(その1)です。続きは明日。

1 基本契約の効力が存続しているのに、過払金充当合意の効力のみが消滅することはあり得ますか?
  あり得ません。 。
  最高裁平成19年6月7日民集61巻4号1537頁は、権利行使の法律上の障害である過払金充当合意は、基本契約に含まれている合意としています。過払金充当合意は、基本契約とは別個の合意ではなく、基本契約の一部なのですから、基本契約が継続している間は、過払金充当合意も効力を有することになります。

2 リボルビング方式の基本契約に含まれる過払金充当合意と、法律上複数の取引が事実上1個の貸付取引とされる場合に認められる過払金充当合意は同じものですか。
  違います。
  リボルビング方式の基本契約に含まれる過払金充当合意について、最高裁平成19年6月7日民集61巻4号1537頁は、「これを本件についてみるに,前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間で締結された本件各基本契約において,被上告人は借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員を借り入れることができ,借入金の返済の方式は毎月一定の支払日に借主である被上告人の指定口座からの口座振替の方法によることとされ,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算することとされていたというのである。これによれば,本件各基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件各基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解されるのであり,充当の対象となるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。そうすると,本件各基本契約は,同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,上記過払金を,弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより,弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。」と判示しているように、当事者の明示の合意内容から過払金充当合意があるとされたものです。
  これに対して、「同一の貸主と借主の間で基本契約に基づかずに切替え及び貸増しとしてされた多数回の貸付けに係る金銭消費貸借契約について、従前の貸付けの切替え及び貸増しとして、長年にわたり同様の方法で反復継続して行われていたことを理由に、それらを1個の連続した貸付取引であると認定し、その場合には、過払金充当合意が認められるとした最判平成19年7月19日民集61巻5号2175頁や、中断期間を置いて、複数の基本契約に基づく貸付取引が存在する場合に,第1の基本契約に基づく取引から生じた過払金は、その後に締結された基本契約に基づく借入金債務には原則として充当されないが、取引の中断期間等のいわゆる6要素を考慮して、事実上一個の連続した貸付取引と評価できる場合は、過払金充当合意が存在するものと解するとした最判平成20年1月18日民集62巻1号28頁などが、法律上複数の取引が事実上1個の貸付取引とされる場合に認められる過払金充当合意の例です。ここでは、法律上の合意内容から過払金充当合意が認められるのではく、貸付けと返済が長年に渡って継続・反復したというような「取引の事実上の側面」から過払金充当合意が認められています。
  最高裁平成20年1月18日判決は、「第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当する旨の合意が存在すると解すべき場合」について判断したものであり、基本契約が1個で、その中で分断が問題になる事例に対しては先例とはなり得ないので注意してください(その場合は最高裁平成19年6月7日判決が先例となります。)。

3 過払金充当合意の効力はどういうときになくなりますか。
  この認定根拠が異なる2種類の過払金充当合意は、過払金充当合意の消滅の根拠に際しても違いがあるというべきでしょう。例えば、法律上複数の取引が事実上1個の貸付取引とされる場合に認められる過払金充当合意は、「取引の事実上の側面」が過払金充当合意の認定根拠なのですから、借主が債務を完済して、その後「取引の事実上の側面」についての動きがない期間が長年続くと、効力が消滅すると考えられます。
  これに対して、リボルビング方式の基本契約に含まれる過払金充当合意など、当事者の明示の合意の内容から過払金充当合意が認められる場合は、「取引の事実上の側面」が過払金充当合意の根拠ではないのですから、債務の完済等の「取引の事実上の側面」についての動きがなくても過払金充当合意は消滅しないと解されます。リボルビング方式で債務が完済されたことは貸付枠が最大に広がったことを意味するにすぎません。未精算の過払金がその後新たな借入金債務が発生するまで待機している状態です。その基本契約に基づく新たな借入金債務が発生すれば、その借入金債務に充当されますし、充当されないまま新たな借入金債務が発生しないことが確定すれば、その時点で過払金充当合意が消滅し、過払金返還請求権の消滅時効の進行が始まることになります。

