再婚禁止期間、大法廷で審理=民法規定、女性のみ6カ月―初の憲法判断へ・最高裁結構大きなニュースが飛び込んできた。ただ、大法廷で審理されることと違憲判断がされることとは別だからね。例えば、去年大法廷で違憲とされた非嫡出子の相続分に関する規定(婚外子相続差別は違憲 最高裁大法廷)も、平成7年7月5日にいったん大法廷で合憲だという決定が出ている。とくに夫婦別姓が違憲になるというのは正直考えづらいな。立法政策としては選択的別姓がいいと思うんだけど…。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150218-00000080-jij-soci
夫婦別姓訴訟を大法廷回付=初の憲法判断か―最高裁
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150218-00000084-jij-soci
再婚禁止期間を定めた法律は、民法733条。
1項 女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。「女は再婚することはできない」と書いてある。だから、男は前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過しなくても再婚することができる、ということになる。女だけ婚姻をするのに制限があるのはおかしいじゃないかという意見は昔からからあった。ではなぜこういう制限があるのかというと、このブログではお馴染みの「嫡出推定」との関係である(下記一覧表参照)。
2項 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
民法772条A子さんがB男さんと離婚して、その日のうちにC助さんと結婚しました。A子さんがB男さんと離婚した日(C助さんと結婚した日から250日経過した日)に、A子さんは出産しました。この場合、B男さんと離婚した日から300日以内で、C助さんと結婚した日からは200日を経過しています。生まれた子供はどちらの子どもと推定されるでしょうか?
1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2項 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
というわけで、再婚禁止期間がないと、嫡出推定の期間が重複し、嫡出推定の規定がうまく機能しなくなる場合が生じてしまうのである。これが、離婚から6か月を経過するまでは再婚はできないことにし、婚姻届けは受理しないという制度にしておけば、嫡出推定が重なる期間は生じなくなり、嫡出推定の規定がうまく機能しなくなるということは起きないじゃないかというわけだ。憲法24条2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定されているんだが、出産は女性だけがなしうることだから女性の結婚だけを制限しても「本質平等は侵されていない」ということになる。
まあ、嫡出推定の期間が重複しなくなるっていう制度上のメリットが、女性の婚姻の自由(人権といっていいんだろうと思う)を制限してまで守らなければならないほど価値のあるものなのかっていう話なんだろうな。実際、嫡出推定は及ぶけど、夫以外の子どもを妊娠、出産する事例を防ぐことは不可能だしね。嫡出推定が重複する期間に出産した子どもはDNA鑑定でどちらの嫡出子か決めるという制度もあっていいと思う(とりあえず、再婚禁止期間が違憲となれば、役所の実務としては、出生届けが重複する嫡出推定のどちらかの男性を父親とするものであれば受け付けるという運用になるだろう。)。
今の最高裁判事の中で、この点について過去に見解を表したことがあるのは元家族法学者であった岡部喜代子判事だけであるが、岡部裁判官の「親族法への誘い」第2版(平成15年)には
「憲法違反説もありますが、嫡出推定の重複を避けるという合理的理由があるのでそのようには解せません。」(28頁)だそうだ。再婚期間を規定すること自体は違憲でないが、100日を超える部分は違憲だという判断もあり得るか?
「しかし、上述したように、推定が重複するのは離婚後の100日間だけですので6ヵ月は長すぎます。改正要綱案は100日間を再婚禁止期間とする改正案としています。」(98頁)
おりしも、昨日のクローズアップ現代の特集は、「戸籍のない子どもたちⅡ どうしたら救えるのか」であった。
戸籍がない理由は全部が全部同じではないだろうが、その大きな原因となっているのは明らかに嫡出推定の300日問題である。番組でも、専門家でない無戸籍の人が何をしていいのか途方に暮れている様子が写っていた。ツンデレが思ったのは、この人たちは問題を難しく考えすぎてるのではなかろうか?ということ。市町村の窓口とか裁判所とかから「これこれの書類を用意してください」と言われたとき完璧なものを求めすぎてるのではなかろうかという気がした。出生証明書を用意してくれと言われたら、どこで生まれたのか分からないからそんなものが手に入るはずがない。ダメだ。と、言われたら書類を完璧に用意することにこだわりすぎているのではないか。
言ってみれば、テストの点数が100点じゃないと合格できないと思いこんでいるっていうのかな。100点じゃなくても80点でも合格かもしれないし、70点、65点でもいいかもしれない。とりあえずやれることをやってみようよとツンデレは声をかけたい。ただ、これも程度問題で、明らかに30点しかないものだとさすがにそれで役所に認めてもらおうというのは無理だよねということになる。
「離婚後300日以内に生まれた子の話」のときも、ある市町村の職員からの相談だったが、この問題でできることなら何とかしてあげたいと思わない人はいないと思う。「できることなら」の程度が低くて、すぐできないと放り出す人はいるだろうが。自分で問題を解決しようとすると、上記のように「100点じゃないとダメだ」って思いこんで落ち込みがちになるからさ、困っている人がいればとりあえず役所でも弁護士にでも相談してほしいよなと思う。少なくともツンデレは話を聞いて、「そういう事情だったらこういう証拠は出せるんじゃないの?」っていうアドバイスをして一緒に証拠を探したりしてあげたい。「離婚後300日以内に生まれた子の話」のときと同じように。
なお、仮に再婚禁止期間が違憲とされても、嫡出推定の規定自体が違憲となるわけではないから、それによって300日問題が解決するわけではありません。夫婦別姓はまた今度(実はあんまり興味がない。)。
嫡出推定に関する過去のエントリ(多分網羅的)
離婚後300日以内に生まれた子の話
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/32230171.html
離婚後300日以内に生まれた子の話の続き
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/35125170.html
大沢樹生 16歳長男との父子確率0%
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/35176825.html
長男の戸籍「嫡出子」に=性別変更の父「まだ不安」-兵庫
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/35197172.html
父子関係、DNA鑑定で取り消し 司法、異例の判断
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/35766452.html
喜多嶋舞はDNA鑑定を回避できるか
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/35961270.html
最高裁、見直しの公算大 DNA鑑定、父子関係取り消し
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/2014-04-23.html
DNA鑑定と嫡出推定に関する最高裁平成26年7月17日判決
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/2014-07-30.html
DNA型鑑定と父子関係
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/40284040.html
<健康女性の卵子凍結助成>日産婦「推奨せず」との考え示す
http://blog.livedoor.jp/bakara2012/archives/42684926.html