嘆かわしい世も末な訴えの原告代理人のツンデレです。
 この裁判で原告が訴えているのは、①100万円及びこれに対する遅延損害金の支払い、及び、②保育園の敷地に隣接する土地の境界線上において、50db以下となるような防音設備の設置です。
 ①について前のエントリで説明しましたので、今日は②について説明します。

 かつて、国道43号線の騒音や排ガス規制に関して、周辺住民が国や阪神高速道路公団を訴えた事件がありました。
 そこにおいて、原告が被告らに求めた差止請求に関する請求の趣旨は、
 一 被告らは、本件道路を走行する自動車によつて発生する騒音及び二酸化窒素  を、
 1 騒音については中央値において、午前六時から午後一〇時までの間は六五ホ  ン、午後一〇時から翌日午前六時までの間は六〇ホンをそれぞれ超えて、
 2 二酸化窒素については、一時間値の一日平均値において〇・〇二ppmを超え  て、
 いずれも、目録(五)及び(九)記載の各原告の肩書住所地所在の居住敷地内に侵 入させて、被告国は本件国道を、被告公団は本件県道を、それぞれ自動車の走行 の用に供してはならない。 
というものでしたが、一審の神戸地裁は、この差止請求を特定されていないという理由で却下しました(門前払いしたということです。)。
 一 本件差止請求の適法性
 本件差止請求は、要するに本件道路を走行する自動車から発生する騒音及び二酸化窒素が一定の基準値を超えて原告らの居住敷地内に侵入しないよう、被告らに対し適当な措置を行うことを求めるというものである。それは、形式的には騒音及び二酸化窒素の侵入禁止という一見単純な不作為を求めるかのようであるが、現実には被告らにおいて後記のとおり様々な措置のいずれかを行つた結果としてもたらされる不侵入という事実状態を求めるものであり、実質的には被告らに対し作為としての右の措置を行うことを求めるものにほかならず、結局その内容は、考えられる限りのあらゆる作為を並列的、選択的に求めているものと解さざるをえない。
 ところで、一般に原告に対し請求の趣旨の特定を要求する理由は、それが裁判所において既判力の客観的範囲、二重起訴、当事者適格の有無の判断を行うために不可欠であるほか、審理の対象、範囲を明確にして、適切、迅速な訴訟指揮を行うためにも必要不可欠なものであり、また、被告において十分に防御権を行使するためにも重要なものだからである。
 したがつて、請求の趣旨の特定に関し、仮にこれに対応する判決主文が言渡されても、それは間接強制の方法で強制執行ができるから、その特定に欠けることはない旨の原告らの主張は、その特定が要求される右の理由に照して採用の限りでない。
 この特定が不十分であるという判断は、控訴審の大阪高裁で覆されているのですが(訴えは適法だが、差止請求の要件を満たしていないので、差止請求は棄却という判断)、ツンデレが考えたのは、強制執行の方法についてです。
 もし、原告が、「被告は敷地から50dbを超える騒音を出すな」という判決を求め、裁判所が、「被告は敷地から50dbを超える騒音を出してはならない。」という判決をしたとします。原告としてはめでたしめでたしですが、もし被告がこれに従わなかったらどうなるでしょうか?
 原告は、勝訴したからといって、保育園の園児たちをしばりつけて、猿ぐつわをし、声を出させないようにすることができるわけではありません。神戸地裁がいうように、「出たら金を払ってもらうよ」という脅しで判決に従わせるようにすることができるだけです(これを間接強制と言います。)。さらに言えば、その都度、50dbを超えたか超えてないかで揉めることだって考えられます。そのときは、超えたか超えないかをまた裁判所に判断してもらう必要があります。これではいつまで経っても問題が解決しません。
 そこで、原告が求めたのが「保育園の敷地に隣接する土地の境界線上において、50db以下となるような防音設備の設置」というわけです。これであれば一度設置されてしまえば安心です。なんらかのアクシデントで基準を超える音が外に漏れることがあるかもしれませんが、それは例外的でしょうから原告の生活を脅かすことにはならないはずです。
 また、防音設備の設置は、仮に被告が判決に従わない場合、原告が設置し、その費用を被告に請求するという方法(直接強制)が可能になります。さらに、「保育園は50dbを超える音を出すな」という請求では、園児たちが保育園内で遊ぶことを躊躇させる結果になるのではないかということも考えました。そのあたりもそのような請求をしなかった理由です。

