最高裁第一小法廷平成27年8月25日決定(平成26年(あ)1045号 傷害致死被告事件)
http://kanz.jp/hanrei/data/html/201508/085298_hanrei.html

 事案はよくわからないが、決定によると「所論は,刑訴法48条3項は,弁護人が最終弁論前に公判調書を謄写する機会を奪うものであって,憲法31条に違反する,という。」だそうだ。
刑事訴訟法48条
1項  公判期日における訴訟手続については、公判調書を作成しなければならない。
2項  公判調書には、裁判所の規則の定めるところにより、公判期日における審判に関する重要な事項を記載しなければならない。
3項  公判調書は、各公判期日後速かに、遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理しなければならない。ただし、判決を宣告する公判期日の調書は当該公判期日後七日以内に、公判期日から判決を宣告する日までの期間が十日に満たない場合における当該公判期日の調書は当該公判期日後十日以内(判決を宣告する日までの期間が三日に満たないときは、当該判決を宣告する公判期日後七日以内)に、整理すれば足りる。
 「遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理しなければならない。」という3項が問題になっているところからすると、おそらく、この事件では、弁護人の最終弁論までに公判調書ができあがっておらず、弁護人は公判調書を参照して最終弁論ができなかったじゃないかと不服を申し立てたのであろう。
 公判調書には、証人や被告人の尋問の結果が記載される。弁護人としては、弁護人の主張の総まとめである弁論要旨は、すべての記録を検討したうえで、きちんと意見を述べたいと思うのは自然の感情である。事案によっては、公判調書を見直して主張すべきことに気付くことだってあり得る(刑訴規則52条の10に、この点に配慮した条文がある。)。弁護人としては、「少なくとも最終弁論をする前までにはそれまでの公判調書ができあがっているべきである。裁判所がその点について便宜を図るのは憲法31条の適正手続の保障に含まれている。」と言いたかったのであろう。
 これに対する最高裁の判断は、次のとおりである。
このような刑訴法等の規定を統一的に解釈すれば,同法48条1項により公判調書を作成する本来の目的は,公判期日における審判に関する重要な事項を明らかにし,その訴訟手続が法定の方式に従い適式に行われたかどうかを公証することによって,訴訟手続の公正を担保することや,上訴審に原判決の当否を審査するための資料を提供することなどにあると解される。
(3) そうすると,上記の公判調書を作成する本来の目的等を踏まえ,公判調書を整理すべき期間を具体的にどのように定めるかは,憲法31条の刑事裁判における適正手続の保障と直接には関係のない事項である。所論は前提を欠き,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

同法48条1項により公判調書を作成する本来の目的は,公判期日における審判に関する重要な事項を明らかにし,その訴訟手続が法定の方式に従い適式に行われたかどうかを公証することによって,訴訟手続の公正を担保することや,上訴審に原判決の当否を審査するための資料を提供することなどにあると解される。

(3) そうすると,上記の公判調書を作成する本来の目的等を踏まえ,公判調書を整理すべき期間を具体的にどのように定めるかは,憲法31条の刑事裁判における適正手続の保障と直接には関係のない事項である。
 前半と後半は論理的につながってるのだろうか?
 「訴訟手続の公正を担保すること」が公判調書作成の目的の1つであるとしておきながら、「公判調書を整理すべき期間を具体的にどのように定めるかは,憲法31条の刑事裁判における適正手続の保障と直接には関係ない」と言っているのである。「訴訟手続の公正を担保すること」って適正手続の保障そのものだと思うのだが… もちろん、最高裁は、「直接には関係ない」と言っているだけで、全く無関係(間接的にも関係ない)とは言っていないのであるが、それじゃあ、「直接的」と「間接的」はどう違うのかとか、間接的に関係するにすぎない場合ならどうして憲法違反にならないのかとか、いろいろ突っ込みたいところが出てくる。
 実は、この結論部分を導くにあたって、より直接的に最高裁の見解を示していると思える部分は、上記よりも前の部分にある「正確な公判調書を作成し整理するに当たってはある程度の日時を要することは避けられないところ,そのために集中審理の実現が妨げられるということは刑訴法の想定するものではない。」というところである。この部分にすでに「公判調書の作成が遅れたところで裁判の適正は害されない」という評価が現れている。しかも、この部分には、そのように解釈する根拠は何も示されていないのである。
 こういう主張をしている以上、弁護人は、上告趣意書の中で、おそらく、最終弁論までに公判調書が作成されないことによる不都合をいろいろと述べていたであろうに、それに対する共感を示す文言は一言もない。ツンデレは、この最高裁判決について、「公判調書の作成が遅れたところで裁判の適正は害されないから憲法31条違反の問題は起きない」との判断を上から押しつけているだけの、弁護人の活動への理解に欠けた、上から目線判決だという印象をを受けた。せめて、「弁護人はこういうが、それはこうこうこういう事情でやむを得ない」とか、1個1個丁寧に応対することくらいしてほしかったなあ。それができないからこういう判決になったのかもしれないが(だとしたら、実質的には言い返せなかった最高裁の負けであろう。)。

 なお、民事事件で、口頭弁論調書の作成期限はどうなっているのかと思って調べたところ、民事訴訟法、民事訴訟規則に、それに関する条項を見つけられなかった。ご存じの方教えてください。


KAGEYAMA_140120