それは、4月半ばのある日の昼下がりのことであったと記憶している。一人のお婆さんが、突然事務所に現れた。なにか相談をしたいらしかったが、こちらもいろいろ忙しかったので、3日後の●時に起こしくださいと言ってお引き取りいただいた。
 ところがその日の夕方、その老婆がまた事務所に現れたのだ。しかも、「法律事務所は初めてで…」。えーと…、「さっきいらっしゃいましたよね。」「いいえ、初めてで
 たまたま、そのとき、ツンデレは法律相談のドタキャンをくらったところであったので、この老婆の話を聞いてあげることにした。内容は、「持ち家を誰かに貸しているが、どうもその人は今そこに住んでいないらしい。来月の賃料がもらえるかどうかが心配だ」というものであった。「あ、それなら賃料が払われなくなってからくればいいから」。そう言うと、老婆は「そうなんですか?よかった。なにしろ私、弁護士さんに相談するのが初めてで」とおっしゃった。
 それから1週間くらい過ぎたある土曜日、ツンデレがのんびりと起案をしていると、またこの老婆が突然事務所に現れた。今度は、「もう何年も税金を払っていない。家がとられないか心配だ」という相談だった。そこで、市役所の税務課の電話番号を教え、「月曜になったらそこに聞けばいいよ」と教えてあげた。そのとき、念のため、市役所の番号を書いたメモを渡した。
 月曜日、事務所に、その老婆からの電話があった。「メモをいただいたのですが、私は市役所に何を聞けばよいのでしょう?」「え? いやだから貴女が心配してらしたのは家の税金を払っているかどうかなんでしょう。それを聞けばいいんですよ。」
 そこからさらに何週間か経った頃、また件の老婆から電話があった。市役所から今年の分の固定資産税の納付書が届いたというお礼の電話であった。やれやれ…

 それからしばらくして、裁判所の仕事を終えて事務所に帰ると、あの老婆が待っていた。
「あれ、どうしたんですか」
「家の税金を払ったかどうかが心配で…」
手になにか、書類の束を抱えている。どれどれ…、過去の税金の領収証の束だ。その中に、今年と去年の税金の領収証があった。いずれも全額一括で納付していた。
「大丈夫ですよ。もう全部払ってます。」
「ああ、よかった。」
老婆は喜んで帰っていた。

 そして今日、またしても電話があった。
「家の税金を払ったかどうか分からなくて不安なんです。」


 なお、ツンデレが領収証の束をチェックしたとき、そこに記載されていた不動産は、彼女の自宅のものだけであり、誰かに貸しているはずの不動産の記載はなかった。


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