 なお、この国道43号線の事件は、その後上告され、最高裁は平成7年7月7日に判決を言い渡しています。
 そこでは、
 身体的被害に至らない程度の生活妨害を被害の中心とし、多数の被害者が全員に共通する限度において各自の被害につき一律の額の慰謝料という形でその賠償を求める事案において、各自の被害が受忍限度を超えかどうかを判断するに当たっては、侵害行為の態様及び被害の内容との関連性を考慮した共通の基準を設定して、これに基づき受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別することに合理性があるというべきである。原審の適法に確定した事実関係によれば、本件においては、共通の被害である生活妨害によって被る精神的苦痛の程度は侵害行為の中心である騒音の屋外騒音レベルに相応するものということができるところ、原審は、前記1の諸要素を考慮した上、公害対策基本法九条に基づく環境基準及び騒音規制法一七条一項にいう指定地域内における自動車騒音の限度の各値をも勘案して、(一) 居住地における屋外等価騒音レベルが六五以上の騒音に暴露された被上告人らは、本件道路端と居住地との距離の長短にかかわらず受忍限度を超える被害を受けた、(二) 本件道路端と居住地との距離が二〇メートル以内の被上告人らは、(1) その全員が排気ガス中の浮遊粒子状物質により受忍限度を超える被害を受けた、(2) 騒音及び排気ガスによる被害以外の心理的被害等を併せ考えると、屋外等価騒音レベルが六〇を超える騒音に暴露された者が受忍限度を超える被害を受けたと判断したものである。要するに、原判決は、受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別するため、居住地における屋外等価騒音レベルを主要な基準とし、本件道路端と居住地との距離を補助的な基準としたものであって、この基準の設定に不合理なところがあるということはできず、所論の違法はない。
と判断されています。要するに自分ちの騒音が65dbを超える場合は全員が 損害賠償を請求することができ 、道路から20メートル内に住んでる人は騒音が65dbを超えていなくても、60dbを超えているなら損害賠償請求ができると判断したわけです。

 ツンデレの事案と国道43号の事案を比較すると、距離は10mだけど、排気ガスの問題はない、騒音は昼間だけというマイナス要因があり、逆に、おそらく保育園の公共性は国道より高いとは言われないだろうとか、防音壁の設置なら道路の通行量を制限するのとは違い、営業活動の制限にはならないなどといったプラスの要因もあり、そのへんの各要素について、裁判官がどれをどれだけ重視するかによって結果が変わってくるのでしょう。もちろん、被告が、原告の測定した値は信用できない、測り直せといってくる可能性もあります(望むところですが。騒音計って、自治体が貸し出して市民に使ってくださいってものだし)。

追記(26.09.09) 
 50dbの基準についてであるが、毎日新聞の報道だと、原告は、「神戸市が工場などを対象に定めた規制基準が保育園にも適用されるべきだ」と主張したことになっている。しかし、それは正確ではない(そういやあ、朝日新聞の記者からは、「神戸の基準は60dbなのに、なんで50dbなんですか?」って聞かれたなあ。これだから実際に法廷に来ない人はぶつぶつ…)。
 50dbの根拠は、東京都の「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」である。この条例は、神戸市などが定める工場等への規制と異なり、人の話し声などでも「時と場合によっては、大きな騒音源になる」ことを認め、それに対する規制を定めたものである。

生活|東京都環境局 大気・騒音・振動・悪臭対策
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/air/noise_vibration/daily_life_noises.html
tokyo



















 これについては、「あえて保育園を擁護しない」で触れたが、生活騒音についても

第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域及び準住居地域であって第1種区域に該当する区域を除く地域に関する午前8時から午後7時までの規制基準を50デシベルと定めている。
http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/g1011328001.html  
 この「第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域」などという区分は、日本全国共通であり、原告の居住区はこれに該当する。したがって、もし神戸市に「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」と同じ内容の条例があれば、被告の保育園は50dbの規制を受けたはずだということができる。
 そして、これまた前のエントリに書いたように、「同じ音が、東京都民の場合は受忍限度を超え、神戸市民だと超えないとする理由はないと思う」し、東京都民の子どもが出す50dbの騒音と神戸市民の子どもが出す50dbの騒音に違いがあるとも思えない。
 そういうことを考えて、「50db以下となるような防音設備の設置」を求めたというわけである。請求の趣旨には、「大は小を兼ねる」機能があるので、もし裁判所が、50db以下となるような防音設備の設置は認められないけれども、60db以下となるような防音設備の設置なら命ぜられると考えた場合、「50db以下となるような防音設備の設置」しか請求していないから防音設備の設置を求める請求は棄却するとは言えないはずなのだ。


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