4 最高裁平成21年1月22日判決は、過払金返還請求権の消滅時効の起算点を,特段の事情がない限り取引終了時とし、自動継続条項による基本契約の効力継続の点を問題にしていない、という見解についてはどのように考えるべきですか。
  最判平成23年7月14日判タ1361号94頁において、金築誠志裁判官がそのような補足意見を書いています。しかし、最高裁判決が基本契約の効力を問題にしていると考えざるを得ないことはこの書面の他の箇所で説明したとおりです。たしかに最判平成21年1月22日は、基本契約については何も言っていません。しかし、最終取引時から時効が進行するとも言っていません。「最終の貸付けや最終の弁済」と「取引の終了」は別の概念だと考えられます。最終取引が時効の起算点とした場合の不都合は、本書面の他の箇所で詳しく説明しています。 金築補足意見について特に触れておきたいのは、その補足意見が書かれた最高裁平成23年7月14日判決は、法律上別個の基本契約である、第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付け取引と評価できるかどうかが争われた事案に関する判決であるということです。この事案において、法律上別個の基本契約に基づく取引が事実上1個の連続した取引として評価されるかどうかは、「同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されたかどうか」等の「取引の事実上側面」に重点をおいて考慮せよという法廷意見は、それなり合理的というべきでしょう。
  しかし、最高裁平成21年1月22日判決等が判示したのは、当事者の明示の合意内容から過払金充当合意があるとされた事案に関してです。これについて、主に取引の事実上の側面に重点をおいて考慮せよというのは、理論的な整合性がありません。さらに言えば、なぜ、金築判事は、これを取引の事実上の側面から認められる過払金充当合意の成否が問題になる事案に関する判決の中で述べたのかという疑問もあります。金築補足意見は、論理的に破綻しているほか、法廷意見となんの関係のないことを補足意見で論じているという点でも批判されなければなりません。最高裁判決は、事件を離れて裁判官が自分の見解を発表する場ではないのです。

5 借入金を約定利率で計算した残高で完済すると過払金充当合意の効果はなくなるのですか。
  リボルビング方式に基づく取引の場合はなくなりません。
  リボルビング方式の基本契約に含まれる過払金充当合意など、当事者の明示の合意の内容から過払金充当合意が認められる場合は、「取引の事実上の側面」が過払金充当合意の根拠ではないのですから、債務の完済等「取引の事実上の側面」についての動きがなくても過払金充当合意は消滅しません。リボルビング方式の取引において債務が完済されたことは、貸付枠が最大に広がったことを意味するにすぎません。未精算の過払金がその後新たな借入金債務が発生するまで待機している状態です。その基本契約に基づく新たな借入金債務が発生すれば、その借入金債務に充当されますし、それが発生しないことが確定すれば、その時点で過払金充当合意は消滅し、過払金返還請求権の消滅時効の進行が始まることになります。
  最高裁平成21年1月22日判決民集63巻1号247頁の事案でも、約定利率による計算で債務の完済になったことが全くなかったわけではありません。途中3年超えるもの(1226日)を含む4回の完済とその後の借入れまでの空白期間がありました(原審である東京高判平成19年12月13日の認定によります。)。しかし、最高裁は、約定利率計算による残高での完済時に消滅時効の進行を始めるとは言わなかったのです。約定利率計算で完済すると時効が進行を始めるというのなら、最高裁平成21年1月22日判決の事案においても、基本契約継続中の完済時点から時効の進行が認められていたはずです。
  取引の事実上の側面から過払金充当合意が認められる場合は、約定利率計算による残高で完済すると、その後、貸付けとその返済が連続するといった「取引の事実上の側面」がなくなりますから、その後の取引が前の取引と事実上1個の連続した貸付取引と評価されるような場合を除いて、過払金充当合意は消滅すると解されます。