に回転しながら眠ることが知られています。面白いことに南半球のイルカは時計回り、北半球のイルカは反時計回りに回転しながら睡眠をとるのです。右の脳が眠っている時は左目を、逆に左の脳が眠っているときは反対の右目を閉じて寝るのです。クジラは古来哺乳類ではなく「魚」と思われていましたが、大きさが普通でなかったことから、京(兆の1万倍の単位)のような計り知れない魚ということで「魚」と「京」をあわせて「鯨」となりました。鯨はその名の通りクジラ目に属し、大きく分けるとハクジラ亜目とヒゲクジラ亜目に分別されます。ヒゲクジラ類はシロナガスクジラやザトウクジラに代表される大型種で主にプランクトンや小魚などの小型生物を主食にしています。ハクジラ類はマッコウクジラやゴンドウクジラが有名でヒゲクジラに比べると比較的小型種が多くイルカ類も含まれます。その名の通り歯を持っており魚類やイカ類を食べます。イルカとクジラは世界的にみて分別して扱われ、別名で呼ばれることが多いですが、生物分類上では一切差がありません。しかしながら、日本語では成体の体長が約4mを超えるとクジラ、それ以下をイルカと分別しているのです。もちろん中には異例もあり、コマッコウやゴンドウクジラは成体が4mに達しませんがクジラに分別されています。その逆でシロイルカの成体は5mに達することもあり、クジラの仲間と称されることもあるのです。カンガルーとワラビーの呼称と一緒で、ただの大きさだけで分別されていたなんて、なんともびっくりで納得のいかない話ですね・・・。

fish0008-e8グレートバリアリーフは夏に向けて日々水温も上昇し、潜り易い季節に入ってきました。しかしながら、水温の上昇と共に増え始める厄介な生き物も中にはいます。歓迎されない夏の訪問者、それがクラゲです。今回は水中を漂う摩訶不思議な生き物、“クラゲ”についてお話していきましょう。クラゲを漢字で書くと“水母”、または“海月”です。水の母ともいえる単細生物でもあり、また、その可愛い容姿からか海の月にも例えられるのです。古くから伝わる日本の民話では罰として骨を抜かれた間抜けな生物として登場します。ウミガメの好物としても有名ですね・・・。淡水、または海水に生息する刺胞動物門で浮遊生活をする生物の総称が“クラゲ”です。身体はゼラチン質で柔らかく、多くのものは傘状の形をしており、傘下の中心部に口を持ち縁から触手を発達させています。例外的にはカツオノエボシ(Bluebottle Jellyfish)のように浮き袋を持っていて水面に浮いて漂うものもいますが、通常は傘を開閉させることで水中を泳いで移動しています。逆に変わり者の中には水底に沈んで生活するサカサクラゲがいます。ほとんどのクラゲは雌雄異性で、卵から幼生(プラヌラ)が生まれ定着してポリプ(イソギンチャクのような物)になり、やがて、お椀を重ねたような形のストロビラからエフィラ幼生となって泳ぎだします。大きさは目に見えるか見えないかというほどの小さなものから、長い触手の10mを超えるものまでいろいろ存在します。この世に存在する生命体の中で唯一の不老不死と騒がれたベニクラゲや日本や中国などで食卓に並ぶエチゼンクラゲやビゼンクラゲも有名です。更に共生藻を体内に備え、光合成産物をエネルギーに変えてしまう賢いクラゲもいるようです。触手にある刺胞で獲物に毒を注入し、動物性の餌を捕る危ないクラゲも存在します。オーストラリアで恐れられている有毒クラゲとしてはハブクラゲ(Box Jellyfish)やイルカンジ(Irukandji Jellyfish)などが有名です。これらの有毒クラゲから身を守るため、オーストラリア北東部では10月から6月までのサマーシーズンはスティンガーネット内だけの遊泳がビーチで義務付けられます。多くのクルーズ会社では水中でのアクティビティーにはスティンガースーツの着用を推奨します。特にハブクラゲの毒は強く、Sea Wasp(海のスズメバチ)とも呼ばれています。四角い身体に長い触手を持ち、大きなものでは80cmにもなります。また、イルカンジも強い神経性の毒を持ち、刺されると背中や腹部の激痛から吐き気や嘔吐、更に血圧の上昇を伴うイルカンジ症候群を引き起こします。これら毒クラゲの急激な増加は研究によると地球の温暖化に原因があると言われています。私たち人類が巻き起こした環境問題でもあるようですね・・・。

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