秘密飯園

密造酒を追い求めたり、親戚んちの様な飯屋を探したり

2011年03月

【日本密造酒紀行】上野ホルモン店編

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本来酒税法でアルコール度1%以上の飲料を作ることは、禁じられている。だから古い店で“自家製マッコリ”がふつうに出されているなんてことは、売春が禁じられている日本で、ソープランドなどの老舗風俗が営業しているようなもんであって、限りなく既得権益に近い。だから一度閉店してしまえば、次の店が出るわけではない。


韓国食堂閉店は、その店そのものがなくなるという意味でも、新宿ー新大久保から“自家製”がなくなるという歴史的意味でもショックだった。そして、いつなくなってもおかしくないものは、やっぱりなくなっちゃうんだな、という意味でもショックだった。


なので、行けるうちに出来るだけ行こうと思ったのです。


上野で“自家製”といえば昭和通りから一本入ったところにある“朝鮮料理”街の一帯なんだけど、もともとそこから始まったお店で、いまは不忍池近くの歓楽街にあるとこに行ってきました。このお店は「マルチョウ」みたいな脂食いのホルモンを出していて、界隈では有名だし、美味しいお店。だから“自家製”を出しているというのはちょっと意外だった。


んで、頼んでみたら、これが美味い。というか誰が飲んでも美味い味。たぶん“自家製”で一番難しいのは甘みの出し方だと思うんだけど(酸っぱすぎたり、へんな芳香がするのはけっこうある)、それが程よいのです。なのでビール大瓶二本開けて、飲み終わった時にはベロベロでした。トイレでこけちゃったよ。


ヨタヨタしながらお店の前に出て、積んである段ボールの前で一休みしていたら、その箱には「黒豆マッコリ」と書いてあった。うむむ、そう言われればさっき飲んだ“自家製”はよく出来すぎていたような気がしちゃったんです。少なくとも“自家製”を飲みやすくするために、ブレンドしてんじゃないのかと思ってしまった。どうなんだろうか、非合法にカモフラージュした合法という、逆サバってことなのかしら。こないだはベロベロになったので突き止められませんでしたが、次には真相をと。といいつつホルモンが美味しかったので、また行きたいだけなのです。

職安通り「韓国食堂」閉店(2)

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韓国食堂閉店の裏であった、あたらしい潮流についてひとくさり。

 

新大久保の、いや全国の“自家製マッコリ”シーンに転機をあたえたのは「はるばん」だと思う。同店は「2年間税務署に通いつめ」て、御上ががんじがらめにしている酒造の制約をすべてクリア、そしてお墨付きで自家製マッコリを出しはじめました。“自家製マッコリ”は保存流通のため熱を加えることはなく、当然「生」。なので、はるばんが出しはじめたものは「生マッコリ」と呼ばれ、メディアで取り上げられ、日の光を浴びた“自家製マッコリ”となりました。ここから現在の「生マッコリ」「地マッコリ」の流行へとつながっていきます。

 

そんなはるばんに始まる動きもあり、現在新宿ー新大久保界隈では、生もそうでないのも、かなりの種類のマッコリを飲むことができます。中には「霧の華」のように日本の酒蔵で作られた、本来はにごり酒やどぶろくと呼ばれるはずの酒が、生マッコリとして流通しています(これは批判的な意味ではなく、この日本の蔵も巻き込んだマッコリブームに関しては後日調べられればと。この霧の華は甘みが少ないので、僕はかなり好き)。

 

それで、そんな“地生マッコリ”ブームが、“自家製マッコリ”にとどめをさしたかと言えば、そんなことはないと思う。少なくとも僕が知るかぎり2008年以降新宿ー新大久保界隈で“自家製マッコリ”を出していたのは韓国食堂しかなかったし、店でそれを飲む人も、そんなにいなかったと思うので。とはいえ、マッコリブームの裏で、新宿ー新大久保最後の“自家製マッコリ”が飲める店が無くなったのは、とても象徴的です。

 

僕の“初体験の相手”だった韓国食堂がなくなったのは本当にさみしい。そういう取り戻せない思い出は、一番美化されるからかも知れませんが、ここの“自家製マッコリ”が一番美味しかった。このブログを続けていく中で、あの店のオモニにいつか話を聞ければと考えています。

職安通り「韓国食堂」閉店(1)

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はじめて“自家製マッコリ”を飲んだのは、新宿と新大久保のあいだ、職安通り沿いにあった「韓国食堂」でした。僕が2008年に興味を持ち、新宿ー新大久保で飲める店を探した時、もうここしかなかった。昔は「武橋洞」なんかでも飲めたらしいんだけど、オーナーが変わってしまってからは飲めなくなった。

 

そうして唯一“自家製”を出していたこの店は界隈では古参の店。オモニは、細身なんですが貫禄ある感じのおばちゃんで、きつめのパーマをかけた、サザエさんっぽい髪型。愛想はよくないけれど、15人ぐらいのキャパのお店の厨房を一人で仕切っている、職人ぽい印象の人でした。店内には液晶TVがついていたりして、他の“自家製”を出してるところに比べれば、こぎれいで古びた感じはしなかったと思います。だから“自家製マッコリ”がこんなところで飲めるのか、と初めて行った時にはちょっとびっくりした。

 

さて“自家製”にはスタンダードな様式があって、それはビールの空き瓶で出されるということ。韓国食堂では普通のビールと一緒に、ラップで頭をとめられたそれが冷やされていました。頼むとラップをピッと取ってから運ばれてくる。ここのやつは、二東なんかの甘ったるいのとはちがって、キレがあって美味かった。マッコリをビールで割るモッコリなんていう飲み方は、加熱して発酵しなくなったどんよりしたタルい味を、炭酸で割ってキレを出すための飲み方のような気がします。そうする必要がないぐらいのキレがあって爽快な、らしくないどぶろくでした。

 

その韓国食堂が、2010年末にひそやかに閉店してしまいました。

このブログについて

何年か前、酒造りについて調べていたら、都内でもいまだ“密造”のドブロクが飲めるという事実につき当たった。そんなお店にドキドキしながら行って以来、こっそり作られているお酒と店探しにハマってしまった。ひそやかなドブロクの味は店によって千差万別。トイレの芳香剤のような香りがするのもあれば、ヤクルトのようなまったりとしたのもあって、どれも美味しい。とはいえ、はじめて飲んだときは悪酔いも悪酔いで、すっかり記憶を失って、朝起きたときの光景ったらなかった。

密造酒探訪したり、じぶんちの居間みたいところでご飯を出してる飯屋に行ったりと、ひそやかに供されている何か飲み食いしに行く、そんな記録です。
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